地域活性化調査会中間報告書
持続可能な地方分散型共生社会、日本の創造!!
―人が輝き、地域の夢を実現し、日本の元気をつくる!!-
2022 年 6 月 2 日
立憲民主党 地域活性化調査会
はじめに
地方を中心に、少子高齢化により人口減少・働き手が減り、多くの地域の衰退が進み、地域産業の衰退、就業機会の縮小、不安定就労・低賃金労働の拡大、公共サービスの縮小、財政危機、地方都市の空洞化等の一連の事象が複合的に生じ、日本社会は持続可能性を失うおそれがあり、地域の再生は喫緊の課題である。若者を中心に東京圏への転入超過が続いてきたが、新型コロナウイルス感染症に影響により、2020 年から転入超過数が減少に転じた。感染防止対策もあり、テレワークやワーケションなどが推奨されている。また、若者中心に地方志向が芽生え、変化に敏感な若者たちが田舎に入り込んでいる。少なからぬ山奥や離島で若い世代の流入が流出を上回り始めている(「縁辺革命」)。
いまだに日本の都市計画や経済政策は、経済成長と人口増を前提とした高度成長期の発想からさほど変化していない。「大規模、集中、グローバル」を追求してきた日本の経済構造を、低成長と人口減少、気候危機や自然災害の激甚化、経済の成熟化の時代にふさわしい持続可能な都市計画や街づくり、住宅政策へと転換し、「小規模、分散、ローカル」の視点を重視する。
地域の元気を取り戻すことが日本全体を元気にする。地方分権、地方分散を推進し、東京一極集中を是正し、リスクを分散し、夢と希望が持てる笑顔あふれる持続可能な地域社会を創ることが求められている。地域活性化の主役はあくまでも市町村民であり、調整役は市町村である。地方への移住又は定住者を増加させるためには、男女が働ける場を確保するとともに、快適な住環境の整備を進める必要がある。市町村が自由に使える自主財源、一般財源を確保して、地域の活性化に努める必要がある。
1.わが国の経済財政雇用分野の課題と目指すべき方向
(1)少子高齢化、人口減少時代に突入
2021 年の出生率は、5 年連続で前の年を下回り、1.34 となった。新型コロナの影響で、2022 年は更に低下する見込みであり、超高齢化社会を迎えている。今後 100 年間は人口増加の見込みはない。あわせて、労働力人口も減少し、右肩下がりの状態となっている。少子高齢化、人口減少のため、持続可能な基礎年金、医療、介護、障がい者福祉、生活保護などの社会保障制度の再構築が求められている。
少子化を止めるためには、若者が、少なくとも経済的理由で結婚できない環境を解消するとともに、都市と地方、男女の賃金格差の是正が必要である。人口減少に対応し担い手を確保するには、定年延長、障がい者の雇用、人権を尊重した外国人労働者受け入れ等も必要となっている。文化・スポーツ活動等の健康づくり運動を推進し、寝たきり老人をつくらない。
(2)水と食料とエネルギーの地産地消及び原材料の国産国消
現在、食料、エネルギーと原材料の多くは輸入に頼っているが、地産地消で安全安心な食料を確保する。水と食料とエネルギーの地産地消と原材料の国産国消を進めることによって、貿易収支の赤字解消と、新型コロナなどのパンデミック、ウクライナ情勢に備える必要がある。
(3)国土、領海、排他的経済水域の有効活用
国土面積は約 38 万㎢で世界 61 位だが、領海、排他的経済水域を加えると 447 万㎢で世界 6 位の広さである。美しい国土を保全し、人が住める農山漁村を維持するため、農林漁業に戸別所得補償を進める。同時に、広い領海・排他的経済水域を守り、レアメタルなど資源開発にも努める必要がある。
(4)地球温暖化対策と気候変動対策はまったなし
2050 年までに、実質カーボンゼロにするカーボンニュートラル計画をつくり、豊富な太陽と自然エネルギーを最大限活用して実現する。
