「日本が生き抜くための経済安全保障とは」と題して、東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授と党経済安全保障プロジェクトチーム座長の岡田克也衆院議員が対談をし、司会進行を同PT事務局長の篠原豪衆院議員が務めました。

篠原)本日5月11日、成立した政府の経済安全保障法案について、立憲民主党としても、非常に重要だと考え、プロジェクトチームを作り、集中的に議論し審議に臨みました。
 今回は、東京大学公共性政策大学院の鈴木一人教授と、岡田克也経済安全保障PT座長に、今の国際情勢を踏まえた経済安全保障の考え方、成立した政府の経済安全保障法の懸念点などについて話を聞きます。

◆日本にとっての「経済安全保障」の意義

鈴木)経済と安全保障は2つに分かれたものではなく、現代は経済的な手段を使って他国に対して攻撃するケースが非常にみられます。特に中国が経済的に成長し、経済的な手段を使って政治的な圧力をかけるようになってきています。とりわけ2010年、岡田先生が外務大臣の時、レアアース問題(注:尖閣諸島で海上保安庁の船舶に衝突させて身柄拘束された中国漁船の船長の解放を要求していた時に、突然、中国がレアアースの輸出を禁止した)が起きました。そういった、他国が経済的な手段を使って攻撃してくるものに対して自分たちを守るという意味で、「経済安全保障」と言われていると私は理解をしています。

岡田)中国が突然レアアースの輸出を止めたとき、たまたま温家宝首相と話をする機会があり、「中国がこんなことを繰り返すと、日本企業は、中国に対する投資に慎重にならざるを得なくなる」と伝えたことを鮮明に記憶しています。ただその後も経済的な手段を使って攻撃する方針は変わらず、フィリピンからのバナナやオーストラリアからの牛肉の輸入を止めたりを頻繁に繰り返しています。中国は日本にとって最大の貿易相手国ですから、それに対する一定の対抗手段というか、それを防ぐための手段は必要です。
     同時に、アメリカも、米中対立が深まり、そこでさまざまな対抗手段を取ります。アメリカが、同盟国に対してもそれを強要するということで日本企業も巻き込まれてしまい、直接の当事者でないにもかかわらず、言うことを聞かなければアメリカの市場で活動できなくなることもありました。そういうリスクは経済活動の中で無視できない存在になってきています。
 中国もアメリカも大きな国内市場を抱えていますが、日本はそうではない。戦後の自由貿易の仕組みの中で日本は豊かになってきました。やり過ぎると、一番損するのは日本ではないかと思います。だからそのバランスが非常に難しいし、これは日本だけの問題ではなく中国、アメリカに対してもやりすぎないようにけん制していくことも大事です。

鈴木)経済安全保障の問題は、自由貿易を進めながら、いかに他国の圧力から守るかというところにポイントがあります。日本は資源を外国に依存していますから、自由貿易は日本にとって不可欠です。しかし、海外に依存しすぎると安全保障上の問題が出てきます。政治的な問題で対立する時に、どうやって自分たちを守るのかという話と、どこまで自由貿易を守るのかはバランスがすごく大事になってきます。

◆中国、米国との関係

篠原)日中米関係を、どのように見るかを教えてください。

 

岡田)日本の最大の貿易相手国は中国ですから、しかも中国の経済はさらに大きくなっていくという中で、無視することはできない。そういう意味では、非常に機微な技術は、きちっと守る。中国に大きく依存しないように他の国とのバランスを考えていく。他方で、一般の財、例えば自動車とか家電は、自由な貿易を確保する。お互い依存度をむしろ高めていくことが対抗力になります。その辺の割り切りが大事だと思います。

鈴木)レアアースは2010年当時は90%近くを中国に依存していましたから、中国はそれを使って圧力をかけてきました。自由貿易を進めながら、中国以外の国から調達することで中国に依存している状態を減らしてく。中国に過度に依存しないようにしましょう、という議論はできると思います。
 日本は、単に中国と貿易をしているだけではなく製造過程、例えばその原材料は日本で調達し、最初の素材の部分は日本で加工し、それを使って中国で部品を作り最後完成品を日本で作るという形で、分業体制が既にグローバルに広がっています。このグローバルバリューチェーンが、これだけ広がっている中で、中国から外れることは難しいです。
 中国は今、軍民融合で、民間でやってる取引している材でも軍がその技術や素材を使う可能性があります。ですから軍事的に応用可能な技術を中国に移転しないと、きちんと線引きをする。それ以外のものは、基本的に普通の財として貿易をする。

岡田)最近、米中はすごく対立してるように見えますが、実は貿易量は増えており、日本も使い分けが必要です。

鈴木)今世界的に、物の流れが一体化、相互に依存している状態なので、これ自体を切ることは経済にとってはマイナスです。ですから切るのは本当に一部の機微な部分だけを切るという二重構造です。これから経済は、このような二重構造になっていくのではないかと思います。

◆企業の高リスクマネジメントが問われる時代へ

岡田)ただ同時に民間事業者から見ると、最悪の場合を想定しなければいけない。場合によっては、そのようなリスクが最後は残るのだと覚悟しながら、それでもやはり、市場として、生産基地して魅力があるから中国を使わざるを得ない。その最後の判断は、私は民間事業者の経営判断だと思います。

鈴木)今までの、貿易管理は、国ないしは国際レジームが基準を決め、分かりやすいルールがあり、企業はコンプライアンスの問題として、法制度に従って行動すればよく、リスクは国が取ってくれるという発想だったと思います。
 けれどもこれからは、例えば、他国との関係に何か起きるかもしれない。経済制裁があるかもしれない。人権問題に対する制裁が起きるかもしれない。さまざまな不確定要素は、法律に書き込めないことが、たくさん出てくると思います。コンプライアンスのように、該当するかしないかが、はっきり分かるわけでもないです。企業の高リスクマネジメント、経営判断の中で、もしかしたらリスクがあるかもしれないが、中国でのビジネスをやめるわけにはいかないから、覚悟を持って事業継続プランを作り、リスクを取りながら、中国でビジネスをやっていく。もし何か起きた時の準備をしておくことが大事になってくると思います。

岡田)もちろんそういう深刻な対立の時代にならないようにするのは、国の責任が大きいです。しかし最後の最後のところは、企業の判断に委ねられる部分もかなりあります。

鈴木)ロシアのウクライナ侵攻は、アメリカも止められなかったわけで、大国がその気になれば戦争が起こるということが、明らかになったと思います。日本としても、リスクとして考えておくべきだと思います。