安倍元総理が銃撃され死亡した事件。逮捕された山上容疑者の母が入信した「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)への恨みがあったと言われています。統一教会とは。何が問題とされているのか。政治との関係は。党が立ち上げた旧統一教会被害対策本部の参与でもある有田芳生さんに寄稿いただきました。

 安倍晋三元総理暗殺事件をきっかけに浮上した統一教会(1954年に韓国で、59年に日本で誕生)は、2015年に名称変更して世界平和統一家庭連合となった。しかし教義や信者なども含め組織の実態は何も変わっていない。いまは自民党を中心とする政治家との関係が報じられているが、それは教団をめぐる諸問題の一つにすぎない。

 たとえば山上徹也容疑者の母は、1991年に入信したが、1億円を超える献金を行い、家庭が崩壊した末に、息子は事件を起こした。それなのになぜ脱会しないのか。「教団に迷惑をかけた」となぜ語ったのか。世間の感覚ではまったく理解できないだろう。統一教会の教理解説書『原理講論』は信者たちの精神的支柱だ。その教えが入っていくほどに、動揺などが生じたとき「自分の信仰が薄かったからだ」と理解する。

 統一教会が政界工作を行い、政治家と深い関係を築いていく根拠も教義が根底にある。韓国が「アダム国家」で、日本はそれに仕える「エヴァ国家」だからだ。信者(会員)になっていく経過で、戦前の日本が朝鮮半島を植民地支配してきたことも教えられる。その事実を学校教育で学んでいない者にとっては驚くべき歴史なのだ。各種セミナーなどで教団の教義や文鮮明教祖(2012年逝去)の「み言葉」が信者に徹底的に注入される。

政治家に接近する統一教会 

 文鮮明教祖は「世界の王」として君臨するため、アメリカや日本など世界5カ国を支配すると語ったことがある。世間には妄想であっても、信者たちはその使命のため熱心に行動する。日本では1968年に文鮮明教祖の提唱で政治団体「国際勝共連合」が結成された。同団体の名誉会長でA級戦犯容疑者だった笹川良一の紹介で岸信介元総理との関係ができる。A級戦犯容疑者だった岸もまた右翼活動家の児玉誉士夫とともに、勝共連合の発起人となる。「共産主義」に勝利するため、統一教会=国際勝共連合は政治活動にエネルギーを発揮していった。各地の路上で共産主義批判の「黒板講義」を行っただけではない。選挙になれば暴力的な妨害行為もしばしばだった。

 統一教会が特に政治家に接近することを組織方針にしたのは1986年からだ。中曽根康弘総理時代に衆参ダブル選挙(6月)が行われた。教団はこの年の8月、京都市右京区の嵐山にあった「嵯峨亭」(元旅館)で、女性信者たち91人を全国から集めて「秘書養成講座」を行っている。かくして自民党の国会議員の公設、私設秘書に信者たちが入っていった。1990年3月25日の「思想新聞」には「勝共推進議員」105人の名簿が掲載された。そこには麻生太郎、森喜朗、安倍晋太郎各衆院議員などの名前がある。先の参院選挙で当選した井上義行議員も、この歴史の系譜に属する。

 「勝共推進議員」は、は、統一教会の研修に出ることなどを条件に選挙の応援を受ける。2016年の参院選挙で統一教会の支援を受けて当選した自民党の宮島善史議員が、熱海にある統一教会経営の旅館で教団の歴史などを一泊二日で学んだことを認めた(「朝日新聞」2022年8月20日付け)のは、1986年以降の伝統なのである。私は半年間の調査報道により「週刊文春」(1991年9月11日号)に具体的に公設秘書3人、私設秘書5人を特定する記事を掲載した。その後は教団が取材の手がかりになる国際合同結婚式の名簿などを組織内部で公表しなくなったので、実態は不明である。しかしこの8月に安倍晋三元総理と親しかった大臣経験者に話を聞くと、いまなお信者秘書たちはいると認めた。「とても優秀」だと語ったことも付け加えておく。

 旧統一教会が政治に浸透することの何が問題なのか。それは第一に、信者が霊感商法を行ったことで多くの被害者を生み、刑事裁判、民事裁判で違法との判決がいくつも下った組織の広告塔として利用されることだ。信者たちは熱心に協力する政治家を「教団への理解者」と内部で語り合う。第二に、教団は極端な韓国ナショナリズムであることだ。「世界はやがて韓国語で統一される」と教え、日本は「サタン側の国」とも「原理講論」にはある。文鮮明教祖に天皇陛下役の教団幹部家の理念と決して相容れないだろう。

政党や政治家はいかに立ち向かうべきか

 いま教団は68年の歴史で最大の危機にある。1975年に文鮮明教祖から日本の組織に送金命令が出てから、10年間で2000億円の資金が韓国に流れた。内部資料によると1999年からの9年間には約4900億円が送金された。日本の会長の上には、韓国人総会長がいる。この韓国支配の構造が変わらないかぎり、日本人信者たちの過酷な負担は続いていく。さらに「信仰二世」の問題もある。いま若い世代の動揺は激しい。旧統一教会と政治との関係を浄化していくとともに、献金ノルマに苦しむ信者たちの負担を解決していくために何ができるのか。安倍晋三元総理暗殺事件をきっかけに噴き出した諸問題に政党や政治家はいかなるスタンスで立ち向かうべきか。容疑者の裁判は、おそらく来年にはじまるだろう。メディアの報道がさらに続くことを想定し、長い射程で多くの重要な課題に取り組んでいかなければならない。