辻元清美参院議員は、12月3日、参院本会議において、石破総理大臣の所信表明演説に対して(1)熟議と公開(2)補正予算と能登震災支援(3)政治改革(4)「年収の壁」問題――等について質問しました。予定原稿は以下の通りです。

所信表明演説に対する代表質問

立憲民主・社民・無所属 辻元清美

(1)熟議と公開

 立憲民主党の辻元清美です。会派を代表し、石破総理の所信表明演説に対し、質問をいたします。
 衆議院では、「与党・過半数割れ」になりました。与党多数で押し切る国会ではなく、「与野党、国民の見える所でオープンに、しっかり議論をして、合意形成してほしい」という民意を示されたのです。そこで、総理、約束してください。「与党多数」の本院・参議院でも、「熟議と公開」 よろしいですね?

(2)補正予算と能登震災支援

 さて、総理、やっと、補正予算。「能登の被災者」に届くのはいつですか?「震災関連死」が 247 人にのぼり、直接死の227人を上回りました。地震では生き延びたのに、その後の困難の中で命を落とす。
 だから、一刻も早く補正予算で本格支援を開始しよう、そう私たちは言ってきたのです。なのに、石破総理は、被災者支援より、「裏金隠し・自己都合解散」を選んだ。その間に、救える命があったのではないですか。能登はこれから、厳しい冬を迎えます。地震から元旦で1年。1年たっても、本格支援の補正予算が届かない。これが、石破政権の実態です。これ以上、犠牲者を出さないために、どのような対策を行うのか、具体的に示していただきたい。

(3)政治改革

 能登の被災者の方々や物価高で生活が厳しい国民は増えています。なのに、自民党の「裏金・脱税事件」の決着はまだついていません。そこで、来年夏の参議院選挙の公認問題。総理は、「衆参で違う対応をすることはございません」と述べ、参院選でも同じ基準で非公認の判断をする考えを示しました。このお考えに、変わりはないですか?参院選の非公認の基準は、どうするのですか?また、非公認の支部にも 2千 万円を配るのですか? お答えください。
 総理、「政策活動費」は廃止するのですね?今まで、自民党は、「これだけは廃止できない」と言い張っていましたが、選挙後、廃止と言わざるを得なくなった。これは、「1票の力」で政治を動かした「証(あかし)」ではないでしょうか。しかし、自民党は、まだ「抜け道」を探しています。「外交や営業の秘密」また「プライバシー」などを理由に、「例外」を設けるのですか?「第2の政策活動費」になりかねません。その抜け道の一つが、地方組織。地方組織の政策活動費も廃止でよろしいですね?

(4)「年収の壁」問題

 さて、次は、「年収の壁」問題です。総理は、所信表明演説で、「103 万円の壁」の引き上げに言及されました。総理、この引上げ額を決めるに当たって、「何の指標」を使いますか? 「最低賃金」ですか、それとも「消費者物価指数」ですか?お答えください。
 さらに、最低賃金、そして消費者物価指数の「食料品」、「基礎的支出項目」、「総合」それぞれについて、「引き上げ額」と「国・地方の税収減」の試算をお示しくだい。「103 万円の壁」を引き上げても、その先には、「130 万円の崖」に直面します。現状では、130 万円を超えてると、国民年金・国民健康保険の保険料を支払うことになるものの、「将来受け取る年金給付が増える」などのメリットはありません。
 立憲民主党では、この「130万円の崖」を給付金で埋める「就労支援給付制度の導入に関する法律案」を国会に提出しました。政府の二年間程度の臨時的な措置では不十分です。「壁」と「崖」、この際、合わせて解消することを提案いたします。いかがですか?

(5) 闇バイト対策

 さて、連日、「闇バイト事件」が報道されています。まず、政府が、やっと動き出した、「闇バイト対策」について説明してください。「まともに働き、安定した収入があれば、闇バイトとは関わらなかったと思う」。これは、闇バイトに手を染めてしまった若者の声です。闇バイトに至るまで、4人に3人は就労・就学をしていたという調査があります。そこからは、貧困家庭の問題や仕事があっても不安定で低賃金、生活ができない若者の実態が浮かび上がってきます。
 そして、被害を受ける高齢者の社会的孤立があると言われています。私は、根絶するためには、「啓発や取り締まり強化」はもちろん必要ですが、「貧困対策や若者の低賃金の改善」など、闇バイトがビジネスとして成立しない社会を作る必要があるのではないかと考えます。総理、いかがですか?

(6) スポットワーク

 この「闇バイト」に悪用されているのが、「スポットワーク」との指摘もあります。近年、若者を中心に、「スポットワーク」や「すきまバイト」が拡がっています。大手アプリ4社には、延べ2千万人以上が登録。一方で、「内容や労働条件が異なっていた」、「けがをしたが労災認定されなかった」など、トラブルも増えています。禁止された「日雇い派遣」と同じような問題が、スポットワークでも発生しているのではないですか。「実態調査」と「ルール整備」を行うべきと考えますが、総理、いかがでしょうか?

