参院本会議で12月17日、「令和6年度補正予算案」の採決が行われ、可決・成立しました。採決に先立ち、立憲民主・社民・無所属の奥村政佳議員は、「補正予算は本来、突発的な災害や予測不能な経済危機、または安全保障上の急変など、『予算作成後に生じた事由に基づき、特に緊要となった経費の支出』。そこに限定されるべきものです」と述べ、反対討論を行いました。討論原稿案は以下の通りです。

令和6年度 補正予算案反対討論

立憲民主・社民・無所属 奥村政佳

 まず冒頭、今回、衆議院における予算案の審議において、与党が、我が立憲民主党の修正要求に応じ、28年ぶりに予算案を修正、能登半島への支援1000億円が、実質的に増額されました。

 さらには補正予算案での修正は戦後初、新たな歴史の1ページがしっかりと刻まれました。

 衆議院予算委員会の、安住委員長をはじめ、与野党理事、委員、修正案提出者、みなさまに深く敬意を表します。

 今回の議題となっている補正予算は本来、突発的な災害や予測不能な経済危機、または安全保障上の急変など、「予算作成後に生じた事由に基づき、特に緊要となった経費の支出」。

 そこに限定されるべきものです。

 財政法第29条にも、しっかりとその旨が明記されています。
 しかしながら、本補正予算案の採決を前にして、委員会質問を経た後にも、大きな疑問が残ったままです。

 その点より、会派を代表して、ただいま議題となりました令和6年度補正予算案に対し、「反対」の立場で討論いたします。

 さて、私はこの4月まで約10年間、保育園で保育士として働いてきました。

 今回、この原稿を考える時にも、かつて関わってきた多くの子ども達のことも思い浮かべながら、何度も書き直しました。――未来への責任、です。

 今本当に必要な政策を見極め、どのような予算を組むべきか、そして子どもたちの未来のためにも、私たちは、丁寧に議論し、的確に判断しなければなりません。

 ところが、特に近年、巨額の補正予算が毎年のように組まれ、当初予算に盛り込むべき予算まで補正予算に盛り込む手法が、常態化しつつあります。

 これでは、当初予算で精査をする努力が薄れ、財政規律の形骸化を招く危険があるのではないでしょうか。

 たとえば、マイナンバーカード関連経費を見てみます。

 当初予算では交付事業費・事務費補助金合わせて454億円だったものが、この補正で1000億円以上追加され、結果1500億円超、当初の3倍以上に膨れ上がりました。

 計画的なデジタル推進を謳うのであれば、なぜ今年度の当初予算で十分な積算を行わなかったのか。
 これが「予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費」そう本当に胸を張れるのか。

 また、必要な予算だとして、来年度の当初予算では間に合わないほど緊要性があるのか、大いに疑問です。

 また、この間、政府は物価高対策として巨額の財政出動を繰り返していますが、現下の物価高は、主として輸入コストの上昇や、それを増幅する過度な円安が背景にあります。

 こうした物価高の根本原因を解決することなく、このまま赤字国債乱発による財政出動を続ければ、いずれは円に対する信認が失われ、円の価値が低下し、さらなる物価高を招くことになるでしょう。

 いたずらに補正予算で財政を膨らませ続ければ、将来世代への負担が増すことは確実です。

 本来ならば、問題の上流側にしっかりと目を向けた施策をすべきであり、食料やエネルギーの輸入依存を改めるべきです。

 例えば食料自給率を高めるため、農業者への直接支援、を拡充する。
 エネルギーの観点では、ソーラーシェアリングや再生可能エネルギーも活用しながら、地域分散型のエネルギー社会を構築するなど、本質的な施策を、力強く進めてゆこうではありませんか。

 今後の財政健全化と、将来世代のことを、真剣に考えるのであれば、一様のバラマキではなく、たとえば今まさに、所得面においても資産面においても最も困っている、低所得のひとり親世帯、そこへの支援など、現状をしっかりと分析した上で、本当に必要な皆様に支援を届ける、そんな視点を提示すべきではありませんか?

