2023(令和5)年5⽉25⽇
「次の内閣」閣議提出
⽴憲⺠主党「農業政策」(中間報告)
農林⽔産部⾨
新 ⾷料・農業・農村基本法検討WT
農林⽔産業の基本的考え⽅
○わが国の農林⽔産業は、国⺠の⽣命と⽣活を守る基盤です。国⺠が⽣きるために不可⽋な⾷料を安定的に供給するとともに、国⺠⽣活の安定に⽋かすことのできない国⼟・⾃然環境の保全、集落の維持・発展、地域⽂化の伝承等、各般にわたる機能を発揮しています。こうした重要な役割を担っている農林⽔産業の経営の持続的かつ安定的発展を図るとともに、農業、林業および漁業が有する多⾯的機能を⼗分に発揮させ、その役割を⼀層強化することを基本として諸施策を展開します。
○農業・農村が有する防災機能をはじめとする多⾯的機能の効果は全国⺠が享受しているものです。多⾯的機能は⽔⽥をはじめ、畑作、酪農畜産、果樹、施設園芸など、多様な農業が広く展開されてはじめて発揮されるものであり、基盤となる農業者の健全かつ安定的な経営が⼤前提です。このため、わが国農業の中⼼である家族経営や集落営農等を積極的に⽀え、中⼭間地等条件不利地での地域資源の活⽤、農業⽣産の活性化、地域の特性に合う多様な農業の展開、多⾯的機能に着⽬した直接⽀払、環境保全型農業の推進等の施策を通じ、農業者⼾別所得補償制度をバージョンアップして、多⾯的機能の発揮、持続可能な開発⽬標(SDGs)の観点から農⼭漁村の再⽣を実現します。
○「農林⽔産業の競争⼒強化」への偏重を改め、農林⽔産業固有の特性やわが国の農⼭漁村社会の歴史に根ざす地域政策を⼀体的に推進します。農協・漁協や⾃治体の振興を通じたコミュニティづくりや環境負荷を考慮に⼊れた農林⽔産業を推進します。
○わが国農業は、⼤規模専業農業から農外収⼊を得ながら⼩⾯積を耕作する⼩規模兼業農業まで、規模や農法、作物等、多種多様な農業が存在しています。多様な農業が複層的に存在することは、わが国農業に極めて重要で、規模拡⼤を進める農業者も、⼩規模兼業で経営する農業者も、ともに、この国の農業を⽀える存在として重視します。このため各種⽀援策において「規模拡⼤」を要件とすることは盛り込みません。
○肥料・飼料・燃油など⽣産資材の⾼騰対策の強化と、供給体制の整備・安定を図ります。
○規制緩和と競争⼒強化に偏重してきた農政から脱却し、多種多様な農業者が共⽣する多様な農業のあり⽅を⽀援します。規制改⾰推進会議や国家戦略特別区域諮問会議を廃⽌し、法規制は国会議員が責任を持って議論・検討できる仕組みを整えます。
⾷料⾃給率の向上
○わが国の⾷料⾃給率は、カロリーベースで 40%を切る極めて厳しい状況にあり、主要な農産物の外国への輸⼊依存度が年々⾼くなっています。まずは、⾷料⾃給率の向上を⽬指すことを基本とし、農地の有効利⽤等による国内⽣産の拡⼤を図っていきます。
○わが国農業の中⼼である家族経営の活性化、国内農産物の需要拡⼤、耕地利⽤率や農業⽣産⼒の向上に向けた施策および⾷育・地産地消の取り組みを総合的・⼀体的な推進、農業者⼾別所得補償制度をバージョンアップした直接⽀払制度の構築によって⾃給率 50%を⽬指します。
○⾷料⾃給率を維持・向上するため、学校等における給⾷での国産農産物を利⽤した⾷農教育を推進するとともに、わが国の第⼀次産業の価値や、国⼟保全や災害防⽌の重要性、安定的な⾷料供給や⾷の安⼼・安全について、国⺠に広く認識の共有が図られるよう、理解の浸透と定着を図ります。
○現下の気候変動・地球温暖化の影響といった状況に対処し、危機管理の徹底、農地・担い⼿の確保、国内⽣産の拡⼤と安定した流通体制の整備、国内⽣産の維持・拡⼤を旨とした貿易ルールの形成を図り、⾷料⾃給率を向上させ、⾷料安全保障を確⽴するための法整備を⾏います。
中⼭間地農業等の推進
○中⼭間地域における農村⾃体が共同体として存続し、農業を継続していけるような体制の整備を推進します。