(7)非正規雇用問題

 総理は、「非正規雇用をなるべく減らさなければならない」、と主張されていましたよね。なぜ、減らさなければならないと考えるのか?どのような施策で、減らしていくのか? 答弁を求めます。
 「同一労働同一賃金」の法整備後も、基本給を見直した企業は半数、ボーナスは2割、扶養手当や退職金に至っては1割未満に過ぎません 。
 若者が安定した仕事につくためにも、私たちは、「同一労働同一賃金」の法制度の「不備」を改める必要があると考えます。総理、いかがでしょうか?
 また、総理は、「政労使会議」で、「2020 年代中に、最低賃金の全国平均を1500円に引き上げる対策案を、来年の春までにまとめる」と方針を示しました。総理、2020年代中に 1500円でいいですね?どこで、だれが議論して、来年の春とは何月までに対策案をまとめるのか、お示しください。
 先日、衝撃的な「将来推計」が発表されました。「2050年には全世帯に占める単身世帯の割合が44.3%」になると示されたのです。ほぼ二人に一人が、単身世帯。総理の受け止めはいかがでしたか?私も「シングル」で、こうやって仕事をして、強そうに見えるかもしれませんが、「親の介護」や「自分の老後」を考えると、時々、大きな不安に襲われることがあります。だから、もっと厳しい環境の人たちの「不安はいかばかりか」、と胸が痛みます。
 もちろん家族を持つ、持たないは個人の自由ですが、希望しても家族を持てない人も増えています。単身世帯の増加、その原因の1つが、やはり、不安定な非正規雇用の問題。総理、この認識はありますか?

(8)企業団体献金の禁止

 さて、民主党政権から二回目の安倍政権に移った時、経済団体が自民党への「企業献金」の呼びかけを再開し、ほぼ同時期に「労働法制の規制緩和」を要望しました。あれから 12年、非正規雇用が約4割に達し、少子化が加速され、単身世帯が増加。日本企業の国際競争力は低下し、「経済成長しない国」に陥ってしまったのではないですか。
 総理も、所信表明で、「30年前、日本のGDPは世界全体の18%を占めていましたが、直近の2023年では4%です。1位だった国際競争力は、今、38位に落ちています」と述べ、この現状を認めています。
 総理は、アベノミクスについて、「トリクルダウンは結局起きなかった」と、はっきり、おっしゃってきました。今も同じ認識ですか?「企業献金」をしてきた経済団体の要望を忠実に実行した結果、トリクルダウンは起きず、富が偏る「不公正な政策決定」がなされた、と感じている国民がたくさんいる。総理はそう思いませんか。
 国民が「不公平感・満載」で、「政治が信頼できない国」に、経済成長はありません。企業・団体献金について、総理は、54年前の最高裁判決を「錦の御旗」のように答弁していますが、同じ判決には、「大企業の巨額の寄付について、金権政治や政治腐敗の醸成といった弊害」との表記もあり、法律での対処についても言及しています。
 日本の「公平・公正で健全な経済発展」のためにも、総理、「企業・団体献金の禁止」、ここで明言していただきたい。いかがですか?

(9)防衛増税

 次に、防衛増税。総理は、「年末の税制改正で決着をつける」との認識を示しました。今月中に決めるということですか?総理、そもそも自民党内はまとまるのですか。茂木元幹事長は「防衛増税は必要ない」と主張。また、来年夏の参院選を控え、参議院・自民党からも「増税反対の狼煙」が上がるのではないですか? まとまらないのなら、それまでの財源はどうするのですか?
 また、トランプ次期大統領に近い元政府高官は、「GDP比3%程度」への引き上げに言及しました。そもそも総理は、「NATOも2%引き上げるから日本も2%というのは相当に乱暴なお話」と発言していました。ならば、3%なんて、突っぱねるのですよね?はっきり、お答えください。
 また、総理は、「円が高い時に設定された計画だ」とし、「物価や人件費の高騰、為替変動を考えると、43兆円を見直す必要がある」とも述べています。1ドル108円での計算が大半で、本年には1ドル160円すら記録しています。予算の「3 割が消失」した現状、「積み上げた装備」を買うのは、不可能ではないですか? 「43兆円」を超過するようなことはないと断言できますか?
 また、総理は、「積み上げた予算をひとつひとつ点検していくべき」と、まともな事も言ってきました。総理の言葉通り、無駄がないか点検するべきです。いかがですか?思い切って、「防衛費のムダ」を削って、「生活と地域を守る予算」に回したらいかがでしょうか。
 例えば、給食費の無償化。所信表明で、総理は、「人づくりこそ国づくり」とおっしゃいました。国を守るのも、新しい産業を生み出すのも「人」。未来を担う子どもたちが、栄養バランスの取れた「世界一美味しい給食」が食べられる国にしましょう。
 立憲民主党では、他の野党と協力して「学校給食無償化法案」を提出予定です。総理、給食の無償化、実現しましょう。見解をうかがいます。