省エネの徹底と蓄電池の開発及び自然エネルギーの拡大で、自家消費型の太陽光発電や小水力発電を奨励し、原子力発電に頼らない自然エネルギー立国を目指す。同時に気候変動対策として、歩道の拡幅と電線の地中化、河川の整備、治山・砂防事業等、防災減災事業を進める必要がある。
原子力発電所については、使用済み核燃料などの高レベルの放射性廃棄物の最終処分場の適地が無いので、今後の新増設は認めない。責任ある避難計画と地元同意のない原子力発電所の再稼働は認めない。
(5)世界一の金持ちの国、純債権国(362 兆円の黒字)の力を活かす
わが国は、貿易立国から投資立国へと変貌している。リーマンショック、東日本大震災、新型コロナで、貿易収支が赤字となっても所得収支の黒字が大きいので、経常収支は黒字が続いている。
外国に投資して上げた利益を、国内産業、今後の成長分野であるグリーン(環境、エネルギー分野)、ライフ(医療、介護分野)、ローカル(農林漁業、商工業、観光分野)に投資を促す仕組みをつくる。同時に、「エネルギーと食料、飼料、木材は海外から買う」「サプライチェーンは海外一本やり」という産業構造を変え、持続可能な社会づくりをする必要がある。
そのため、自由貿易を原則とするも、農業産品の重要 5 品目などが守れるような適切な関税と、発動可能なセーフガード付き自由貿易を進めるとともに、そのルール化をWTOに提案する。
(6)アベノミクスの異次元の金融緩和の見直し
原油高・原材料高などの輸入物価の値上がりにより、個人消費や企業収益、さらには設備投資を下押しするおそれがあり、地域経済にとっても「悪いインフレ」になっていることを考えれば、さらなる円安の進行をもたらす異次元の金融緩和を見直す必要がある。
(7)財政再建は中長期計画を立て、時間をかけて 2022 年度末における国、地方の長期債務残高は、1,243 兆円(対 GDP 比220%)に上ると見込まれている。
今後とも投資立国として経常収支の黒字を維持していくとともに、財政再建は中長期計画を立て、応能負担の原則に基づき、担税力のある法人企業・富裕層に負担を求め、時間をかけて取り組む必要がある。
また、デジタルは便利なツールだが、デジタル化は諸刃の刃とならないように進めるべきである。国民の資産と主権を守るためには、日本国籍のIT会社を育てながら時間をかけて取り組む必要がある。
(8)失われた 30 年を取り戻し、経済、財政(税収)、賃金の回復を図る
先進国で唯一デフレ経済が続いて、経済界も労働界も失われた 30 年と言っている。「デフレになったのは、「大企業における雇用制度が大きく変わり、名目賃金が下がり始めたことである」(吉川洋『デフレーション』)といわれるように、自公政権は労働者派遣法を改正し、低賃金の非正規雇用を拡大した。新自由主義的な経済政策や規制緩和が、非正規雇用の増加、実質賃金の低迷を招き、格差を拡大してきた。また、労働規制の緩和により不安定就労・低賃金労働が広がって若者の貧困化が進み、子育て支援も乏しいことが地域の衰退につながったことを看過してはならない。子どもを産めない理由のトップは、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(2011年の国立社会保障・人口問題研究所調査)といわれており、労働や社会保障のあり方の是正は、人口減少対策にも資するものである。
一方、国の税制と雇用制度の多大な恩恵を受けてきた法人企業の内部留保資金は 2020 年度 484兆円超(金融業、保険業を含むと 550 兆円超)、家計の金融資産は 2021 年 12 月末 2,023 兆円超蓄積されている。経済を成長させ、賃金を上げ、財政(税収)を良くするためには、税制に応能負担の原則を復活させること、働く人を大切にして賃金を引き上げることである。「期間の定めのない雇用」「直接雇用」を基本とする「人間らしい働き方」を取り戻すことは、格差と貧困を是正し、社会保障の給付を節約するとともに、社会保障の支え手を増やすことにつながり、働く者の所得の増加は、GDPの 6 割近い個人消費を活性化させ、地域の活性化にもつながる。本人が望めば正規雇用となれる、労働基本法(仮称)の制定や、同一価値労働同一賃金、男女間賃金格差の解消、最低賃金の引き上げ等を進めていく必要がある。