○農業⽣産活動の基盤の維持および整備、中⼭間地域その他条件不利地域の農業⽀援、有機農業など⾃然環境の保全に資する農業⽀援などのため、その実態に合った交付⾦を交付する制度を構築します。
6次産業化
○農業・農村の活性化には、農業所得の向上と農業従事者の確保が必須です。このため、農業⽣産基盤の整備および保全管理、⽣産資材価格の適正化、安⼼・安全な農畜産物の⽣産による需要拡⼤、適正な価格形成、地域資源の活⽤等、就農準備資⾦・経営開始資⾦(旧⻘年就農給付⾦)等の強化、農産物の付加価値の向上、農業者所得の向上と地域雇⽤のさらなる創出を図るため、「6次産業化」を推進します。
○意欲ある若者や⼥性などが安⼼して農林⽔産業に参⼊し、継続して農林⽔産業に携わる環境を整備し新たな雇⽤の受け⽫として再⽣していきます。また、⾷の安全・安⼼への関⼼が世界的に⾼まる中で、各種の市場開拓事業を展開し、国内の農林⽔産物・⾷品の輸出を積極的に進め、農林⽔産業者の所得を増⼤させます。また、これら農林⽔産業と商業、⼯業、観光業を組み合わせた「6次産業」を⽣み出すことで、地域社会の⾃信と誇りを取り戻します。(再掲)
エネルギーとの兼業
○農⼭漁村は、⾃然エネルギーを産するのに好適な条件を備えています。資源の乏しいわが国にあって、エネルギーの地産地消を実現し、さらには都市への供給も可能とするなど、その可能性を最⼤限引き出す施策を展開します。
○農業⽣産に伴う⼟壌炭素固定や温室効果ガス抑制を勘案した「資源・エネルギー⽣産性」を考慮し、地球環境負荷を認識するため、輸送量と輸送距離を定量的に把握する「フードマイレージ」を普及させます。
○農⼭漁村の⼟地、⽔、バイオマスといった豊富な資源を活⽤し、地域の規模に応じた発電事業による地域還元等を通じ、農⼭漁村の活性化を図ります。
○2050 年カーボンニュートラルの実現を農業・農村から⽀えるために、SAF(持続可能な航空燃料)として利⽤できるバイオ燃料製造向けに余剰⽢味資源作物の活⽤等の取組を⽀援します。
農⼭漁村機能の維持・地域の活⼒等
○農地の利活⽤、維持管理を徹底するためには、農業者が農村に定住することが重要です。そのため、多⾯的機能⽀払、中⼭間地域等直接⽀払、環境保全型農業直接⽀払を統合し、⾷料安全保障や環境保全、中⼭間地域を⽀える観点で⾒直しを検討するなど、新たな直接⽀払制度を創設します。これにより農業・林業・漁業の振興を図り、農⼭漁村が持つ多⾯的機能の発揮・強化を図り、国⺠全体へ恩恵をめぐらせます。
○農⼭漁村休暇キャンペーン等、都市と農⼭漁村の交流の推進等を含めた複合的な農政の展開により、共同体の存続を前提とした農⼭漁村機能の維持を図り、地域の⼒をさらに活性化させます。
○農業委員会が果たす公的機能を再評価し、優良農地を守り、耕作放棄地解消につながる農地の引き受け⼿探しや、担い⼿への集積・集約化等、農村集落の維持に⼤きな役割を果たす地域の調整役としての機能強化を図ります。地域の代表者としての位置付けを明確に位置付けるため、「公選制」の復活について検討します。
○国⺠共有の財産である公共財としての農地の向上を図る⼟地改良については、農業者の負担から国⺠全体への負担へと、その負担のあり⽅を検討し、国費によって進めます。
○有機農業を振興し、オーガニック⾷材の積極的な利活⽤に向けて、学校給⾷等への利⽤を推進するほか、各地で朝市等を開設し地産地消を進めます。
○株式会社等の農地取得やソーラーパネルの設置等に⾒られる農地転⽤については、農村集落の維持との⼀体化が阻害されないようにすること等の規制について検討します。
○農福連携事業により、障がい者の農林漁業分野への就職や、就労継続⽀援事業所の農業への取り組みを強⼒に推進し、障がい者の社会進出と⽣活の質の向上を図ります。
○農地や林地等、相続等を契機として、耕作放棄や森林の適切な管理が⾏われない状況が⽣まれています。農地を次の耕作者に引き継ぎ、森林の適切な管理を実施するための登記のあり⽅について検討し、所有者不明⼟地の解消や林地の境界画定を進めます。
