立憲民主党は、2月19日午後、食料・農業・農村政策WT(座長・田名部匡代参院議員)・農林水産部門(部門長・金子恵美ネクスト農林水産大臣・衆院議員)合同会議を国会内で開催、金子勝慶應義塾大学名誉教授から「改正基本法と対抗策」をテーマに、武本俊彦新潟食料農業大学名誉教授から「新しい直接支払制度の在り方」をテーマにお話しを伺い、質疑応答を行いました。次いで、「食料・農業・農村基本計画に盛り込むべき事項について(申し入れ)」に関して報告がありました(司会:野間健農林水産部門長代理・衆院議員)。

 冒頭、田名部WT座長より、「食料・農業・農村基本計画に盛り込むべき事項について、皆さんから多数いただいたご意見と基本法改正案に対し衆参それぞれに提出した修正案に沿って整理させていただいた。今後、基本計画の中身がどうなっていくのか、新たな直接支払制度をしっかりと作っていこうという中で、両先生にお越しいただいた。じっくりお話をお聞かせいただき、再生産可能な状況を作る、本当の意味で食料安全保障を確立するため、皆さんと力を合わせていきたい」とのあいさつがありました。

■金子勝慶應義塾大学名誉教授より「改正『基本法』と対抗策」についてヒアリング

 金子名誉教授からは、「改正『基本法』と対抗策」をテーマに講演をいただきました。

 金子名誉教授は、東京生まれの東京育ちの学生を相手に地方交付税について説明すると、「なぜわれわれの税金を地方にやらなければならないのか、大都市に投資した方がはるかに効率的」という答案を書いてくる学生がたくさんいるということを紹介し、食料・農業の問題をデータに基づいて丁寧に説明していく必要性を強調しました。

 金子名誉教授は、「投入財の価格が猛烈に上がり、実質賃金が下がり、農産物価格が低迷して、利益がほとんど上がらない状態になっている。農業者や庶民を犠牲にして財政赤字を目減りさせているのが今の状態。直接支払は、WTOルールに従った関税に代わる農業保護の在り方であるというのが一般的な説明であるが、アベノミクスの失敗の結果、直接支払をやらざるを得ない状況に置かれているという認識を持つ必要がある」と述べました。

 また、「貿易赤字を解消するためには化石燃料・食料品の輸入を削減し自給することが必要。農業政策はアベノミクスの失敗から日本経済を救うための政策であることを主張すべき」と述べました。

 さらに、「改正食料・農業・農村基本法には3つの矛盾がある。1つは、依然として1961年の旧農業基本法以来の大規模化による生産性向上を前提にしていること。農村を維持するという命題を掲げながら、人口が減少している。どうすれば人口減少と大規模化が両立するのか。第2に、スマート化や農地の集積は、人手不足対策であって、人口を増加させる対策ではないこと。第3に、『みどりの食料システム』で有機農業を掲げているが、家族経営で10ha規模の有機農業はできない。どうやって実現するのか。整合性がとれていない。つぎはぎである」と断じました。

 また、「夫婦共稼ぎか単身世帯は生鮮食品を買って調理することがなくなっている。良いこととは思わない。働き方を変えるという根本的な問題があるが、農村が意図的に食品や加工品の需要に対応していかないと、生鮮食品を作るだけでは農家はスーパーに買いたたかれる」「大規模化が問題なのは、農繁期と農閑期があるので、常用雇用ができないこと。そのため、地域で農業と加工を核とする仕組みを考えていかざるを得ない」と述べました。

■武本俊彦新潟食料農業大学名誉教授より「新しい直接払い制度の在り方~詰めるべき論点~」についてヒアリング

 武本名誉教授からは、「新しい直接支払制度の在り方~詰めるべき論点~」をテーマに講演をいただきました。

 武本名誉教授は、新しい直接支払制度を検討する際に留意すべき論点として、(1)「戸別所得補償」から「直接支払い」に用語を転換することには問題はない、(2)直接支払制度導入する理由は、現下の食料・農業・農村は危機的状況にあり、ここからの脱却を図り、食料自給率の向上により国民への食料安定供給を確保するために不可欠な政策であるから、としました。なお、導入する直接支払制度を恒常的な制度とするか、緊急措置とするかは、検討するとしました。(3)制度の目的は、食料の安定供給と多面的機能の発揮によって消費者=納税者の安全・安心という利益の確保としました。(4)米・水田政策の在り方との関係については、米の需給が投機的心理によってその変動が大きくなってきたことを前提に、加工・生産・流通・消費に関する情報の機動的な提供によって価格と需給の安定を図る手法へ転換することを基本として、具体的方策を検討すべきとしました。

