「医師から筋痛性脳脊髄炎と診断を受けた方は21%で、8割の方が診断書等を受けられない状態。多くの方が10個以上の症状に苦しみ、仕事や学校に戻れない方が74%、身の回りのことすらできない方が33%、寝たきりに近い方が26%と深刻な実態が明らかになりました」(NPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」の篠原三恵子理事長)。
 「この病気の本質は何かということですが、まさに神経系免疫系の病気なのです。私たちは脳の血流をちゃんと調べることはできます。そうすると、そういう患者さんの脳血流は、特定の場所ですごく落ちているのです。これだけ血液の流れが悪くなったら、考えられないだろうと。それぐらい落ちております」(国立精神・神経医療研究センターの山村隆神経研究所特任研究部長)。

 立憲民主党は4日、新型コロナウイルス対策本部/障がい・難病PT/会派 厚生労働部会の合同会議を開催。新型コロナウイルス感染症に罹った一部患者が苦しむさまざまな形の後遺症について、(1)NPO「法人筋痛性脳脊髄炎の会」 (2)国立精神・神経医療研究センター(3)厚生労働省――からヒアリングをおこないました。ヒアリングを受け、会議の後半では「新型コロナウイルス感染症の後遺障害に関する研究調査の拡充を求める要望書」の取りまとめを議論。その後、会議に参加した厚労省の梅田浩史健康局結核感染症課室長に対し、要望書を手交しました。この会議には、逢坂誠二新型コロナウイルス対策本部長、山花郁夫障がい・難病PT座長、長妻昭厚生労働部会長が出席しました。

 会議前半のヒアリングでは、NPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」の篠原三恵子理事長、国立精神・神経医療研究センターの山村隆神経研究所特任研究部長、 厚生労働省健康局結核感染症課より、それぞれ話を伺いました。

 NPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」の篠原三恵子理事長からは、次のような報告と要望がありました。

 「今年の5月にも再度、緊急のアンケート調査を実施し、コロナ後に筋痛性脳脊髄炎のような症状が続いている141名から回答を得ました。女性が76%で圧倒的に多い。年代では40代が一番多く、30代、50代、20代と続きます。医師から筋痛性脳脊髄炎と診断を受けた方は21%で、8割の方が診断書等を受けられない状態。多くの方が10個以上の症状に苦しみ、仕事や学校に戻れない方が74%、身の回りのことすらできない方が33%、寝たきりに近い方が26%と深刻な実態が明らかになりました」。

 「アメリカの国立衛生研究所(NIH)は先月、後遺症に関する約510億円規模の研究プロジェクトを開設すると発表しました。NIHでは昨年7月の段階で感染症対策トップのファウチ博士が、『後遺症の症状は、筋痛性脳脊髄炎の症状と似ている』と発表しており、昨年からコロナと筋痛性脳脊髄炎の関連の研究が開始されています。これまでの科学的なエビデンスをもとにすると、コロナの全感染者の約1割が筋痛性脳脊髄炎を発症すると推定され、日本でも17万人以上の患者が発生する可能性があります。コロナと筋痛性脳脊髄炎を調べる実態調査、新型コロナと筋痛性脳脊髄炎の関連を調べる研究、そして治療薬の開発の研究、後遺症の対策の研究が神経免疫の専門家を中心におこなわれることを切に願っております」。

 続いて、国立精神・神経医療研究センターの山村隆 神経研究所特任研究部長からは、次のような意見を伺いました。

 「これまで50人ほど診療をしているが、皆さん何をお困りになっているかというと、まず仕事ができない。少し良くなったから仕事に行ってもいいよと病院に言われるのですが、行ったら、もうその会議についていけない。体がへとへとになる。3日も行くと、会社の方から『もう来ないで』という形になる。それはもう働き盛りの人、40代、50代という方は沢山いらっしゃる。主婦の方々でも、頭が全く働かない。コンロに火をつけたままで外出しそうになった、料理の手順が全く分からない。あるいは本が全然読めなくなる。これはこの病気の怖いところです。私も最初、見た時には信じられなかったのですが、本当に読めない」。

 「この病気の本質は何かということですが、まさに神経系免疫系の病気なのです。まず日本の医学界では、往々にしてその本が読めないとか、疲れたとかいうことを客観的なものではないといって無視する傾向があるんです。ですが、私たちは脳の血流をちゃんと調べることはできます。そうすると、そういう患者さんの脳血流は、特定の場所ですごく落ちているのです。これだけ血液の流れが悪くなったら、考えられないだろうと。それぐらい落ちております。それからMRIを特殊な画像処理をしますと、脳のいろいろな部分に炎症の痕のようなものがある」。

