参院本会議で4日、75歳以上の医療費窓口負担を2割に引き上げる「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」の採決がおこなわれ、それに先立ち立憲民主・社民会派から打越さく良議員が反対討論に立ちました。

 打越議員は、反対の理由として5点を挙げました。

1.現役世代の負担を抑制する抜本改革ではない
 打越議員は、法案が全世代対応型を謳い、「現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの構造を見直す」としながらも、「その実態は現役世代の負担増を抑制するとの名目の下、後期高齢者(75歳以上で一定収入以上の者)のみに720億円もの負担増を押し付けることばかりが突出した、その場しのぎの弥縫策に過ぎない」と指摘しました。
 そのうえで、「限界に近づいているとされる現役世代の本人負担はわずか月額30円の減であり、負担軽減には全く寄与していない。その反面、公費負担は980億円もの減少が見込まれる。国の財政事情を優先させた、全世代対応型とは名ばかりの看板倒れ法案と言わざるを得ない」と強く批判しました。また、そもそも「現役世代への給付」が少ないのは、医療に対する需要の違いがあるので当然であり、「世代間対立のようにとらえること」は適当ではないと論じました。

2.後期高齢者の受診抑制で健康悪化のおそれ
 法改正による受診抑制効果が900億円と見積もられていることについて「窓口負担が高いためや償還払いなどを嫌って高齢者が受診をためらったりすれば、必要な医療が受けられないことになる。そのために症状が悪化したり、慢性化したりすれば、かえって医療費がかさむばかりでなく、高齢者の生活の質(QOL)をも阻害することになる」と指摘しました。
 また、「厚生労働省が巨額化・複雑化する健康保険財政の指標に90年近くも前の二次関数式をいまだに使用しているのは、高齢者を標的とした医療費抑制を強調するためだけであり、高齢者いじめそのもの。厚生労働省が医療費の効率化に資する実証的な研究を怠っていることは無責任としか言いようがない」と批判しました。

3.医療扶助におけるオンライン資格確認の導入は拙速
 マイナンバーカードが普及しない中で医療扶助のオンライン資格確認が導入されると、「マイナンバーカードの取得の支援もおこなわなくてはいけない上、マイナンバーカードを持たない方には旧来のやり方を併存しなくてはならないので、仕事はむしろ増える」との現場の声を紹介し、「ケースワーカーの負担軽減やその前提となる増員もないままでは、現場が混乱することは必至」と懸念を示しました。

4.将来的な見通しや抜本改革への視点の欠如
 法案の附則に「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築する観点から、社会保障制度の改革及び少子化に対処するための施策について、その実施状況の検証を行うとともに、総合的な検討に着手し、その検討の結果に基づいて速やかに法制の整備その他の必要な措置を講ずる」と記載されていることについて、「言い訳めいた言及。抜本改革先送りの欠陥法案」と断じました。田村厚生労働大臣が「国民の理解を得るには時間がかかる」と答弁したことについて「法案提出そのものが時期尚早であったことを正直に吐露されたもの考える」と批判しました。

5.立法府での議論が不十分
 衆院の審議で野党が十分な質疑時間の確保を求める中、5月7日の厚生労働委員会で委員長職権により強行採決された経緯を取り上げ、「立憲民主党が提出し、審議中であった『高齢者の医療の確保に関する法律の一部を改正する法律案』は採決もされないまま、衆院に留め置かれたままだ。立憲案は、保険料の賦課限度額を引き上げ、後期高齢者の中で特に高所得の方に負担をお願いすることによって、公費の投入と併せ、政府案の見込みと同程度、現役世代の負担を軽減することを目的としたもの。これは政府案で懸念される高齢者の受診抑制による重症化などを防止するために必要な改正であり、与党側からも傾聴に値するものとの評価が得られていた。したがって、立憲案を可決の上、本院で審議が行われるべきものでありました。審議時間、また審議内容とも不十分なままの政府提出法案を可決する前提はない」と述べました。

 打越議員は、菅総理が1日の参院厚生労働委員会で「世界に冠たるわが国の社会保障制度、この制度を次の世代に引き継いでいくことは私たち世代の極めて重要な役割」と述べたことを引き合いに、「わが国の保険証一枚で『誰でも、いつでも、どこでも』医療機関にフリーアクセスが可能な国民皆保険制度は世界に誇りうる制度。しかし、本法案は、このフリーアクセスを実質的に抑制し、必要な医療の提供を怠るものであり、必ずや将来に禍根を残すことになる」と懸念を示し、「国民本位・患者本位の医療の実現のためには、医療のみならず社会保障全般にわたる制度横断的な一体改革をおこなうことが不可欠です。そのための『長い目』こそが、政治に求められている」と訴え、「抜本改革の名に値する国民本位の健康保険制度実現のため」法案への反対を呼び掛け、討論を終えました。

 法案は与党等の賛成多数により可決、成立しました。

健康保険法改正案 反対討論(予定稿).pdf

後期高齢者医療の負担のあり方について.pdf