水岡俊一参院議員は、1月28日、参院本会議において、政府四演説に対して(1)石破内閣の政治姿勢(2)災害対策(3)不登校児童生徒(4)教育予算(5)教員不足と働き方改革――等について質問しました。
この中で、水岡議員は、不登校児童生徒数が増加し「子どもの学びをどう保障するか、学びの選択肢を増やす取り組み」の必要性を指摘し、実際に見学した「学びの多様化学校」に言及し、設置の取り組みを政府に求めました。石破総理は「確保に努める」と述べました。
予定原稿は以下の通りです。
第 217 回通常国会 政府四演説に対する代表質問
立憲民主・社民・無所属 参議院議員 水岡俊一
(はじめに)
「立憲民主・社民・無所属」の水岡俊一です。会派を代表して、石破総理に質問いたします。石破総理は、施政方針演説でも石橋湛山元首相の言葉を引いて、国会運営の正常化、政界及び官界の綱紀粛正、雇用の拡大と生産の増加、福祉国家の建設、世界平和の確立という「五つの誓い」を紹介されました。更に「責任ある立場で熟議し、国民の納得と共感を得られるよう努めることが必要です」と述べられたこと、ゆめゆめお忘れにならぬよう、強く申しておきます。
まずは、その証として我ら野党の質問に、納得と共感が得られるようなご答弁をお聞かせください。多くの国民のみなさまが総理の一言ひとことをお聞きであることをお忘れなく。
(政治姿勢)
まず石破内閣の政治姿勢からお伺いします。石破総理は、かつて「私なんかが首相になる時というのは、自民党がどうにもならない時」と仰っていたと聞きました。まさに自民党がどうにもならない時に総理となられたことは宿命だったのでしょうか。
NHK による毎月の「内閣支持率調査」では、就任された直後の 44%から徐々に落ちていきながらも、今年になって1%戻りました。各種の調査を見ると石破政権を支持する理由として、3人から5人にひとりは「人柄が信頼できるから」と回答しているようです。昨年10月の衆議院選挙で敗北したことにより、少数与党での政権運営を余儀なくされていて、これ以上信頼感を失うと政権が立ち行かなくなる、つまり総理の信頼感が命綱と言えると同時に、その信頼感は、自民党の「政治とカネ」問題を解決できるかにかかっていると私は考えます。
しかし、石破総理の施政方針を聞く限り、まったくその意気込みが見えてきません。総理は特に「政治とカネ」を取り上げることもなく、政治改革の段落で「政治資金にしても、選挙活動にしても…」と並べて軽く扱うだけで、政治に対する信頼を取り戻そうという決意が感じられません。
そこで第1の質問です。 昨年の衆院選で示された国民の「政治とカネ」の問題に対する不信と怒りに率直に向き合い、本気の政治改革として法改正に臨む気持ちはありますか。あるならば、具体的に何をどう取り組まれるのか、お示しください。
質問2 選挙後に再開された政倫審においては、説明責任が十分に果たされているとお考えですか。真相究明にはどのように取り組むつもりですか。
(災害対策)
阪神淡路大震災から30年が経過しました。この間も、東日本大震災や昨年の能登半島地震など大きな災害が幾度も起きました。今年の 1.17 ひょうご安全の日宣言では「震災の教訓はすべての災害につながる知恵」との言葉がありました。
防災庁の設置を表明している石破総理ですから、これまでになく積極的に防災対応を考える姿勢に期待しています。しかし、30年の節目に行われた現地の追悼式に出席されなかった総理にガッカリしたのも正直なところです。災害対応や被災者支援の基本は、被災者の気持ちに寄り添うことです。これまでの災害対策や復興事業推進における政府の姿勢については、単なる言葉だけに過ぎないのではないかと疑ってしまいます。
さて、能登半島地震から1年を前に政府は、自治体向けの指針とガイドラインを改定し、避難所には「20人に一基のトイレ」「一人3.5平方メートルの居住スペース」などのスフィア基準を踏まえた環境が必要であることを示しました。
質問3です。スフィア基準を満たす環境を提供するため、政府は具体的にどのような対応を行うのか、そのメニューと実施時期について説明してください。
質問4 また、その対応として避難所に指定されている学校設備において、具体的にどのような環境整備を計画しているのかについても、併せてお示しください。
(不登校児童生徒)
文科省の発表によると、不登校児童生徒数は11年連続増加し、2023年度は過去最多の34万6482人となりました。もはやどの学級にも1人か2人は不登校児童生徒がいるのが現状です。子どもの学びをどう保障するか、学びの選択肢を増やす取り組みが始まっています。「学びの多様化学校」の設置が全国ですすみ、多様な学びを国や自治体が強く支援することが求められているところです。
