2022年4月28日
社会保障調査会 中間報告書
立憲民主党 社会保障調査会
Ⅰ.基本的考え方
○「失われた 30 年」から脱却するため、適切な分配を実現して、深刻化する格差と分断の現況を改めます。
○介護・障害福祉従事者、保育士・幼稚園教諭等の処遇改善(※)によって、ベーシック・サービスを拡充するとともに、重点化と効率化によって、持続可能で安心できる社会保障制度を構築します。
〇社会保障に対する不安を払拭することにより、人生 100 年を安心して暮らせる社会にします。
○現役世代と高齢世代との世代間の公平を図ります。
○富裕層に応分の負担を求めます。
〇安心して老後を暮らせるよう、年金の最低保障機能を強化します。
○必要な方が必要な時に確実に医療にアクセスできる医療体制を構築するため
にかかりつけ医を明確に定義し、制度化します。
〇所得アップによる経済成長の実現、生活底上げの観点から、最低賃金を適正レベルに引き上げます。
※立憲民主党は 2022 年の通常国会に、①政府の処遇改善に加えて、保育所、幼稚園、認定こども園、学童保育、児童養護施設、乳児院等で働く全ての職員に対し、月額1万円の処遇改善を行う「保育士・幼稚園教諭等処遇改善法案」、②政府の処遇改善に加えて、全ての介護・障害福祉事業所で働く全ての職員に対し、月額 1 万円の処遇改善を行う「介護・障害福祉従事者処遇改善法案」を提出しました。
Ⅱ.分野別の提案
社会保障調査会では、社会保障の様々な分野のうち、以下の4つの分野に絞って検討を行ってきました。現時点での提案は、以下の通りです。介護、障害福祉、住宅などの分野に関する政策は、関係部会等とともに、今後検討を深めていく必要があります。
1.年金
【現状認識】
○2019 年 8 月に示された年金の財政検証の結果では、示された6つのケースのうち 3 つで所得代替率が 50%を下回り、最悪のケースでは、2052 年には積立金が枯渇するとの結果が示されました。また、ケースによっては基礎年金の所得代替率が約3割削減されており、将来の生活が大変厳しい状況となる可能性があります。
【提案】
○年金の最低保障機能を強化する観点から、以下の施策を行います。
・小規模事業所に勤務する短時間労働者など、より多くの短時間労働者が厚生年金に加入できるよう適用拡大をさらに進めます。段階的に 50 人超規模まで引き下げられることが決まっている企業規模要件については、新たに適用される事業所に対して必要な支援策を講じた上で撤廃します。また、賃金要件については月 6.8 万円に引き下げます。
・当面、低所得の年金生活者(年金とその他の所得の合計額が基礎年金満額相当以下などの場合)に対しては、年金生活者支援給付金を手厚くします。さらに、年金制度とは別に、簡易な資力調査を実施した上で低所得の高齢者に一定額を年金に上乗せして給付する制度を設けます。一方で、一定の高所得の高齢者の基礎年金のうち、税財源を原資とする部分の支給について減額して、最低保障機能を強化するための財源の一部とします。
〇最低保障機能の強化、世代間公平の向上に向けた年金制度の抜本改革案については、引き続き検討を進めます。
2.医療
(1)「日本版家庭医制度」の創設
【現状認識】
○いつでも誰でも医療につながる、世界に冠たる制度だったはずのわが国の医療・保険制度が新型コロナウイルスによりその脆弱さを露呈しました。
【提案】
○新型コロナウイルスのまん延時であっても、重症化リスクが高い人などが確実に医療にアクセスできるよう、「コロナかかりつけ医」制度を導入します。
高齢者等のハイリスク者が「コロナかかりつけ医」を登録します。「コロナか
かりつけ医」は、①平時は、コロナ対策等の健康相談、症状がある場合の検査を行い、②ハイリスク者が患者、濃厚接触者になった場合は、健康観察、医療提供、入院調整(症状悪化の場合)を行います。
○新型コロナウイルスのまん延で浮き彫りとなった課題を踏まえるとともに、教訓を活かして、プライマリ・ケアを評価する仕組みを整え、時代に合わなくなった医療制度を抜本的に見直し、医療制度改革の本丸である「日本版家庭医制度」創設に取り組みます。関係者と協議した上で検討を進め、法令等でかかりつけ医の要件や機能を明確化した上で、プライマリ・ケア機能を持つかかりつけ医を「家庭医」と位置付け、「日本版家庭医制度」を創設します。具体的には、患者が任意で「家庭医」に登録する制度を創設します。「家庭医」は一定の研修を修了することを要件とし、患者に対する医療提供の司令塔として、地域におけるプライマリ・ケアその他の健康の維持増進のための措置、専門的な医療機関との適切な連携、患者に関する医療情報の一元把握といった役割を果たします。制度導入にあたっては、国民への情報提供・開示の強化等、必要な環境整備を進めます。
○「家庭医」を医療基盤に配置することによって、医師の働き方を改善します。また、「家庭医」の医療基盤への配置を踏まえて、地域医療構想を見直します。
○「家庭医」を中心に、予防医療と医療の壁、医療と介護の壁を打ち破り、地域包括ケアシステムの構築を加速させます。