 以上を踏まえ、武本名誉教授は、新しい直接支払制度の検討案を提示しました。制度名は、「食料安保・多面的機能発揮直接支払制度(仮称)」を基本として検討、対象者は、販売農業者又はその他半農半X等であって食料安保又は多面的機能の発揮を確保する効果を有する行動を実施している者とする考えを示しました。

 交付単価については、販売農業者は10a当たり定額とし、戸別所得補償制度と同様、標準的な生産に要する費用から標準的な販売価格を差し引いた額とする案、生産費統計上の所得に相当する部分とする案などの選択肢を提示しました。販売農業者以外の半農半X等への交付単価については、別途の在り方を検討するとしました。

 また、戸別所得補償制度時代の「変動部分」(当年産の販売価格が標準的な販売価格を下回った場合、その差額を基に算定した単価を交付)は実施せず、米に係る収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)は当面存続し、収入保険制度の在り方を検討するとしました。

 新たな環境支払い、中山間地域等直接支払、多面的機能支払については実施する方向とし、その財源は、炭素税導入の在り方等を検討する一環として検討するとの考えを示しました。

■質疑応答

 参加議員から、「戸別所得補償制度では、反当り15,000円の交付金のほかに60㎏13,700円という最低価格保証制度(米価変動補填交付金)があった。この制度が維持されていれば、安心して安定的に米が作れる。米制度の見直しにおいて、最低価格保証制度も必要ではないか」(山田勝彦衆院議員)との質問がありました。武本名誉教授から「所得は直接支払で守るが、価格はマーケットメカニズムに委ね、公正な競争条件の中で競争してもらい、創意工夫で頑張ってもらうという整理。農家と農協が大口取引先とガチンコで勝負するしかない。農協が交付金15,000円の範囲内で値引きするというのは背信行為。交付金が流通業者ではなく農民に支払われるよう、農林水産省が本気になってやらないと適正価格、価格転嫁はできない」との回答がありました。

 また、「食料安保に直接的に貢献しない野菜や果樹に対する直接支払の在り方についてのアイデアがあればお聞かせ願いたい」(山田勝彦衆院議員)との質問がありました。

 武本名誉教授から「金額ベースの食料自給率も食料安保論であると思っているので、カロリーベースと両建てでやっていけばいい。全部米とイモでは困る。本当に困ったときには、カロリーが高い農産物の値段は上がる。マーケットに任せればいい。どうしても米を大増産しなければならないとなったら、税金を使って生産振興をするであろう。最初から、カロリーをほとんどない水のような野菜はどうするのかという議論はおかしいと思う。農地を存続させることに意味があると思う」との回答がありました。

 関連して、金子名誉教授から「マーケットに野放図に任せるのではなくて、どこで何か起こっているのか、どこに在庫があるのか、指摘できるような客観的なデータが必要」との発言がありました。

 米の流通の把握に関し、「年間20トン以上の米を出荷・販売する業者は届出をすることになっているが、取り扱う数量が20トン未満の業者も届出をすることとし、米の動きが分かるようにしたらいいのではないか」(石垣のりこ参院議員)との質問がありました。

 武本名誉教授から、「昔の食管制度の全量管理のように、際限なくサンプルを広げることはやってやれないことはないが、膨大なコストがかかる。サンプルをどの程度とるのか、業者の取扱数量について議論しなければならない。少なくとも、相対取引を行っている大規模農家や流通業者だけを対象とする方法ではサンプルが偏在することがはっきりした。特に、今回のように投機的なマインドが強くなってきたとき、農家から流していなかったところに流し始めたのは確か。ある程度バランスをとったサンプルをとらないと、出てきたデータはバイアスがかかりすぎて使い物にならない。統計のプロ、データサイエンスの知恵を借りながらやるべき」との回答がありました。

