参院議院運営委員会は9月8日、故安倍晋三国葬儀に関する件について閉会中審査を行い、立憲民主党から吉川沙織議員が質問に立ちました。
冒頭、岸田総理は安倍元総理の国葬儀を執り行う理由として(1)国政選挙において6回にわたり国民の信任を得、国政史上最長の8年8カ月にわたり内閣総理大臣の重責を担った(2)東日本大震災からの復興(3)日本経済の再生(4)日米関係を基軸とした戦略的外交の展開を主導し平和秩序に貢献――など大きな実績をさまざまな分野で残したこと。また、各国議会での追悼決議、服喪の実施、国全体を巻き込んでの敬意と弔意が表明されていること、民主主義の根幹たる選挙運動中での非業の死であること――を挙げました。
吉川議員は、(1)国民と国会に対する説明の必要性(2)国葬儀とする根拠と理由(3)公文書等記録のあり方――の観点から質問しました。
(1)国民と国会に対する説明の必要性
吉川議員はまず、岸田総理が国葬儀を執り行うことを初めて表明した7月14日の時点で、国会や国民に説明する必要があったと考えていたかを聞きました。岸田総理は「丁寧に説明することが重要」との認識は示したものの、その時点で必要であったかは明言しませんでした。
吉川議員は次に、7月14日の表明から実施することを正式に決めた同月22日の閣議決定までの約1週間の間、内閣内部の意思決定プロセス・検討過程について確認。岸田総理は法的な整理や手続きの議論を行ったと答弁しました。吉川議員は、この1週間の間に「国会で意見を聞くとか、国民の声を吸い上げるなどの努力はできたはず」と指摘しました。
また、2019(平成31)年4月30日で退位された現在の上皇陛下の退位については、総理大臣から国会で議論してほしいと要請があり、衆参両院正副議長が各会派の意見を聞き国会として意見を取りまとめ政府に回答したことを挙げ、岸田総理がこのことを認識していたかを問いましたが、岸田総理は「今すぐに詳細についてつまびらかにすることはできない」と明言を避け、「適切な手続きを進めた」「説明が不十分であることについて、謙虚に受け止め引き続き説明努力を続けていきたい」と繰り返しました。
吉川議員は、「(問うているのは)手続き、プロセス、国民の納得性の問題」「(今回の国葬儀は)事前に国民の代表機関たる国会の意思を聴取せず、国会の議決を経たわけでもありません」と指摘。「このような事態は、主権在民の現行憲法下における中心的機関たる国会が、国葬儀に参画していないことを示している」と述べ、閣議決定でできると繰り返し、その理由ばかりを述べるのではなく、「国民に寄り添い、その意見をいかに吸い上げていくかに腐心すべき」と厳しく指摘しました。
さらに、(1)国葬儀の経費は国費から出ていることから、本来は予算を所管する予算委員会で審議されて然るべき(2)岸田総理は8月31日の会見で国葬儀の説明を国会で行うと表明したものの、同日、野党が新型コロナ第7波、物価高騰等さまざまな課題を議論するため、憲法53条の規定に基づき臨時国会の召集を求めたが、召集する判断をしていない(3)警備費などの14.1億円は規定予算から捻出するというが、そうなると規定予算に冗費(無駄な費用)があったのではないか、もしくは規定予算を圧迫し、本来充てようとした施策の質・量が低下するのではないか――といった指摘をしました。
(2)国葬儀とする根拠と理由
戦後、一例しか無い吉田元総理の国葬儀の際も、法律的にも制度上にも国葬についての規定がないため、国葬儀に踏み切るまでにはあらゆる角度から是非が検討されたと記録があると紹介。その上で、どの事務を所管させるか規定する組織規範に内閣府設置法はあたるが、事務執行の拠り所となる根拠規範、その事務執行を適正ならしめる規制規範はないと指摘しました。
吉川議員は、岸田総理が挙げた国葬儀を行うと判断した理由は、内閣・自由民主党合同葬として不十分な理由にはなっていないとして不十分な理由を問うと、岸田総理は冒頭の理由を挙げるのみで不十分な理由の答弁はありませんでした。
(3)公文書等記録のあり方
今回の国葬儀について、7月14日の表明から正式決定した22日の閣議決定までの経緯を含め記録を残すかを確認しました。岸田総理は「今後につなげるためにも、検証を行い、検証を今後の議論に資するよう努めていきたい」と述べ、松野官房長官は実施後に記録集を作成する予定であり、「公文書管理法に基づき、必要な文書を作成しており適切に保存してまいりたい」と説明しました。
吉川議員は、最後に(1)多くの国民の共感を呼び、広く理解を得るために国民の代表機関である国会の意見を聞く過程を経るべきではなかったか(2)決定にあたり国会の意見を聞かなかったがために説明が不十分ともなり分断を生んでしまったのではないか(3)新型コロナの際も議員運営委員会が国会報告の場に使われ、総理の出席を何度も求めてきたが背を向けてきた――と指摘。「ぜひ国会・国民に向き合う政治をしていただきたい」と述べ質問を終えました。