○農地は多⾯的機能の発揮や国⺠に安⼼・安全な⾷料を供給する公共財です。農地転⽤の厳格な運営に向けて、ヨーロッパ諸国に⾒られる都市計画のなかでの厳格なゾーニング規制等、従来の農地法・農振法・都市計画法等の枠組みを超えた本質的な農地政策のあり⽅を検討します。
⾷料安全保障に資する直接⽀払制度の構築
○農業者⼾別所得補償制度をバージョンアップし、⾷料安全保障確⽴に資する直接⽀払制度を構築します。あわせて、環境の保全に資する度合いや中⼭間地域への加算を⾏う等、制度のバージョンアップを図ります。
○さまざまなリスクに対応して平年並み所得を保障する収⼊保険制度については、真に農業者の経営の安定に資する内容になるよう、制度の対象となる農業者の範囲等について検討します。
○2021 年 12 ⽉の政府による⽔⽥活⽤直接⽀払交付⾦の⾒直し⽅針決定に対し、⾒直しを⼀旦⽩紙としつつ、⽔⽥活⽤直接⽀払交付⾦の恒久化を図ります。
○現下の⽶の需給状況に鑑み、緊急的な特例措置として、⺠間に保管されている過剰在庫を政府備蓄⽶の枠を拡充して受け⼊れて市場から隔離し、需給を安定化させます。受け⼊れた備蓄⽶については、既に実施されている⼦ども⾷堂や⼦ども宅⾷への⽀援のさらなる推進や、⽣活困窮者等への⽀援、災害等緊急⽀援の⼀つとしてレトルトパック化した⽶を備蓄し、状況に応じて被災地への供給や海外援助へ活⽤するなど、他の省庁とも連携して、需要を促進・拡⼤する⽅策を検討します。
○ミニマムアクセス⽶の輸⼊については、⽇本国内での消費動向や、国の財政負担を伴って多くが飼料⽤⽶として販売されているなどの状況に鑑み、受け⼊れの停⽌や⾒直しを求めます。
○⽶粉⽤⽶の加⼯・販路促進、国内産⻨の⽣産⽀援をさらに進めます。
農業所得の安定・向上と担い⼿確保、新規就農者⽀援等
○⼈・農地プランを法定化した地域計画の作成により、多様な経営体の育成を図りつつ、農地の有効活⽤、農村の維持・発展など、今後の⽅向性を明確にする取り組みを⽀援します。
○農業者⼾別所得補償制度をバージョンアップし、農業者の判断のもとに、国の適正⽣産量にのっとって⽶⽣産を⾏う地域・農業者に対し、経営を維持し再⽣産可能となる⽀援を実施します。
○地域にある⾃然環境や⽂化資源などを⾒直し、農林漁業体験機会の提供促進や滞在施設等を整備することで、都市住⺠との交流並びに農業・国産農産物への理解の促進を図っていきます。
○地域の農林⽔産⾼校を地域の豊かな農林漁業や魅⼒の発信拠点として⽀援・整備し、第1次産業に関わろうとする若者の可能性を最⼤限追求できる場となるよう後押しします。
○就農⼈⼝の極端な減少に対応するため、地域の担い⼿として、都市住⺠が⽥園回帰で農業を営む新たな兼業農家の様式(半農半X・副業農業)等の多様なライフスタイルを担い⼿の⼀形態として推進・⽀援し、新規就農者への充実した⽀援と⾼齢者の⽣きがいの場を提供します。
○中核的な担い⼿の育成や農地集積・集約化を図るとともに、農⼭漁村への移住を積極的に⽀援するため、就農準備資⾦・経営開始資⾦(旧⻘年就農給付⾦)制度の充実などを通じて、意欲と能⼒のある若者・⼥性農業者等に対する積極的な⽀援を⾏います。
農業協同組合の役割と体制・機能の強化
○農業者の相互扶助組織である農業協同組合は、農業者の経営、⽣活の安定・向上がその存在の第⼀義的な⽬的であり、さらに現在では、⾦融、保険、⽣活物資の販売、燃料の供給、病院の経営等の⽣活に⽋かせないインフラを地域住⺠に提供しています。地域でのこうした農協の役割を明確に位置付け、⽀援することで農村地域住⺠の⽣活と利便性の向上を図ります。
○官邸主導で改正された農協法を⾒直し、協同組合原則を踏まえ、「地域のインフラとしての農協」として、農家の所得向上と経営の安定を図るだけでなく、⽣活や医療、福祉など地域のさまざまな機能をも⽀える組織であることを法律上明確化し、農協がいきいきと活動できる環境をつくります。
○農協など、地域に根差した協同組合の活動や、協同組合間の協同・連携を促進するための仕組みづくりを検討します。
