参院本会議において12月20日、令和5年度決算概要報告に対する質疑が行われ、青木愛参院議員が(1)130万の壁(2)補正予算の執行――等について質問しました。

参議院決算本会議代表質問原稿       

立憲民主・社民・無所属 質問者 青木愛

 立憲民主党の青木愛です。私は、立憲民主・社民・無所属を代表して質問を致します。

 マスコミでは「103万円の壁」問題が大きくクローズアップされています。国民の可処分所得を増やすということは、極めて重要かつ必要なことだと考えます。しかし、税と社会保障の仕組みは複雑ですから、正しく理解していない国民が多いのではないかと危惧します。

 税制面では、配偶者の壁問題はほぼ解決していると認識しています。103万円を超えると所得税がかかりますが、それはほんのわずかであり、課税前と比べて手取りが逆転するという崖はありません。

 世帯主の配偶者控除額は、給与年収150万円までは、配偶者特別控除として103万円までと同額の38万円を受けられ、150万円を超えた場合でも、段階的に引き下げられ、収入と手取りの逆転現象は起こらない仕組みになっています。

 問題は、106万円と130万円の社会保険料に関わる年収の壁です。106万円の壁は、従業員51人以上の企業などで働く人が対象で、年収106万円を超えると、配偶者の扶養から外れ、厚生年金や健康保険の保険料の支払いが発生します。しかし、メリットとして、将来受け取れる年金が増え、また、傷病手当金や出産手当金を受け取れるなど、病気や将来への補償と安心が増します。

 しかし、従業員が50人以下の企業などで働く人の場合、年収が130万円を超えると扶養を外れ、国民年金や国民健康保険の保険料の支払いが発生します。130万円を境に手取りが約30万円減少します。しかも国民年金のままですから、厚生年金と比較して上乗せ額のメリットはありません。

 この130万円の壁こそが問題になるのです。立憲民主党はこの場合の社会保険料の支払いによる減収分を給付で補うための「就労支援給付制度」の創設を柱とする対策法案を提出しています。この130万円の壁について政府のご見解を総理にお伺いします。

 また、課税最低限の引き上げによって、国と地方は税収減となります。特に地方の税収減は住民サービスの低下を引き起こすのではないかと心配します。国の責任において、地方サービスの低下を防ぐよう、総理の見解をお伺いします。さらに、社会保険料の支払いにおいて特に、中小零細企業に過度な負担をかけないよう配慮が必要と考えます。政府の対応を総理に伺います。

 高度経済成長期においては、専業主婦世帯が多くを占めており、社会保障を考える際、夫が働き、妻は専業主婦、子どもは2人の4人世帯を標準モデルとしてきました。しかし、現在では、家族のかたちやライフスタイルの多様化などにより、単身世帯、共働き世帯が増加する一方で、専業主婦世帯は大きく減少しており、かつての標準モデルは5%にも満たない状況です。時代に合った多様なモデルを採用すべきです。総理の見解を伺います。

 しかも、今議論されているさまざまな「年収の壁」は、サラリーマンの世帯主に扶養されているパートタイムの労働者の方々に関する壁の議論であって、もともと扶養されていない単身者やシングルマザー、自営業の方の配偶者などに影響するものではありません。今後は、このようなさまざまな立場の方々も対象として税と社会保障のあり方について議論が必要になると考えます。

 有識者のなかには、配偶者控除そのものを廃止すべきとの主張もあります。長期的な視野においては、扶養という考え方を改め、男性も女性も自立した個人として社会に参画し、それに伴い税や社会保障のあり方を抜本的に見直す。そのための議論の必要性を感じています。総理の見解を伺います。

 その上で、希望する人が皆安心して子どもを産み育てられる環境の整備には十分な予算を確保し手当すべきと考えます。高等教育の無償化を目指し、授業料などの家計負担の軽減に十分に資するよう、そして学生が過度なアルバイトをせずとも学業に専念できるよう、国は対策を講ずるべきです。このような大胆な家計負担の軽減は、日々の生活におけるゆとりと活力を生み、ひいては社会全体の経済活力を高める原動力にもなるはずです。石破総理のご所見をお伺いします。

 いま議論が始まっている可処分所得の向上もガソリンの旧暫定税率の廃止も、高等教育の無償化も各党が目指してきた政策です。先の衆議院選挙での民意を受け止めながら足並みをそろえて進んでいくことで、もっと大胆にもっと確実に国民の生活に資する政策を実行できるはずです。そのことを申し添え、本日の本題である令和5年度決算について、会計検査院提出の「令和5年度決算検査報告」に基づいて質問を致します。

 まず、令和5年度一般会計歳出決算では、翌年度への繰越額は11.1兆円、不用額は6.9兆円となりました。正常な予算執行とは言えない水準です。

 また、会計検査院より、予算執行に係る不適切な支出や改善を求めたものなどについて、345件、金額にして約648億円が指摘されました。

 これらの現状と指摘について石破総理の見解を伺います。

 次に、今後の補正予算の執行について伺います。

 会計検査院は、一般会計の補正予算の執行状況等について、令和4年度補正予算のうち、全額が補正予算によって追加された予算科目の10兆9123億円の内、その半分以上の5兆9318億円が5年度に繰り越されて4年度内に支出されていなかったことを明らかにしました。

 補正予算は緊要となった支出の追加を目的とするものですが、その年度内に執行されず繰り越されたという事実は、緊要性を有していなかったことの証左です。

 平成27年度決算検査報告においても今般と同様に、多額の歳出追加とその高い繰り越し率から適切かつ効率的、効果的な執行に努める必要があるとの指摘を受けていながら、政府は会計検査院の指摘を軽視し、額ありき、繰越しありきの補正予算を続けています。2度も同じ指摘を受けた事態についての受け止めと、今般成立した令和6年度補正予算の執行に当たり、会計検査院の指摘をどのように反映していくのか、総理に伺います。

