「30兆円の予算が余る一方で、医療体制のひっ迫など、他にも、あるいは生活困窮者とかも含めて、もろもろ手が足りていないところがある。残念ながら今は予算の縦割りの関係があり、省庁を横断して予算を使えません。しかし財政法33条に基づく『移用』という仕組みを使えば柔軟に対応できるのです。今こそ予算総則に定める『移用』、これを柔軟に活用することによって、必要なところに必要な金額を迅速かつ潤沢に届ける。その仕組みを予算委員会を開いて、実際に実現すべきです」(小沼巧議員)。

 19日、参院内閣委員会の閉会中審査で、立憲民主党からの2人目の質問者として小沼巧議員が質問に立ちました。

■人流が減らない理由

 冒頭、小沼議員は、度重なる政府の要請にもかかわらず、政府が期待するほど人流が減らないのはなぜか、西村康稔経済再生担当大臣をただしました。西村大臣が国民の「自粛疲れ」を理由に挙げると、小沼議員は「私は解釈が違います。『諦め』だと私は思っています」と反論。「政府が適切に解決してくれるとの期待が裏切られ、全く反対のことが起こっているからこそ国民は失望のどん底に蹴落とされているのではないか」との見方を示しました。その上で「1年7カ月間のコロナ対策、いろいろありました。緊急事態宣言だの、まん延防止(等重点措置)だの、県独自の緊急事態宣言など。いろいろありますが、その本質は大して変わってないと思います。自粛のお願い、それだけであります。自粛のお願いばかりで、この1年7カ月間近く、医療も提供体制も含めてなぜ整備してこなかったのか。政府は結局、お願いばかりで『何もやらないじゃないか』という憤りがある。これが政府がいくら何を言おうとも『笛吹けど踊らず』の状況になっている原因なのではないか」と述べました。

■医療ひっ迫の責任

 西村大臣がデルタ株の強い感染力に触れて、普段合わない人に会ったり、大勢で集まることを控えるよう国民に訴えると、小沼議員は「何を言っているのだ、という気がしますね。そんなもの、皆さん分かっているのですよ」と西村大臣をたしなめました。

 続けて、医療体制のひっ迫について触れ、「では、この1年7カ月間近く、政府は何をやってきたのか。『医療ひっ迫の状況があって』と言うが、新型インフルエンザ特措法に基づけば、例えば臨時医療施設とか医療従事者の確保とかいろいろできるではないですか、今の法律上でも。なぜやっていないのか。医療体制のひっ迫なんかも鑑みると、なぜこの現状が起こっているのか。その現状を放置、ないしは継続させている『主語』というのは一体誰なのか」と、問いただしました。すると西村担当大臣は「特措法の限界を感じながら対応している」と弁明。臨時の医療施設についても、これまで11の都道府県で14の施設を設置したことや、東京都や福岡県がホテルを臨時の医療施設として利用し始めたことなどに言及し、「そうした努力を都道府県と連携しながら対応しておりますし、病床についてあるいは宿泊療養施設についても、それぞれの県の判断で増やしていくところをわれわれもサポートしながら、資金的にも、また官公庁などの支援も得ながら詰めてきてるところであります」と答弁しました。すると小沼議員は「質問は『主語』を聞いてるのであります。現状を放置している、継続させているその『主語』というのは、一体何なのでしょうか」と、現状を招いた政治的な責任をより明確化するよう、さらに求めました。これに対し西村担当大臣は「厚労省を中心に自治体と連携して病床の確保など体制構築に努めている」と重ねて答弁。小沼議員は「つまり自治体も厚労省も悪いということであります」と答弁を振り返り、西村担当大臣に対し、医療体制の確保のためにもっと力強い政治的リーダーシップを発揮するように求めました。

■財政法33条に基づく、余った30兆円予算の転用

 最後に、小沼議員は政府が約30兆円分にも上る予算を繰り越していることについて取り上げました。小沼議員は「なぜ30兆円残っているのかということについて伺いたい。30兆円が余っている。この現状を作り出している責任の所在はどこにあるのか」と問いただしました。すると西村担当大臣は、予算が残っている理由として(1)予算を多めに確保したこと(2)多くの予算については、まだ適切な支出時期となっていないこと――を挙げました。そして前者の例としては無担保融資や劣後ローンなどの中小企業支援、後者の例としてはGoToトラベル事業を挙げました。小沼議員は昨今の情勢を踏まえると今年度中のGoToトラベル事業は困難なのではないかとの見方を示した上で、以下のような提案をおこない、質問を締めくくりました。
「1つ提言をしてみたいと思うのであります。GoToトラベルというのは現状GoToキャンペーンしか使えない訳であります。他方で医療体制のひっ迫など他にも、あるいは生活困窮者とかも含めて、もろもろ手が足りていないところがある。でも残念ながら今は予算の縦割りの関係があり、省庁を横断して予算を使えません。それを使えるような仕組みを導入すべきであると私は思っています。財政法第33条に基づく『移用』という仕組みを使えば柔軟に対応できるのです。昨年の5月25日の決算委員会で、財務大臣にその点物申して参りました。しかしその時は、緊急事態宣言が解除されるというタイミングだったので『目の付け所はいいかもしれないけれども、時期としては』という話がありました。だが今回は、緊急事態宣言がさらに拡大されている時期であります。今こそ予算総則に定める『移用』、これを柔軟に活用することによって、必要なところに必要な金額を迅速かつ潤沢に届ける。その仕組みを予算委員会を開いて、実際に実現すべきです」。

※ 財政法 第33条「各省各庁の長は、歳出予算又は継続費の定める各部局等の経費の金額又は部局等内の各項の経費の金額については、各部局等の間又は各項の間において彼此移用することができない。 但し、予算の執行上の必要に基き、あらかじめ予算をもつて国会の議決を経た場合に限り、財務大臣の承認を経て移用することができる。」