大分県玖珠町に「学びの多様化学校」として昨年開校した「くす若草小中学校」を先日見学させていただきました。そこで私が見たのは、とてもリラックスした自然な笑顔の子どもたちであり、ゆったりとした時間が流れる教室でした。「学びの多様化学校」は柔軟な教育課程を編成することができることから、朝の苦手な子どもたちに合わせて登校時間を9時半にしたり、教科として「対話」「野遊び」「探求」の3つを新設したりするなど、夢と工夫に溢れた学校となっていました。「みんなが主役の学校」をコンセプトとし、懸命に開校に漕ぎつけた玖珠町のみなさんと教職員の熱意に感動するひとときでした。
そこで総理に質問5です。日本の学校制度や、学力とは何かという教育論そのものが根本的に問われる時代に入ったと思われませんか。「学びの多様化学校」に見られるような子どもが安心して自分らしく学べる学校の必要性を感じませんか。
(教育予算)
2023年の国連による「教職に関するハイレベルパネル勧告」では、「公教育への資金は GDP の少なくとも6%、政府支出総額の20%が保障されるべき」とされています。過去10年の文教関係の政府当初予算をみると、2015年度の4兆756億円から2024年度は4兆624億円と横ばい、一般会計歳出に占める割合は4.23%から3.61%と低下しています。物価高騰もある中、教育予算が低く抑えられていることは、将来の社会を担う子どもの教育を軽視していると考えざるを得ません。
質問6 少子化がすすむ一方、子どもの自死やいじめ認知件数、児童虐待は増加傾向を示していること、また教職員不足等によって子どもの学びが脅かされている危機的状況をふまえれば、教育予算を増額し、すべての子どもがゆとりある公教育を受けられる環境が必要だと考えますが、いかがですか。
(教員不足と働き方改革)
文科省の調査によると、2023年度における教員の月平均残業時間は45時間超えが42.5%、「過労死ライン」の80時間超えは8.1%となっています。地方公務員災害補償基金の発表によると、同年度教員の過労死は16名でした。この過労死の人数は氷山の一角ではないかと言われており、相当数の過労死や過労自殺が陰に隠れています。この勤務実態が世に伝わり、教員志望者は減る一方となっていて学校現場に教員が足りない状況となっています。
過労死や、過労死ライン超えが依然として少なくないのは、「定額働かせ放題」を招く「給特法」が根本的な原因となっています。給特法は、教員の時間外勤務に対して手当を支給しないと定めてはいますが、そもそも災害時など特別の場合を除いて時間外勤務を命ずることはできない法律です。つまり、教員に対し時間外勤務を命令できない制度にもかかわらず、過労死ラインをも超えるような超過勤務をさせるゆゆしき状態が半世紀に渡って続いているのです。
質問7 2019年当時の文部科学大臣は給特法が労基法ともずれがあるとして根本的に見直す旨の答弁をしています。石破内閣として給特法改正案を提出する際には大臣の約束どおり、法制度的に根本から見直すべきだと考えますがいかがですか。
質問8 昨年も、4月の新学期当初に担任不在の学級があるなど全国的に教職員が不足していることが報道などで明らかになりました。岸田前総理は欠員状況について文科省として実数による把握はおこなっていないとの答弁でしたが、この厳しい状況を改善しようとするのであれば、決して学校現場に負担をかけぬ方法で、全国的に調査を行うべきではありませんか。
(国際人権)
1918年の第一次世界大戦終結後、日本政府は国際連盟設立に向け、人種差別撤廃条項を連盟規約に挿入することを企図していました。国際連盟委員会に、人種や国籍を問わず、法律上あるいは事実上何ら差別を設けず、すべての面で「均等公平」の待遇を与えることを、規約に明記すべきだと提案しています。五大国のうち有色人種の代表による提案として、反響は小さくなかったようですが、最終会合の評決では全会一致が必要として日本提案は否決されました。
時が経ち、第二次世界大戦終結後の1948年、国連総会は「世界人権宣言」を採択しました。その第1条には「人間の尊厳と平等」、第2条には「差別の禁止」などとあり、日本がかつて提起したことが、形を変えて国際社会に登場したのです。国連はその後「宣言」内容の具体化を目指して各種の人権条約を採択してきましたが、その第1号が「人種差別撤廃条約」で1965年の国連総会で採択され、日本は1995年に加入しました。
2014年の人種差別撤廃委員会の「総括所見」では、朝鮮学校が就学支援制度の恩恵を受けることができることをはじめ、朝鮮学校が差別されないことを締約国が確保せよと再度表明しています。
質問9 日本政府が、かつて米国内の日本移民を守るため国際舞台で人種差別撤廃を訴えておきながら、日本国内において都合が悪くなると完全に無視するという行動をとることを、石破内閣は肯定しますか。
質問10 朝鮮学校に学ぶ子どもが今叫んでいます。「朝鮮人って、日本にいちゃあいけないの」「朝鮮学校って、行っちゃあいけないの」。これに対し、石破総理はどう答えますか。