 関連して、金子名誉教授から、「短期的には統計の処理があるが、長期的には、生協や農協が旗を振って、トレーサビリティ、すなわち、生産から流通・販売に至る履歴の追跡が可能な米でないと安心できない、付加価値がつかないという仕組み作ることが大事」との発言がありました。

 農家の採算性悪化の背景について、「農業が儲からない産業になったのは、1990年代後半以降のバブル崩壊ということだが、食管法廃止の影響が大きいのではないか」(石垣のりこ参院議員)との質問がありました。

 武本名誉教授から「1995年に食管法を廃止して食糧法に切り替わった。その時、統制経済から市場経済に移行すると混乱が起こるしかないということと、当時のアメリカで、不足払いによって生産者の所得を確保するというセーフティネットを張っていたことから、日本のような零細稲作構造では不足払いを導入しておかないととんでもないことが起こるという議論があった。しかしながら、いろいろな経緯があって不足払いは導入しなかった。確かに食管法廃止の影響は大きかった。加えて、デフレ経済に突入して生産調整をやっても価格が上がらない局面になったこともある」との回答がありました。

 「農地に着目した直接支払制度の対象者は、多面的機能の維持に貢献しているという観点から、農地の所有者ではなく、農地の耕作者とすべき」(小山展弘衆院議員)との指摘があり、武本名誉教授から、「耕作者とした方が説明しやすいと思う」との回答がありました。

 また、「借地ではなく、農作業受委託契約にして、農産物の出荷販売、価格リスクは農地所有者に負ってもらうこととしてはどうか」(小山展弘衆院議員)との質問がありました。

 これに対し、武本名誉教授から、「今の農地制度では、作業受委託という形でやろうとすると闇小作の扱いにならざるを得ない。農地法の仕組みをガラッと変えて、農地所有者と農地利用者との間で合意が成立すれば、契約内容を自由にするということまでやり切れるか。一番困るのは、闇転換であり、転用規制をどうするかという話。

私は、総合的な土地利用制度、すなわち、農地・非農地の全体を基礎自治体がマネジメントできる仕組みができればよいと考える。農地制度について議論されてはどうか」との回答がありました。

 米価高騰下における新たな直接支払制度の在り方について、「昨今の米価の状況では、不足払い的な意味合いが強い制度は、機能しなくなるのではないか。固定払の単価設定をどう考えるか」(神谷裕衆院議員)との質問がありました。

 これに対し、武本名誉教授は「固定の直接支払が整理されたあとのナラシ(変動部分)について、3年移動平均、5年移動平均での単価算定は、デフレ状況下では役に立たないということになる。直接支払の固定払で守るしかないと思っている。この国が完全にデフレから脱却し、国民の所得水準が堅調に上がり始めるという局面になれば、直接支払はやる必要はなくなる。そのとき、制度そのものを廃止するのではなく、緊急事態では発動できるように法制度は残しておくという整理とするのが現実的。立憲民主党が政権を獲って、直ちにデフレから脱却できるとは思われないので、少なくとも4年間、8年間は継続する」と回答しました。

 最後に、金子名誉教授から「政権交代してしばらくの間、大変な状況の中で、なんとか国民の希望をつないでいきながら軌道に乗せていくということにチャレンジしていかなければならない。アベノミクスの失敗をきちんと総括し、その克服のために、われわれは一生懸命もがいているということを正直に言わないといけない」との発言がありました。

■「食料・農業・農村基本計画に盛り込むべき事項について(申し入れ)」(報告)

 野間健農林水産部門長代理より、「食料・農業・農村基本計画に盛り込むべき事項について(申し入れ)」について、前回の会議における意見を踏まえ、「総合的な新規就農対策の体系化」「農林水産省主導による農産物等の流通の効率化・低コスト化」の項目を追加するとともに、「予算の確保」の項目において「食料安全保障の確保と多面的機能の発揮に貢献する農業者の所得向上等に資する農地に着目した直接支払を実施するための予算の確保については、国全体の喫緊の課題でもあり、既存の農林水産予算に支障を来すことのないよう、政府全体で財源の確保に努めるべきである」と記述したことの報告がありました。また、この申し入れは、明日(20日)の「次の内閣」で正式に決定する運びとなるとのお知らせがありました。