「いのち・子ども・暮らしを守る。」を掲げ、子育てや医療・介護、生活困窮に直面している国民一人ひとりに寄り添う政治を体現している岡本あき子衆院議員(宮城県第1区)。通常国会では、岸田総理が今年1月に突如表明した「異次元の少子化対策」をめぐる議論は深まらず、予算規模年3.5兆円になる財源の具体策は示されませんでした。こうした政治の動きを現場はどう受け止めているのか。東日本大震災の被災地で不登校の子どもなどを支援するNPO法人アスイク(仙台市)の代表理事・大橋雄介さんに現場で直面している課題、必要な支援などについて岡本議員が話を聴きました。

 今回岡本議員が訪れた「子ども第三の居場所いわぬまきち」(宮城県岩沼市)は、家庭でも学校でもない「第三の居場所」として、貧困家庭や不登校の子どもたちなどが放課後から夜まで過ごせる施設。アスイクと市、助成する日本財団の3者が事業協定を結び、今年3月にオープン、施設の整備費用や3年間の活動費は日本財団が負担、その後は、岩沼市が事業を引き継ぐ方向です。アスイクは2011年に発生した東日本大震災の直後に仙台市で立ち上がり、自治体、企業、市民と協働しながら、子どもの権利擁護の視点から、学習支援、フリースクール、フードバンク、訪問支援、保育園、児童館など、多様な切り口の事業を展開しています。

岡本 この10年で精力的に活動を広げられていますが、パワーの源はどこからきているのでしょうか。

大橋 2011年当時は、何かやれることはやらなければいけないという気持ちは強かったです。避難所で、子どもたちが学校が始まるまで自分で勉強ができずに困っているという話を聞き、ボランティアで「一緒に勉強をしよう」と始めたのがきっかけです。避難所をあちこち回っていましたが、その後仮設住宅に移っていくと出入りの多い避難所と違い人が固定する。継続的に付き合い関係ができていくなかでそれぞれの家庭の状況などを見聞きする機会が増え、生活に困っていた家庭、多額の借金を抱え学校に通えていなかった子など、震災前からの問題が見えてきました。こうした問題に取り組む必要があると貧困問題にシフトしていきました。

NPO法人アスイク代表理事・大橋雄介さん

見えにくい貧困や虐待

大橋 岩沼市は福祉に手厚い自治体だと感じています。子どもたちの居場所づくりと学習支援、ひきこもりで悩む方に対しても、早期支援ができるよう他の自治体に先駆けてひきこもりサポート事業を実施し、居場所支援を進めています。
 子どもの第三の居場所も県内初です。施設の定員は20人で利用料は無料、今は6人の登録がありますが、平日の放課後から午後8時まで4人が常駐し、手厚くサポートできる体制になっています。

岡本 今は1、2カ月お風呂に入れない、家がないというわけではないけれど、食事や生活習慣など生活の最低限の部分を保障できない、目に見えない形での貧困が増えているように思います。虐待にしても、「毒親」がするものといったイメージが強いですがそうとは限らない。もう少し周りにも理解をしてもらう必要があると感じます。

大橋 最近、ヤングケアラーも同じような課題に直面しています。広い概念なので仕方がないのですが、お手伝いをしている子どもたちもヤングケアラーに該当してしまう。私の小学校5年生の上の子が、学校帰りに児童クラブに通っている小学校の1年生の下の子を迎えに行ってくれているのですが、自分はヤングケアラーだって言い出した(笑)。まさにそうだねって。それによって子どもの権利などが侵害されてくるレベルになると介入が必要ですが、そうでない、お手伝いプラスアルファなところもある。人がどこを見るかによってヤングケアラーの捉え方が変わってくるので、難しいなと思います。
 ヤングケアラーや貧困といった看板を掲げると、なかなか支援につながらない実態もあります。こういう「第三の居場所」など別な事業でつながってくるケースが多く、ここにもヤングケアラーはいます。一時保護とか、児童福祉施設に行くまでではない子がたくさん滞留している。そこの受け皿が少ないのは全体的な課題です。

制度のはざまや、地域格差で支援からこぼれる子ども・若者たち

岡本 「異次元の少子化対策」として、政府素案では、今後3年間は年3.5兆円を少子化対策とし新たに追加する方針ですが、予算のめどがたたないからまだできないと言います。なぜ子ども関連予算だけが財源の話で止まってしまうのか。今年を逃すと少子化も大変なことになると訴えています。

大橋 少子化対策は注目されていますが、生きづらさを抱えている子どもたちの方は背後に隠れてしまった感じが少しあります。

岡本あき子衆院議員(宮城県第1区総支部長)

岡本 本来、子どもや若者が将来に希望を持てる、このまま自分らしく生きていい、恋愛をしていい、家庭を持っていいという思いにつなげることが大事。多様な選択肢を認めるというメッセージを本気で示すことが必要だと感じます。
 国が動き出したことで解決の1つにはなるかもしれませんが、いま市町村で子どもの取り合いになっている。そうではなく、「どこにいても安心できる居場所と信頼できる大人がいる」と思えるまちにしていかないといけません。

大橋 地域格差をなくすことは大きなテーマです。取り組みに対しての格差、要は一般財源の格差をなくしてもらいたい。僕たちの団体としては、法人としての行動指針のなかに「対等なパートナーシップ」と明記し、子どもや、家庭の声を代弁する立場から自治体に対しても行政の下請けではないというスタンスで取り組んでいます。
 ただ、制度にのっとった事業では、その対象に収まらないグレーゾーンの人たちをなかなか受けづらいという課題はあります。学習支援事業も、例えば、実際所得は少し多めだけれど多重債務があって、子どもが不登校で将来の生活困窮に陥るリスクが高いなど、議論が必要な、時間がかかるケースは多々あります。

見えづらい問題を引き取っていくために福祉の専門スタッフは肝

大橋 貧困もそうですが、家庭のなかの問題が見えづらいというのは大きなキーワードだと思っています。「学習」や「食」、あるいは「フリースペース」といった、それぞれの家庭で子どもがいま一番求めている支援につなげることで結果的にもっと深い所にある背景の問題に関わっていくことが大事だと感じています。いろいろなメニューが増えることは欠かせません。関わった後にきちんと家庭のなかの問題を引き取って、行政と連携しながら伴走支援していける地域のネットワークを作っていくことも重要です。自治体によって新しいメニューを実施できるところと、そうでないところが出てきてしまうのは良くないですし、専門性を持って子どもや家庭と関わっていくスタッフは一番重要な肝になっていきます。
 そういう意味では、支える福祉の専門職の採用・育成が大きなテーマになっていきますが、全体的に賃金水準、物価が上がっていくなかで相対的に福祉の採用が難しくなっているのを実感しています。きちんとした水準の人件費を払えなければ専門的なスタッフは採用、育成が難しい。福祉の分野で働く人たちの賃金水準をもっと上げてもらいたいです。

岡本 全体的な底上げが必要ですよね。いま所得が二極化し、中間層が減って年収200万円前後の人々が増えている。その内訳は決してシニアが働き出しただけではなく、低所得の層が比較的福祉やサービス業を担っている。そこをなんとか変えていきたいと思っています。
 今日はどうもありがとうございました。

「いわぬまきち」には地元の布田えみ岩沼市議も参加