 今年5月、財政制度等審議会は「我が国の財政運営の進むべき方向」という建議書をまとめました。

 「建議書」では、経済が回復傾向にあり、物価・賃金・金利が上向いてきた「今」だからこそ、歳出構造を平時に戻し、健全な財政基盤の上で社会保障・子育て支援・成⾧分野への投資を行うべきと示されています。

 単純な緊縮策という話ではなく、必要な投資は継続しつつも、しかし無原則な支出拡大を避ける。
 つまり財政規律と成⾧投資のバランスを取ることを求めています。

 だからこそ、当初予算においてしっかりと議論を行い、取り組むべきなのです。
 とりあえず積んでおこう、では、あまりにも無責任ではありませんか?

 世界を見れば、コロナ禍で一時的に巨額の財政出動を行った米国や欧州各国はそれぞれ「出口」を模索しています。

 たとえば、米国は安定財源を確保しながら、インフラ投資や子育て支援を強化する計画を進めています。

 英国は法人税率の引上げ等で財源を確保し中⾧期的な持続性を重視。

 EUは新型コロナ復興基金の返済に向け、独自財源を検討中です。

 つまり世界は、財政再建一辺倒ではなく、将来に備えた財政基盤づくりと必要な投資をセットで進め、「安全な出口」を探っています。

 こうした中で、日本だけが補正予算を濫用し、緊急性なき支出を増やすと、世界の方向性に逆行することになり、金融市場にも不信感を与えかねません。

 「行き過ぎた金融緩和」を是正し、物価の安定を狙いつつ、必要な分野に的確な支出を行うことで、生活に対する大きな負担増にはつながらないよう、国民生活を守る道を模索することが、もっとも大切です。

 さらに少子高齢化が予想以上のスピードで加速している日本、社会保障分野でも持続可能性を確保するには、まさに中⾧期的な視点が不可欠です。

 また、南海トラフ地震、首都直下地震、激甚化する気象災害など自然災害、パンデミックや地政学的リスクにも対応するため、いざという時の財政的余裕も求められます。

 そのために、本当に必要な支出は計画的に当初予算を組み、当初予算に盛り込めなかったものは、「予算作成後に生じた事由に基づき、特に緊要となった経費の支出」。

 本当にそれに当たるのかしっかりと判断を行う、そんなメリハリが求められているのではありませんか。

 また、そうした判断を適切に行うためにも、我が党がかねてから提案している「独立財政機関」を国会内に設けることを早急に実現すべきです。

 今、私たちは、この補正予算を決める上で、将来世代への責任を考えなければなりません。

 目まぐるしく変化をするこの現代で、国家100年の計、とまでは申しません。

 しかし、今の子どもたちが、日本の中心となる20年後、30年後は、この国はどうなっているのか。

 現在の氷河期世代が70代、80代と年齢を重ねてゆく中で、生きる希望がもてる世の中をどう描くのか。

 そこにしっかりと責任を持つべきです。

 目下の少子化は、未来を見通すことができない、今の現役世代からのメッセージ、声なき声でもあるかもしれないこと、我々は自覚すべきです。

 私も含め、議場に座っておられる半数以上は、その20年後、30年後には、ここに座っていないでしょう。

 だからこそ、今後の日本の豊かな社会や労働環境、質が高い教育機会や福祉サービスを支えるために、安易な補正依存でなく、責任を持った、戦略的な財政運営が必須であります。

 そのための、我々国会議員なのではないでしょうか?

 日本国憲法86条にも示されているように、私たちはしっかりとこの予算の審議、そして責任を持った採決を行う必要があります。

 5月の建議書には「政府においては、本建議の趣旨に沿い、今後の財政運営に当たるよう強く要請する」とあります。

 果たして、この巨大な補正予算案は、その要請にも十分応えたものと言えるでしょうか。

 私はそう思えません。

 今回の採決において「ノー」の意思を示すことが、国会としてのチェック機能を示し、それは良識の府、参議院の矜持でもあり、これからの⾧期的展望に立った財政・金融・経済全体の再設計へ踏み出す、その第一歩になると確信するものであります。

 改めて、今回の補正予算案には、依然として財政法の要件を欠く、多くの支出が含まれていると考えます。

 このままでは今後も、無原則、無計画な歳出拡大を助⾧しかねません。

 以上の理由から、令和6年度補正予算案には反対いたします。

 ご清聴、誠にありがとうございました。