(10)交通崩壊

 また、総理は、政界きっての「鉄道ファン」。そこで、「鉄っちゃん・総理」にお聞きします。総理、全国各地で赤字ローカル線やバス路線の存廃が問題になっています。総理は、「状況が厳しいから本数を減らす、サービスを落とす、路線を減らす。本当にそれでいいのだろうか」と危機感を訴えてきました。「交通崩壊」を食い止めるため、どれくらい予算をかけて、何をしますか?地域公共交通再編支援の予算は、363億円。一方、総理が、5割高だと指摘している「イージスシステム搭載艦」は2隻で7900億円。1隻分の予算だけでも公共交通予算に回せば、どれだけの人や地域が守れるのか。現に、防衛予算は、1300億円、使い残しています。43兆円、見直しをして、交通崩壊を食い止める予算に回しましょう。いかがですか?

(11)日米地位協定の見直し

 次に、日米地位協定。16年前、私は衆議院予算委員会で、当時の石破・防衛大臣に、沖縄での「米海兵隊員による女子中学生への性暴力事件」について質疑を行いました。この時、総理は、地位協定改定にふれ、「犯罪を減らすことにどのように資するかということを、ちゃんと議論しなければならない」と、答弁しています。
 あれから16年、総理は、どこで、どのように地位協定について議論してきたのですか?性暴力被害は改善されたのですか?昨年の報道ベースだけでも、沖縄では、2か月に1回くらい女性への暴行や性被害が発生しています。16年前に私が質問した時から、まったく改善されていません。10月に女子差別撤廃委員会で、初めて、「米軍による性暴力」に言及した勧告が出されました。どのように対応しますか?
 総理は、那覇市で、「見直しに着手する。運用改善だけで済むとは思わない」と表明。沖縄県民へのこの約束は極めて重いですよ。
 「オスプレイの事故」などに危機感を持つ「全国知事会」でも、全会一致で抜本改定の提言が出されています 。着手の一歩として、「有識者や首長も入れた検討会」の設置を提案します。総理、いかがでしょうか? 一緒にやりましょうよ。

(12)非核三原則と憲法九条

 総理は、核政策についても、「米国の核シェアや核の持ち込みも具体的に検討せねばならない。」と主張されてきました。理由を説明してください。これに対して、ノーベル平和賞・受賞の被団協・田中代表委員は、「怒り心頭」と批判しています。
 総理、「核シェアや核の持ち込み検討」か、それとも「非核三原則堅持」か。ここで、はっきりさせていただきたい。
 一方、核兵器禁止条約・締約国会合の「オブザーバー参加」については、「真剣に検討する」とも発言。立憲民主党はこの会合に、毎回、議員を送っています。来年3月に開催されますが、総理、一緒に行きましょうよ。いかがですか?
 また、総理は、憲法9条について、「『3項加憲案』、つまり、9条に自衛隊を書き込む自民党の改憲案には、むしろ積極的に反対」とも主張。私にも、おっしゃっていました。今も同じ見解ですか?

(13)気候変動対策とPFAS規制

 さて、国連気候変動枠組条約について、国際的な懸念があります。それは、トランプ政権になったら、「パリ協定からアメリカが離脱するのではないか」ということ。総理、トランプ次期大統領には、「パリ協定から離脱せず、アメリカの責任を果たすように」、進言するおつもりはありますか?パリ協定、1.5℃目標達成のためには、日本は、「温室効果ガス」の削減目標のさらなる引き上げが必要です。先進国の責任も加味したら70%削減が必要との声もありますが、「目標数値」とその「達成の道筋」を示してください。
 また、水は命の問題です。PFASに関する現在の政府の調査では不十分です。立憲民主党はPFASの調査を国に義務付け、飲み水の安全を確保する法案を検討しています。政府による主体的な調査と公表、規制の強化が必要ではないですか?