○農業協同組合が100%⺠間出資の団体であることに鑑み、農協のあり⽅については⾃主性を重んじ、その⾃主改⾰案を後押しするとともに、JA 准組合員や員外利⽤の規制のあり⽅についても、⺠間組織であるJA⾃らが判断すべきであって、経済活動に対して過剰な介⼊を政府は⾏わないこととします。
都市農業の振興
○消費地に近い場所で営まれる都市農業は、新鮮な農産物の提供、豊潤な緑地・景観の保全、防災空間の提供および都市住⺠との交流による農業への理解促進等、多様な役割を果たしています。今後とも、意欲ある都市農業者が都市農地を有効に活⽤し、安定的に経営できるよう施策を拡充していきます。
○都市農業の機能や効果が発揮できるように、⽣産緑地等の持続可能な都市農業を守るための政策の推進を図ります。あわせて、市⺠農園のさらなる開設に向けた取り組みを進めます。
○都市農地は「なくてはならないもの」であることに鑑み、実情を踏まえた⽀援措置の創設を図ります。
園芸作物=野菜・果樹・花き・茶等
○野菜・果樹・花き・茶等を含む総合的な収⼊保険制度の強化を検討します。
○⽣産状況等を的確に踏まえた上で、世界各地への輸出も視野に⼊れ、改植とこれに伴う未収益期間の経費⽀援等、引き続き園芸作物の戦略作物化も含めた効果的な⽣産振興を図ります。
○中⼭間地域の重要な基幹作物である茶栽培の⽀援を図ります。また、関連するお茶⽂化の振興や海外への普及等を総合的に⽀援していきます。
農業のスマート化の推進
○AIの活⽤やGPSを利⽤した無⼈トラクター、ドローンを使っての防除など、農業分野での技術⾰新を⽀援します。またブロックチェーン技術等の情報技術の進歩は流通情報の正確性を確保するものであることから、農業の流通改⾰やブランド価値の発信に適⽤できるよう検討します。
⿃獣被害対策
○農作物に多⼤な被害を及ぼす有害⿃獣の対策を進めるとともに、捕獲後のジビエ等の利活⽤を推進します。
○近年の野⽣⿃獣の異常出没急増、それに伴う⼈的被害や農作物被害の深刻化といった実態を⼗分に踏まえつつ、⽣息地管理、中⼭間地域活性化、被害防除を3本柱とする対策のさらなる充実を図ります。その際、⼈の安全確保と農作物被害防⽌のための措置を確実に講じつつ、広葉樹林・針広混交林など野⽣⿃獣の⽣息しやすい森林整備を通じた被害軽減、可能な限りの⽣態系の再⽣・回復等に取り組み、⿃獣被害の抜本的解決を⽬指します。
畜産・酪農の振興
○着実な⽣乳需給の安定対策を⾏いつつ、地域の特⾊に応じたブランド⼒の⾼い畜産・酪農経営を⽀援し、家族経営を中⼼とする、中⼩規模でも持続可能な酪農⽣産を⽬指します。
○獣医師や家畜防疫官の⼈材確保など、動植物検疫の適正な体制の整備・拡充を図り、アフリカ豚熱(ASF)など、海外からの家畜伝染病流⼊の防⽌のため、⽔際対策を強化します。
また豚熱(CSF)や⾼原性⿃インフルエンザなどの家畜伝染病予防の観点から、国内農業の防疫レベルを上げるとともに、飼養衛⽣管理基準の⾼位平準化を図ります。
○将来展望を持って畜産経営が⾏えるよう、飼料⾼騰への対応を⾏うとともに、中⻑期的な視点に⽴ち、⽔⽥等地域資源の有効活⽤による国産の⾃給飼料基盤確⽴に向け、デントコ- 6 ーンなど、地域の⾵⼟に適応した飼料⽣産や⽣産技術向上の推進等、飼料政策の⼀層の展開を図ります。また草地交付⾦など所得補償と合わせて酪農を主産業とする地域経済の安定化を⽬指します。
○畜産経営の安定を図るため、⾁⽤⽜肥育安定特別対策事業および養豚経営安定対策事業を強化します。また、酪農ヘルパー事業の充実を図ります。
アニマルウェルフェア<家畜福祉>の強化
○⽣産性の向上や畜産物の安全にもつながるアニマルウェルフェア<家畜福祉>を強化していきます。
ワンヘルスの実施施策強化
○近年の新興・再興感染症の多くは動物由来の⼈獣共通感染症となっており、有効な⼈獣共通感染症対策、薬剤耐性(AMR)対策等を推進するため、⼈や動物の感染症研究を担う国や⼤学等の機関、全国的に構築された医師と獣医師との連携体制の下、⼈および動物の健康並びに野⽣動物を含む環境の保全を⼀体的にとらえて対処する「ワンヘルス」の実施施策を強化します。(再掲)
