参院本会議で21日、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案」に関する趣旨説明が行われ、立憲民主・社民を代表して岸真紀子議員が登壇しました。本法案は、消費者の脆弱性(ぜいじゃくせい)につけ込む悪質商法に対する抜本的な対策強化、新たな日常における社会経済情勢等の変化への対応のため、特定商取引法・預託法等の改正による制度改革によって、消費者被害の防止・取引の公正を図ることを目的としたものです。
立憲民主党など野党は、(1)包括的なつけ込み型勧誘の取消権の創設(消費者契約法)(2)販売預託商法の原則禁止、詐欺的定期購入の規制強化等(契約書等の電子化はしない)(3)クーリング・オフ期間の延長(特定商取引法など)――を内閣提出法案に付け加えた対案を衆院に提出。衆院の審議では、消費者がクーリング・オフを電子メール等で行う場合の効力発生時期について、政府案では欠けていた、申込みの撤回又は契約の解除に係る電磁的記録による通知を発した時とすることを明文化すること等の修正がなされました。
岸議員は、(1)契約書面等の電磁的交付導入にあたり、事業者から要望のあった特定継続的役務提供以外の取引類型について、契約書面等の電子化を導入する必要性と政策決定過程の妥当性(2)成年年齢の引き下げによる若年層の被害防止対策(3)契約書面等の電磁的交付を行う際の「購入者等の承諾を得た場合」の定義と消費者保護の観点の保障(4)修正により延長された施行期日までの間における消費者の承諾の実質化や電磁的方法による提供に関する政省令や通達等の具体的取組み(5)「送り付け商法」自体を禁止しなかった理由と代金を支払った場合の救済方法(6)販売を伴う預託等取引を全面禁止とせずに原則禁止とした理由および内閣総理大臣による確認厳格化の担保の可能性(7)地方消費者行政との連携強化、地方消費者行政の体制強化ならびに消費生活相談員の処遇改善・雇用継続による専門性の向上についての具体的取り組み――等について、政府の見解をただしました。
岸議員は本改正案に関し、「消費者の保護の観点から改正するもので、安愚楽牧場事件やジャパンライフ事件等で問題となった悪質な販売預託商法による消費者被害の発生・拡大防止を行うための一定の前進であると認識している。一方で、『契約書面等の電磁的交付』いわゆる契約書面の電子化を可能とする内容が盛り込まれ、消費者被害を拡大させてしまうといった強い懸念がある」と指摘。衆院の審議では、立憲民主党が求めてきた契約書面等の電子化に関する規定の削除について、当該規定の施行期日の1年延期と施行2年後見直し規定の新設等を内容とする修正がされたことに、「事業者への適切な指導、消費者への周知などさまざまな準備をするための期間が確保された。消費者庁として、施行期日までの間における、消費者の承諾の実質化や電磁的方法による提供に関する政省令や通達等の具体的な取り組みを示してほしい」と求めました。
これに対し井上大臣は、「消費者保護に万全を期すため、オープンな場で広く意見を聴取する検討の場を設けるとともに、消費者委員会でも議論していただく。消費者相談の現場にいる相談員の方などからも意見を伺いながら政省令等の具体的な内容について検討を進める方針」などと答えるにとどまりました。
岸議員はまた、特定商取引法の改正事項にある、購入の申し込みをしていないにもかかわらず、一方的に商品を送りつけ、相手方から商品の返送又は購入しない旨の通知がない場合は、勝手に購入の意思ありとみなして代金を請求する、いわゆる「送り付け商法」については、改正案により改善につながると一定評価した上で、なぜ「送り付け商法」自体を禁止しなかった理由と、代金を支払ってしまった場合の救済方法を質問。
預託法改正関連では、販売預託商法は、原則禁止ではなく全面禁止にするべきだったのではないかと主張。改正案では、内閣総理大臣の確認を受けた場合には、例外的に販売を伴う預託等取引を認めるとなっていることに、「前総理主催の『桜を見る会』に出席したことを宣伝として利用したジャパンライフとは言わないが、悪質な事業者により、消費者被害を増大させる危険性があるのではないか。こういった懸念を払しょくするためにも内閣総理大臣の確認を厳格に行うことが必要となっているが、消費者庁としてどのように対応するのか」と尋ねました。
しかしながら、これら質問に井上大臣から納得のいく答弁は得られませんでした。
岸議員は最後に、複雑な問題が山積している消費者行政における執行力の充実を図るためには、地方消費者行政との連携が欠かせないと指摘。そのための地方消費者行政の体制強化と相談業務の実務を担う、非正規で働く消費生活相談員の処遇改善と雇用の継続による専門性の向上が必須だと訴えました。