(2)医療保険制度の持続可能性の向上
【現状認識】
○団塊の世代が後期高齢者となり、その医療費が増え、後期高齢者支援金を拠出する現役世代の負担は今後さらに厳しさを増していくことが懸念されます。現役世代の負担軽減は喫緊の課題です。
【提案】
○現役世代の負担を軽減するため、後期高齢者医療保険の保険料賦課限度額を引き上げるとともに、公費を充当します。将来的には、医療保険制度全体の負担のあり方などについて検討を進め、医療保険制度の持続可能性の強化と現役世代のさらなる負担軽減を目指します。
3.子育て
【提案】
○雇用保険における育児休業給付など、社会保険には子育て支援に関する様々な措置が用意されています。こうした子育て支援措置を拡充すれば、各社会保険の支え手が増え、各社会保険制度の持続可能性を高めることができます。このことは、子育てを行う被保険者だけでなく、全ての被保険者に恩恵をもたらします。このような観点から、社会保険における子育て支援措置を拡充します。
拡充にあたっては、「未来への投資」との考え方の下、国が財政面で積極的な役割を果たすこととします。
○具体的には以下のような施策を行います。
・育児休業給付は、雇用保険制度から独立させ、国の負担による新たな制度を創設します。当該制度では、これまで雇用保険に加入できなかった非正規雇用やフリーランスで働く方々も育児休業給付を受けられるようにします。また、男女ともに育休中の賃金補償を実質 100%とします。さらに、育休の取得によってボーナスの支給額が減少する企業が多いことを踏まえ、減少するボーナスについても一定程度手当てできるようにします。あわせて、育児休業給付の上限も見直します。
・国民健康保険と健康保険の出産育児一時金を出産費用の全国平均額まで引き上げ、出産に要する費用を無償化します。全国平均額まで引き上げる費用は国が負担します。
・国民健康保険の保険者が被保険者を対象に産前産後・育児期に保険料の免
除を行った場合には、国が必要な財政上の援助を行います。
・国民健康保険の出産手当金や傷病手当金の制度は、手当を支給するかどうか自治体の定める条例に委ねられています。支給を積極的に推進するため、条例を制定した自治体を財政的に支援します。
・国民年金第 1 号被保険者が 1 歳に満たない子を養育するための期間について、国民年金の保険料の納付を免除します。
〇上記の施策や、「当面の焦点課題」の「子ども子育て応援政策」などを実行するための財源確保の方策として、税、国債に加え、新たな基金を創設することを選択肢の1つとして検討します。基金の原資の確保策については、子育て支援の施策は全ての国民に利益をもたらすという観点から、既存の社会保険の保険料に加算して、被保険者、事業主に応能負担を原則とした負担をお願いする方法を検討します。基金を創設するためには、中低所得者や中小零細企業にとって過度な負担にならないようにする、社会保険財政がひっ迫する中で被保険者、事業主の拠出を当該保険とは別の目的に使用することについて保険者や被保険者、事業主の理解を得られるようにする、既存の「安心こども基金」
や事業主拠出金との整合性などの課題を解決する必要があると考えます。
4.雇用(最低賃金)
【現状認識】
○生活の安全保障となる最低賃金では 、先進国の中では日本が最低レベルです。
【提案】
○時給 1500 円を将来的な目標に、中小零細企業を中心に公的助成をしながら、最低賃金を段階的に引き上げます。
〇地域ごとの最低賃金の差異が大きいことに十分留意しつつ、全国的な視野で大きな目標として、1500 円まで将来的に引き上げることを目指します。
○最低賃金を大幅に引き上げることにより、「103 万円の壁」、「130 万円の壁」を超えないよう、就労抑制が生じることも想定されます。最低賃金の引き上げによって就労意欲をそぐことがないよう、最低賃金を大幅に引き上げるにあたり、控除や社会保険の扶養のあり方を検討します。
以上
社会保障調査会 開催実績
開催日 講師・団体 ヒアリングのテーマ/議題
2022 年
2 月 2 日 ― 今後の進め方について 等
2 月 10 日 末松義規 衆議院議員 最低賃金アップの検討(政権公約フォローアップ)について
2 月 15 日 稲垣誠一 国際医療福祉大学 教授「基礎年金の底上げについて」
2 月 25 日 階 猛 衆議院議員井坂信彦 衆議院議員基礎年金の抜本的見直し案(ベーシックインカム年金)について
3 月 1 日 健康保険組合連合会 「安心・安全な医療と国民皆保険制度の維持に向けて」-健保組合・健保連の提言-について
3 月 15 日 権丈善一 慶應義塾大学教授「社会保障政策の政治経済学――アダム・スミスから、いわゆる‘こども保険’まで」
4 月 6 日 稲垣誠一 国際医療福祉大学教授基礎年金の底上げについて(追加のご説明)
4 月 19 日 駒村康平 慶應義塾大学教授「年金改革案へのコメント」
4 月 26 日 ― 社会保障調査会中間報告書のとりまとめ