セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(以下「SRHR」)について、これからの女性医療がいったいどうあるべきなのかを医療の受け手側と提供側が、一緒になって考える活動を行っているNPO法人「女性医療ネットワーク」理事長の池田裕美枝さん(産婦人科医)、同ネットワーク理事の宋美玄さん(産婦人科医)、社会調査支援機構チキラボの荻上チキさんから、フランスの先進事例視察報告と日本への提言について聞きました。(2024年3月28日党子ども・若者応援本部、ジェンダー平等推進本部合同本部での講演)

 フランスでは、「国際産婦人科学会(FIGO)」「全国連帯女性連盟(FNSF)」「ユースセンター(Maison de solenn)」等を訪問し、「Foundation Le Refuse(性的マイノリティー支援)」はオンラインで面談しました。

池田裕美枝さん女性医療ネットワーク理事長、産婦人科医
目の前の患者さんたちの権利擁護も含めて、社会に訴えていくFIGO

 池田さん)今回、フランスで産婦人科の国際学会に女性医療ネットワークの仲間とフランスの福祉の先進事例を調査して回りたいということで、チキラボの皆さんの協力を得て視察に行ってきました。 FIGOは、会の目的を世界のSRHRの普及に置き、SRHRを掲げて学会を運営しているのが大きな特徴です。一般的に産婦人科学会というと医療の最先端を互いに切磋琢磨し合う学会という形が多いですが、世界中にSHRHを広めるために、どういった社会的な工夫ができるのかも含めた議論をしています。

 このFIGOにおいて3C(COVID、Conflict紛争、ClimateChange気候変動)が語られていました。昨今、世界中の至る所で災害が起き、また紛争が起きて、かつ気候変動も深刻になっている状況です。こういった時に最も被害に遭うのは子どもと女性です。長期にわたって被害を受けるのが女性です。そのことについて、私たちは遠い国の誰かの話ではなく、今現在、自分の目の前にいる女性たちにどのように対応するのか、どのように接するのかということも含めて議論し合うことが大事だと話しました。

 私たち産婦人科医は科学の立場からですが、そういった目の前の患者さんたちの権利擁護も含めて、社会に訴えていく必要があると強調していました。 

「中絶」「避妊」「出産」の無償化

 また私たちは、この学会の合間を縫ってフランスで活動されているジャーナリストに話を伺う機会がありました。ここではいかにして中絶・避妊・出産の無償化を進めているかについてまずご説明したいと思います。

 私と宋先生は普段産婦人科医として仕事をしています。想像しながら話を聞いてほしいのですが、意図しない妊娠をしてしまった女性たちと接する際に、彼女らにお金がないということがあります。私にはっきりとは言わないけれども、明らかに危険だと分かっている仕事をして、中絶のためのお金を何とか集める人もいるのです。「自分の人生の選択のために」です。 日本には医療保険があり、安く受診できてよいと思われるかもしれませんが、産婦人科を受診したことが親に知られたら何を言われるか分からないから、「健康保険は使いたくない。自費診療をしてください」という方もいます。そういった日本の環境と比較すると、フランスにも保険制度がありますが、まず65%が保険で支払われ、残りの35%が個人の保険により償還されます。この償還のために必要な銀行口座を18歳になった時点で親から独立して作らなければいけないことになっています。償還される時に、どこの医療機関でどのような医療を受けたのかという情報が合わせてカードに記載されますが、個人の健康は個人で守るという政策が行き渡っており、それが親に知られることはありません。それに加えて中絶と避妊は、救済保険で公費負担になっています。これは年齢にかかわらず、すべての中絶が無料です。緊急避妊薬に関しては、日本でも大きな話題になっていますが、フランスでは以前から薬局で処方箋なしで購入可能で、かつ25歳以下は無料です。私も薬局に買いに行きましたが、自分の証明書やIDを見せずに買えました。4.9ユーロ(約800円)くらいでした。

 もし私が40歳なのに、25歳以下だと嘘をついたら無料でもらえるのかと聞いたら、「その場合は多分無料で提供すると思う。なぜかという、そのように年をごまかす人は困っている人だから」と述べていました。そういった嘘をついてまで必要としている人、あるいはお金がなくて買えない人は、子どもを産んだらもっと深刻な事態に直面することが予想されるので、そうした人たちには、できる限り支援をすると言っていました。