2023(令和5)年5月25日
「次の内閣」閣議提出
立憲民主党「森林・林業政策」(中間報告)
農林水産部門
森林・林業政策WT
1.農林水産業の基本的考え方
わが国の農林水産業は、国民の生命と生活を守る基盤です。国民が生きるために不可欠な食料を安定的に供給するとともに、国民生活の安定に欠かすことのできない国土・自然環境の保全、集落の維持・発展、地域文化の伝承等、各般にわたる機能を発揮しています。こうした重要な役割を担っている農林水産業の経営の持続的かつ安定的発展を図るとともに、農業、林業および漁業が有する多面的機能を十分に発揮させ、その役割を一層強化することを基本として諸施策を展開します。
2.林業の多面的機能の発揮と保全
(1)健全な林業経営に向けた支援を強化
森林の健全な状態での維持は、国民生活および国民経済全体に多大な利益をもたらします。このため、森林経営者や林業従事者の所得を安定・向上すること等により、健全な林業経営を継続するとともに、社会全体で森林づくりを行うとの考え方の下、森林経営管理制度を活用した所有者不明森林の管理保全、地籍調査や林地台帳の整備を含め、地元の森林組合および市町村、国および都道府県が連携して公的役割を果たす体制をさらに強化します。
(2)災害や乱開発から森林を守る
豪雨災害による山腹崩壊の早期復旧および山地防災力の強化のため、森林経営者が受けた損害の救済対策、森林土木事業等を拡大実施します。あわせて、風力発電や太陽光発電等の乱開発など、森林の適正な保全に支障を及ぼす開発行為等に対する規制を強化するとともに、外国資本による森林地所有について規制の導入を検討します。
(3)森林の多面的機能の向上
森林を適切に管理・保全することにより、土砂災害の防止や水源のかん養など、森林の持つ多面的機能を向上させます。森林・林業再生プランに基づき、木材の安定供給の強化、国産材の利用促進、自然条件等に応じた針広混交林化・広葉樹林化を図り、また、フォレスター(森林総合監理士)、森林施業プランナーなどの山の専門家の育成等を支援します。
(4)木材自給率50%へ
間伐、主伐後の造林等適切な森林管理を実施する者に対する直接支払い制度を維持・拡充し、「木材自給率50%」を目指します。また、国産材の価格を低下させる要因の一つでもある違法伐採木材の日本市場への流通を阻止するため、改正クリーンウッド法に基づく木材関連事業者の取組が正当に評価されているかどうかも含め、同法の実効性を検証するとともに、さらなる実効性向上に向けた検討を行います。
(5)J-クレジット制度の活用推進
カーボンニュートラル達成に向けて、森林の持つ二酸化炭素吸収機能をさらに活用するため、森林整備の促進について国民的理解の醸成を図るとともに、J-クレジット制度における森林・木材分野のクレジットの活用を推進します。
(6)森林環境譲与税は“山元”重視
森林環境税の有効な活用に向けて、森林環境譲与税を森林面積に応じて山元に一層集中させるよう制度を改革し、森林整備をはじめとする森林吸収源対策のための諸政策を拡充します。
(7)神宮外苑の大量伐採に反対
都市部における森林の多様で多面的な価値を評価し、都市森林を維持します。また、神宮外苑地区の再開発事業に伴う樹木の大量伐採には反対します。
3.林業所得の安定・向上
(1)循環型森林施業の体制構築
わが国の林業は、小規模・零細な所有構造であり、多面的機能の発揮に対する支援を行いつつ、複数の森林所有者が一体となって主伐、再造林および保育等の循環型森林施業を実施する体制を構築していきます。また、SDGsへの貢献の観点から、必要に応じて複層林化に対する支援も行います。
(2)担い手の育成・確保と環境の整備
