2024年の小中高生の自殺者数は529人と過去最多を記録し、3年連続で500人を超えました。政府が対策を進める一方、依然として増加傾向が続く現状について、『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』の著者でフリーライターの渋井哲也さんに、「次の内閣」ネクスト子ども政策担当大臣の高木真理参院議員が話を聞きました。
データと要因分析の不足
高木議員) 2024年の小中高生の自殺者数は529人。1980年の統計開始以来、最も高い数字になりました。対策をしているのになぜという気持ちにもなります。長年取材を続けられてきた立場から、この状況をどう受け止められていますか。
渋井さん) 当初(20年)500人に達したときは、国もそれなりに対策を講じており、「学校に行かなくてもいい」というメッセージも増えていたので、そこがピークかなと思っていましたが、22年から3年連続で増加してしまった。10代前半の自殺死亡率は1990年の約4倍、後半は約3倍。座間事件が起きた17年以降、厚生労働省がSNS相談、文部科学省が「SOSの出し方に関する教育」を始めた年でもありますが、むしろ急増しています。
全体の自殺者数のピークは03年で減少傾向にありますが、大人も含めて増減の要因をきちんと分析した機関がありません。バブル経済以降の危機が緩やかになったからなのか、あるいは06年に自殺対策基本法が施行されとこと、同じ年の貸金業法改正によるものなのか。徹底的に原因究明をすべきです。
高木議員) 「自殺総合対策大綱」にも要因分析が必要と書かれているのに、進んでいません。
渋井さん) 警察庁のデータは初動調査だけで要因を確定し、後からいじめや体罰、虐待が明らかになっても修正しません。文部科学省も詳細調査の実施率は1割未満という状況です。基本調査も、学校から上がってきたものをまとめますが、どうやって調査されたのかは分からない。これでは実態に迫れず、適切な対策も施せません。データの取り直しが必要です。
子どもをケアする選択肢が必要
高木議員) 女子中学生・高校生の自殺が特に増えていて、とりわけ定時制・通信制の女子高校生は2年間で72%増という深刻な数字です。
渋井さん) 取材をしていると、中学時代のいじめや不適切指導、あるいは性的被害に学校が対応せず、心身を病んだまま進路選択を迫られ、普通科や定時制には行けないと、消極的に通信制を選ぶ子が多いという傾向もある。そこへのケアが足りていないことも背景にあると思います。
高木議員) 埼玉県議会時代、不登校の子も含めて自由に通える特色あるカリキュラムの高校のスクールソーシャルワーカーから、「人員が足りず休日返上でも対応しきれない」と悲鳴が上がっているのを聞きました。1、2週間に1回、非常勤のような形でかけ持ちして行っている状況では一人の子に寄り添おうと思っても難しい。体制強化が急務です。
渋井さん) 子ども目線で考えると、学校関係者であるスクールカウンセラーは、学校に対して不信感を持っている子どもにとっては喋りたくない相手であったりもする。教職員とスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーとの関係で、多職種連携、仲間意識が生まれているのか、学校の体質も影響します。合わせて、スクールカウンセラー以外の選択肢も必要だと思います。
渋井さん) SOSの出し方教育によって、子どもは以前に比べて声を出すようになったとは思います。でも出したSOSを、教職員や親、塾の先生など周りの大人たちが必ずしも危険信号として受け止めていないのではないかと感じます。
高木議員) 大問題ですね。
渋井さん) 例えば子どもが「死んでやる」と言っても、「子どもがよく言うこと」「『死にたい』と言っているうちは死なない」といった言説がまだまだある。約30年取材をしていますが、自殺してしまった子どものうち90%くらいは日常的に誰かに「死にたい」と言っているんです。
高木議員) 子どもが発しているSOSを受け止めきれていない。教職員らが多忙で、子どもに寄り添う時間が取れないのも背景にあります。生徒指導専門の先生の配置は前進ですが、もっと受け止める体制が必要です。親たちも日常の忙しさやさまざまな事情で子どもに関わる時間を十分取れていないケースも多いでしょう。
渋井さん) 神奈川県では「高校内居場所カフェ」(※)といってNPO等が校内にカフェを設置し、カフェスタッフが親や教員以外の「第3の大人」として生徒との信頼関係を築きながら必要な支援につなげるよう関わっています。例えばいじめや体罰、不適切指導などがあって、すぐに問題解決に至らなくても、どこかに安全地帯、居場所をつくることが大事です。整備する予算を確保して広げていってほしいです。
高木議員) 地域での居場所づくりも重要だと思います。私の地元でもNPOがカフェを開き、子どもたちの学習支援や、食事の提供、スマホ充電など気軽に集える場所があります。社会全体でさまざまな形で支えていく、そのための予算を付けるということですね。
副担任を福祉職に
渋井さん) コロナ禍で分かったのは、学校は教育だけでなく福祉の場でもあるということです。担任は教員でいいですが、副担任は福祉職や心理職を正規職員として配置すべきではないか。そうすることで学校という場を広い視点で見られるのではないかと思います。
高木議員) 思い切ったアイディアですが、担任が40人の子ども一人ひとりに目を配るのは限界があります。ソーシャルワーカーの増員も必要だとの思いもありましたが、副担任が福祉職なら子どもに寄り添う力は増します。
渋井さん) スクールソーシャルワーカーやカウンセラーを副担任に雇えば、担任の負担も減ります。
高木議員) お話を伺い、課題が立体的に浮かび上がりました。立憲民主党はしっかりと子どもに寄り添い、「死にたい」と思わずに済む子どもを増やすために、力を尽くしていきます。
渋井さん) 現場の声を生かした仕組みづくりを期待します。
※ ひきこもり等の若者支援のNPO等が高校と連携し、校内に居場所となる場「高校内居場所カフェ」を設置し生徒が安心して福祉的な支援とつながりを持つ機会を提供している。