衆院本会議で20日、菅総理から訪米報告を受け、「立憲民主・無所属」会派を代表して、緑川貴士議員が質疑に立ちました。

 冒頭、緑川議員は新型コロナウイルスの深刻な感染状況に触れ、(1)訪米前の14日、菅総理は「全国的に大きなうねりとまではなっていない」と発言したが、現状の認識はどうか(2)日米首脳会談の延期やリモート参加を検討したか(3)感染者数が過去最多に上る大阪府や東京都で前回の緊急事態宣言の解除は早すぎ、延長すべきだったのではないか(4)緊急事態宣言の再発出にあたり、政府は対策の効果をどのように維持し、総理としてどのようなメッセージを発信していくのか――について、菅総理にただしました。菅総理は「強い危機感をもって対応していく」とこれまでの答弁を繰り返し、国民への自粛要請に政府広報を強化していく方針を示しました。

 ワクチン供給について、日本国内の接種率(人口の中で少なくとも1回のワクチン接種を受けた割合)は0.9%と先進国の中で最低レベルで、大幅に出遅れていると指摘。菅総理は訪米中にファイザーのブーラCEOと電話で会談し、「ことし9月までに国内のすべての接種対象者に必要な数量を確保した」と表明しましたが、追加接種が必要な来年以降のワクチンの確保、および日本国内でのライセンシング生産の進捗状況について確認しました。菅総理はファイザー社との交渉内容について、機密保持契約を理由に明言を避けました。

 東京オリンピック・パラリンピックの開催について、(1)菅総理は「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」と位置付けてきたが、日米首脳会談の共同会見では、「世界の団結の象徴」と位置づけを変えたのはなぜか(2)米国メディアからの「公衆衛生の専門家から開催の準備ができていないという指摘がある。無責任ではないか」との総理への質問に、なぜ答えなかったのか(3)日米首脳会談でバイデン大統領は、選手団の派遣や、大統領の五輪出席などを含め、具体的にどのような発言をされたか(4)変異株のリスクが世界中で拡大する中、どのような条件が整えばオリ・パラ開催をすることが可能であると考えているのか――について、菅総理に確認しました。菅総理はIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長と東京五輪の実施で一致していると述べ、国内外の感染状況を注視しながら、安全安心な東京オリ・パラを実施する考えを示しました。

■対中政策

 緑川議員は「日米共同声明で示された通り、中国のわが国の領土領海における一方的な現状変更の試み、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動は断じて容認できず、日米や他国と連携して毅然と対応していかなければならない。また、経済活動でも高度で民主的なルールに従うよう求めていく必要がある」と賛同する認識を示しました。

 他方、「中国は日本の隣国であり、経済的相互依存も高く、日中関係を平和的に発展させていくことが、日本の国益にもっともかなう。対中関係において、日米で重要な基本認識は共有しながらも、それぞれの持つ関係性を活かして、その役割を果たしながら連携して外交を展開していくことも重要だ」と主張しました。

 菅総理に(1)バイデン大統領と、日米間の対中関係の違いを踏まえた連携を深めることについて議論はしたのか(2)会談後に激しく反発している中国に対して、どのようなメッセージを発信していくのか(3)総理は「日米のそれぞれが中国と率直な対話を行う必要もある」とも発言した。対話によって地域の課題を解決する外交姿勢や、その枠組みづくりを日本として主導し、日米中の3カ国による会談を持ちかけることも必要ではないか――を確認しました。

 日中関係が悪化した場合の経済への影響、中国に軸足を置く日本企業への影響を不安視する声もあると指摘。「ウイグル自治区における人権侵害を厳しく批判しているアメリカは中国当局へ制裁を科しているが、制裁に参加していない日本に対して、ウイグルの人権侵害に関連した製品や、電気自動車などの生産に不可欠なレアアースなどの中国からの輸入を停めるようアメリカから要請される可能性、あるいはビジネスの支障となる行政命令が中国当局から発せられ、中国国内で日本企業が自由に活動できなくなるリスクも想定される」と述べ、菅総理の見解と今後の対応を確認しました。

■台湾海峡への言及

 緑川議員は、「バイデン政権について、トランプ政権時代の対中強硬姿勢を強めることで、議会の協力を得られやすくなり国内対策も円滑に進められるなど、議会対策への配慮も働いている中で、初の対面での会談相手に菅総理を選び、対中牽制の最前線に日本を位置づけ、その役割への重い期待は、共同声明において詳細な実務事項を盛り込む2500字の長文にもみてとれた」と日米共同声明の受け止めを述べました。 

 そのうえで、「会談における目玉は、52年ぶりにもなる日米共同声明内の『台湾海峡』への言及だ。『日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す』と明記されたが、わが国にとってどのような意義があり、これまでと何が違ってくるのか」と菅総理に国民に向けて分かりやすい説明を求めました。