労働者協同組合、特定地域づくり事業協同組合等の団体も活用しながら林業の担い手を育成・確保し、安全な労働環境を整備し、雇用の安定および高齢者の生きがいある働く場を確保するとともに、林道・森林作業道の整備、林業機械の活用および優良種苗の確保等、総合的施策の展開により堅実かつ安定的な林業構造を確立し、林業所得の安定・向上を図ります。
4.木材産業の振興
(1)林業振興策の一体的な推進
路網整備や高性能林業機械導入への支援、販路開拓など流通ルート各段階における支援の強化、森林施業集約化をさらに進め、森林環境の保護と再造林の確保等、林業振興を一体的に推進し、林業の発展と雇用の拡大を図ります。その際、林業の労働安全衛生の徹底を図ります。
(2)木造・木質化で木材利用促進
国産材供給量、木材需要量ともに回復傾向にある中で、わが国の木材自給率についても、上昇傾向で推移しています。木材の利用は、快適で健康的な住環境を形成するだけでなく、山村経済の活性化、森林の多面的機能の持続的発揮に寄与しており、今後もさらに森林・林業に関する国民の理解を深めつつ、公共・非公共建築物の木造化の推進、CLT(Cross Laminated Timber=直交集成材)の活用、木造住宅ポイント制度の推進などにより、木材利用を促進します。
(3)木材の安定供給と国産材の利活用促進
木材産業は原木の購入を通じて山村や森林の整備を支え、また、需要者のニーズに応じた木材製品の供給によって木材利用を推進するという重要な役割を担っており、今後も木材産業への原木の安定供給体制を強化するため、林地と施業の集約、再造林体制の強化、林業と木材産業との川上・川中・川下の連携等を推進し、木材の安定供給と国産材の利活用を促進します。また、間伐材・林地残材等の未利用材のさらなる活用に向けて、木質バイオマス発電におけるエネルギー利用、木糸やCNF(セルロースナノファイバー)等のマテリアル利用を推進します。
(4)“川上”への着実な還元
「植える→育てる→使う→植える」という森林資源の循環を維持するため、川上(森林所有者・素材生産業者)と川中(木材流通業者、木材加工業者)・川下(工務店・住宅メーカー)との連携強化等により需給変動に的確に対応できる国産材の安定供給体制を整備し、木材価格の安定と川上への着実な収益の還元を図ります。
(5)違法伐採木材の市場流入防止
適正に管理された森林から産出した木材を認証する「FSC」「SGEC」制度を推進するとともに、違法伐採木材の市場流入を川上・水際で防止します。
5.山村の活性化
(1)林業経営の維持安定による山村振興
山村は、林業者が安定的に経営を営み、地域住民が定住し、森林の多面的機能を発揮する重要な場です。山村振興のため、森林資源の循環利用による林業経営の維持安定および生活環境の整備を図ります。
(2)都市と山村の交流促進
地域住民が里山林の保全管理に関わり、森林・山村を観光資源として活用しつつ環境教育・体験活動の場とし、都市との交流を進める体制を整備することにより、国民全体の森林への理解を深め、あわせて地域住民の定住促進を図ります。
6.国有林野の役割
(1)公益重視の管理経営を推進
国有林は、わが国の国土面積の2割、森林面積の3割を占め、その9割は「水源かん養保安林」等の保安林であり、公益的機能を果たす国民共有の重要な財産です。国有林野事業については、国民の安全・安心を確保するための公益重視の管理経営を推進し、その組織力、技術力を生かして、国有林野の荒廃地や保安林を整備するとともに、民有林と一体となって災害復旧、被災地域の支援を行い、また、林業の低コスト化等に向けた技術の実証・普及、人材の育成を支援します。
(2)地域経済、住民生活向上に寄与
国有林野の活用により、林産物を計画的・安定的に供給し、地域経済の振興、住民生活の向上に寄与するよう支援していきます。
(3)自律的労使関係制度の措置と人材確保
国有林野職員について、自律的な労使関係の下で労働関係の調整が行われてきたことに鑑み、引き続き労使関係を円滑に調整するため、国家公務員制度改革による自律的労使関係制度が措置されるまでの間、暫定的に、労使関係に関する従前の法律関係を確保するための措置を講ずるとともに、人材の確保を図ります。