質問11 日本国憲法は条約を誠実に遵守することを定めており、日本が批准した8つの国際人権文書は国内でも法的拘束力をもつとされていますが、政府はたびたび勧告に対し「法的拘束力」をもたないと無視するのはなぜですか。
(えん罪の防止と取り調べの抜本的改革)
えん罪の防止と取調べの抜本的改革について伺います。袴田巌さんが死刑確定後に再審無罪となった、えん罪事件が昨年大きな節目を迎えました。事件の発生から58年後、死刑囚の汚名を着せられていた袴田さんに、ついに無罪が言い渡されたのです。判決で、最大の証拠とされた5点の衣類などが捜査当局の捏造とされ、それがえん罪を生む重大な要因だったことが明らかになりました。
えん罪を生む別の大きな原因の一つとなっている虚偽の自白を防ぐためには、捜査官による違法・不当な取調べをなくさなければなりません。袴田巌さんは、その人生のほとんどの時間を奪われ、家族も同様に国に苦しめられました。そして、61年も無罪を訴え続けている狭山事件の石川一雄さんも同じくえん罪の可能性が極めて高く、いまだ再審を待っています。
違法・不当な取調べによるえん罪事件の反省を踏まえ、2016年の刑事訴訟法改正で一部の事件には取調べ全過程の録画が義務付けられましたが、対象は全事件の3%未満であり、逮捕されていない被疑者や参考人の取調べも録画義務付けの対象外です。
また、取調べの弁護人立会いを禁止する条文はないにもかかわらず、ほぼ全ての取調べで弁護人の立会いは認められていません。さらに、自白しないと長期間拘束するという「人質司法」は、虚偽の自白を生み出す危険があり、国際社会からの非難が強くなっています。
質問12 国家による最大の人権侵害のひとつであるえん罪を防ぐためにも、取調べの録音・録画対象の全事件・全過程への拡大、取調べに弁護人を立ち会わせる権利の規定の創設、人質司法の是正をはじめとした、取調べの抜本的改革に取り組むべきだと考えますが、総理の見解を伺います。
(婚姻平等の実現を)
婚姻の平等について伺います。「同性婚を認めていない民法及び戸籍法の規定は違憲である」という訴訟に関し、5つの地裁判決と3つの高裁判決が違憲または違憲状態という判断を相次いで下しました。各裁判所は、憲法14条1項の「法の下の平等」や24条2項の「個人の尊厳と両性の本質的平等」に反するとしたほか、札幌高裁では24条1項の「婚姻の自由」は同性カップルにも保障されると判断し、福岡高裁では幸福追求の願望や婚姻について法的な保護を受ける権利は男女、同性のカップルのいずれも等しく有するとして、13条の幸福追求権にも反すると判断しました。
現在、同性婚が認められているのは38の国または地域で、タイでは今月から同性婚が認められるようになりました。G7で同性カップルに法的保障がない国は既に日本だけです。国連は、日本に対して同性婚を認めるよう複数回勧告を出しています。
2023 年に日本経済新聞社が行った世論調査では、同性婚を法的に認めることへの賛否について、「賛成」が65%にのぼりました。自民党支持層の回答でも「賛成」が58%と過半数を占めています。
地方自治体ではパートナーシップ制度の導入が進んでいますが、その法的効力は不十分です。婚姻という選択肢がないことによって、医療福祉、相続、親権などの様々な面において法的な効果を受けられないのです。
質問13 立憲民主党は、同性婚を法制化するための「婚姻平等法案」を2023年3月に国会へ提出していますが、未だに審議されていません。石破総理は昨年 12月の参議院予算委員会で同性婚を認めることが「日本全体の幸福度にとって、肯定的なプラスの影響を与えるものだと考えている」とおっしゃいました。プラスの影響を与えるのであれば、実現を急ぐべきではありませんか。総理の見解を伺います。
(難民認定制度を国際水準に)
2021年にスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管の収容所施設内で亡くなった事件では、検察審査会の不起訴不当を受け、名古屋地検が再捜査しましたが、23年9月に再び不起訴処分としました。徹底した真相究明が求められていましたが、極めて残念な結果となっています。同時に、国際的な水準に沿った難民認定制度を創設して、いまこそ多文化共生の取り組みを進める必要があります。立憲民主党は過去3回、政府から独立した第三者機関である難民等保護委員会の創設等を柱とする「難民等保護法案」を、野党共同で国会に提出しました。国際的な水準からはほど遠い改正入管法については再考を求めます。
小泉法務大臣は、日本で生まれ育った在留資格のない外国人の子どもについて、全体の8割を超える212人に滞在を認める「在留特別許可」を与えました。斎藤法務大臣に続き、小泉大臣も「今回限り」としています。
