「『お金持ち』をさらに大金持ちに、『強い者』をさらに強くしただけに終わった。期待された『トリクルダウン』は起きず、格差や貧困の問題の改善にはつながらなかった」(立憲民主党 アベノミクス検証委員会)。
 「実態としての格差の広がりは否定できない。適正な分配と安心を高めることこそが、何よりの経済対策」(枝野幸男代表)。

 江田憲司代表代行、落合貴之衆院議員らを中心に党内で設置された「アベノミクス検証委員会」による報告書「アベノミクスの検証と評価」が、枝野幸男代表に正式に手交されたことを受け、枝野代表らが21日、国会内で記者会見を開きました。同報告書は、直近の経済データに基づき、約9年に及んだアベノミクスについて検証をしています。

 記者団とのぶら下がり会見の冒頭、枝野代表は以下のように述べました。「先ほど江田代表代行から正式な形で報告書を受け取った。改めて言うまでもなくアベノミクスはお金持ちをさらに大金持ちに、強いものをさらに強くした。しかしいわゆるトリクルダウン(普通の暮らしをしてる人厳しい生活をしている人たちの所に滴り落ちる)というようなことは全く起きず、格差や貧困問題の改善にはつながってなかったと改めて確認をさせて頂いた」。その上で「実質賃金が下がり続けると同時に、2度にわたる消費増税が追い打ちをかけ、GDPの半分以上を占める消費の低迷が続いている。このことが日本経済が低迷から抜け出せない、最大の要因であるという認識だ」と述べ、アベノミクスが日本経済の長期低迷の要因となっている、と結論付けました。

 アベノミクス政策のいわゆる3本の矢の1つ目とされる「異次元金融緩和」については、「大胆な金融緩和――円安誘導やゼロ金利あるいはマイナス金利――によって、確かに輸出産業を中心に収益増となり、株価は上昇した。しかしインフレ期待に働きかけての消費増には全くつながらず、物価安定の目標の2%も達成できていない」と指摘しました。当初の目的であった安定的な物価上昇を達成できていない中、地方銀行の経営が悪化したり、官製相場が形成されるなど、極端な金融政策に伴う副作用のリスクが発生している点についても言及。さらに大きな問題点として、こうした政策を「いつまで続けるのかの出口戦略が全くなく、その見通しも立っていない」ことも取り上げました。

 2つ目の矢である「積極的な財政政策」については、「消費を喚起させなければならないにも関わらず、2度にわたる消費増税でGDPの半分以上を占める消費を腰折れさせた。必要な投資、税制改革が進まない一方で、インフラ投資も従来型のものが中心で、経済的な波及効果はあまり得られなかった。いずれにしろ消化不良で使い残しも目立っている」と、2本目の矢の空回りぶりを指摘しました。

 3本目の最後の矢である「成長戦略」については、「金融緩和の『カンフル剤が効いている間に進めるべき体質改善』が『成長戦略』であるにもかかわらず、製造業の労働生産性はOECD37カ国中16位まで落ちて、潜在成長率はゼロパーセントまで低下している」と述べました。枝野代表は、その背景として「行き過ぎた株主資本主義」があると指摘し、「行き過ぎた株主資本主義が労働分配の低下や設備投資の減少につながっており、結果として企業の内部留保を戦後最大規模にまで膨らませている。その結果、企業の成長につながるところに回っていない」との見方を示しました。その一方で、安倍政権の目玉政策であった、原発輸出やカジノ誘致、五輪開催等は「いずれも失敗、あるいは功を奏していない状況だ」とも述べました。

 その上で「こうした状況を新しいデータに基づき確認をさせて頂いた結果、これらを抜本的に変えない限り、日本の経済の低迷を抜け出すことはできないと改めて確信した。最新データにアップデートされたアベノミクスに対する検証結果を踏まえ、そう遠くない時期に政権政策としての経済政策についても、発表をさせて頂きたい」と表明しました。

 続いておこなわれた質疑応答では、アベノミクスが「総体的に失敗だったと思うか」と記者にたずねられると、枝野代表は「失敗でした。間違いなく。何が結論として一番正しい数字かというと、結局、潜在成長力を伸ばしていない。むしろ最終的にはマイナスということは、明らかな失敗です」と回答しました。