過度な規制緩和を進めてきた政府の規制改革推進会議と国家戦略特区会議は、地域活性化の観点から、廃止するべきである。
2.各地域の現状と課題
(1)東京 23 区、政令指定都市、県庁所在都市の現状と課題
首都圏一極集中の問題は災害や感染症のリスクにとどまらない。全国一出生率の低い東京都へ全国から若者が流入すれば、さらなる人口減少と地方の衰退を招く。
地方だけでなく、大都市部の改革も求められる。東京は地方出身者が多く、そうした視点も重要である。首都圏でも人口は減っており、都市部ならではの地域活性化策が求められている。
(2)地方都市の現状と課題
都市への人口集中(都心部の過密化)とモータリゼーションの進行などによって、都市の膨張、すなわち周辺部の開発が進行し、大型小売店舗のロードサイドへの集中、中心部のスラム化、中心商店街の空洞化、都心にアクセスする道路の渋滞等の問題が深刻化している(スプロール化)。
そして、人口減少時代を迎え、都市も拡大から縮小の段階に移行し、市街地や郊外で空地や空店舗、空き家が増えてきた。インフラの維持管理や更新が課題となっている(スポンジ化)。公共交通の縮小やサービス低下に伴い、自動車を運転できない高齢者や子どもが移動弱者となり、医療や福祉、教育等の公共サービスへのアクセスが困難になっている。
ニュータウンも高齢化し、空洞化している。空き家の増大も課題となっている。無秩序な住宅開発による市街地が広がっている。優秀な学生が都会へ出て行くのを止めなければならない。
(3)過疎地域の現状と課題
道の草切りも高齢化で困難になっている。銀行も農協もスタンドも学校もなくなる中、地域をどう維持していくのか。過疎地域が自治体の5割を超えている。これまでの支援策の検証が必要である。
中山間地の産業を守っていかなければならない。地方の中山間地は競争できる状況ではない。
中山間地は合併でますます不便になっている。学校と交通がテーマである。
(4)豪雪地帯、離島、半島等条件不利地域の現状と課題
豪雪地帯は、人口減少・高齢化等の社会構造の変化に加え、気候変動の影響による異常降雪等により困難な状況に直面している。
離島は、我が国の領土・領海・領空、排他的経済水域等の保全といった国家的役割、自然との触れ合いの場の提供、食料の安定供給等の国民的役割など、重要な担いがある。しかしながら離島も今なお急速な人口減少により過疎高齢化が進み続け、各地域で限界集落となり存続の危機を迎えている島が多数存在している。本土に比べ物価が10%以上高く、地域格差の是正等の課題がある。
また、医療提供体制が脆弱であるところ、新型コロナウイルス感染症に対し限られた医療資源での対応を余儀なくされている。さらに、昨年末からの原油高は、離島の日常生活に深刻な打撃を及ぼしている。
3.地域活性化の目標と具体的な解決方法
(1)目標:真の豊かさを実感できる持続可能な地域社会をつくる
SDGs(エス・ディー・ジーズ、持続可能な開発目標)、とりわけ目標 11「住み続けられるまちづくりを」を実践する。大都市、中都市、離島中山間地と、人口や財政状況、自然条件、経済状況など、多種多様である。それぞれの状況に応じて、真の豊かさを実感できる持続可能な地域社会を作ることが求められている。即効薬はないが、対症療法ではなく、構造的な課題を解決していかなければならない。
(2)具体的な解決手法
①分権と自治
