「これからの課題は、人をつなげること」 東京都武蔵野市

2019年3月21日

このエントリーをはてなブックマークに追加

住みたい街ランキングで上位にランクインするなど、全国的に知名度の高い吉祥寺を抱える武蔵野市。東京都の23区外の西側に位置するこのまちは、近年は駅前の再開発なども進み、数年前には人気の高かった映画館が閉館するなど、変化の時期を迎えている。

案内してもらう川名ゆうじは、ゼロ歳からの武蔵野育ち。フリーライターとして活動し、現在は武蔵野市議会議員をつとめているが、議員になる前はトラック運転手やテレビ番組の制作スタッフも経験したという。

「住みたい街」の「住みごこち」は実際のところどうなのか? 再開発の進む吉祥寺、待機児童問題への先進的なアプローチ、今後のまちづくりの課題まで、武蔵野の実情を聞いてみた。

「住みたい街」吉祥寺の再開発のいまとむかし

a06-02.w1200.jpg

最初に訪れたのは、JR中央線と京王井の頭線が乗り入れる吉祥寺。駅北口のロータリーから伸びるメインストリート・サンロード商店街を抜けて、細い路地に個性的な店が軒を連ねるハモニカ横丁へ。戦後の闇市から発祥した商店街で、いまも昭和の面影が色濃く残っている。

川名:吉祥寺は元々、B級・アングラなまちだったんだよね。個性的なライブハウスが多く、ごちゃごちゃしていて。それが面白さでもあったけど、いまはどんどん整備されて綺麗なまちになっています。特に駅前は土地代が高いので、小さな個人店は駅から少し離れたところに移っていきました。

一時はハモニカ横丁にも再開発の話が持ちあがったけど、この古き良き吉祥寺の雰囲気を無くしたくないということになって。やっぱり、ただ新しくするんじゃなくて、吉祥寺特有の個性や魅力を残していきたいと思っている人が多いんじゃないかな。

a06-03.w1200.jpg
ダイヤ街にある人気店「サトウ」の名物コロッケ。「やっぱりおいしい。行列に並ぶのは好きじゃないけど、たまに食べると待つ価値があるなぁと思うね」。

川名:いま吉祥寺が抱える課題は、駅南口の再開発。土地代が高いから地権者は高層マンションを建てて家賃収入を確保したいけど、周辺に暮らす人は高い建物を建ててほしくないから、ずっと揉めている状態です。

再開発計画の一部に、武蔵野公会堂の建替も含まれています。演奏会や上映会に使える350席の多目的ホールと会議室8室、和室のある武蔵野市の文化施設。でも、前回の東京オリンピックと同じ1964年に建ったものだから施設が老朽化していて、建て替えないといけない。……と言い続けて早5年ですがなかなか進みません。

駅前に350席入れるホールがあるのはすごい資産です。本来もっと人を呼べるはずだし、文化の発信地になるポテンシャルがある。マルイの建替もあるので、そのあたりとうまくつながればもっと面白いまちになるのではないでしょうか。もちろん、つまらないまちになる危険性もあるので、慎重に計画を立てないといけませんね。

a06-04.w1200.jpg


グッドデザイン賞受賞の「クリーンセンター」は民主主義の象徴?

続いて、中央線に乗り隣の三鷹駅へ。駅周辺は市境となっていて、駅の南側は三鷹市、北側は武蔵野市だ。ここから25分ほど歩いた場所に武蔵野市役所がある。

川名:このあたりの街路樹はまっすぐな木ではなく、曲がった木が多いんですよ。道を覆うように木のトンネルになっていて、見た目も涼やかでしょう。武蔵野市は環境保全・緑化に力を入れているんです。

a06-05.w1200.jpg

市役所の向かい側には、テラコッタ製のルーバーが壁面を覆う、美術館のような建物が佇んでいる。ここは武蔵野市のごみ処理施設、武蔵野クリーンセンター。2017年に現在の場所で稼働を開始した。

a06-06.w1200.jpg

川名:普通はごみ処理場って迷惑施設として市の外れのほうに押し付けられがちでしょう。周辺に住宅地が広がる市役所の真向かいにこういう施設が建っているのはとても珍しい。でも、市民との徹底した話し合いの結果、ここに建つことが決まったんですよ。開かれたごみ処理施設として、積極的に見学を受け入れています。言ってみれば、武蔵野市の民主主義の象徴ともいうべき施設ですね。

近隣の環境を汚さないため、最新鋭の焼却炉を備え、全国トップレベルの排ガス自主規制値を定めて運転。ごみ発電システムにより、市役所・総合体育館・コミュニティセンターへエネルギーを供給している。災害時には周辺公共施設のエネルギー供給拠点となる設計だ。外観デザインは武蔵野の雑木林をイメージし、景観の調和を図ったという。武蔵野クリーンセンターは、2017年度グッドデザイン賞を受賞している。