 また、会計検査院の指摘を踏まえれば、補正予算における各事業の積算根拠や想定している年度内の執行スケジュールを事前に公表すべきではないでしょうか。財務大臣の見解を伺います。

 予備費については、国会からの検査要請に基づく会計検査院の指摘を踏まえ、政府は特定使途予備費の執行状況を公表しています。補正予算についても、将来的な事業効果の検証に資するべく、予備費と同様に歳出追加額を特定して執行状況を公表すべきと考えますが、財務大臣の見解を伺います。

 次に、防衛費についてです。

 政府は、令和4年12月に防衛力整備計画を策定し、防衛力整備に必要な水準額を中期防衛力整備計画、いわゆる前中期防における27.4兆円から43兆円へ大幅に増加させました。他方、会計検査院が令和元年度から5年度までの防衛予算及び決算について検査したところ、防衛費に関する情報公開が不十分であることが明らかとなりました。

 例えば、前中期防において、整備予定の数量が示されていた主要装備品のうち、装甲車、哨戒艦及び艦載型無人機は、計画期間内に契約が締結されておらず、その公表もされていませんでした。また、防衛費における「人件・糧食費」、「一般物件費」及び「歳出化経費」のいわゆる「三分類」並びに防衛力整備計画において予算の積み上げをよりきめ細かく行うために新たに事業を整理した「15の分野」についても、決算段階における執行実績の把握が行われていなかったことが判明しています。今回の検査結果により、政府は国民に多額の防衛費の増額を求めながら、情報公開には極めて消極的であることが分かりました。今回、会計検査院が指摘した主要装備品の契約状況、3分類別や15の分野別の決算額などについては、公開できるはずです。これらの情報公開に向けた対応方針について総理に伺います。

 さらに、地方防衛局による不適切な契約変更についても指摘されています。建設工事に係る契約において、一般競争入札に付すべき別の工事を契約変更によって追加していた事態が明らかとなりました。防衛省の不適切な契約や調達については、毎年のように会計検査院から指摘されており、参議院決算委員会も防衛省における不適切な事態をただし、再発防止を求める決議を3年連続で議決しています。今回の事態の発生原因及び今後同様の事態を繰り返すことがないよう、防衛省職員に改めて会計法令遵守を徹底させるための具体的な取組方針について防衛大臣にしっかりとしたご答弁を求めます。

 次に、マイナンバーの活用について、政府は、個人情報を行政機関がシステムでやりとりする「マイナンバー情報照会」が行われることで、行政手続における添付書類や煩雑な入力作業が不要となり、国民の利便性向上や行政運営の効率化が図られるとしています。そしてこのシステム整備等のため、令和4年度までに国費として計2149億円が投じられてきました。

 しかし、1258の事務手続を対象として、地方自治体による令和4年度のマイナンバー情報照会の実施状況を検査したところ、地方自治体の半数以上が利用していたのは、わずか33の手続にとどまり、全体の約4割に当たる485手続は全く利用されていませんでした。各事務手続の所管府省庁は、地方自治体の状況を十分に把握しておらず、把握していたデジタル庁も所管府省庁に情報提供していませんでした。

 このような実態は、まさに国が現場の声を聞くことなく、マイナンバー制度導入ありきで多額の費用を投じ、拙速に事業を進めてきたことの結果です。マイナンバー制度を推進する国と実務の担い手である地方自治体との間の認識と実態に乖離が生じた原因と責任の所在、事態の改善について総理に伺います。

 最後に、独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施する「サービス等生産性向上IT導入支援事業」について伺います。この事業は、生産性向上に資するITツールを導入する中小企業に対して、その経費の一部を補助するものです。

 会計検査院が、令和2年度から4年度までに交付された補助金を検査したところ、補助金を受けた中小企業がIT導入支援事業者等からキックバックを受けたり、補助対象外のITツールを導入したにもかかわらず、虚偽申請を行うなどの不正が判明しました。その多くは悪質なIT導入支援事業者、いわゆる「不適正ベンダー」からの不当な働きかけを契機に行われたと指摘しています。会計検査院の抽出検査で発覚したキックバックによる不当な補助金交付額は41事業の1億812万円ですが、これは氷山の一角に過ぎず、不適正ベンダー15者は実に1978事業に関わっているとされ、不正の全容はいまだ明らかとなっていません。またさらに、機構や当時補助金の事務局を担っていた一般社団法人サービスデザイン推進協議会、「サ推協」は、警察からの照会等により、相当数の不正の疑いを把握していたにもかかわらず、IT導入支援事業者や中小企業に対して、一度も立入調査を実施していなかったことも明らかになっています。この「サ推協」は、令和4年に本院決算委員会が措置要求決議を行った、持続化給付金事業における不透明な委託契約等の当事者でもあります。さらには中小企業庁及び機構も不正の有無を確認するよう指導を行っていなかったとのことです。

 制度設計のみならず、事後対応にも問題があったことが明らかです。今回の事態に至った原因、国が責任を持って不正の全容を解明する決意と再発防止策について、経済産業大臣の見解を求めます。

 決算審査は参議院の重要な役割です。会計検査院の報告から明らかなように、「額ありき」での補正予算を編成し、会計検査院の指摘を軽視し、情報公開も消極的、不正の疑いもそのままにするこれまでの政府の姿勢は看過できるものではありません。次期常会に続く決算審査においても厳しく精査し、今後も政府の姿勢を正していく決意を申し上げ、質問を終わります。