柴愼一議員は12月9日、参院本会議において、政府の財政演説に対して、(1)石破政権の経済政策(2)デフレ脱却宣言(3)「日銀への期待」とは何か(4)賃上げに向けた実効ある措置――等について質問しました。予定原稿は以下の通りです。

財政演説・令和6年度補正予算案に対する代表質問

立憲民主・社民・無所属 柴愼一

 立憲民主・社民・無所属の柴です。財政演説、令和6年度補正予算案について、会派を代表して質問します。

(1)石破政権の経済政策
 石破政権が発足して総選挙をはさみ約2ヶ月が経過しましたが、安全保障政策や地方創生に対する一定の熱意は感じる一方、経済政策の全体像や裏付けとなる哲学が見えてきません。
 過日、閣議決定された総合経済対策には、「安倍内閣の経済財政政策(アベノミクス)の成果の上に立ち、岸田内閣の「新しい資本主義」を始めとする経済財政政策の取組みを引き継ぎ、更に加速・発展させていく」と書かれています。
 これでは「成長」を重要視したアベノミクスと、「分配」を重要視しようとしたが頓挫した岸田政権の方針に対して、石破政権がどちらを目指しているのか全く読み取れません。
 石破政権の所信演説からは、岸田政権にはあった「分配」というワードが消えました。代わりに「賃上げと投資が牽引する成長型経済」がキーワードとなっています。
 「賃上げと投資が牽引」の実現には、そのための「分配」が重要なのではありませんか。結果として期待されたトリクルダウンは起こらず、代わりに企業には巨額の内部留保が蓄積し、所得・資産格差は広がり、労働分配率も低下しました。
 9月27日の総裁就任直後に大幅な株価下落となった所謂「石破ショック」は、石破総理の金融正常化への考えや、総裁選でも主張していた金融所得課税強化等の政策に対する市場からの拒否反応でした。その後、10月2日の日銀総裁との会談で「追加利上げの環境にない」と発言したのは、日銀の独立性を脅かす政府介入とも言え、問題意識を持つものですが、市場の圧力に屈して、かつての考えを早々に翻したと言えるのではないでしょうか。これはアベノミクスからの転換を、同様に目指したはずの岸田政権発足時を彷彿とさせる朝令暮改と言わざるを得ません。
 石破総理は自身の著書で、「通貨も過度な(円安)誘導に頼らず、実質経済に見合った水準を目指すべき」「日銀の財務悪化、財政規律の麻痺、銀行の体力低下など、(略)マクロ経済運営について危機に備えた体制をつくっておくべき」「『異次元の金融緩和』によって、もともと抱えている病気が治るわけではない」と、金融緩和の限界を説いていました。
 そうした総理のこうした経済政策に対する考え方は、総理になった途端に放棄され、何をしたいのかわかりません。
 石破政権は経済政策に対する考え方・基本方針を明確に示すべきです。総理、アベノミクス、或いは「新しい資本主義」の「何」を引き継ぎ、更に加速・発展させていくのか、そして見直すことはないのか、政府の方針を明確にお答え下さい。

(2)デフレ脱却宣言
 政府の総合経済対策では、「デフレを脱却し、新たな経済ステージに移行を目指す」としていますが、デフレ脱却と物価高対策を同時に行うことに強い違和感があります。
 いまだに政府は「デフレ脱却」を経済対策に掲げていますが、国民は継続的な物価高に苦しんでいます。既に38ヶ月間、つまり約3年超、物価上昇は続いており、物価下落を意味するデフレとは全く異なる状況です。
 政府は、デフレ脱却の判断について「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがなくなること」としていますが、経済は循環するものであり、戻る見込みがなくなるとの判断を出来る人がいるのでしょうか。
 政府の「デフレ脱却」を口実とする不要な歳出の積み増しはもうやめるべきです。
 政府はミスリーディングな物言いはやめて、「デフレ脱却宣言」を一度きちんと行い、物価高対策などの政策をわかりやすく推進するべきと考えますが、デフレ脱却担当として加藤大臣の認識をお示し下さい。

