石川香織議員は12月2日、衆院本会議において、石破総理の所信表明演説に対する代表質問を行いました。予定原稿は以下の通り。

所信表明演説に対する代表質問

立憲民主党・無所属 石川香織

 立憲民主党の石川香織です。私は会派を代表し、石破総理の所信表明に対して質問いたします。

(1)選択的夫婦別姓/(2)~(6)年収の壁/(7)介護・障がい・保育/(8)~(9)教育/(10)マイナ保険証/(11)~(20)一次産業の課題/(21)地方創成/(22)闇バイト

(1) まず、「選択的夫婦別姓」について伺います。1996年に法務省の法制審議会において、選択的夫婦別姓制度の導入の答申をしてから28年が経ちました。立憲民主党は「選択的夫婦別姓」実現を求めてすでに衆議院で9回、参議院で15回、民法改正案を提出していますが、一部議員の反対などにより長い間審議されてきませんでした。

 しかし今年6月には、経団連が早期実現を求める提言を発表、衆議院選挙中に共同通信社が実施した調査では、選択的夫婦別姓の導入に67%の人が賛成をしています。先日も女子差別撤廃委員会から「夫婦同姓」を定めた民法の改正を求める、4度目の勧告が出され、法務省の調査では、夫婦同姓を義務化している国は日本しかありません。

 石破総理は総裁選時に「実現は早いに越した事はない」と発言されていました。しかし総理になった10月の国会答弁では、選択的夫婦別姓の実現について、「国民の間に様々な意見があり、国会における議論の動向などを踏まえ、更なる検討をする必要がある」と大幅に後退しています。

 総理、衆議院選挙を経て、選択的夫婦別姓に賛成する政党の議員数が大幅に増えました。国内外の機運も高まっている今、選択的夫婦別姓実現を決断するべきなのではないですか。石破総理が答弁した「更なる検討」はいつまでに終えるおつもりでしょうか。

 次に物価高の中で働く人を支援する方法について伺います。

(2) まず、年収の壁です。様々な壁がある中で最も重く、重大な壁だと考えるのは130万円の壁です。配偶者の扶養家族だった人が年収130万円以上で働くと、国民年金・国民健康保険の保険料負担が生じて手取りが約30万円減ってしまう、これがいわゆる「130万円の壁」です。

 立憲民主党は、収入に応じて社会保険料の負担が発生する「壁」による、「働き控え」「手取りが減る」ことをカバーできるよう「就労支援給付制度の導入に関する法律案」を提出しました。年収が130万円以上になると、社会保険料の負担分が収入が増える分よりも多くなります。私達の法案では年収が130万円を上回って200万円に達するまでの間、徐々に金額を減らしながら給付金を支給し、手取りが減るのを抑え手取りが右肩上がりになるようにします。103万円の壁を引き上げると数兆円の減収となる試算がなされていますが、この法案は約7800億円で実現できます。

 11月27日の自公の幹事長、国対委員長会談では「130万円」の壁の見直しもあわせて議論していくことで一致したと報道されていますが、総理、130万円の壁の見直しはどんな中身になるのでしょうか。また、立憲民主党案は予算さえ組めばすぐ実現できます。総理、早くやるべきではないでしょうか。

(3) 103万円の年収の壁を引き上げることによる地方財政への影響について伺います。103万円の壁を引き上げることで、地方にとっては大きな減収になるという懸念が知事や市町村長からあがっています。11月25日の全国知事会も地方の減収分を国が十分補填するよう総理に要望しています。住民税と所得税、両方の壁の引き上げをやるのでしょうか。それとも、一部報道に出ているように、所得税の壁だけを引き上げるのですか。それぞれの場合でも、地方への減収はすべて補填されるのでしょうか。所得税収が減ることによる地方交付税の減額分を国が補填するのでしょうか。住民税非課税世帯への各種支援策の対象が広がることに伴う、地方公共団体の歳出増も補填されるのでしょうか。

(4) 103万円の壁を引き上げて控除額を増やすと、低所得者より高所得者の方の税率が高いため、減税額は高所得者ほど大きくなると思われますが、これは不公平だという指摘について総理はどのようにお考えですか。

(5) 現行の制度では、年収が106万円を超えると、社会保険料を支払わなければなりません。これがいわゆる「106万円の壁」です。しかし所得に関わらず、週20時間働けば、社会保険料を払わなければならないという案について、厚生労働省の審議会で議論が続けられています。「106万円の壁の撤廃」については、その方向で最終調整に入ったなどの報道がなされていますが、壁を撤廃するのですか。それはいつからですか。