地方分権(権限)、地方分散(財源、人材)の推進によって、地方自治体が自主的、主体的に地域の未来をつくれるようにする(分権革命)。地域がしっかり元気にやっていけるように縦割りを排する必要がある。自治体が、住民のニーズを充たし、地域経済を支え、住民の意思を反映した質の高い公共サービスを提供できるよう、身近な自治体に可能な限り権限・財源を移譲させ、地域が自主性と自律性を発揮できる真の地方分権・地域主権改革を進める。
地域活性化の主役は、あくまでも市町村民であり、調整役は自治体(市町村)である。医療・福祉サービスや保育・教育を受ける機会が減少するなど、コミュニティの基盤が脆弱となっていることから、人間らしく働き生活できる地域づくりを目指した施策が重要であり、コミュニティの再生
が必要である。
災害の多発化や新型コロナウイルス感染症の拡大等を受けて、自治体職員の人員不足はますます
深刻な問題となっている。自治体が、必要な人に必要なときに必要な公共サービスを提供し、「コモン・ニーズ」(人々にとって共通のニーズ)を実現していくためにも、総人件費抑制策を転換し、自治体に十分な人材と財源を確保する。生活インフラ、ユニバーサルサービスをどこに住んでいても維持し、持続可能な暮らしを守る。
②まちづくりは人づくり
地域活性化の担い手として、人への投資、法人・組合等への支援を行い、多様な担い手を育成、確保する。その際、地域の高校、大学、地域金融機関等を知恵袋として活用し地域活性化に努める。
移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々(「関係人口」)が地域づくりの担い手となることが期待されている。地域の関わりやつながりを持ちたい方、地域を応援したい方を積極的に支援する。リモートワーク環境の一層の整備により地方移住を促進するとともに、二拠点居住の課題を整理し、地域活性化を後押しする。
また、文化が高まると人が戻ってくる。若者が集まってくるような地域の魅力を高めるために、地域文化を高めていくことも求められる。伝統文化の継承や地域の文化財への支援、また地域における文化活動の振興への支援も必要である。無形文化財の伝承をはかり、文化の価値を見いだす。
③地域政策の活用、市民(企業)との協働のまちづくり
国・地方自治体及び民間の地域政策を活用すると同時に、市民(企業)との協働のまちづくりを推進する。地域活性化の民間投資、官民連携プラットフォームを進める。
④IOTやAIの活用
情報インフラである通信の基盤を強化し、誰もがアクセス可能な環境の整備を進めるとともに、テレワーク環境の整備や税制上の支援措置などによって、都市から地方への移住・定住を促進する。
Gや6G技術により、都市に対する地方の不利性を克服するとともに、担い手不足に対処する。市町村は、ケーブルテレビをはじめ、IOTやAIを地域活性化の手段として大いに活用して情報の収集及び発信に努める。ただし、地方自治体共通のプラットフォームは、既にある独自のシステムを継続して活用し、個人情報が強い法的拘束力で保護されるまでは慎重に取り組むこととする。
⑤「地方創生の民主化」
「田舎には仕事がない」ではなく「仕事はあるけど人がいない」。計画起点を人材起点にし、人から主発して、計画・施策・事業を構築する。スタートアップ調達額や ESG 投資額は急増しており、民間投資を喚起するため、マッチングや目利きする機能を強化する。「プロ」だけでなく、誰もが、ふるさとに誇りを持ち、ふるさとの力になれる社会を目指す。
4.地域を支える社会共通インフラの持続可能な仕組みの再構築と、人口減少対策を踏まえて持続可能性の検討が必要な事業
(1)農家の戸別所得補償制度と国主導の生産調整の再構築
第一次産業の確立、特に農業と林業、食糧自給、木材の安定が重要である。米価の下落を抑え、農家経営を支え、地域の活性化を支える。
第一次産業や観光などを統合的に行う。農林漁業などの第1次産業、小水力発電・木質バイオマスなどの再生可能エネルギー事業、教育・福祉分野の事業の推進など、各地域の個性を活かし、環境・社会・経済のバランスの良い統合的取組による相乗効果の創出を目指す。農福連携による担い手の確保を推進する。
