児童虐待月間の11月19日、「子ども虐待防止策イベント in 東京2022」が東京都杉並区内で開かれ、地元選出の吉田はるみ衆院議員(東京8区)が参加しました。

 「子ども虐待防止策イベント」は、「虐待の基礎知識を踏まえ、防止策を更新しよう」というフリーライターの今一生さん(※)の呼びかけにより、市民ボランティアチームが結成され、2018年から毎年全国各地で開催されてきたものです。全国の児童相談所(以下、児相)に寄せられる虐待相談の件数は、調査初年の1990年から一度も減らず、増え続ける一方の現状に、従来の虐待防止策の何が間違っていたのかと提起。親から虐待されて育った当事者(サバイバー)と政治家、一般市民の3者で「新しい虐待防止策」を議論しました。

 イベントの第1部では、親から虐待されて育った当事者たちが、親への手紙という形で被害経験を告白。今回は3人が登壇し、虐待を虐待だと自覚できないまま社会からの疎外感、人を頼れない苦しさ、自責の思いなどを強めていった日々、当時は口にすることができなかった親への感情、そして今の自分について、それぞれ正直な思いを語りました。

 第2部では、今さんが子ども虐待に関する公式統計と関連法などの基礎知識を解説。今さんは、これまで30年以上も虐待の相談件数を減らせなかった主な理由として、(1)児相などのハコモノや職員を増やしてきた(2)虐待通告ダイヤル189の普及ばかりに投資してきた(3)親に子どもを虐待させない仕組みを作ってこなかった――の3つを列挙。児相の施設や、そこで働く職員、窓口を増やせば、増やした分だけ新たに相談件数が増え続け、その結果追加予算が必要となるという繰り返しで、虐待そのものをなくす政策になっていないとして、「虐待する人から虐待する動機を奪う法律を議会で作らない限り、虐待相談は減らない」と指摘しました。

 これまでの政府の虐待防止策の結果として、「児相に相談しても、虐待案件の8割以上は保護されていない」「児相に保護されても、親権を制限できるチャンスは約1.4%」「親に虐待された子どもは、施設の職員や里親からもセカンドレイプなど二次的な苦痛を被ることも多い」「児童養護施設で暮らす高校生は、約18%しか大学へ進学できない」「0.03%の国民しか、虐待通報ダイヤル189を利用しなかった」「経済的虐待・文化的虐待・ヤングケアラー・教育虐待は、放置されてきた」等、現状の問題について説明。子どもがさんざん虐待された後でほんの一部だけを保護する政策ではなく、そもそも親に子どもを虐待させない仕組みを作り出す政策への転換が必要だと述べました。

 「当事者をなぜ有識者会議に入れないのか。当事者の声を抜きに勝手に決めないでほしい」と述べ、有効な防止策を打ち出すためには、被害者の子どもや被害経験者(虐待サバイバー)当事者を有識者会議メンバーに入れて議論をすべきだとも強調しました。

 また、「親権自体が虐待を動機づけてしまう、正当化する道具にもなっている。虐待の問題は、父母二人だけに子育ての全責任を負わせている親権制度だ。子育ての担い手を増やすには誰でも親権者になれる制度改革が必要」だと主張。日本では戦後も家父長制が文化として社会に残っていることにも触れ、「子どもは親に従う命になっている。日本は子どもを大事にする文化がない。虐待だと気づかずに自責する子どもが成長すると、依存症や摂食障害、将来にわたっての時限爆弾を埋め込むことになる」と訴えました。

 第3部では、サバイバー当事者からヒアリングした「新しい虐待防止策  2022」を踏まえて、参加者同士で議論。サバイバー当事者からは、文部科学省が公開している「虐待リスクのチェックリスト」の不適切な点や、東京都や各自治体が行っている啓発活動の広報物を例に「今やっている施策が根本から間違っているのではないか」と指摘する声、「政治家が当事者の声を聞く勉強会を開いてほしい」「GIGAスクール構想で子どもたちにタブレットが行き渡っているのだから、大人を通さず直接相談できるアプリを入れてほしい」といった要望、「生徒が教師から性的虐待を受けていると学校に報告しても問題視されていない。どうしたらいいか」「親から虐待された経験のある大人(元当事者)が相談を受ける仕組みを子育て支援に入れてはどうか」など、さまざまな声が上がりました。

 参加した地元の区議らは、それぞれの自治体の取り組み状況などを報告しながら、「私たちを使ってほしい。連絡してほしい」と前向きに取り組んでいく考えを表明。吉田議員は、「当事者からの相談を受ける体制を作るのは大事。勇気を持って相談に来たのに、(窓口で)逆に二次被害に遭うことがあってはならない。児童虐待も性被害も時効はないと思っている」「勇気を持って上げた声を受け止める体制をどうやって作るか、その声を学校がどう対応したかを最後までモニターすることが大事だと思う」などと質問に答え、「具体的にどう変えていくか、アクションに変えていかないといけない」と決意を述べました。

 最後は、主催したボランティアのメンバーがあいさつし、「今日、皆さんの心にまかれた種を育てていってほしい」と、参加者それぞれの継続した取り組みを呼びかけました。

※ フリーライター&編集者。虐待された人が親に向けて書いた手紙100通を載せた本『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(編著)他多数。最新刊『子ども虐待は、なくせる』(日本評論社)。https://twitter.com/conisshow