立憲民主党は、「同一価値労働同一賃金(均等待遇)」を法定化することで、正規・非正規間、男女間の待遇格差の是正を目指しています。9月28日、「雇用問題対策プロジェクトチーム(PT)」(座長:西村智奈美党代表代行)は会合を開き、浅倉むつ子早稲田大学名誉教授から、そもそも「同一価値労働同一賃金」とは何か、日本においてどのような手法で可能となるのかをヒアリングし意見交換しました。

 冒頭のあいさつで、西村座長は、「この間、政府・与党によって働く人たちの包摂が取り残されてきた。雇用が分断されている今の状況を改善しなければいけない。PTでは、雇用問題対策の論点整理を進めるにあたり、同一価値労働同一賃金についてさまざまな調査・研究をされてきた第一人者である浅倉先生にお越しいただいた。勉強させていただき、よい論点整理ができるよう協力をいただきたい」と述べました。

 浅倉むつ子教授からは、(1)国際原則としての「同一労働同一賃金」と「同一価値労働同一賃金」、(2)同一価値労働同一賃金を実現する鍵~性に中立的な職務評価制度(3)日本の法制に同一価値労働同一賃金原則を導入するには――との3つの観点から、実現に向けた政策についてお話いただきました。

 (1)では、ILO(国際労働機関)による「同一価値労働同一賃金」の定義の変遷について説明。1951 年 ILO100 号条約において、「同一価値労働についての男女労働者への同一報酬」原則が示されたものの「同一価値労働」の明確な定義はなかったこと、その後 ILO が出版したガイドブックで、「同一価値労働」の中には(a)同一労働あるいは同一の条件における労働(b)客観的な基準に基づいて同一価値と評価された異なった種類の労働があり、2つの異なる職務の価値を比較する「職務評価」の必要性が明確に打ち出されたこと、「職務評価」には分析的方法の「得点要素法」が最適の方法とされていること――などが紹介されました。

 (2)では、同一価値労働同一賃金原則の実施を目標とした職務評価の実際例として、家電量販店の販売職とレジカウンター職を5段階で比較・評価した方法が紹介されました。浅倉教授は、職務評価制度を作る手法として、「欧米が採用している『得点要素法』で使っている4大ファクター「(1)知識・技能(2)責任(3)負担(4)労働条件や労働環境」と職務ごとのサブファクターを設定し、これらファクターにウエイトを付して、最高得点1000点を配分。レベルの数により配分することで、職務の価値を測る尺度を作る」ことの必要性を説明しました。また、「欧米の同一価値労働同一賃金原則は男女間の賃金格差是正の考え方として展開され、正規/非正規労働者の格差も日本ほど著しくないが、日本では、大きな賃金格差が、男女間と正規/非正規間の両者にある。この両者を念頭に置かなければ何の役にも立たない」と日本の特殊性を考慮した職務評価の必要性を強調しました。

 (3)では、「同一価値労働同一賃金」が日本の法制になじまないと言われる理由と導入への方策を説明。基本的に個人の賃金は従事する職務に応じて決まる職務給が確立している欧米と異なり、日本では、人に応じて賃金を支払う傾向が強く、経験や勤続年数に報酬を支払う職能給制度が普及しているため、仮に法律で同一価値労働同一賃金制度を義務づけたとしても、実現させるのは難しいと言われてきました。しかし、浅倉教授は、「公正な賃金制度を構築するためには、日本にも導入されるべき原則であり、自然に委ねていては実現しないからこそ法制度のなかに積極的に導入する必要がある。ただし、日本の独自性を認識したうえでの法制度的な工夫も必要」と力説しました。では日本ではどのような制度がよいのか――、浅倉教授は自身が考えた「プロアクティブモデル」として、(1)事業主は、雇用管理区分ごとに、男女および正規・非正規の賃金格差の「状況把握義務」を負う。職務評価の手法をできる限り使う必要があり、格差がある場合にはその正当化理由の有無を確認させる義務がある(2)正当化理由がない場合には、賃金格差調整義務を負う(3)一定以上の規模の事業主には「賃金格差調整行動計画」の策定義務を負わせる(4)行動計画にそって格差調整を実施し、実現したか否かは「労使委員会」がモニタリングする――の4点を挙げ、「国際基準に沿って少し大きな構造を描いてはどうか」と提案しました。

 講演を受け、出席議員からは、賃金引き上げの原資と価格転嫁の関係や、職務給へのハードルについて、正規・非正規の生活手当や扶養手当の差、外部委託との賃金差をどうするか、職務評価の判断はどの機関でやるのがよいのか、産業横断的な同一価値労働・同一賃金を実現するにはどのような法制度が必要かなどの質問が出され、活発な意見交換が行われました。