棚田を生かした地域作りを進める。
有機無農薬農業を振興し、学校給食と連携させ、地域農業の確立と子どもの食の安全を図る。このことは、地方だけの課題ではなく都市の健康にも密接に関わる。ローカルフード条例や地産地消を進める。
(2)森林の公益的機能の維持向上
動植物などたくさんの命を育み、田畑や海、川にたくさんのミネラルをもたらす、地域と暮らしを守る森林は、まさに地球温暖化防止、災害防止、国土保全、水源涵養等の公益的機能を果たしている。森林の公益的機能を高めるために、森林環境税の算定方法(人口割)を改めるとともに、人件費や測量等に充当できるよう使途を拡大する。「1億本の植樹」など、国民参加の森林づくりを推進し、都市と地方の交流、観光、移住、吸収源対策を進める。
※森林が「負動産」とならないよう、相続税率の引き上げにあたって、家業に不可欠な部分は例外とすべき、との意見があった。
(3)人口減少等を踏まえた、重要な社会共通インフラの持続可能性の検討
人口減少や新型コロナ等による経営環境の変化に対応し、電力や鉄道、高速道路、郵便局等重要な公益産業の持続可能性を維持するため、中長期的な見直しを検討する必要がある。
(4)全国の老朽化した空き家、廃ホテル・ビルディング等の撤去及び跡地活用の仕組みの構築
高齢者の見守りや農地の手入れなど地域に貢献することを条件に、空き家を安価で売却または賃貸する。空き家を活用して、不足する高齢者・障がい者・子育て施設、コミュニティ施設などに転用し、若者をはじめ住民が暮らしやすい地域づくりを進める。
所有者不明や相続人多数で管理されていない不動産問題〔森林、土地、建物、墓)を解決するため、空き家対策法の充実と活用を進める。
5.地域に夢と元気を招く令和のニューディール計画(2030 年目標)
「国土の均衡ある発展」を目指した日本列島改造論は50年前であり、地域に疲弊が広がっている。
夢と元気を招く新たなニューディール計画が求められている。
(1)全国の多目的ダムや、大、中、小河川、用水路を活用した、大、中、小水力発電事業
全国の水力発電の適地に民間活力を活用して、発電所をつくり、カーボンニュートラルに貢献する。
(2)大都市の老朽化した住居地域、住宅団地の区画整理又は更新事業
地震や火災、風水害等によって大きな被害が予想される地域の防災対策事業を推進する。
(3)地方の大学の強化
地域間格差を是正し、地域の多様性を尊重する分散型社会を築くためにも地方の大学の役割は重要である。地方大学の機能強化によって、大学の「知」と地域が強みを持つ「産業・技術」を結びつけ、地方課題の解決への貢献を図るとともに、地域に「しごと」をつくり、安心して働けるようになる。地方大学への助成を強化し、地域活性化の核とするとともに、だれもが生まれ育った地域で質の高い大学教育を受けられる環境を整える。
※大学の分散・地方移転を進めるべき、との意見があった。
(4)法人企業の本社、研究所等中枢機能の地方移転の一層の促進
税の優遇措置を通じて法人企業、研究所等の中枢機能の地方への移転を一層促進する。リモートワークのモデル会社として地域の活性化に頑張ってもらう。
東京からの本社機能の移転、工場などの誘致に加えて、農林水産業、中小企業・創業支援、観光、スポーツ等の施策により、地域に眠る資源を積極的に生かすことで、地域産業の活性化を図り、魅力ある就業先や安定した雇用の創出等に国と地方が一体となって取り組んでいく。
(5)リニアコライダー国際研究所の誘致(宮城県・岩手県)
次世代の超伝導のハイテク大型加速器をつくり、世界一の国際科学イノベーションの拠点とする。日本の科学技術の大きな発展につながるとともに、多文化が共生する国際都市づくりとなる。福島県の国際教育研究所とともに、東日本大震災からの復興のシンボルともなる。