 中国の軍事行動が活発化している中、不測の事態が起こらないとも限らないと指摘。(1)台湾が侵攻されたり武力攻撃を受け、台湾の安全がおびやかされる事態は、わが国の平和及び安全に重要な影響を与える事態、いわゆる重要影響事態と認定され得るという認識なのか(2)台湾に対して武力攻撃が行われており、アメリカ軍が台湾防衛のため実力を行使しているが、日本に対してはまだ武力攻撃が行なわれていない場合に、存立危機事態に該当することはあり得るか(3)台湾有事に際して、バイデン政権は自衛隊による米軍の後方支援などについて具体的な期待を抱いているのか、またそのような事態を想定して日米共同で訓練を行なっていく考えがあるか――と菅総理にただしました。

■尖閣諸島への日米安全保障条約第5条の適用

 沖縄県・尖閣諸島への日米安全保障条約第5条の適用について、「これまでも何度か確認されてきたが、その都度確認するのは、いわゆる同盟のジレンマ、本当に米国は日本の防衛に動くのかという心配があるからではないか。日本が自国防衛を行なうのは当然だが、事態によっては米軍の来援が必要だ。日米の間には、どういった場合に米軍が出動するのかなどのシミュレーションを基に共同作戦を準備しているのか、今回の会談を通して日本が要請すれば必ず米軍が出動するという確信をもてたのか」、菅総理に確認しました。

■北朝鮮

 緑川議員は、「北朝鮮の核・ミサイル・拉致問題はいずれも、一歩も進展していないどころか、核・ミサイルについては、北朝鮮はさらに能力を向上させる意思を明らかにしている」と懸念を示しました。(1)バイデン政権は現在北朝鮮政策の見直しを行なっているとされているが、北朝鮮の非核化よりも、段階的な脅威を減少する合意を模索するとも報道されている。核放棄が前提でなければ北朝鮮に対する合意はすべきではないと考えるが、そうした考えはアメリカには伝えているのか(2)トランプ前大統領は、ICBM(大陸間弾道ミサイル)をレッドラインと設定していたため、北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射しても、われ関せずだったが、日本にとっては短距離弾道ミサイルも深刻な脅威であり、在日米軍が標的とされることもありえる。バイデン大統領は前大統領に比べ、より厳格な対応をとるとお考えか、また、短距離弾道ミサイル発射も国連決議違反の深刻な脅威と認識されていたか――菅総理の認識をただしました。

 拉致問題については「重大な人権侵害」であるとして、「日米が連携して北朝鮮に即時解決を求めていくことを再確認した」としているが、拉致被害者の家族は『即時解決のために、日本が何をやるのか、具体的なことははっきりしていない。アメリカがどういう支援や協力をしてくれるのかが見えない』と発言されている。いつまでに何をやるのか決めてもらいたい、という声にどう答えるのか」と菅総理にただしました。

■日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ

 平和と安定は防衛力のみによって達成されるものではなく、日米両国によるサプライチェーン(供給網)の確保や、それに向けた技術開発力の強化など、経済安全保障の確立の重要性が改めて認識されていると主張。今回、日米間で合意された「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」について、「開かれた、民主主義のルールにのっとって、持続可能でグリーンな世界の経済成長を主導することについては賛同し、合意に基づいた共同研究開発や連携は大いに進めるべき。一方で、コロナ禍を通して日本のさまざまな分野での技術の遅れやサプライチェーン、医療体制などのぜい弱さが広く認識された。経済安全保障を確保するため、またアメリカの対等な同盟国としての地位を維持するためにも、日本の総合的な競争力の向上は重要だ」と指摘しました。

 そのうえで、「国を挙げて、改革教育・訓練、研究開発への投資等とともに、構造改革を大胆に推し進めていかなれば、新興国との競争についていけなくなると進言。菅総理に「日本の技術力や競争力をどのように高めていくのか」ただしました。

■気候変動対策

 気候変動対策は、必ず成し遂げなければならない課題であるとし、日米気候パートナーシップでは、「官民の資本の流れを、気候変動に整合的な投資に向け、高炭素な投資から離れるよう促進することに取り組む」とされているが、現状では、日本の金融機関の石炭産業への融資総額が世界第1位になっており、日本の3メガバンク・グループが石炭産業への融資世界トップ3を占めていると指摘。一方で、気候変動問題への対応を背景に、すでに国際的には金融機関や機関投資家などによる投資撤退のターゲットが、石炭関連企業から化石燃料関連企業に拡大していると説明。

 菅総理に「このような状況をどのように評価しているか。また、こうした現状をふまえ、高炭素な投資から離れるように促そうとしているのか」答弁を求めました。

■最後に

 緑川議員は「今回の日米会談は日米同盟の深化に資するものであったものの、日本はこれまでより、さらにコミットメントを表明することを求められ、日米同盟が直面する課題がより鮮明になったとともに、菅総理が持ち帰ってきた課題も相当なものとなった。日本の持続的な発展のため、今日本が注力すべきことはなにか、立憲民主党としても提案し、政府・与党と議論を深めていきたい」と進言し、質疑を終えました。