(3)「日銀への期待」とは何か
 また、政府の総合経済対策には「日銀への期待」という項目があります。そこには「政府は引き続き日本銀行と緊密に連携し、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、一体となって取り組んでいく」と記述されています。
 これは2013年の「政府・日本銀行の共同声明(アコード)」とほぼ同内容のものですが、物価高対策が必要な現在は、当時の経済情勢とは全く異なっています。日銀の経済見通しでは、消費者物価について「2024年度に2%代半ばとなったあと、2025年度および2026年度は概ね2%程度で推移すると予想される」、「物価安定目標と概ね整合的な水準で推移すると考えられる」などとしており、2%の物価安定目標を実現するためのフェーズに入っていると言えます。
 そのような状況にあっても、政府はアコードが現在も経済状況に即した有効なものと考えているのでしょうか。総理に伺います。
 デフレ脱却の判断とあわせて、ピンボケとなったアコードの発展的解消、または大胆な見直しが必要と考えますが、総理の認識をお聞かせください。

(4)賃上げに向けた実効ある措置
 石破政権は、コストカット型経済からの転換を掲げており、その点は岸田政権の方針を基本的には継承していると考えられます。
 所信演説で「賃上げ」の重要性を繰り返している点も岸田政権と一致していますが、そのための具体策は、いわゆる「政労使会議」での要請にとどまり、政府としての政策面での後押しは不十分なままです。
 「賃上げ」に向けては、「賃上げ促進税制」が主な施策と認識していますが、これまでの政策評価でも明らかなように効果が見られません。巨額の税額控除(税の減免)は、賃上げが出来た力のある企業へのご褒美にはなりますが、賃上げしたくても出来ない中小企業の賃上げ促進には繋がらないと明確に申し上げます。
 日本商工会議所の調査では、昨今の賃上げについて、業績の改善が伴わないのに、人手を確保するための「防衛的な賃上げ」が6割に上ると言われています。賃上げに対する民間企業の自助努力を政府が支える、特に最低賃金の引き上げによる人件費増加に苦しむ中小企業等に焦点を当てた支援策が必要です。
 中小企業への直接支援、例えば社会保険料負担軽減などを行うべきと考えますが、賃上げ促進税制の効果検証とともに、我々が求める企業への直接支援に対する政府の認識を、総理に伺います。
 併せて、労務費の価格転嫁に向けて、石破政権となって初の「新しい資本主義実現会議」において、中堅・中小企業の賃上げ環境の整備を進めるため、労務費の価格転嫁が進まない業種を所管する省庁に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の遵守状況についての実態調査及びその結果に基づく改善を年末までに終えるよう求めたとされますが、その改善策を確実に実施するための必要な財源は、この補正予算ではどのように措置されているのか、総理、お答え下さい。

(5)規模ありきの補正予算案
 補正予算は、その編成にあたっては財政法により「予算策定後に生じた事由に基づき特に緊要となった支出」を行う場合に限り認められるものです。これまでも、我が会派をはじめ多くの問題指摘がされてきましたが、また同じことを言わなければなりません。
 先の総選挙での自民党の公約の一番が「ルールを守る」でした。総理、財政法守りませんか。
 本補正予算案には、「緊要」とは到底言えない予算が多く盛り込まれています。例えば「地方創生2.0」、さらには「『投資立国』及び『資産運用立国』の実現」や「防災・減災国土強靭化対策」などの政策は、むしろ長期的に取り組むべき国家政策であり、本予算の審議で時間をかけて議論すべきものです。
 石破総理は、さきの衆議院選挙の第一声で、何の根拠も示さないまま13兆円を超える補正予算の提出を行うことを明言していました。これこそ今回の補正予算が「規模ありき」であることの何よりの証拠です。
 総理、何の根拠でこんな発言されたのですか。お答え下さい。
 「規模ありき」ではないと言うなら、今回の補正予算案で掲げられた政策は、どのような「緊要性」があるのか、総理の明確な回答を求めます。
 また、補正予算案には、基金の積み増しなどが多く見られます。立憲民主党は補正予算における基金の造成や積み増しには「緊要性」「財政民主主義」「財政規律」の要件を満たさないものについては、これを認めるべきではないと主張しています。
 今回補正予算で計上された基金について、政府はこの3つの要件を満たしていると考えるのか。とりわけ複数年度を前提として取り組むべき施策のために造成される「宇宙戦略基金」のような基金は、それを補正で計上することの合理的根拠は存在しないと考えますが、総理、政府の見解をお示し下さい。