(6)その他の事業
※その他、地域に夢と元気を招く新たな事業を検討するべきである、との意見があった。
6.真の豊かさを実感できる持続可能な地域社会をつくる
(1)全地域共通の活性化策
①権限
土地利用計画の権限を地方分権一括法に基づき市町村に移譲する。同時に土地利用計画運営一括交付金を創設して支援する。
②財源
国から地方へのより一層の税源移譲を進めるとともに、地方交付税を増加させ、臨時財政対策債の発行を抑制し地方の自主性を高める。自治体の裁量で使途が決められる「一括交付金」を復活させ拡充する。国際観光旅客税と森林環境税を活用して地域活性化に努める。
また、地方創生推進交付金を「地域活性化交付金」と改め、1 兆円を用意し、市町村 6 割、道府県に 4 割を交付する。ふるさと納税を改善するとともに、クラウドファンディングによって財源を確保することを奨励する。
※「国を富ませ、地域の活性化を支える公平な税制への改革」(所得税、法人税、消費税の三税一体改革)によって、消費税だけに頼らない確かな税財源を確保して、経済を活性化させ、働く人の賃金を上げ税収を増やし、経済の好循環をつくり地域の活性化を支えるべき、との意見があった。
③担い手
教育や人づくりと地域活性化は一体である。人間力と知識、技術を磨くため、各地を回る出前講座や Web による専門講座を支援し、女性、障がい者、高齢者、外国人を含めたそれぞれの地域の人材の育成に努める。同時に地域の高校、高等専門学校・大学校、大学、地域金融機関等を知恵袋として活用する。
地域おこし協力隊、農業等への参入支援はじめ外部人材の活用、U・I・J ターンにより、ふるさと回帰をすすめて多様な人材を確保する。地域おこし協力隊の期間の延長、条件の向上、ミスマッチの解消、地域への定着等の充実をはかる。
※U・I・Jターン奨学金を拡充するべき、との意見があった。
障がい者も地域で貢献している。地域に埋もれた人の活用を図り、民間活力を生かして「障がいのない社会」を作る。障がい者の力を引き出して社会に参加できるようにする。
地域の雇用を維持、創出し、若年者や高齢者、女性、障がい者などの就業支援を充実するため、地方の自主性が発揮できる財源を確保・充実する。
※地域の活力を発展させ、同時に地域における産学の連携をさらに進めるため、「日本版ミネルバ大学」を設置すべき、との意見があった。
また、地方も都市も「新しい公共」の拡充を図るという観点で、非営利事業体を振興する必要がある。既存の商工会議所、商工会、観光協会、農林漁業組合、消費生活協同組合、農業生産法人、シルバー人材センターはじめ、NPO、特定地域づくり事業協同組合、労働者協同組合、地域商社
等と農商工の連携による地域の活性化を図る。
※「協同組合政策」についての議論を深めるべき、との意見があった。
④社会福祉協議会との連携と、国、都道府県、民間の地域政策の活用
市町村は、地域の社会福祉協議会と連携して、国、都道府県の「小さな拠点づくり」「定住自立圏構想」「連携中枢都市圏構想」等を活用し、自前の「在宅介護施設」「自治公民館」「地区コミュニティセンター」「生涯学習施設」等や民間の「集いの館構想」等を活用して地域活性化に取り組む。
⑤郵便局は地方の最後の砦
郵便局は地域の心のよりどころである。国民の財産である、郵貯、簡保資金を有効に活用して、地域経済の活性化に役立てると同時に、地方の郵便局は赤字であり、郵便局維持のコストが課題となっており、郵便、簡保、郵貯三事業一体の会社として、ユニバーサルサービスを維持できるようにする。
ユニバーサルサービス基準(全国一律的な営業時間やサービス展開のあり方等を含む)の見直しとともに、ユニバーサルサービスコスト負担については、さらなる税制上の優遇措置を図る。
