参院本会議で14日、デジタル改革関連法案について趣旨説明と質疑が行われ、参院会派「立憲民主・社民」から杉尾秀哉議員が質疑に立ちました。

 冒頭杉尾議員は、発足して半年が経った菅政権について、「総理は施政方針演説で、『国民の命と健康を守り抜く』と宣言したが、あなたや閣僚がこの宣言を守ったとは到底思えない」と新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対応できない政権担当能力を痛烈に批判しました。また、総理の長男が関与した総務省違法接待問題をはじめとした与党議員の不祥事の数々について振り返り、「『目を覆う政治の劣化』の元凶は、菅総理、あなたにあります」と政治責任を追及しました。

 続いて、「既得権益の打破」を掲げて「改革派」をアピールしてきた菅総理が、総務省違法接待問題やNTTがNTTドコモを完全子会社化した結果、携帯電話料金を引き下げた一連の事案に影響を及ぼしていたのではないかと指摘し、本来の「既得権益の打破」と著しく矛盾していると主張しました。

■前代未聞の「法案ミス」問題

 国会提出後に、要綱などに45カ所もの誤りが発覚し、さらに、誤りを示した正誤表にも2カ所の誤りが見つかるという、前代未聞の「法案ミス」問題について、杉尾議員は(1)「9月のデジタル庁発足ありき」で成果を急ぎ過ぎぎた政権の姿勢が、これらの問題の背景にあるのではないか(2)こうした拙速な審議で果たして国民の理解を得られるのか――と質問しました。また、「霞が関の常識を超えるスピードで取り組む」と、担当職員に常識外の時間外労働や、過重な負担を強いた平井大臣と菅総理に認識をただしました。

■「デジタル敗戦」

 杉尾議員は平井デジタル担当大臣が良く使う「デジタル敗戦」という言葉について、「他人事のように感じる」と指摘しました。そのうえで、菅総理に以下の点をただしました。

  • デジタル敗戦とは具体的にどういう意味か
  • 仮にこの表現が正しいとして、20年間で主に政権を担当してきた自公政権のデジタル化の取り組みが、なぜ失敗して来たのか。その原因と責任は何か
  • 国連の電子政府ランキングで2020年、韓国は2位、日本は14位。これだけ韓国に水をあけられてしまった理由は何か
  • 官民で相次ぐシステムトラブル、たとえば、接触確認アプリ「COCOA」の不具合が長期間放置されていた問題や、この春から運用が開始されるはずだったマイナンバーカードと保険証の一体化の延期など、今や日本は「デジタル劣等国」と言われるほど、惨憺(さんたん)たる状況だ。こうした現状をどう分析し、改善するか
  • マイナンバーカード普及促進のための保険証としての利用が、開始直前に延期になったのは深刻。10月の本格運用開始は本当に可能なのか
■セキュリティの問題

 杉尾議員は、マイナンバー制度関連で投入された国費が、過去9年間で8,800億円に上ることが衆院の審議で明らかになった一方で、いまだにマイナンバーカードの所有率は3割未満というデジタル化が進んでいない現状を説明し、「巨費を投じながら、結局は『ムダ金』だったということになりかねない。その大きな原因の一つにセキュリティの問題がある」と指摘しました。
 また、「カード普及に『前のめり』な政府の姿勢ばかりが目立ち、ありとあらゆる情報が紐づけされ、芋づる式に個人情報が抜き取られるのではないかとの不安は全く消えていません」と国民の懸念を示した上で、菅総理と平井大臣に次のとおりただしました。

  • デジタル庁の発足と、今回の一連の法整備で、セキュリティ対策が抜本的にどう変わるのか。また、情報の一元化が進む中で予想される、システムの脆弱性をついた不正アクセスをどう防ぐのか
  • 内閣総理大臣を「長」とする、デジタル庁が集約した個人情報が、内閣情報調査室を通じて官邸に吸い取られるのではないかとの懸念に総理はどう答えるか
■個人情報保護の問題

 立憲民主党は衆院で「個人の権利利益を十分に保護する事」を内容とする修正を提案したが、受け入れられなかったと説明。「政府案は国や企業によるデータの利活用推進に偏っていて、個人情報保護をはじめとする、個人の権利利益の保護の観点が欠如しているとの指摘が根強くある。今回の基本法の基本理念には個人情報保護の文言が書かれていません。これは大問題です」と強く指摘しました。

■憲法13条に基づくプライバシー権

 憲法13条に基づくプライバシー権には、個人が自分の情報を主体的にコントロールする権利。いわゆる「自己情報コントロール権」が含まれると解されるが、衆院での質疑では、法律上明記するのは不適切だという答弁もあり、この権利を明記した立憲民主党の修正案は否決されたと説明。
 また、EUの一般データ保護規則(いわゆるGDPR)では、「忘れられる権利」を含めた「自己情報コントロール権」が規定されており、衆院の附帯決議においても、「今後、必要な措置を講じる」旨の内容が盛り込まれたと現状を報告。平井大臣に今後の方向性をただしました。

■個人情報保護法・データの利活用

 個人情報をめぐっては、これまで民間や行政機関などで3つに分かれていた個人情報保護法が、今回の一連の法改正により統一され、個人情報保護委員会が行政機関などに対しても監視・監督を担うこととなると説明。
 データの利活用に関して(1)個人情報の目的外利用や第三者への提供について、その要件とされる「相当の理由」や「特別な理由」を、厳格化する事(2)行政機関などが行った判断が適切か否か、個人情報保護委員会が監視できるようにすべき事(3)個人情報保護委員会に、行政機関に対する命令権や立ち入り検査の権限を付与し、「独立性」と「実効性」を持たせるとともに、大幅な所掌範囲の拡大に伴い、必要な定員、予算、それに組織など体制強化の具体策を早急に示すべきである――との見解について、平井大臣の所見をただしました。
 また、地方公共団体が行ってきた独自の保護措置に対して制約が課されることや、個人情報の保護水準が低下を招く可能性に加え、地方自治権が侵害されるのではないかとの指摘があると懸念を示し、平井大臣の答弁を求めました。

■デジタル庁

 新たに設置されるデジタル庁の所掌事務に関して、(1)菅総理が総裁選で発言していた「政府のデジタル関係部署の一元化」に相応しいものとなっているか(2)デジタル庁で採用される、民間のIT人材に関する「秘密保持義務の徹底」の方法(3)「誰一人取り残されない」「人に優しいデジタル化」という、耳当たりのいい宣伝文句のウラで、高齢者、障がいがある人、外国人、それに離島や地方の居住者など、さまざまなハンディキャップを抱えた人たちに対する、いわゆる「デジタルデバイド(格差)」対策が全く見えない――などの課題を述べ、菅総理と平井大臣に答弁を求めました。

■最後に

 杉尾議員は「参院でも質疑時間の十分な確保が必要。菅政権が進めるデジタル化が成功するか否かは、突き詰めると、政府の透明性・信頼性など、民主主義の根幹に関わります。アメリカ・ギャラップ社の調査によれば、国民の政府への信頼度で日本はOECD加盟国の平均以下でした」と述べ、菅総理に政府の透明性・信頼性の向上を求め、「まさに信なくば立たず」だと進言しました。
 立憲民主党は、個人情報保護とセキュリティが十分に確保され、行政による国民の監視や統制の手段ではなく、国民の利便性向上に真に資するデジタル化を目指していくことを強調し、質疑を終えました。