虐待に至る前、心配の段階から通告を受ける

 FNSFも訪問しました。DVの電話相談をしているAssociationです。フランスはフェミニズムの先進国ですので、日本との違いを見たいと思い見学に行きました。

 1992年から共通番号で公的機関が相談を受けています。すべての電話相談を行政として、常勤公務員が任務としてやっています。電話は決して一人で受けることはなくて、2人以上で安全に心理的な安全性を保って電話を受けています。

 ここで日本との大きな違いは個別の直接介入をしないことです。例えば、電話の向こうで「私、今から死にそうです」「今から自殺します」と言っている人がいた時に日本人は放っておけないと、ついつい枠組みを超えてどんどん介入しがちですが、フランスの場合は相手を、相手の個人の選択を尊重する文化の中で、アソシエーションを紹介して「そこに行けば助かるよ」ということは伝えるけれども、行くか行かないかは個人の判断なので無理に連れて行くことはしないと話していました。

 電話相談件数をカウントしており、電話が少ない地域が危ないと考えています。相談電話があることが問題ではなく、ないことが問題という考えです。女性デーなどを設けてキャンペーンをすると電話件数は激増するので、その時には非常勤職員を雇うそうです。

 私たちが非常に衝撃を受けたのが虐待対策です。パリ在住の社会学者である安發明子(あわ あきこ)さんと、彼女にご紹介いただいたエデュケーターという専門職の方にお話を伺いました。フランスではずいぶん前に「虐待通告」ではなく「心配通告」と名前を変えたそうです。

 「子どもの様子がちょっとおかしい」から、「ちょっと心配なところがある」と通告があると、3カ月間の自宅訪問アセスメントがあって、親との面談ではなくて自宅に行ってアセスメントをします。子ども専門裁判官という職種があるそうです。日本には子ども専門の裁判官なんていないよ、と言うと、裁判官がいなくて、どうやって子どもの権利を擁護するかと言われてしまいました。

 親は家に入ってきてもらいたくなくても、裁判官の命令であるならば従わざるを得ないという形で行政の介入が入ります。エデュケーターという子どもの声を聞く専門の方々と家庭支援専門員という家庭のいろいろな雑事を引き受ける方々とにより、家庭丸ごと支援を実施しているそうです。

 エデュケーターは子どもの声を聞くための専門研修を3年間受けた専門職です。子どもが本当に考えていることを発言するのは難しいです。教育者としてではなく、子どもが親にどう言ってもらいたいかとか、周囲の大人にどう言ってもらいたいか、ということを抜きにして、本当のところ自分はどうしたいのか、ということをエデュケーターはしっかり聞き取っていきます。行政の職員として家庭に入るエデュケーターの他に夜回りエデュケーターといった夜回り先生のような行政職員であったり、ネットエデュケーターといってネットの夜回りをしている人が行政の公務員、正規職員だということでした。

 子ども専門裁判官も2年以上、子どもと接する職業訓練を受けて、ようやく子ども専門の裁判官になれます。子ども第一の考え方から、法律の専門家であることに加えて子どもの専門家を育てると言っていました。

 エデュケーターと家庭支援専門員が相談を受ける前に、「心配」の段階から介入するとなった時に、「心配」とは、例えば同じ服を着続けている、食べていないようだとか、学校で眠ることが多いとか、そうした小さな心配事が積み重なった時に「虐待」の疑いになるので、その段階から介入を決めるということです。

 虐待が起きたら、PTSD(心的外傷ストレス障害)などの精神疾患やトラウマが生まれてしまうので、それが生まれる前の段階から決定して介入する。

 介入すると、家事・育児を手伝います。親の料理、買い物や通院を手伝う家庭支援のほうが予防の効果があります。なぜ親が子どもに対して虐待をするかというと、親は親で困っていることがいろいろあるからです。加害行為を止められないことも困りごとだと捉えて丸ごと介入する。

 一方で子どもには子どもで行きたい場所に連れて行く、親と少し距離を置かせる、あるいは親との話し合いにしっかりと付き添う等、いろいろな形でサポートをするという話を伺いました。羨ましいです。

性的健康は公衆衛生

 そして性的健康センターについても話を聞きました。2022年に「家族計画センター」から「性的健康センター」へ名称が変更したそうです。いかにして性の自己決定権へのアクセスを向上させるか、といった話です。セクシュアルヘルス、性的健康は、公衆衛生の中心的な目的であるという認識から、予算を投じるのは当然という考えがフランスの行政にはあるそうです。

 パリ市内に24カ所の性的健康センターがあり、パリ市直営が6カ所、パリの私立病院が運営しているのが8カ所、プランニングファミリアルというNPOが運営しているのが10カ所あって、直営は全額パリ市が運営しており、その他は4割から6割を公的資金で賄っているということでした。

