法政大学法学部教授の山口二郎さんは1月16日、立憲民主党自治体議員ネットワーク研修会で「自治体議員が目指すべき未来」と題して講演をしました。以下概要です。
政権交代の道筋を
選挙制度が変わって、ちょうど30年。私は「政治改革」の旗を振ってきました。統治能力の低下、裏金、献金腐敗という今の政治の体たらくを見て、このままでは死んでも死にきれない。何とか立憲民主党を中心にして政権交代の道筋を描かなければならないと考えています。
自民党の弛緩(しかん)
長期政権の後に野党にチャンスが来る。政権が長期化すれば、必ず政策は陳腐化し、権力者は傲慢になり、政治腐敗が起きます。
企業には競争があり、古い文化は続けられない。ハラスメントも摘発しますし、お金の流れも透明化する。それに引き換え、政治の世界は競争がなく、表のルール、裏の本音、本音と欲望の二重構造が続いています。
能登半島地震に現れているように自民党は、国民生活の苦しみに関する感受性が薄れていると感じます。野党が弱いから、楽をして当選し、活動量が大きく低下しています。地域、人々の生活、暮らしに関心を失っているのが今の自民党なのです。
立憲民主党の課題
今の立憲民主党は党自体の求心力はあると思います。
民主党は大きな受け皿を作りました。自民党がダメなら一回やらせてみようと思ってもらえて、2009年の政権交代が実現しました。
立憲民主党は他党との協力も必要ですが、求心力を持って非自民の受け皿はここにあると有権者に示すことが絶対に必要です。
世論には非自民を求める風はあります。良い候補者と政権構想をつくること、21世紀中頃を見据えた構造的課題と本格政権の展望を示し、自民党では絶対にできないことをやるというメッセージを打ち出すことが課題です。
自治体を脅かす市場主義圧力と公共性の危機
30年間続いた「小さな政府」路線での市町村合併や行政改革、「官から民へ」の名の下の予算抑制、人減らしにより、教育、医療、福祉など普遍的ユニバーサルサービスを提供する体制が貧弱になりました。全国どこにいても、すべての市民が等しく受けることができる公共サービスは危機に瀕(ひん)しています。
生活困窮に対処する政策はありますが、政府の基準に達しない人たちは支援の対象外となり自己責任を強いられています。この差異にどう対処するかは前々からの課題です。
民主党政権の時は、子ども手当など普遍的な給付で微妙な差異を乗り越えるという方向性を示したことは正しいと思いますが、自民党政権に代わって沙汰止みになりました。
今、地域の特性を熟知した専門職としての自治体職員の雇用維持が必要です。こういった問題は政権交代を実現する上で不可欠な課題です。
公共性の回復
今こそ、立憲民主党、立憲民主党に共鳴する市民は、公共性という価値を追求しなければなりません。
人間の尊厳ある生を支えることが公共政策の目標です。小泉政権以来の物的・制度的インフラをどんどん毀損(きそん)する、手抜きする風潮を止めないと日本の地域社会は崩壊してしまいます。
「基本的な仕事だけをやっている」「工夫がない」と言われ、何か新しいことをやらないと補助金がもらえませんが、基礎自治体が担う仕事の大半は、インフラの維持、教育、福祉など十年一日のごとき基本サービスです。基本とは平凡なものです。
ユニバーサルサービスの持続
基本的なサービスについて、政府が保障すべき最低限の市民生活の基本は何かをあらためて考え直さなければなりません。社会、人々のニーズは転換しています。50年前は公害、大気汚染の問題がありましたが、今はありません。災害への対応、高齢化に伴う介護・医療といった社会保障の問題。人口減少、経済停滞時代のシビルミニマム(※)とは何か。それぞれの自治体の特徴に合わせて考えることが自治体議員の大きな仕事だと思います。
21世紀後半の日本社会のデザイン
コミュニティが危機にさらされています。2050年、2070年の人口推計を元に自治体の将来像を作り直すことが急務です。
1つの疑問として、アジア各国が経済成長をして賃金も上がるなか、しかも日本では外国人への差別が問題となっているなか、2070年に10%の外国人が日本社会を構成することが可能なのか。一方で、その10%の人がいなかったら日本の社会は人手不足で回らないので、多民族社会に向けて交通機関、物流、医療、教育などさまざまな条件整備、制度整備は避けて通れません。各自治体で定住外国人の地方参政権、例えば住民投票を実施する場合、投票権をどうするか。イデオロギー的な争点になっているところもあり、ハンドリングが難しいテーマではありますが避けて通れません。
地方政治家の任務と使命
自治体議員の役割の1つは、政治家のキャリアパスをつくること。政治に関心を持つ若者は常に一定数存在します。「市議会を見に来て」「政策を議論しよう」などと呼びかけ、チャンスがあったら選挙に出られるようリクルートする、キャリアの道筋をつくることは、立憲民主党の地方組織の課題として考えてほしいです。
立憲民主党は党全体として都市型政党というイメージがありますが、地方出身の議員が少ないこともあって、政党そのものの政策的関心が偏っています。地方や農業、自然環境についての政策立案など、国会議員の足らないところを自治体議員が補う。今の農業はこういう問題があるなど、地方からインプットしていただきたい。
メディアの衰弱とチェック機能の低下
最近、新聞、テレビといったメディアが地方から撤退しています。そうなると地域の問題についてチェックし、追及するメディアがなくなっていく、報道不在で権力がいかに腐敗するか。そういった意味で地方議会の役割は非常に大きいと思います。
結び
災害への無策、裏金・金権腐敗の2つの問題を中心に世論を沸騰させ、国民の怒りをテコに次の衆院選挙では、自民党という「非常識」と立憲民主党を中心とする野党の掲げる「常識」という旗印の下に政権交代の闘いを挑んでもらいたい。
常識の中身は(1)「すべての人間は等しく生きる権利を持つ」(2)「どんなに偉い人間でも間違ったら謝る」(3)「地位・権力に関係なく法は平等に適用する」(4)「権力者は権力を私的利益のために使ってはならない」(5)「お金は公明正大に」――の5つです。
政権交代を勝ち取るという大きな目標に向けて、共に頑張ってまいりましょう。
※シビルミニマム=地方自治体が住民のために保障しなければならない最低限度の生活環境