質問14 鈴木法務大臣にこの方針は引き継がせるのでしょうか。石破総理にうかがいます。
質問15 また、在留特別許可の対象は「日本で生まれた子ども」と狭く、日本で一定期間生活をしていても、海外で生まれたり、学校を卒業したりした子どもは対象になりません。対象者を広げ、日本でしか生活したことがない人全体を対象とすべきではないでしょうか。
(被団協ノーベル平和賞受賞と高校生平和大使)
昨年10月に日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞しました。ノルウェーのオスロで行われた授賞式には、被爆者だけでなく、若い世代の立場から核兵器の廃絶を世界に訴える活動を行う「高校生平和大使」も一緒に出席していました。
唯一の戦争被爆国である日本には、核兵器の非人道性や恐ろしさを語り継いでいくことが求められています。高校生平和大使たちは、被爆者の話が聞ける最後の世代であることを自覚し責任を感じながら活動していると言います。長崎の高校生大原悠佳さんは、今回のオスロ派遣で「世の中の核に対する意識の高まり、若い世代の核廃絶への活動に対する期待の高まりを感じた」そうです。
被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員は「原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府は全くしていないという事実をお知りいただきたい」と被爆者への国家賠償の必要性を訴えました。
質問16 若い世代の平和への切なる思いに石破総理はどう向き合いますか。
質問17 戦後80年の節目に被爆者への国家賠償など停滞している戦後補償を進める覚悟はありませんか。
(国会のジェンダー平等)
現在、国会議員は私も含めて中高年男性が圧倒的多数を占めています。私たち「立憲民主・社民・無所属」会派は42名中女性が19名で女性比率は45%ですが、国会全体で言えばわずか19%に過ぎません。このように国会では性別や年齢の偏りが大きく、女性や若者はまだまだ少ない状況です。立法府で属性の偏りが大きいことは、一般社会とのへだたりを生み、国民が求める政策が実現しにくくなる可能性があります。
立憲民主党は男女半々のパリテ議会を目指して女性候補の発掘・擁立を進めていますが、同様の取組みを各党にも期待します。2018年に候補者男女均等法が成立し、政党に対して数値目標の設定などの自主的な取り組みを求めていますが、政権与党である自民党の女性議員比率はいまだ著しく低いままです。
質問18 国会議員の属性に著しく偏りがあることについて、石破総理自身はどうお考えですか。
質問19 候補者や議席の一定数を女性に割り当てるクオータ制の導入は検討されませんか。
(極端な気象現象と「パリ協定」)
アメリカのロサンゼルス近郊で今月、大きな山火事が起きました。火事の発生から2週間以上が経ちますが、いまだ鎮火していません。現地では、昨年の大雨で草木が成長し、逆にこの冬は雨がほとんど降らないなどの異常気象が重なったことが被害拡大の要因の一つと考えられています。
世界気象機関は2024年の世界の平均気温が観測史上最高となり、産業革命前より1.55 度上昇したと公表しました。その結果、世界各地で大規模な山火事や水害などの極端な気象現象が頻発しています。国連のグテーレス事務総長は声明で「人類は地球に火を付け、その代償を支払っている」と述べ、気候変動対策の遅れに危機感を示しました。
一方で、今月就任したアメリカのトランプ大統領は、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を宣言しました。気候変動対策で大きな役割を果たしてきたアメリカの離脱は、少なからず世界の気候変動対策に影響を与えることとなります。
気候変動対策を十分に講じないことは私たちの生命や身体を危険にさらすだけでなく、将来世代が厳しい環境下で生きていくことを強いるものです。
質問20 アメリカのパリ協定離脱で、日本の果たすべき役割は増えると考えます。未来を生きる子どもたちのためにも、温室効果ガス削減目標の更なる引き上げと排出削減策を最大限講じることが必要だとは思いませんか。総理のお考えをお聞かせください。
質問21 環境政策において将来世代の若者が意思決定に参加することが重要と考えますが、総理は将来世代の声を実際に聞きましたか。
(おわりに)
最後に一言申し上げます。総理誕生の直前に出版された著書で、保守政治家石破茂氏は次のようにお書きになっています。「要は、どんなに努力しても総理にはなれないということがありうる。ただ、天命が下った時には能力が足りないという言い訳は許されない」その通りです。誰かが用意した原稿をただ読むだけで、その場しのぎをするようなことは許されません。国民の皆さまの納得と共感が得られるご答弁を重ねて求めて、質問を終わります。