(6) 今度は雇う側の視点から伺います。例えば、5人のパートタイマーの従業員を雇う事業主は、現行において5人とも収入が106万円になったら新たに厚生年金だけで年間50万円ほどの負担増になります。これは中小企業の社長にとっては大変な負担です。さらに厚労省は、「106万円」の壁を撤廃する場合、労使折半である社会保険料の負担割合を労使合意で変えるという特例が厚労省から提案されました。つまり、社会保険料の負担割合が事業主と労働者の間での半分半分ではなく、事業主9労働者1ですとか、7対3などというように変えることができるようになるというものです。

 しかし、会社によって負担割合に格差が出るため、結果的に大企業に人材が流出するのではないかという懸念もあります。日本商工会議所の小林会頭は、この厚労省の特例案に対し、「不公平で、企業により多い負担を求める理由がない」と不快感をあらわにしています。

 一方、私達立憲民主党は先の国会ですでに「社会保険料・事業者負担軽減法案」を提出しています。この法案は、新たに正社員を雇用した中小企業の社会保険料負担を補助して、正社員を増やし、結果的に経済的な理由で結婚や出産をあきらめないことにもつながるものです。総理、様々な物価が上がる中で、賃上げの原資を確保するのに大変苦労をされている中小企業が求めているのは、社会保険料の「更なる負担」よりも「補助」だと思いますが、いかがでしょうか。

(7) 次に、介護・障がい・保育について伺います。総理の所信表明演説の中では、介護については一切、触れられていませんでした。残念です。訪問介護は、利用者一人ひとりに応じたサービスを提供するためより高いスキルが求められ、在宅できめ細やかなサービスが受けられる「地域の最後の砦」とも言えます。それにも関らず、基本報酬が引き下げられました。24年度の上半期、訪問介護事業所の倒産は過去最多となっています。訪問介護事業者に支援金を支給すべきではないでしょうか。

 昨年11月に決定された、介護・障がい福祉職員を対象に収入を引き上げる措置は評価しますが、月6000円ではあまりにも少なすぎです。また、支給対象は事業所が限定され、支給額の算定には事務職員や調理員が含まれません。立憲民主党は全ての介護・障がい福祉事業所の、すべての職員に対し漏れることなく、政府の処遇改善6000円に月額1万円(全額国費)を上乗せする形で、処遇改善を行う法案を再提出する予定です。総理、国の処遇改善6000円にプラス1万円を上乗せして、額を引き上げるべきではないですか。更に支給対象者も全ての事業者、全ての従業員にするべきではありませんか。立憲民主党は保育士・幼稚園教諭の処遇を改善する法案も提出予定です。

(8) 次に教育について伺います。残念ながら教育分野に関しても、29日の所信表明演説では1行と5文字のみでしか触れられていませんでした。教育の現場で、先生たちは疲弊をしています。授業や授業準備だけでなく、テストの採点や書道や絵などを廊下に掲示するなどといった仕事に先生たちは日々、膨大な時間を費やしています。先生たちの仕事量を減らす取り組みが重要です。

 10月の代表質問で「先生たちの仕事量を減らすための具体策」を聞いた吉田はるみ議員の質問に対し、石破総理の答弁は「働き方改革」、「デジタル技術の活用」のみで具体的な答弁はありませんでした。デジタル化で仕事を効率化することに対して否定はしませんが、先生たちが行っている優先順位の低い仕事を減らし、先生たちの数を増やす取り組みが必要ではありませんか。

(9) また、石破総理の教育現場における「働き方改革」とは何ですか。具体策を伺います。教員の処遇改善として、残業代の代わりに基本給に上乗せする教職調整額を4%から13%に引き上げる方針については一定、評価しますが、「定額」で働くことには変わりありません。立憲民主党は「定額働かせ放題」と言われる今の状況を打破するために給特法を廃止し、通常の民間企業と同じように、残業代が全額支払われるべきだと考えますが、総理の所見を伺います。

(10) さて、今日12月2日は、現行の紙やプラスチックの保険証の新規発行が停止される日です。今日からただちに紙の保険証が使えなくなるわけではありませんが、今お持ちの紙の保険証が使えるのは有効期限までです。石破総理は、総裁選の際「不利益を被る国民が一定数いた場合は、紙の保険証と当面併用することも選択肢として当然」だと発言しました。しかし、総理就任後の10月の代表質問では「現行の健康保険証の新規発行終了につきましては法で定められたスケジュールで進める」と答弁しました。総裁選の時はあたかも、1年以上併用できるようにも受け取れる言い方をしておきながら、結局はもともと決められた話をしただけということなのでしょうか。総理の真意を伺います。

 全国保険医団体連合会のアンケートによると、マイナ保険証を利用の際のトラブルとして名前や住所が正しく表記されないことや、カードリーダーの接続不良・認証エラーなどが報告されています。周知が十分とは言えない中、引っ越しや新入社員が入社する来年3月や4月が切り替えラッシュにもなると予想され、更に混乱する可能性があります。