(6)立憲民主党の緊急経済対策
 立憲民主党は11月7日に「能登復興・物価高克服のための緊急総合対策」を発表しました。緊急対策としたとおり「緊要性」の高いものだけに絞り、①極めて異例な複合災害への対応としてー能登半島の加速的な復旧・復興0.6兆円、②賃金・所得の底上げで経済再生としてー家計への直接支援5.3兆円、③事業を支え、賃上げを促進としてー事業者への直接支援1.5兆円、総額7.4兆円の規模としています。

(7)能登の復興支援
 本年1月に発生した能登半島地震、そして9月に発生した奥能登豪雨への対応こそ、政府が補正予算を通じて「緊要性」をもって取り組むべき第一のことであると、我が党は繰り返し主張してきました。
 ようやくその具体策が補正予算で出てきましたが、遅きに失すると言わざるを得ません。政府はこの間、予備費で対応してきたと主張しますが、復興支援に対して予算として明確に計上し、国会での審議を行い、国全体で復興支援を行うことの意思を明確に示すためにも、予算としてしっかりとした財源を確保するのが、被災地に対して真に心を寄せる態度ではないでしょうか。
 地震は元日、豪雨被害は9月の発災です。なぜ今まで補正予算の編成を行ってこなかったのか、総理、政府の見解をお示し下さい。
 また、政府が補正予算に復興支援として掲げた政策も不十分です。立憲民主党は被災地の生活再建を第一に考えて、本年1月の段階から「被災者生活再建支援金」の倍増を掲げていますが、なぜ取り入れていただけないのか、総理お答え下さい。

(8)物価高対策
 補正予算を通じて政府が真に「緊要性」を持ってなすべき第二のことは、国民生活を苦しめている物価高への対策です。
 政府は物価高対策として、住民税非課税世帯向けに3万円の給付金を支給することとしていますが、消費支出に占める食費の割合である「エンゲル係数」が42年ぶりに高水準となるなど、住民税非課税世帯のみならず幅広い層が、物価高の影響を受けています。
 なぜ政府は今回給付金の対象世帯を極めて限定的に行うのか。その理由を総理お答え下さい。
 より幅広い層への支援とするべく、例えば我が党が提案する、所得に応じたきめ細かい「物価高手当」の給付などを通じて、幅広い世帯を支えるべきと考えますが、総理の見解をお示し下さい。

(9)物価高の主たる要因である過度の円安の是正
 足元の物価高対策を講じることは、あくまで応急処置とすべきです。なぜなら物価高の主たる要因である過度な円安の是正を行わない限り、財政出動を繰り返すことになるからです。
 石破政権は、円安に対してどのように向き合っていくのか。アベノミクスは円安誘導を経済政策の基本としていましたが、異次元金融緩和による内外金利差を背景とした円売りなどにより円安が進み、輸入物価高騰などによる物価高が国民生活を苦しめています。
 石破政権は、実質経済に見合った為替の水準について、どのように認識しているのか、総理お答え下さい。
 円安は自然現象ではありません。様々な要素が複雑に関連し、一国の政府が自由にコントロール出来るものではありませんが、要因を丁寧に分析し必要な対応を行うことが政府の責任です。
 為替相場は、「各国経済のファンダメンタルズや市場の需給によって決定される」ものであるならば、我が国のファンダメンタルズをどうしていくのか、政府の対応が求められます。金融政策も含めた今後の対応について、総理お答え下さい。