 何をやっているかというと、避妊具の無償提供と中絶の無償提供、性的機能障害のカウンセリング、HIVや性感染症の検査やカウンセリング、ボディイメージです。

 自分がもっと痩せないといけないと摂食障害になってしまう思春期の子どもたちは月経が来ないということに関して話を聞く、相談に行ける場所であったり、ジェンダーのアイデンティティーや、自分とパートナーとの関係性について少し暴力的なところがあるのかもしれないといった相談を受けたり、または治療介入ができる施設です。病院ではありませんが、医療の専門家、心理の専門家が必ず常駐していて、無料で検査や投薬を受けることができます。先ほど中絶と避妊が無償であると説明しましたが、こういったところでサービスの提供を行っています。

 このセクシュアルヘルスセンター、性的健康センターは、フランス独自の政策ではありません。私たち女性医療ネットワークが、これまで勉強してきたところによると、イギリスでもスウェーデンでも、いわゆるユースクリニックという名前で日本では紹介されていることが多いですが、SRHRのサービスを行政もしくは民間の寄付によって、利用者は無償で利用できるのがこのセンターです。

 フランスでは法律で、18歳以下の未成年者でも保護者の同意なく中絶が可能です。これが法律に明文化されています。もちろん、大人の付き添いは必要です。例えば16歳、17際の子どもが、意図しない妊娠をしたが親に言えない、というときに、親ではない大人、学校の先生やその場にいる看護師でもいいですし、近所のおじさんでも、エデュケーターという人たちを連れて行くことによって相談ができます。法律があるといっても、実際に子どもが親の知らないところで中絶を受けるようなケースはほとんどないそうです。なぜなら、親が知らないところで中絶することが絶対に良い判断だと、介入した多くの大人が判断するケースは本当に稀だからです 。法律上で権利をサポートしていることが、「後押し」というわけではないということの実例でした。

子どものメンタルヘルスを向上させる自由に自分を表現できる場

 そしてもう一つ私たちが訪れたところがMaison de Solennという施設です。子どものメンタルヘルスを向上させるための、行政からの支援になります。性的健康センターとは別に、メンタルに不安を抱えた子どもたちが無料でいつでも匿名で、そして予約なしで受診できるセンターです。こちらには精神科の先生、心理士、ソーシャルワーカーが常駐しており、11歳から18歳の若者は10時から17時まで予約不要、匿名、無料でカウンセリングが受けられます。

 私たちも訪問しましたが、とても明るいところでした。子どもたちが本当に自分のやりたいこと、遊べるところでアートや料理、ダンス、ラジオを作っている子どもたちもいました。自由に自分のことを表現できる場として運営されていました。

 また帰国後にオンライン面談しましたが、「Fondation Le Refuse」という性的マイノリティの人たちをサポートしている場所があります。こちらでは行政ではなく民間の方々の話を聞きました。同性婚がもう10年も前に法律で合法化され、かつあらゆる方々の権利を守ると言われるフランスではありましたが、日本では考えられないような、性的マイノリティであるがゆえに親に勘当されて家に住めないとか学校に行けないという子どもたちがたくさんいるそうです。バックラッシュ(反対運動)も相当にある中で、その人たちを守るための民間団体として活動しています。年間で8000名が利用し、心理サポート、住居支援、学費支援などを行っています。年間7000名が住居を求めて連絡してきますが、運営している住居は200名分のみなので、まだまだ自分たちはニーズを満たしていないという話がありました。

 どのような宗教や民族にかかわらず、この自分の性的なアイデンティティのために迫害を受けてしまう、家庭内で迫害をしてしまう家庭があるという説明もありました。

宋美玄さん NPO法人女性医療ネットワーク理事長

宋さん)以上のようなフランス視察を踏まえて、日本にあるさまざまなSRHRに関する課題を考え、5点を提言します。

1.避妊と中絶の環境改善

 1つ目は、避妊と中絶の環境の改善です。日本では、フランスのように避妊や中絶は個人の権利であるという認識がまだまだないので、まず避妊に関しては全額自己負担で、ピルやアフターピルでも医師の処方が必要です。今、アフターピルに関しては薬局で試験販売が始まっています。けれども特に若者が、大人からプライバシーを守って安全に避妊できる環境が整っているとは言い難い状態です。

 中絶に関しても費用負担もありつつですが、昨年経口中絶薬が承認されました。しかし原則として配偶者の同意が必要で、中絶に関する医療費が全額自己負担というのは、困っている人にとっては特に重たい現状です。日本でも、中絶の費用を民間の財団が補助していることもありますが、赤ちゃんの遺棄という悲しいニュースもあります。内密出産の話もあります。産まないということを女性が自分の体の問題として、自己決定できるとは言い難い状況です。