 また、総理の所信表明演説で総理はマイナ保険証について「国民の皆様の不安には迅速に応え、丁寧に対応するというのが私の考えです」と述べていましたが、具体的に何をするのかお答えください。また、「お持ちでない方には資格確認書を速やかにお届けする」と声高に言われていましたが、実際に届けるのは健康保険組合や国民健康保険組合など保険者です。国民ひとりひとりの手元に紙の保険証の有効期限が違う中で「速やかに」とはいつ頃届くことをおっしゃっているのでしょうか。目安がありましたらお示しください。

(11) 次に一次産業の課題について伺います。石破総理は、2008年に農林水産大臣に就任されていますが、あれから16年が経ちました。この間、一次産業の現場はどうなったでしょうか。農家戸数は180万経営体から88万経営体になり、半減しています。食料自給率は41%から38%と、減少しました。農水省によると、国が安定供給をめざすニンジンやほうれん草などといった「指定野菜」のうち、10品目が今年、統計開始以来、最少の作付け面積になったそうです。省力化などの取り組みも努力されていますが、高齢化や労働力不足の影響が大きくなっています。

 総理の所信表明演説では「人口減少下においても、食料産業の生産基盤を強化し、安定的な輸入と備蓄を確保することなどを通じて、食料安全保障を確保」となっていました。総理、農家戸数も食料自給率も16年間で減少しています。食料産業の生産基盤を強化するためにはどんなことが必要だとお考えでしょうか。具体的な目標や方法があればお答えください。

(12) 今年はあちこちでお米が買えない、異常事態が発生しました。お米の価格高騰や、特定の銘柄が手に入らないことなどは今年初めころから米農家や卸などですでに認識をされていました。それにも関わらず結果的に混乱を招いたことは、政府の見通しの甘さがあったのではないかという点をまず指摘します。所信表明演説では、「この夏、店頭から米が一時消えたことは記憶にあたらしいところです」とどこか、他人事のような表現でした。今年の夏にお米が手に入らなくなった原因を総理はどう分析していますか。また、もし石破総理だったら、どのような対応をされましたか。

(13)現在、米は流通しているものの、価格は高いままです。消費者からすると少しでも値上げは避けたいものですが、長い間米価が安く、農家が苦しめられてきたのも事実です。消費者と農家の双方が納得する適正な価格形成は簡単ではありません。立憲民主党はだからこそ、価格は市場で、所得は政策でと切りわけるべきだと考えます。9月28日の日本農業新聞の記事によると、総理は「米の増産にかじを切り、輸出を拡大するべきだと訴えた。生産拡大に伴う米価下落には「直接所得補償」で対応するとし、水田転作などに充てている約3500億円を財源とする考えを表明」とされています。一方で、石破総理は、10月の代表質問で他党議員から「米にも直接支払い制度が必要ではありませんか」と問われた際、「農業者の創意工夫や日々の努力にブレーキをかけ、また農地の集積、集約化が進まなくなる等の指摘もございます」と答弁しました。民主党政権で始まった戸別所得補償制度は、自民党政権でなくしてしまいましたが、総理の案は、農業者が米を増産する事を可能にし、米価下落に対しては「直接所得補償」で対応するということでしょうか。

(14) 25年ぶりの食料・農業・農村基本法の改正と同時に、先の国会で食料供給困難事態対策法が成立しました。これは自然災害や世界情勢の影響などによって国内での食料供給が大幅に不足した際、増産や作る作物の変更などを国が生産者に指示できるというものです。更に、計画の作成や提出を拒否すると農家に20万円の罰金を課す事も決められました。これに対し、農家からは「国への不信感になる」「生産意欲を損なう」といった声が上がっています。総理、今からでも農家への罰則規定は撤廃するべきだと考えますが、いかがですか。また、総理の地元、鳥取県の農家の皆さんからは「農家の罰金」についてどんな声が聞かれましたか。

(15) 所信表明演説では、「人口減少下においても農林水産業・食品産業の生産基盤を強化し、安定的な輸入と備蓄を確保すること」と述べられていました。コロナ禍、生乳生産が過剰と言われていた状況がようやく改善した矢先で、バターが追加輸入されました。2年前、政府は15万円の奨励金で牛を処分するといった政策まで実施しましたが、生産現場は需給と供給のバランスのために生産調整に協力してきました。バターの追加輸入は夏の暑さの影響で生乳が足りないという理由ですが、生乳が足りなくなったのはこの数年間、酪農家が生乳生産を抑制、減産した事による生産基盤の弱体化の影響も大きかったではないでしょうか。