待機児童対策は苦肉の「武蔵野モデル」で量と質のバランスをとっている

武蔵野市の保育・教育環境を変えたいという想いから市議になった川名。保育園や保護者から相談を受けることも多いという。交流のある民間保育園を訪問しながら話を聞いた。

川名:武蔵野市も待機児童問題に頭を悩ませていて、今年も50数名の待機児童が出ています。一方で、保育園側は周辺住民からの苦情や煩雑な行政手続きに追われ、手が足りない状態。何か問題があったら連絡してもらい、間に入るようにしています。

a06-07.w1200.jpg

武蔵野市には9つの公立保育園があったが、このうち5つの運営主体を市の外郭団体である公益財団法人武蔵野子ども協会に移管した。

川名:多くの自治体で経費削減を目的に公立保育園を民間委託する流れがありますが、民間の保育士の平均年収は300万円程度。これでは20代のうちは良くても、保育士自身が子どもを持ったときに行き詰まってしまう。結果、離職率は高くなり、保育の質を保つことが難しくなる。大事な仕事なのだから、それに見合う報酬を払う必要があります。

本来は国が動くべき問題ですが、それを待ってはいられないので、武蔵野市では苦肉の策として、外郭団体に委託するという手段を選びました。こうすることで、正社員として雇用することができる。公立保育園のガイドラインを共有することで、保育の質も保持しました。

a06-08.w1200.jpg

9つの保育園全てを子ども協会に委託するという案もあったが、川名はそれに反対した。理由は、行政に保育の現場を知ってもらうため。また、障がい児を受け入れるためだ。

川名:障がい児の受け入れには人手が必要で、民間に任せると保育料が高くなってしまいます。お金持ちしか障がい児のを保育園に預けられない、という事態を避けるために、公立保育園を残す必要があるんです。

a06-09.w1200.jpg


注目されるコミュニティ×文化政策は「武蔵野方式」で

a06-10.w1200.jpg

吉祥寺、三鷹と巡り最後に降り立ったのは、川名の活動のベースであり、現在も自宅がある武蔵境だ。南口に広がるゆったりした芝生広場の奥には、柔らかな曲線がどこかレトロにも近未来的にも感じる印象的な建物が建っている。

a06-11.w1200.jpg

川名:ここは「ひと・まち・情報 創造館武蔵野プレイス」と言って、図書館、生涯学習センター、市民活動センター、青少年センター、カフェが入った複合施設です。来場者は年間195万人。市外から見学に来る人も多く、ひとつの成功事例と言えますね。br>

ただ、普通は別々の場所にある機能を集積した目的は、さまざまな住民の交流を生み市民活動を盛り上げることにあります。2011年に開館しましたが、実際に若者が市民活動に参加したり、多世代の交流が生まれたり……といった事例は少なく、その点ではまだまだ。ポテンシャルはあるので、図書館からの情報発信や企画提案に期待したいですね。

a06-12.w1200.jpg

全国の図書館司書はいまや半分以上が非正規雇用と言われ問題となっている。保育園と同じ構造だ。武蔵野市では市の外郭団体である公益財団法人武蔵野生涯学習振興事業団に管理を委託することで、できる限り司書を正規職員として雇っている。この方式は「武蔵野方式」と呼ばれているという。

a06-13.w1200.jpg

駅を通って、反対側へ。北口を出ると、「すきっぷ通り商店街」がまっすぐ200m続く。亜細亜大学や武蔵高等学校の生徒たちの通学路にもなっていて、日中は多くの人で賑わっている。

川名:武蔵野市の中でも、吉祥寺は比較的裕福な人が多く、三鷹は市役所関係が集積していて、武蔵境は緑と団地があり子育て世代が多い。都会と住宅街と地方都市。すごく大雑把に分けるとそんな感じです。武蔵境はのんびりしていていいですよ。やっぱり自分が育ったまちだから愛着がありますね。

a06-14.w1200.jpg
商店街から数分の場所には畑が広がっていて、ヤギの姿が。草刈り機に代わって雑草を食べることで綺麗にする「除草ヤギ」。


武蔵野の課題はどうやって人を「つなげる」か

一日の終わりを締めくくるのは、やっぱりビール。武蔵境駅北口の「チリエージョ」は、川名の行きつけの店だ。

a06-15.w1200.jpg

川名:子どもの友人の親が運営しているお店で、よく来るんです。うちの子はもうみんな成人しているんだけど、保育園のときの友達といまでも仲がいいんですよ。兄弟みたいな関係。保育園や学童クラブが人をつなげるのが上手でね。やっぱり、人をつなげる存在が大事だなと思います。

同じことが、武蔵野市政にも言えるという。

川名:武蔵野市は財政力もあるし、山も川も海もないから自然災害のリスクもない。そういう状況でお金を使うとしたら建物を建てるかソフトを充実させるかだけど、武蔵野はもう必要な建物は揃ってる。じゃあもう話は早いですよね。幸い人はたくさんいるんですよ。学者もいる、フリーランスのクリエイターもいる、商店主もいる、ITスキル持った人もいる。あとは、どうやって人をつなげていくかという話でしかない。それをサポートするような取り組みを応援していきたいですね。

a06-16.w1200.jpg


川名ゆうじ YUJI KAWANA
1959年生まれ。武蔵野市議会議員(4期)。テレビ制作会社スタッフ、トラック運転手、地方紙記者、建築職人などを経てフリーランスのライター・カメラマンに。保育園、学童クラブの父母会活動から市政に疑問を感じて市議に立候補。現在4期目。幅広い視野を持ちつづけるため、いまもライターの仕事は続けている。