(4)樹木採取権制度の見直し
国有林野の樹木採取権制度について、樹木採取権者による採取跡地の再造林の実施状況など、その運用状況を検証し、問題があれば制度を見直します。
(5)花粉症対策の推進
スギ・ヒノキ等による花粉対策として、無花粉・低花粉のスギ・ヒノキの苗木の生産拡大を進め、建築分野における需要創出策とともに伐採加速化計画を策定し、実行します。花粉飛散情報や飛散防止剤の実用化など飛散対策を進めるとともに、医療提供体制の整備を進めます。
以上
2023(令和5)年5月25日
「次の内閣」閣議提出
立憲民主党「水産政策」(中間報告)
立憲民主党 農林水産部門
水産政策ワーキング・チーム
1.環境変化に打ち勝つ大胆な経営支援
(1)「積立ぷらす」を強化
近年の異常気象や海洋環境の変動にも対応できるよう、漁業収入安定対策である「積立ぷらす」を強化します。また、魚価安定のために調整保管を行う特定水産物供給平準化事業の整備強化を図ります。
(2)“コロナ後”対応を強力支援
内食需要の拡大など、国民の生活様式が変化しているコロナ後の状況に対応するため、新たな水産加工品の開発・普及、水産物流通の改革を支援します。
(3)価格高騰から漁業経営を守る
漁業用燃油や養殖用配合飼料価格等の漁業用資材価格の急騰に対応するため、「漁業経営セーフティネット構築事業」を活用し、国の負担割合を高めて補塡金を早急に支払う等により、困窮している漁業経営の安定を図ります。
2.収入アップ!スマート水産業
ICT技術を活用して生産・加工・流通の連携を高め、水産業全体での生産性向上や漁獲物の高付加価値化を図る「スマート水産業」を推進し、漁業者一人ひとりの所得向上を実現します。
またスマート水産業の展開に当たっては、漁業者に過度な負担が生じないよう、十分な支援措置を講じます。
3.漁業者の収入を守り、豊かな海・川を取り戻す
(1)漁業経営の安定に向けた適切な資源管理
新漁業法及び水産基本計画における水産資源管理施策の基本は、MSY(最大持続生産量)の実現のためにTAC(漁獲可能量)及びIQ(個別割当)により産出量規制を行う出口管理(アウトプット・コントロール)です。
地球温暖化による近年の海洋環境の変動や乱獲による資源量の減少などを踏まえ、出口管理のみならず、従来からの漁船の隻数、漁期、網目等の入口管理(インプット・コントロール)、及び技術的規制(テクニカル・コントロール)を適切に組み合わせて、科学的根拠に基づく適切な資源管理を行います。
(2)漁業者共済制度の補塡措置を拡充
資源管理に当たっては、水産資源の管理・利用に関する科学的調査・研究をさらに促進させ、資源評価の制度を高めるとともに、漁業者の意見を十分に聞いて、その経験と知識を活かします。なお、積立ぷらす及び漁業共済制度を見直し、TAC制度の適用など出口管理によって漁業者の収入が減少する際には、十分な補塡措置を講じます。
また、前浜の活用については、漁業経営の安定と新たなルールづくりに取り組み、未来を見据えた漁村の振興に資するよう決定してまいります。
(3)やるぞ内水面漁業活性化
内水面漁業にとって、漁協の組合員数及び遊漁客の減少は大きな課題であり、活性化に向けて「組合員の増加」「遊漁の振興」「運営の効率化」「被害の軽減」を目指します。
基本計画に基づく都道府県計画策定の推進、自治体との連携による新規組合員の加入促進、漁業被害防除対策支援、水産資源保護を前提とした遊漁規制の緩和、 広報活動等による遊漁の普及促進、アウトリーチによる国の補助制度の活用促進、錦鯉の輸出拡大を行い、活性化を図ってまいります。
4.漁村のにぎわいを取り戻す
(1)漁業の多面的機能を国民にPR
