参院内閣委員会で4月6日、政府提出の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律案」について塩村あやか議員が質疑を行いました。

 塩村議員は、自治体議員の時にDVの相談を受けてきたが、救うことができなかった痛恨の経験も踏まえ、より良い改正にしたいと述べました。

■DV防止法の対象

 塩村議員は、この法律のDVの定義は、一般的に説明されるDVよりは範囲が狭まる点が一つの特徴だと指摘しました。

 その一つとして「親子間の暴力が直接の対象になっていない」点をあげ、「法制定から22年が経ち、社会の状況、家族のあり方も形態も変化してきている。家庭内の暴力は親子間の暴力もあることが多い。親子間も定義に含めるべき」と提案しました。

 これに対して政府は「配偶者からの暴力の特殊性があり、保護命令という特別の制度を設けている。児童虐待については、児童虐待防止法、児童福祉法を設けていることから、保護命令の申立ができる被害者に子どもを位置づけることは困難」と認識を述べました。その上で、「配偶者暴力と児童虐待が同時発生がありうると認識している。本改正案では、『子への電話の禁止』を設けるなど、子への対策も強化をはかっている。また協議会の法定化も規定しており、その場を活用して、配偶者間の暴力と児童虐待の同時発生にもしっかり対応していきたい」と述べました。

 塩村議員は、今後の検討の可能性を問いましたが政府は明言しませんでした。

 小倉内閣府担当大臣も「子ども家庭庁のもとで児童福祉法を所管し、児童虐待の防止に努めることになるので、児童福祉法での対応とDV防止法での対応で齟齬が生じることがないように、連携して、同時発生する可能性の高い両者をしっかり予防し防いでいきたい」と述べました。

 塩村議員は「別の法律で対応するということは一つ手間が増えることになり」迅速性の点で問題があると指摘しました。

■接近禁止命令の要件

 塩村議員は「保護命令の接近禁止命令に精神的DV,性的DVが追加された点は歓迎されているが、接近禁止命令の対象となる脅迫は刑法で有罪レベルが必要か」について確認しました。

 政府は「脅迫は刑法222条第1項脅迫罪と同じ文言になる。その上で、刑事手続きと保護命令手続き、手続きの違いにより差異が生じる場合がある。例えば、保護命令が出ても必ずしも有罪判決が出るものではない」と答弁しました。

 塩村議員は、裁判官の解釈によって、対象となる精神的暴力が限定される懸念を指摘し、「大声の罵倒や長時間の説教、睡眠の剥奪等は典型的な精神的暴力で被害者を畏怖される言動にあたることは明らかだが、『加害の告知』さえしなければ、保護命令は出ないのか」確認しました。

 政府は、「具体的な言動が『脅迫』に当たるか否かは、一般に人を畏怖させるに足りる程度が必要。その際、害悪告知が人を畏怖させる程度かの判断は、経緯、被害者と加害者の関係、被害者の心理的状況など個別的事情も考慮に入れる。告知の方法は言葉、態度動作、暗示的な方法、他人を介して間接的に通告する方法も含まれる」と答弁しました。

 塩村議員は、夫婦間の精神的暴力や性的暴力の事例をあげ、接近禁止命令の対象になるかを問いました。政府は「個別具体的な事例に即して裁判所が判断すること」と述べ、答えませんでした。塩村議員は、あげた事例は男女共同参画局のwebサイトに記載されている事例だとして、これにすら答えないのであれば、「どの程度で自分が救われるか被害者に分からないと保護命令の制度を使えない、救われない人が多い」と政府の姿勢を批判しました。

■退去命令の要件

 塩村議員は、本改正案において、退去命令には、精神的DVや性的DVが含まれていないとして、その理由を問いました。政府は、「退去命令は、命令を受けた者の居住の自由や財産権への制限が大きいことから、接近禁止命令の運用を踏まえる必要があるとして本改正には含まれていない」と答弁しました。

 DVの相談件数は著しく増加しているが、保護命令の件数の推移と齟齬がある点について塩村議員は、「重大な危害を受けるおそれ(法10条)」の「重大な」のハードルが高いために、保護命令の却下につながるおそれがあると指摘しました。

 政府が「『重大な』とは、診断書が必要な状況」と答弁したことに対して、塩村議員は「受診が難しい場合や誰にも相談できない人にも周知できるようにホームページやQ&Aで具体的に基準を示すべき」と政府に求めました。

 政府は「本改正案が成立後には、国民に情報提供する」と答えました。

■保護命令制度の改善

 塩村議員は保護命令が活用されていない理由として、発令までの期間が長いこと、接近禁止命令か退去命令と選択肢が少ない等を指摘しました。

 塩村議員は、地域によりDV対策に濃淡があると指摘し、小倉大臣は「地域差が出ないように努力していく」と述べました。