 市民を対象にした調査でも、7、8割の方が避妊や中絶の公費負担に賛成です。日本の産婦人科医師を対象とした学会の調査では、約7割が賛成でした。

 世論は、保険診療にしろという声がとても大きく、不妊治療や分娩費用に保険診療を求める声がありますが、保険診療だと扶養に入っている場合は、医療費明細書により保険者本人に産婦人科を受診したこと等が伝わります。プライバシーが保てる状態ではないのと、3割の自己負担が発生するので、私個人としては保険診療ではなく、公費で負担する仕組みが必要だと思っています。

2.包括的性教育&性的同意教育

 日本では、性教育、生殖に関する必要事項に関して教育がなされていない中、ユネスコではこの包括的性教育を進めています。最近はセンシティブな話題になっているトランスジェンダーが差別的な意識、偏見を持っている人の攻撃の対象になったりもします。ユネスコの包括的性教育のガイダンスを見ると、人間教育そのものです。

 日本では生殖に関する知識すら十分に教えられないままで卒業した世代、われわれ大人世代も十分な知識がない状態なので、まずはこの知識の啓発が必要です。その知識だけではなく、一人ひとりの体に自己決定権があり他人の自己決定権を侵害してはいけないということを、学校教育の場で、外部講師が教えてくれた内容が、クラスに問題なく認識されているかどうか、子ども同士のいろいろなトラブルなどの事例もあるかと思いますが、担任がそういう人権意識をもとに教育する風土がないと、なかなか根付かないと思います。カリキュラム外での環境も肝かと思います。もちろん大人の学び直しも必要です。

3.思春期精神保健センターの充実

 思春期精神保健センターの充実が必要です。見学したMaison de Solennのように、素晴らしい環境で子どものメンタルをケアする仕組みがある。専門家医もいるし、子どものさまざまな自己表現の場、居場所となって心理的安全性も保たれた状態であることが、説明から分かりました。

 子どもの時代に安心して守られた状態ですくすくと育っていくことが、日本の子どもにも実現してほしいです。それがまず自分を大事に思えて、体の自己決定権が根付くそもそもの土台になると思います。

 是非、日本版のMaison de Solennを地域に根ざした形で作って欲しいと感じました

4.Transgender and gender diverse支援

 そしてトランスジェンダーをはじめ性的マイノリティへの支援ですが、各国では若者が気軽に行ける場所としてユースクリニックが整備されています。日本でも最近、ユースクリニックという名前だけは聞くようになり、クリニックに併設されていたり、自治体が作っていますが、なかなかまだ居場所であったり、相談までで、診断や処方、検査まではできません。

 それに加えて避妊や中絶などにアクセスできるような日本版の性的健康センターが整備されるとセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツへのアクセスが実現できるのではと思います。

5.SRHRを日本から世界へ

 最後にSRHRを日本から世界へということで、日本でも昨年は経口中絶薬が承認され、刑法が不同意性交等罪に変わり、長らく問題視されてきた性交同意年齢も原則16歳に引き上げられる等、進歩が見られています。けれども、さらに個々人の体の自己決定権に関する課題について国民的な議論を進め、SRHRを実現してほしいと思います。

荻上チキさん 社会調査支援機構チキラボ代表理事

荻上チキさん)子ども若者応援という枠組みの中に、SRHRは全て置き換えて進めることができると思います。例えば日本で不登校になって、フリースクールに通っている間は、学校に行かなくなった途端に、子どもの進学も何もかもがすべて親の自己責任になっていきます。そうなった時にメンタルヘルスという課題が、文科省からも抜け落ち、厚労省だと病院のレベルになり、子どもたちのメンタルヘルスと教育をつなげる療育の分野がそっくり空いている。そうしたこと等を考えると、実際に子育で困っている親のサポートとして、これらの策のいくつかを日本版で導入できないかと考えています。

 ベースにある考え方は、小さな困りごとを放置すると、より大きな困りごとになるということです。もし避妊のタイミングで困りごとを抱えた人を放置すれば、今後は子育てのタイミングでも困りごとを抱え、暴力、DVなどいろいろなところでの困りごとにつながる。だからこそ早期介入という観点からも、初期費用等いろいろと投資をすることは、実は、公費においても効率的であると言えます。

 そして当事者の権利を守ることにもなる点が、今回の報告の非常にとても重要なポイントだと思います。