立憲民主党は11日、第2回社会保障調査会を国会内で開き、東京大学社会科学研究所名誉教授の大沢真理さんより「社会保障政策全般への指針」についてご講演いただきました。

 冒頭、同調査会会長の西村智奈美衆院議員が、たくさんの課題あるが一つずつ丁寧にヒアリングをし、私たち立憲民主党が考える社会保障の将来像考えていきたい。自己責任に偏るのではなく、みんなが必要なサービスを受け安心して暮らしていくことができる基本だと思っている。その具体策の肉付けをこれからも知恵を出しながらやっていきたい」とあいさつしました。

 大沢さんは、「社会保障政策全般への指針」と題し、(1)日本の生活保障システムの特徴(2)コロナ以前から惨憺たる現状(3)希望のシナリオ――の3つを柱に講演。

 (1)日本の生活保障システム(※)の特徴としては、「男性稼ぎ主=専業主婦」を標準とする世帯単位で、税・社会保障制度が「男性稼ぎ主」を優遇し、女性が家事・育児・介護などを担うと想定していると説明。「現役世代への現金給付(児童手当など)が貧弱で、社会サービス給付が薄く、子どもを育てること、女性が働くことに、税・社会保障が「罰」を科している。人口減少社会として超不合理」だと述べました。
 また、貧困率が高く、就業貧困・共稼ぎ貧困という特徴があり、働くシングルマザーの貧困率はOECD諸国で最悪だと強調。税・社会制度が低所得者を冷遇し、共稼ぎ世帯やひとり親の貧困を深めていたなか、コロナ禍で、疫学的に効果がない一斉休校や、闇雲な外出自粛が、ひとり親や共稼ぎ世帯の稼得活動を困難にしたと指摘しました。
 検査と保護(治療)により、経済活動はかなり維持できるにもかかわらず、日本のPCR検査数(人口対比)は11月10日時点で世界215カ国・領域のなかで153位だと問題視。検査ができない理由として、1990年代後半から、保険体制が非感染症(生活習慣病)重視にシフトし、感染症病床数・保健所数・保健所職員数・衛生研究所職員数を削減したことなどを挙げました。
(※)税・社会保障、雇用システム等の接合。生産・分配や消費にかかわる経済・社会の構造を、個々人の日々の生活という次元から捉えるもの

 (2)コロナ以前から惨憺たる現状については、日本では現役世帯で成人が全員就業すると貧困削減率はマイナス(OECD諸国で唯一)になるという恐るべき事態だとして、1980年代末から金持ち減税を連発した結果、累進性をもつ税収が低下、歳入全体として低所得者を冷遇する構造になっていると指摘。安倍政権での日本のSDGs実施方針とアクションプラン2020に対しては、特に貧困撲滅や、保健医療(感染症について、弱く途上国に焦点)、ジェンダー平等、不平等削減などの分野で目標達成度が著しく低いと改善を求めていると報告しました。

 その上で、(3)希望のシナリオでは、「働けば報われる社会に建て替える」「まっとうに所得を再分配して、財源も確保」「子ども・子育てを全力で支援する」の3つを掲げ、その具体策とて、同一価値労働同一賃金を原則とすること、最低賃金を引上げる、保育・介護などのサービス給付を充実する、配偶者控除制度や基礎年金第3号被保険者制度の廃止、妊婦の医療費・健康診査費を無料にし、その勤務時間を遅くとも出産6カ月前から短縮する等を提起しました。

 講演後の質疑応答では、大沢さんの提起を受け、介護などのサービス給付の具体策や日本での住宅補助のあり方、最低賃金引上げをめぐる課題、保健医療の改正はどうあるべきかなどについて意見を交わしました。住宅補助については、より恵まれた人のための住宅取得促進策である住宅ローン減税9000億円は、家賃補助に必要な財源の4倍というシミュレーション結果があると紹介。これで住宅困窮者に対する家賃補助は実現できるとして、さらなる検討を求めました。保健医療については、2012年の地域保健対策検討会において、公助から自助・共助にシフトした方針は間違っていると指摘。「憲法が想定し、世界の公衆衛生機関が位置付けられているのは、公衆衛生は個人や集団ではできないことを、ある場合には権力をもって踏み込むということで、公助が基本。そこまで巻き戻さないといけない」などと述べました。