(10)所得減税と防衛増税
 令和7年度税制改正について、103万円の壁が引き上げられる方針が示されましたが、これは実質的には「所得減税」です。勤労者の手取りが増えるその一方で、政府は防衛増税を予定しており、その実施時期の決定が年内に行われるのか注目が集まっています。
 減税と増税という相矛盾する政策を同時に掲げることで、減税による経済効果が失われることとなります。防衛費43兆円のあり方、予算査定の精査を再度行い、真に必要な規模に見直し、防衛増税は撤回すべきと考えますが、総理の認識をお答え下さい。

(11)円安が防衛費43兆円に及ぼす影響
 そもそも今回の補正予算では防衛費において「円安に伴い不足する外貨関連経費」として380億円が予算計上されていますが、その詳細が示されていません。
 どのような装備・契約により追加の予算措置が必要になったのか、そして、このことが5年間で43兆円とする計画全体にどのような影響が生じるのか、防衛大臣お答え下さい。
 効率的・効果的契約により、円安の影響を飲み込めるとするならば、当初の予算見積もりが甘かったこととなります。効率的・効果的な契約をやってなかったと言うことです。
 43兆円の計画に収めるため調達する装備を見直すのか、実態に即した対応が必要です。円安が防衛費43兆円に及ぼす影響について、根拠のない言い訳ではない、防衛大臣の明確な答弁を求めます。

(12)補正予算の繰り越し
 今回の補正予算が「規模ありき」と言われる要因の一つに、会計検査院が指摘する、巨額の繰り越しが生じている実態があります。
 政府は昨年度までに繰り越された補正予算の精査をきちんと行った上で、今回の補正予算案を提出しているのか。繰り越された補正予算の執行状況、及びその残額について財務大臣お示し下さい。

(13)規模ありきの補正予算で既存する財政余力
 規模ありきで139兆もの予算を組んだ結果、その財源についても問題が生じています。税収の上ぶれがあるとは言え、政府は今回新たに6.6兆の国債発行を余儀なくされています。
 政府は、「経済あっての財政」と言いますが、我が国財政への信認が失われれば、経済・国民生活にも大きな影響が生じます。国家財政に対する将来不安は、減税政策の効果を打ち消すほどの心理的影響を国民にもたらします。真に効果的な財政出動で国民生活を支えながら、政府は財政に関する安心感を同時に提供すべきです。
 緊迫度を増す国際情勢、トランプ政権が世界経済に与える影響など、先の見通せない今だからこそ、不測の事態に的確に対応、必要に応じた財政出動を行える財政余力を確保しておくことが必要です。財政状況の改善に向けてどのように取り組むのか、総理お答え下さい。

(14)野党案を踏まえた予算の組み替え
 我が党の緊急経済対策では、財源に対する考え方も同時に示しています。新規国債の発行抑制に最大限努めるために、例えば「1億円の壁」を解消することで応分の負担を求める税制改革や、日銀が保有するETFの分配金・売却益の活用、基金余剰金の国庫返納等で、財源を調達することを掲げています。
 私たちの緊急経済対策の総額は7.4兆円であり、本補正予算案に示された税収上振れ分、税外収入、前年度剰余金受け入れで、ほぼ賄えるものであり、国債発行を必要としないものです。
 総選挙で示された民意を反映し、国会審議のあり方も変わりました。明日からの予算委員会での審議を通して、我が党の案も含めて野党の声を聞き、補正予算の組み替えを行うべきです。総理の見解を求めます。
 民意に基づき国会が変わることが、政治への信頼を取り戻す第一歩です。石破総理の前向きな取り組みを強く求め、私の質問を終わります。
 ご清聴ありがとうございました。