立憲民主党の泉健太代表は16日、「持続可能な社会ビジョン創造委員会」の一環として、同委員会委員の京都大学大学院経済学研究科教授の諸富徹さんとオンラインで対談しました。コーディネーターは京都芸術大学教授の本間正人さんが務めました。

 諸富教授は、過去40年間にわたる新自由主義政策の中で、「政府は小さく、あとはマーケットに任せる」という考え方が支配的だったが、リーマンショック、コロナ禍を通じてさまざまな問題が噴出し、資本主義のあり方を問い直す必要性があると提起しました。その上で、(1)より公正で持続可能な資本主義の建設(2)今こそ国家の果たすべき役割が重要(3)「成長か分配/持続可能性か」の2項対立ではなく、「分配の公正/持続可能性の実現」こそが経済成長をもたらす――という考え方に転換すべきと強調し、たとえばスウェーデンのように積極的に炭素税を導入し気候変動対策に熱心な国ほど成長している一方で、新自由主義的政策を推し進めている国は成長していないと指摘しました。

「分断」と「格差」の解消を通じて、より持続可能で公正な社会へ

 さらに諸富教授は、小泉政権以降、正規と非正規、男性と女性の格差が拡大したことを踏まえ、「公正な勤労社会」をつくることが必要だとして、「スウェーデンは福祉国家と言われるが、だからこそ成長し、税収も増え、教育無償化などを実現している」と述べました。一方、日本は大企業・輸出企業中心の産業政策により「産業構造が固定化してしまい、生産性低下と国際競争力の低下」を招いているとし、「大企業/輸出企業偏重を脱却し、よりダイナミックな産業社会」を目指し、脱炭素化で産業構造転換、分散型/分権社会への転換の契機にすべきと指摘しました。

 また日本の現状は、「女性/非正規労働者の労働供給と能力発揮を抑制」しているとし、「格差是正こそが成長につながる」という考え方に転換し、「産業政策」として、同一労働・同一賃金やカーボンプライシング(CO2排出に対する価格付け)などの施策を実施すべきと強調しました。

逆説的だが、持続可能で公正な社会の構築こそが、経済成長を導く

 その上で、日本はこの間、「成長もしなければ、CO2も減っていない」と指摘。再生可能エネルギーの固定価格買取制度は民主党政権の「正の遺産」だとして、立憲民主党には「持続可能な社会を目指す党、格差を是正する党」として期待しているとの言葉をいただきました。

 諸富教授のプレゼンテーションを受け、泉代表は、「勇気づけられるお話をいただきました。われわれは訴えてきた路線・政策が間違いだったとは思っていません。ただ岸田政権が発足して対立点がぼやけてしまった」とした上で、しかし岸田総理の「新しい資本主義」は「アベノミクスを否定しない。『成長なくして分配なし』と言う。分配の具体策がない」と指摘し、「自民党は『環境』をリーディング産業にすることには後ろ向き」だの見方を示して、立憲民主党は「格差是正」「環境」という課題解決に挑んでいくとの決意を語りました。また、国家の関与の在り方については、「再分配に関与していく政府をつくらなければならない」とし、地方衰退や災害の頻発、コロナ対策などへの現場対応力を高めるために、現場の職員を増やすことも必要だと述べました。

 さらに泉代表が、民主党政権時代には「強い社会保障、強い経済」と掲げたこともあったが、あらためて「社会保障や福祉の可能性」を諸富教授に聞いたところ、「社会保障は人への投資に他ならない。人的資本投資は社会参画の側面もある」と応じました。

 また泉代表が「かつて日本はエネルギー転換した際に、炭鉱から離職した人のために雇用促進住宅や支援金などが出された時代があった。しかし今、安価で住める公的な住宅はあるのでしょうか」と問題提起したところ、諸富教授は「企業にすべてを任せる福祉制度になってしまった。そのために、企業を倒産させることもできなくなってしまった」とした上で、スウェーデンでは大企業が倒産しても、スタートアップ企業が次々と生まれており、その根底には、社会にセーフティネットが張られており、大学も無償化されていることが大きいと指摘しました。

 昨年、立憲民主党がとりまとめた「エネルギーミックス」を泉代表が紹介したところ、諸富教授は「日本ではすぐに、大きいもの、原発・石炭火力に行ってしまう。延命させたい大規模技術を支える産業と自民党は利害関係がある」とし、泉代表も「原発には立地交付金があるが、風力にはなく、構造的・資金的に原発に戻ってしまうシステムになっている」と指摘しました。

 最後に、金融所得課税などの税制について泉代表が質問したところ、諸富教授は「応能原則が崩れてきた30年であり、アベノミクスで恩恵を受けた新しい富裕層から回収する必要がある」と指摘し、立憲民主党の「税制の将来ビジョンの柱にしてもらいたい」と応じました。