(16) 日本の人口が減る中で、国内の一次産業の発展のためには輸出も重要だと考えます。安心安全な日本の農作物は海外で人気があります。例えば、ロングライフ牛乳という常温で約90日間、保存がきく牛乳もアジアで輸出を伸ばしています。また、世界でも高い評価を受ける和牛は、生産量のうち5%ほどしか輸出しておらず、伸びしろがあると思います。こうした日本の農林水産物の輸出の販路拡大や輸出国のニーズに応えていくには、国が積極的に民間をサポートする必要があると思いますが、総理はどうお考えですか?また具体的にどのようなサポートをしますか。政府は、農林水産物・食品の輸出額目標を2025年までに2兆円、2030年までに5兆円達成としています。総理、来年、輸出2兆円を達成できますか。

(17) 収量や品質を維持するために必要な「肥料」について伺います。肥料の価格上昇分に対して補填するという国の制度は、昨年まではありましたが終了しました。今年6月、当時の坂本農水大臣が肥料価格について「急騰とは言えない」として支援対象ではないという認識を示しました。しかし、農業物価統計において、肥料価格は令和2年を100とすると今年9月は139.5%となっています。総理、肥料高騰について、今年は国として直接支援する必要はないという認識なのでしょうか。

(18) 家畜のエサである飼料も高止まり状態です。家畜のエサとして複数の穀物などを混ぜた配合飼料は、価格が急騰した時は補填される仕組みがありますが、価格が高止まり状態だと「価格が変動していない」という算定になり、生産者に十分補填されません。ダメージが今後も長期にわたる可能性がある今、収入を支えるという本来の機能を発揮できる仕組みを早急に作るべきだと考えますが、いかがでしょうか。

(19) 漁業について伺います。所信表明演説では「農林水産業」や「農山漁村」という言葉はありましたが、「水産業」についての具体的な言及はありませんでした。しかし浜は気候変動の影響も大きく受けています。近年は、北海道や東北地方で高温によりホタテやあわびの稚貝と呼ばれる、成長前の貝がへい死する壊滅的な被害を受けています。貝は出荷されるまで2~5年ほど要するため、将来の影響が懸念されています。赤潮被害で壊滅したウニも食べられるまでに育つのは4年かかりますが、ようやく3年目です。総理は党の水産総合調査会長も務められていましたが、気候変動による影響が避けられない中、浜の皆さんを中長期的にどう支えていきますか。

(20) 林業について伺います。日本の森林率は先進国で3位であるにも関わらず、木材の自給率は約4割程度であり、十分ではありません。国産材を活用する事は「切って」「植えて」のサイクルを活性化し、災害防止となる治水や、地球環境への配慮の観点からも大変重要です。国産材をもっとたくさん活用するための振興策を伺います。

(21)2014年、政府が人口減少克服と東京一極集中の是正を目指し、政府が地方創生をスタートさせてから10年が経ちました。初代、地方創生担当大臣に就任されたのが石破総理です。総理は所信表明演説で「地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増する」と述べられましたが、予算ありきではなく、例えば、東京一極集中は是正されたのか、人口減少のスピードを遅らせられたのか、どのような指標でこの10年間の「地方創生」を評価するのか具体的に定量的な数字でお答えください。また、地方創生推進交付金は定量的にどのような効果があったのでしょうか。もし、仮にはっきりとした定量的な効果が示せないとしたら予算を増額だけしても効果は薄いのではないでしょうか。

(22)いわゆる「闇バイト」対策について伺います。犯罪実行者の募集を、適法な求人かのように装って行い、応募者に詐欺や強盗などを行わせる、いわゆる「闇バイト」による犯罪被害が深刻化しています。警察庁はじめ関係省庁の対策を一層強化する必要があります。たとえば、犯罪実行者募集のSNS投稿を、警察庁の委託事業である「インターネット・ホットラインセンター」によれば、削除依頼しても速やかに削除されるのは8割程度にとどまります。問題は削除されていない2割の投稿です。総理は所信表明演説において、「「闇バイト」を募集する情報のインターネット上からの削除にも一層努めてまいります」と述べましたが、残りの2割の投稿についてどのように削除するのでしょうか。「闇バイト」による犯罪被害防止をどのように徹底していくのか、見解を伺います。

 石破総理が就任されて2か月が経ちました。しかし総理は、10月に予算委員会をやると言ったのにすぐに解散、マイナ保険証の併用期間延長の可能性や選択的夫婦別姓への積極的姿勢など、多くの国民を期待させたのに裏切ってしまっています。そのことは衆議院選挙の結果でも明白です。総理大臣と引き換えに「政治家・石破茂らしさ」を失ってしまったとすればあまりにも残念です。総理は総裁選で、政治家のあるべき姿として語ってきた「勇気と真心で真実を語る」姿勢で、石破総理「らしい」答弁に期待して私の質疑を終わります。