独占領域(リザーブドエリア)の保障や政府の公的補助、すべての利用者で広く浅く 負担する「相互扶助」的な性格を持つ基金などを創設する。
全国2万4千局のネットワークを活用するよう、地域の特性をふまえた施策の展開を図るよう求める。
地方自治体や地元企業等と積極的に提携し、郵便局ネットワーク・リソースの強みを最大限活かした「プラットフォーム・サービス 」を提供することにより、地域の期待に応えていくようにする。
人口減少社会において、郵政事業が地域の生活を支える担い手となるよう、制度的な見直しを検討する。日本郵政グループの一体経営を持続可能なものとするためには、資本関係強化の必要があり、金融2社(ゆうちょ銀行・かんぽ生命)は将来にわたって郵便局に業務委託し続けるように日本郵政に金融2社の株式3分の1超を常に保有することを法律で義務づけることや 黄金株等の導入を含め検討していくべきである。また、完全に株式売却した場合においても業務委託関係を解消させない一定の制度的担保等を求めていく。
⑥地域の公共交通を維持するための新しい仕組み
地域公共交通が充実している地域は、利便性が高く生活しやすい地域であり、居住地域や経済活動の場所として価値が高い。地域公共交通の充実がにぎわいづくりに貢献する。高齢者や障がい者などに対し、買物、通院などの移動手段を提供することにつながり、外出を促し、自立した生活を後押し、人にやさしいまちづくりを進めることになる。温室効果ガスの排出削減に役立ち、環境負荷の軽減にも貢献できる。
鉄道やバスなど地域公共交通を安定的に維持・確保できるよう、支援を強化する。物流も考えれば、国が責任をもって公共交通を維持するのが基本である。上下分離方式を含め検討する。BRT(バス高速輸送システム)の活用や、地域のバス会社やタクシー会社と連携して観光客用に開発された Maas を改良して、ドア to ドアの新しい地域公共システムを開発し地域住民の移動を支える。
⑦デジタル化、IoT や AI の活用による豊かな住環境
日常生活のデジタル化を踏まえて、IoT や AI の活用で情報の壁、作業の壁を乗り越えて豊かな住環境をつくる。市町村は、インターネットを通してビッグデータを活用し、情報の収集、発信に努める。ドローンを使って測量や農薬散布、ロボットを使って介護や工事をすることができる環境を整備する。
デジタル地域通貨を検討し、地域の中で富が循環するよう地域内の加盟店を利用できるキャッシュレス決済システムの普及を支援する。
⑧地域循環型経済とコミュニティ
暮らしの舞台は地元であり、人が幸せになる土台として、地元は重要である。本気で循環型の経済構造に変えていくためには小さな地域から組み直さないといけない。ローカルなヒト、モノ、カネの循環から出発する。
分散型エネルギーを確立し、再生可能エネルギーの活用でエネルギー自給を高め、地域資源を生かした循環型経済を作る。第二次産業のカーボンニュートラルを推進するとともに、雇用維持のための公正な移行・転換と支援を進める。
子育てや高齢者福祉に力を入れているなど、魅力を作り出している自治体は人口が増えている。若者にとって、安定した雇用が定住に不可欠である。そうした自治体を応援する。年金や介護、医療、子育てなど福祉への投資は、身近な地域での循環につながり、雇用も産み出す。
まちのにぎわいと活力の源泉は、そこで生活し、集う人々の健康と安全の確保にあり、健康・医療、学校・保育と連携した「まちなかづくり」が重要である。病院・介護施設、学校、保育所等を地域のインフラとして整備する。医療・福祉、教育・子育てで地域活性化を図り、地元で、お金・資源が回る仕組みをつくる。
コミュニティ空間を重視した都市づくりを進め、低炭素と生活の好循環、環境・福祉・経済の相乗効果を図る。お互いに顔が見える生活圏である「地元」から世界を創り直すことが暮らしの豊かさにつながる。
