昨年の衆院選挙から1年。国政を目指し、地元で弁護士活動を行いながら政治活動に励んでいる、しのだ奈保子北海道第7区総支部長。北海道から永田町はどう見えるのか。今の政治、社会にどのような課題を感じ、どう変えていきたいか、話を聞きました(写真は、しのだ事務所提供)。
弁護士として依頼者と伴奏
私が総支部長に就任してからはほとんどがコロナ禍なので、なかなか思い切った活動ができず難しいです。弁護士の活動としては、家族関係や夫婦関係、家計が厳しくて債務でお悩みの方からの相談が多い。コロナの影響での収入減や失業した世帯等へのさまざまな福祉的な貸し付けも、来年1月から返済が始まるので、多重債務の相談などはかなり増えるのではないかと危惧しています。
今は人間関係が以前よりも殺伐としてきているので、いろいろな事柄の紛争の解決には、技量と時間が必要になっています。コロナ禍で半端ない閉塞感が広がるなか、希望が見えずに自分の置かれている事柄に近視眼的に集中し過ぎる傾向にあります。悩みを抱えるとその思考から自由になれない、そういう精神的な厳しさを抱えた方が大変多くなっています。そこを脱するお手伝いとして、法的な手続きを経て解決することだけでなく、精神的に支援する側面、その人自身の生き方をエンパワーメント(※1)して、共に伴奏する。今は依頼者や、周りの支援者をいかにサポートするかも重要です。幼少時に親族から性的虐待にあいPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)となった方の裁判を長く担当していましたが、耳目を集めるような事案については、対マスコミ戦略や社会への訴えかけなどををどう組み立てるかなど、弁護士も多岐にわたる配慮と能力が必要で、そこから広く社会を変えていく闘いを広げていかなければならない。ただ個別の裁判に勝てばいいという話ではなくなってきています。
「お互いさまの社会」の前提が壊れている
社会の安定を保つためには、なんとか私たちのところで一人ひとりの紛争を納得させて、ソフトランディングさせてあげないと、それこそ殺傷事件だらけになってしまいます。いわゆる違法性ある行為と日常生活が紙一重のような人が残念ながら大変増えているので、地域の安全を保つためにも、そこを踏み越えさせないよう防波堤として、とにかく懇切丁寧に事案に対応しています。
私は、生活困窮者支援や孤立者支援、自殺予防などの電話相談を運営する北海道の代表理事をしていることもあり、地域でそのような方々のさまざまに不幸な事案を見ては、「なんで助けられなかったのかな」「なにが足りなかったのだろう」と責任を感じます。自分が手当して防げたものは事件になりませんから、少しはお役に立っているとは思うものの、まだまだ力が足りないと思います。
支援する人と、支援される人というのは、2種類に分けることはできませんが、人助けをして社会を支えようとする人たちがどんどん減って、支援を求める人たちが増えています。厳しい人たちが8割で、ちょっと助ける余裕がある人たちは2割いるかいないかという印象を持っています。分かち合う社会、お互いさまの社会という、その前提もかなり壊れてきていますよね。だから、小さな政府を目指すのではなく、公助を強化する政治への転換が早急に必要です。
大自然と向き合う地域の暮らしが見えているのか
街頭活動では、「政治が私たちの暮らしに寄り添っていない、厳しい人たちのことを分からずに強い人ばかりの方ばかり向いていますよね。」「家父長的な考え方で戦前の日本のような、支配的な政治に戻っていますよね」。本当にそれでいいですかと問いかけています。永田町の人たちは私たちのことが見えているのでしょうか。大自然と向き合っている地域の暮らしが見えていないのではと。人間の奢り(おごり)を感じます。
自国産で食料を賄えない、エネルギーもまたしかりの状況で防衛力強化というのは本末転倒だと思います。社会保障政策にしても、本気で少子化対策を考えないといけない。にもかかわらず、ずっとほったらかしです。実は、この国のトップの方々は人口5千万人、8千万人くらいの国を目指して、地方はもはや必要ないと考えているのかなと思ったりします。仮に、人口減少を是とするのであれば、どれくらいの人口規模で、どんな福祉をみんなに与える前提で国を作っていくのか。今の政治は、場当たり的で国のビジョンがまったく見えません。
地方のリアルな状況を知る議員が必要
やっぱり、もっと困っている人たちのニーズにしっかりと対応すること、そこにしっかりと光を当てる政策を取ることだと思います。今、景気を良くしようというと、お金持ちばかりをターゲットにしますが、地域で経済を回そうと思ったら、例えば、切り下げられた生活保護の給付基準を元に戻すこと、介護や保育分野の賃金を上げることなどが有効です。生活保護基準が1割戻るだけで、地域で回るお金がそれだけ増えますから。経済政策をやるにも、利権にお金を回して経済を回そうとするのではなく、もっと地に足の着いたことをやってもらいたいです。外国人の技能実習生制度についても、彼らに低賃金の労働を強いるのではなく、この国に定着する労働者として受け入れて、社会の一員になって国を支えてもらったらいいと思います。
私が政治を志したのは、枝野さん(枝野幸男前代表)が打ち出したビジョンに強く共感したからです。この国の一番の課題であるジェンダー問題に主眼を置かれたことがとても良いと思って政治に参加しました。目指すのは、ジェンダー平等であり、多様性を認めない家父長的な政治を変える、家父長制の思想を持った勢力に待ったをかけるということ。男女間には賃金格差があり、女性の多くが非正規雇用や、扶養の範囲内(※2)で働き、いざ離婚を考えた時、経済的に保障される生活を、肉体的にも精神的に虐げられても続けるのか、それとも経済的なことはあきらめてその自由を獲得するのか、究極の選択になっています。弁護士としての活動でも、そんな瀬戸際で悩んで苦しんできた人をたくさん見てきたので、その根本を変える政治をしていきたい。少数派のように言われますが、女性は人口の半分いますし、若い人たちの感覚はもう変わってきています。そこを率先して取り組んでいくことが、国際的に立ち遅れた日本を何とか立て直すことになるのだと思っています。
大都市圏出身の議員が多数となっており、地方のリアルな状況を知る議員の存在が必要不可欠であると思っています。また、女性や子どもの課題がいつまでも「しょせんは、女こどものこと」とされて重視されてこなかったことが日本の衰退を招いていますから、この分野に専門的に関わった経験、私自身も子育てや介護を担う女性の立場であることの経験は国政で最大限に生かすことができると思っています。国会には「しのだ奈保子」が必要です。力強く、訴えて行きたいと思います。
(※1)個人や集団が本来持っている潜在能力を引き出し、湧き出させること
(※2)年収が一定の額を超えると扶養から外れてしまうため、社会保険の扶養や税金の扶養控除を受けられる扶養の対象から外れなように収入を調整しながら働くこと