(14)外交姿勢

 さて、外交姿勢について。先日のAPECの会合の時、自席で、一人でポツンと、スマートフォンをいじっているお姿を報道で見ました。ずっと、そうしていたとは思いませんが、私は、一抹の不安を覚えました。というのも、石破総理には、「人付き合いが悪い」という定評があるからなのです。総理、外交は、「人付き合い良く」やっていただかなければ困ります。よろしいですね。
 総理が師である田中角栄元総理から大きな影響を受けたという、角栄氏の「非戦」、「対米自立の構え」、「日中国交正常化の偉業」について、どのように理解し、どのような影響を受けたのですか?私は、安倍・岸田路線の「軍備偏重」に危機感を抱いています。過去の過ちを二度と繰り返さないためにも、戦争体験を持つ先輩議員から学ぶことは多い。しっかりお答えください。

(15)選択的夫婦別姓の実現

 さて、この度の衆議院選挙。史上最多の73人の女性・衆議院議員が誕生しました。この内、30人が立憲民主党なのです。立憲民主党は、これからも、「ジェンダー平等政策」実現のけん引力になっていきたいと思います。
 そして、いよいよ、選択的夫婦別姓、実現の時です。27年前から、参議院で15回、衆議院で9回改正案を提出してきました。しかし、自民党は、この30年近く、審議拒否をしてきたのです。報道機関のアンケートでは、今回の衆院選の全当選者、選択的夫婦別姓に賛成は65%、そして反対は、たった15%でした。自民党も含めて、採決したら、衆議院では、今すぐにでも成立する数字です。では、自民党の誰が、審議すら止めているのですか?
 総理、旧統一教会関連団体の国際勝共連合が自民党議員たちに「選択的夫婦別姓」反対を働きかけてきたからですか。今や、これから結婚する若者の大半が賛成になっています。歴代総理は、「さまざまな意見があることから」と同じ答弁を繰り返してきました。今日は、この答弁はなしですよ。「意見がさまざま」だからこそ、「各自が選べるようにするべき」なのではないですか?選択の幅が広がって、いったい、だれが困るのですか。幸せになる人が増えるだけではないですか。私たちは、できるだけ広範なみなさまと一緒に法案を提出をいたします。
 党内がまとまらないのなら、自民党は「党議拘束の壁」をはずしたらいかがですか?審議してみましょうよ。総理、いかがでしょうか?

(16)SNS上の偽情報と選挙

 さて、先日の兵庫県知事選や名古屋市長選、また衆院選でも、SNS上の偽情報拡散による選挙妨害が指摘されました。私もネット上のデマを信じた人に、深夜、事務所の壁を破壊し不法侵入され、危害を加えられそうになったことがあります。
 総理、偽情報、流されたことはありますか? どのように対処してきましたか?所管の総務大臣にお聞きします。公職選挙法では、候補者の「偽の情報」を公表することを禁じ、罰則もあります。SNSへの「偽情報」の投稿も該当しますか?また、特定の候補者を応援する「動画」や「書き込み」の投稿を行う人を有償で募集する行為、これは、公職選挙法違反ですか?選挙においては、各候補者のビラやポスター、使えるスピーカーの数などに制限がかかっています。これは、公平性を担保するためです。このように量的に制限のある選挙運動について、ある候補者が、他の候補者の選挙運動を行うことはできるのでしょうか?仮に、これが許されれば、誰かを当選・落選させる狙いで、複数人が立候補する選挙運動が可能になってしまいます。以上、総務大臣、見解を示してください。欧州委員会は、ガイドラインを採択し、カリフォルニア州では、選挙運動での虚偽コンテンツの拡散を規制する法律が制定されました。
 半年後には、参議院選挙もあります。総理、公正な選挙にするために、現状の問題点を分析し、対策の検討が必要と考えますが、いかがでしょうか?

(17)締めくくり

 最後に、総理が所信表明で触れた石橋湛山氏。湛山氏は、時の体制に抗い、総理大臣になっても、信念を曲げなかった。私には、総理大臣に就任して、すぐに「ブレまくっている」今の石破総理と石橋湛山氏は、正反対に見えてしまうのです。石橋湛山氏は、「政治家にはいろんなタイプがいるが、最もつまらぬタイプは自分の考えを持たない政治家だ」と言っています。総理、このままでは、あなたは、ブレまくり、湛山氏の言う「つまらない政治家」になってしまうのではないですか?
 石破総理とは、20年以上にわたり、さんざん議論をしてきたので、石破さんが苦労してやっと総理になられた時、私は、ちょっと、嬉しかったです。ところが、今は、「正論・石破」の精彩をかき、別人になられたように見えるのです。石破総理は、果たして、ただの「評論家・総理」で終わってしまうのですか。国民も、「石破さんなら、ブレずに、自民党のウミを出し切って、改革してくれる」と期待していた。だから人気が高かった。その石破さんが総理大臣になっても、自民党のしがらみにがんじがらめになって、何も変わらないとなれば、もう、どなたが総理大臣になっても、自民党政権では「真の改革」は難しいということになります。
 その時は、私たちが、代わってやります。「熟議と公開」の国会のスタートです。私たち野党も、今まで以上に大きな責任を負っている。その事をしっかり自覚して、臨時国会に臨んでまいります。ご清聴、ありがとうございました。