漁村及び漁村住民は、魚介類を採取し、これを国民に安定的に供給するばかりではなく、自然環境の保全、国境監視、海難救助、保健休養や学習の場の提供など、国民全体にとって極めて重要で多面的な役割を果たしております。また、資源変動等により地域漁業が不振に陥っている状況が見られます。これらのことを改めて認識するとともに、現在、過疎化が進行している漁村地域の振興を図ってまいります。
(2) 他分野連携による活性効果促進
漁業・養殖業及び水産物加工・流通業の振興、漁港の整備、海業などの自然環境を活用する新たな事業の展開、農業など他分野との連携を促進します。また、遊漁についても、漁場利用調整に支障が生じない範囲で、漁村の活性化に資するよう振興します。
(3) 女性も若者も輝く漁村へ
漁村振興を推進するためには、年齢バランスの取れた漁村構造を確立することが必要です。今後は、漁村における諸活動に女性がさらに参画できる環境を整えるとともに、都市に住み・働く若者にも漁業就業や漁村定住の魅力を伝える案内・研修を行う等、若者が漁村に移住し、定住するよう支援を行います。
5.漁協を中核に、漁村を蘇らせる
(1)漁協機能の重要性を再認識
漁協は、漁村社会の中核としての役割を果たしてきました。しかし、経済的基盤の弱さなどから、その組織強化のために合併が推進されてきました。漁協合併後において、合併前の漁協が支所などとして残り、引き続き、従前からの漁村社会の中核としての役割を担っている例が多くあります。漁業・漁村の振興に当たり、漁村住民で構成する漁協の機能は極めて重要であることから、その果たす役割を再認識し、漁協経営の安定、組織の強化を図ります。
(2)足腰のつよい漁協をつくる
今後の漁協が、地域の漁業・水産業はもとより、漁村や前浜の資源を活用・再生する「浜プラン」や海業などの多様な事業を推進する中核的組織として十分に機能するよう、組織の活性化と基盤強化を図ります。
6.水産業の振興と消費拡大の好循環を生み出す
(1)「サカナを食べよう」キャンペーン
最近における消費者の簡便化志向、生活様式の変化、水産物需要の減退等に対応し、消費者のニーズに適合した水産物の供給、若者の魚食習慣の形成促進が必要となっています。このため、需要に見合った水産物加工品の開発・販売をはじめ、国民の健康増進に資する魚食の普及活動を推進します。
(2)国産水産物の安定供給・消費を拡大
水産物の生産と消費の関係を示す指標として用いられている水産物自給率は、国内生産量と輸入水産物を含む国内消費仕向量とを対比するものであり、水産物消費量が減ると自給率の数値が上がるという仕組みになっています。今後は、この自給率指標にかかわらず、我が国水産業が、国民のニーズに応えて水産物を安定供給し、持続的に国民の水産物消費の拡大に貢献する施策を推進します。
7.操業の安全を守り抜く
日本とロシアとの外交関係に変化が生じつつある状況下にあって、両国間のサケ・マスに関する日ソ漁業協力協定、日ソ地先沖合漁業協定、北方四島周辺水域操業枠組協定及び貝殻島昆布協定に基づく交渉などの行方が危ぶまれています。この他にも二国間・多国間での漁場競合が起こっている中で、関係水域において、これまで通りの安全操業を確保し、我が国漁業者に影響が生ずることのないよう関係省庁を督励するとともに、万ーの場合に備えた体制を早急に整備します。
8.捕鯨の伝統を次代につなぐ
我が国の商業捕鯨の安定的実施のために、捕獲枠の増加、鯨種の追加、操業水域の拡大を目指し、資源の活用をさらに推進します。
商業捕鯨については、伝統や食文化を守り、つなぐために、我が国の持つ科学的な知見を活かし、他の捕鯨国との連携を強化し、理解の向上に努めます。
9.理解なき海洋放出に反対
ALPS処理水の処分について、政府は国民的議論を経ることなく、夏頃までに原発からの海洋放出を見込んでいますが、地元や漁業関係者等の理解を得ずに実行することに反対します。今後、政府が行う風評被害対策が具体的かつ実効性ある取り組みであるかを徹底的に検証し、風評の払しょくに努めるとともに、トリチウムの分離等の技術開発による根本的な解決策も目指します。