若い人が暮らしやすい環境や仕事、魅力ある教育・子育て環境を整備する。分散した集落の暮らしを総合的にサポートする「小さな拠点」の努力を応援するとともに、物流、交通及び役所や学校、様々な活動拠点のネットワークをより効率的に動かすようにする。
⑨地域活性化を支える、政府のデジタル化の抜本的な見直し
政府の各府省庁共通プラットフォームはアマゾンが、地方自治体の標準統一プラットフォームもアマゾンとグーグルが受託している。
地方自治体の標準統一プラットフォームには、20の基幹業務(住民基本台帳、戸籍、戸籍の附票、固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税、印鑑登録、選挙人名簿管理、子ども・子育て支援、就学、児童手当、児童扶養手当、国民健康保険、国民年金、障害者福祉、後期高齢者医療、介護保険、生活保護、健康管理)を登載することになっている。このプラットフォームを全国の地方自治体に使用させることを規定している。
国内の IT 業者を育てることと、デジタル日米貿易協定の見直しが必要である。また、地域の事情に根差したカスタマイズされたシステム構築のため、ローカルのIT事業者を応援する。
※住民の個人情報であり秘密事項であり、デジタル中央集権国家となり、住民自治、地方分権の理念も民主主義も危うくなるのではないか、との意見があった。
(2)各地域特性を踏まえた活性化策
①東京 23 区、政令指定都市、県庁所在都市の活性化策
東京一極集中の是正と地方の活性化は車の両輪であり、東京一極集中是正が重要である。大都市圏への集中を緩和し、分散型社会への転換を図る。分散型の都市計画や自然と調和した街づくりを目指す。
都心における大規模開発の抑制も検討する。人間的な生活空間、コロナ対策として過密の解消を進め、豊かさを実感できる街づくりや住環境を実現しやすくする。住んでいる人が住みやすい街を目指すとともに、大都市と地方との共生を目指す。
②地方都市の活性化策
自動車が主役の都市から、公共交通機関や徒歩・自転車で移動できる都市への転換を図る。トランジットモールを進め、「歩いて楽しめる街」「高齢者のゆっくり楽しめる街」を目指す。コンパクトシティを進める。
※一般市以下の人口の自治体にすむ子どもの教育費と医療費を完全無償化するべきである、との意見があった。
③過疎地域の活性化策
田舎の「密」、ご近所付き合い、世話人、お節介といった長所を生かす。原発や核廃棄物、基地等を押し付けることは認めない。
森林、河川の維持、高齢社会〔過疎地〕の避難、疎開など、災害対策の視点を重視する。
子どもには、幼少期に大自然に触れ、心身ともに健やかに育つ環境を、親には働きながら、子育てしながらも多様な選択肢を提供し、地域経済にも貢献をもたらす「保育園留学」を支援する。
④豪雪地帯、離島、半島等の条件不利地域の活性化策
豪雪地帯を対象とした柔軟な交付金制度等を創設する。
アンカーその他の除排雪時に使用する案全装備の普及促進、地域における除排雪に係る人材の確保、育成及び資質の向上、克雪に関する技術の開発・普及、高齢者、
障害者等が居住する住宅や日常生活において使用する道路等の除排雪、複合災害対策、情報伝達システムの構築・改善への配慮を強化する。エネルギーの地産地消の推進や脱炭素化社会の実現を図る上で重要な役割を有する、雪冷熱エネルギーのさらなる活用をはかる。
これからも離島が国家的役割・国民的役割を担い続けるには、離島振興法の延長は当然ながら、加えて、島で暮らす全ての人に届く新たな公共政策が必要である。国土連続性の確保(離島航路の低料金化)、島民の移動支援、スマートアイランドの推進、医療体制の確保、教育環境の確保等を図る。
おわりに
本調査会は、11 回のヒアリングおよび議員間討議を経て、中間報告をとりまとめた。引き続き、ローカルから出発し、環境・福祉・経済が調和した、真の豊かさを実感できる持続可能な地方分散型共生社会を目指して活動を続ける