衆院農林水産委員会で4月18日、政府提出の「食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案」および立憲民主党・無所属及び有志の会の2派共同提案による修正案等を一括して質疑が行われ、質疑終局後に採決の結果、政府案および与党提出の修正案は賛成多数で可決、立憲民主党などが提出した修正案は賛成少数で否決されました。採決後に6派共同提案の付帯決議が政府案に付されました。

【修正案の趣旨説明】

 修正案の趣旨説明に立った、ネクスト農林水産大臣の金子恵美議員は(1)総則の修正(2)基本施策の修正――等、以下の項目に関して説明を行いました。修正項目詳細はPDFをご覧ください。
20240418食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案概要.pdf
20240418食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案.pdf

■総則の修正
一 食料安全保障の確保に関する基本理念関係
 1.食料安全保障の修正(新第2条第1項関係)
 2.国内における食料の安定供給の確保の重要性の明記等
 3.食料の「合理的な価値」を「適正な価値」に修正(新第2条第1項・第5項関係)
二 環境の調和のとれた食料システムの確立に関する基本理念関係
三 農業の持続的な発展に関する基本理念関係
四 農業の振興に関する基本理念関係
五 年次報告関係
■基本的施策の修正
一 食料・農業・農村基本計画関係(新第17条関係)
 1.食料自給率の目標の必要的記載事項化等
 2.目標の達成状況について審議会の意見聴取と国会報告の追加
二 食料安全保障の確保に関する施策関係
 1.食料消費施策における「予防的な見地」の明記(新第18条第1項関係)
 2.フードバンク等への支援の明記(新第19条関係)
 3.フェアトレードの確保の明記(新第21条関係)
 4.備蓄食料の国際援助への活用の明記(新第25条関係)
三 農業の持続的な発展に関する施策関係
 1.多様な農業者の役割の明記
 2.農業生産基盤の整備及び保全に係る規定の修正(新第29条関係)
 3.アニマルウェルフェアの明記
 4.有機農業の促進の明記(新第32条第1項関係)
 5.種子の公共育種事情に関する規定の追加(第2章第3節関係)
四 農村の振興に関する施策
 1.地域の伝統的な食品産業等の保存、振興等の明記
 2.都市及びその周辺の農業に有する機能の重要性

【修正案に対する質疑】

 質疑には神谷裕議員が立ちました。冒頭で神谷議員は、戦後、日本では自給率の低下・農地面積の減少・農業者の減少が続いていることだけでも農業が危機的な状況に向かっていることを意味すると指摘。「国際環境の変化等、改正の理由とあるが、わが国のこうした農業変化の趨勢だけでも、十分に基本法の改正がなさけなされなければならない状況」との認識を示しました。

 所感をただしたのに対し修正案提出者の金子議員は、食料・農村・農業基本法制定から25年が過するなか、国際環境の変化を踏まえた上で、同法が定める政策目標を達成できなかったという事実を踏まえ総括すべきだと指摘。(1)食料自給率の低下(2)農業が有する多面的機能の発揮に対する耕作放棄地の増大という失敗(3)農業の持続的な発展と基盤としての農村の振興に対する農業経営の減少と高齢化、担い手不足と農村人口の減少といった農政の失敗――等について「真剣な総括と抜本的な政策の変更が必要」と述べました。

 そのうえで金子議員は今回の改正にあたり、政府が掲げてきた農業の成長産業化・新自由主義的な政策から転換し、農業経営の安定化策の構築・評価に舵を切ることが必要だと指摘。提出した修正案では(1)国内の農業生産の増大を図り、食料自給率を向上させることの明記(2)食料価格の訂正について、合理的な価格を農業の持続性の確保を考慮した適正な価格とすること(3)多様な農業者の役割の明記(4)農地及び農業用施設の保全に対する直接支払い等の根拠の追加――などの修正を行ったと答弁しました。

 神谷議員は今回の改正において取り上げられた食料安全保障についても言及。有事においての食料自給率に関して修正案にも盛り込まれている件について確認。修正案提出者は食料安全保障においては輸入や備蓄も大事だがそれよりも大事なのは国内の農業の生産だと述べ、「それを指し示す指標として食料自給率があった。現行法には基本計画の必要的事項として規定されていたが、これが今回の改正でその他の指標のひとつとなっている」ため、意義が薄れてしまっていると憂慮し、修正案で食料自給率を必要事項としたこと、不測の事態の際の食料確保の対応についても安全かつ十分な量であることを明記した旨の答弁がありました。

 神谷議員は修正案において「農業生産活動が自然環境の保全等に寄与する側面の明記」「農業所得の確保による農業経営の安定の追記」「農業従事者の人権への配慮の明記」等がなされたことを評価。特に農業者の所得確保に関して質問したのに対し、修正案提出者からは「政府案では、食料の持続的な供給に要する合理的な費用への配慮は、食料システム関係者に委ねられている。しかし、保証は全くない」旨を述べ、修正案では持続的な営農が可能な農業所得の確保により農業経営の安定が図られるべき旨を追加したと答弁。さらに所得水準に見合う価格が実現できなかった場合は、「例えば農業者に対する直接支払いも併せて実施する」と答弁しました。

 神谷議員は修正案において「農村振興の意義についてより明確に記した」点を評し趣旨についても質問。修正案提出者の渡辺創議員は「政府案では農村の意義について、農業の持続的な発展の基盤たる役割しか書かれていません。しかし、農村は食料を安定供給する基盤であるだけではなく、農業・林業などさまざまな産業が営まれ、多様な地域住民が生活する場でもあり、さらには国土の保全・水源のかん用、美しい安らぎを与える景観の形成、生物多様性の保全、文化の伝承といった多面的な機能が発揮される場」と述べ、そのような観点から、わが党の修正案では、食料の安定供給を行う基盤たる役割を果たしていること、農業の有する多面的機能が発揮される場であることを明記したとの答弁がありました。

 各修正案の趣旨説明後、政府案および各修正案を一括して討論が行われました。

【討論】

 立憲民主党・無所属から討論に立った緑川貴士議員は、政府案について「海外で売れるものを優先した国内生産と、縮小する国内市場向けの多くは安定的な輸入で賄うという、従来の取り組みをなぞったに過ぎず、食料自給率の向上を通じた国内への安定供給、国内農業の発展という戦略は後退していると言わざるをえない」と問題視。政府案に対して反対、立憲民主党などが提出した修正案に賛成の立場を表明しました。

 討論終局後に採決され、政府案および与党提出の修正案は賛成多数で可決、立憲民主党などが提出した修正案は賛成少数で否決され、採決後に政府案に対して6派共同提案の付帯決議が付されました。

【付帯決議】

 付帯決議について提出者を代表して近藤和也議員が趣旨を説明しました。近藤議員は「地球規模での気候変動や国際情勢の不安定化、各国の人口動態や経済状況等に起因する食料需給の変動などにより、世界の食料事情はきびしさを増している。さらに、わが国においては基幹的農業従事者の減少が加速しており、集落機能の維持さえ懸念されるところもあり、食料自給率は目標を下回り続けている。このような状況において『農政の憲法』とされる食料・農業・農村基本法が果たすべき役割は極めて大きく、食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立、多面的機能の発揮、農業の持続的な発展、農村の振興等の喫緊の課題への機能的かつ効果的な対処が求められている」と述べ、政府提出法の施行にあたり実現すべき事項として12項目(添付PDF参照)を列挙しました。
20240418食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案附帯決議.pdf