 「一方で、免疫の異常ということになりますと、私たちはこの免疫の専門家なのですが、リンパ球を取って調べると特定のリンパ球が増えているということがある。それから『自己免疫』という言葉で少し難しいかもしれませんが、ウイルスをやっつけるのは本来の免疫の働きです。ところが、このCOVID-19のウイルスをやっつけると同時に、自分を攻撃すると。こういう抗体がですね、患者さんの体内で一杯できている」。

 「急性期をとにかく乗り越えるのが大事だ。そこを乗り切れないと死んでしまう。そこを対応するのが呼吸器内科であり、総合内科医であり、耳鼻咽喉科であるわけです。ところが急性期が終わった後は、患者は完全に放置されている。通常であれば、急性期が終わったら慢性期の医者に任せるはずだが、慢性期の医者にはきわめて問題がある。神経と免疫が分かるドクターがやっていない」。

 「アメリカは500億円をかけたと言いますが、これはどういうことかといいますと、単なる調査研究ではなくて、原因を究明して治療薬を見つけて治療しようと。そういう意気込みを感じる予算です。こういう中で数千万円で調査研究をしているような状況では、これは日本の国民は大変気の毒。この問題は皆さんの親戚、あるいは皆さんの友人に実際、起こっているのでございますから、本気で対応して頂きたい」。

 つづいて厚労省からは、先に党側から投げかけたいくつかの質問に対する回答をヒアリングしました。

 厚労省の担当者からは(1)昨年度より遷延症状の実態把握や原因究明に関する3つの調査研究を実施している(2)いずれの研究班においても精神科や神経科の医師は入っていないが、アンケート調査の中で精神科、神経科医を含むさまざまな専門領域の臨床医や研究者の協力を仰いでいる(3)3つの実態調査・研究を踏まえ、遷延症状のワーキンググループを省内に設置し、臨床情報の最新の知見を踏まえて、診療の手引きの別冊を作りつつある――といった報告がありました。

 ヒアリングを受けて「新型コロナウイルス感染症の後遺障害に関する研究調査の拡充を求める要望書」を取りまとめるにあたり、司会を務めた石橋通宏参院議員から、要望書のポイントについて説明がありました。石橋参院議員は「今もう聞いて頂いてお分かりだと思いますが、この間、厚労省は昨年来、3つの調査されております。しかし3つ目はもう終わっておりますし、2つ目も今年度中で終わって、今後どうなるかわからないというご説明でした。これでは、はなはだ不十分です。また神経・免疫系の専門家を中心とした研究もおこなわれておりません。これまでは呼吸器関連ですとか呼吸器内科、そういったものが中心でした」と述べました。

 その上で、「まずはコロナの感染症の後遺障害に関する研究調査について予算確保して今後もしっかりと実施していただきたい。今も本当に多くの人達が後遺障害で原因不明のまま苦しんでおられます。精神の問題だろうと、先ほどありました通り、そういったことで救済も受けられないという状況。これもぜひしっかりと研究調査をしていただきたい。2つ目に、先ほど申しました通り、筋痛性脳脊髄炎 (ME/CFS)との関連性を解明するための神経免疫系の専門家を中心とした体制で調査、そして研究をおこなって頂きたい。さらにはこの厚労省の方でも、こういった症対策の研究組織、研究班を発足させる予定であると聞いております。是非その研究班には、神経の専門家を中心に据えて、しっかりとその研究をして欲しいと要請事項として立てさせて頂きました」と要望書の趣旨を説明しました。

 また長妻昭厚労部会長からは「厚労省で行った3つの調査研究については、免疫の暴走、そこが一番深刻なポイントだと思うのですが、そこがすっぽり抜けて落ちている。呼吸器の専門家は、コロナについてなら詳しいわけですが、また別のファクターでこの症状が起きている。一番のポイントが抜けていますので、ここは本当に強調しても、し過ぎることがない。また、これは相当深刻な事象になっていて、数年かけて、これからずっとわが日本の厚生労働行政の大きなテーマになってくると思います。今から早めに対応していただきたい」との発言がありました。

 これらの発言を受け、要望書は了承され、その後、会議の場にいた厚労省の担当者らに手交されました。

20211004新型コロナウイルス感染症の後遺障害に関する研究調査の拡充を求める要望書 (3).pdf
第39回ADB資料(後遺症研究中間報告).pdf
20211004党コロナ・障がい難病・会派厚労合同会議_次第.pdf