 安倍政権下で2度実施された消費増税への評価を問われると「経済の実態を見た柔軟な対応が必要だし、それを指摘されていたにもかかわらず強行したことが、今日の結果を招いた」との見方を示しました。また将来的な消費税減税の可能性について問われると「消費の低迷と生活困窮の状況を踏まえると、少なくとも時限的な消費税5%への減税は間違いなく必要だ。中期的には、富裕層に対する金融所得を中心とした所得に対する課税、それから超大企業に対する優遇税制、こうしたアンバランスを全体を見直すことの中で視野に入れていきたい」と答えました。

 正社員・非正規の雇用者数や報酬が増えたとの見方については「トータルとして、しっかりと労働力、人に投資してこなかった。そのことで消費を冷え込ませている。 実際には労働分配率が大きく下がっていて、家計消費も下がっている。この客観的事実は、否定できない」と反論しました。

 党としての金融・財政政策について問われると「適正な分配と(明日の)安心を高めることがなければ消費は増えず、経済は回復しない、成長しない。適正な分配と安心を高めることが何よりの経済対策である。こういう明確な転換を示したい」と回答しました。 

「アベノミクスの検証と評価」アベノミクス検証委員会 報告書.pdf

■報告書で引用された各種経済データについて

 報告書を取りまとめるにあたって参考とした各種経済データについて、江田憲司代表代行(アベノミクス検証委・委員長)より、次のような説明がありました。

  1. 実質賃金の低下

    ――2012年を100とした実質賃金が下がり続けて、5%近く減っている。それにともない世帯消費が低下し、10ポイント近く減っている。

  2. 年代別の貯蓄ゼロ世帯の割合

    ――年代別の貯蓄ゼロ世帯の割合、とくに若い世代、20代・30代は、2012年と比べて1.5倍から2倍近く貯蓄ゼロ世帯が増えている。これは如実に格差の広がりみたいなものを象徴している。

  3. 純金融資産保有額が1億円以上の世帯数と資産額の推移

    ――2011年からのデータでは、世帯数で1.64倍、資産額で1.77倍まで増えている。またミリオネア(所得が1億円以上の億万長者)の人数も、 2012年の1万3609人が、2019年にはほぼ1万人増えて、2万3550人となっている。

  4. 潜在成長率の低下

    ――結局、潜在成長率というのは、中長期的な日本経済成長の実力を示すもの。もうこれがゼロ、成長しないんだと。これは日銀の統計ですが証明されている。2019年にはゼロ近くまで落ち込み、このグラフには入っていないが、2020年には、リーマンショック以降10年ぶりにマイナスになった。

  5. ジニ係数

    ――ジニ係数の改善、すなわち分配による格差是正がどのくらい進んだか、という国際比較を見ても、欧米と比べ日本は極端に改善率が低い。OECD諸国平均で見ても、4分の3から3分の2程度低いということで、格差是正が全然進んでない。

  6. 研究開発力

    ――成長戦略の中で、よく言われる研究開発力、これは国立大学が担う役割が大きいものだが、これは運営費交付金というものがどんどん減らされてきて、結果的に研究開発に充てられる分がどんどん減っている。一方で、競争的資金というのがどんどん伸びており、その申請手続きに研究者の皆さんの手間暇がとられている。日本の研究開発力が諸外国と比較してどんどん低下しており、先駆的な論文の本数にしろ、その引用数にしろ、どんどん下がっている。

  7. 株主偏重と企業の内部留保増

    ――株主資本主義、というか米国流の株主偏重。ガバナンス改革と称して導入した結果、このように明らかに配当額がぐっと上がっている。にも関わらず、従業員の給与はもう横ばいというか、増えていない。結果、内部留保は、ここでは2018年の数字が引用されているが、直近では475兆円で、戦後最高となっている。

  8. 労働分配率

    ――労働分配率は、まさに賃金を反映するものだが、これは大企業ほど分配率が低い。大企業ほど将来を見込んだ設備投資もせず、従業員の給与も上げず、貯め込んでいる。そして株主偏重の改革の結果、配当はどんどん増やしている。こういうことを是正していくのも、われわれ立憲民主党の責任だ。