党社会保障改革総合調査会・厚生労働部門は10月23日、国会内で合同会議を開き、高市総理が上野厚生労働大臣に指示した「労働時間規制の緩和検討」について、「全国過労死を考える家族の会」および「過労死弁護団」からヒアリングをし、厚生労働省も同席して質疑を行いました。

 冒頭、小西洋之ネクスト厚生労働大臣は、「新政権発足当日に『労働時間規制の緩和の検討』が指示され、社会保障の根幹に及ぶ可能性があり、率直な議論をお願いしたい」とあいさつ。長妻昭・社会保障調査会長は「働く時間は人生の時間の使い方。おかしな形にならないよう取り組む」と述べ、当事者の声を丁寧に聴く考えを示しました。

 全国過労死を考える家族の会の寺西笑子代表は、1991年に夫を過労自殺で亡くされた経験に触れつつ、「長時間労働・過労死は今も後を絶たない。総裁就任時の『ワークライフバランスを捨てる』『馬車馬のごとく働いてもらう』との発言は、今回の緩和指示と同じ方向だと受け止めざるを得ない。過労死等防止対策推進法の目的はワークライフバランスの実現。規制の後退ではなく、遵守と是正の実効性を高めてほしい」と訴えました。

 高橋幸美さん(高橋まつりさんの母)は、「娘は24歳で過労自殺した。上限規制が導入されても命が失われている現状がある。求められるのは『上限規制の強化』であり、自由化・緩和ではない。『働く人の命と健康を守る』という原点から逆行しないでほしい」と要望しました。

 東京家族会の渡辺しのぶ代表は、裁量労働制で夫を亡くされた経験から「選択の余地がない働き方を『自己責任』に帰す構造は誤り。80時間だから亡くなり、79時間なら安全という話ではない。ILO・WHOはより短い労働時間でも健康被害リスクを示している。規制緩和は“逆行”だ」と指摘しました。

 過労死弁護団全国連絡会議の玉木一成幹事長は「上限規制(単月100時間未満・複数月平均80時間以内など)は『命と健康に危険が及ぶ最上限』を根拠に据えたもの。建設・運輸・医師など猶予業種にも今年ようやく適用されたばかりで、緩和を検討する状況にはない。裁量労働制や高度プロフェッショナル制度の適用拡大は、上限規制の“外”を広げ危険を増やす。脳・心疾患や精神疾患の労災申請・認定は近年『毎年、過去最多を更新』している」と述べ、実態に即した強化を求めました。

 厚生労働省側は、「(上野厚労相は)『心身の健康維持』と『従業者の選択』を前提に、労働時間規制の緩和の検討、働き方改革の推進、安心して働ける環境整備の指示を受けた」と説明。「上限規制は過労死の認定ラインでもあり、その点も踏まえて労働政策審議会で議論する。労働力調査の詳細集計では『今の仕事時間を増やしたい』層が約6.4%とのデータもあるが、どの層が何を求めているのか丁寧に把握したい」と述べました。

 質疑では、山井和則衆院議員が高橋さんに対し「『健康維持』『従業者の選択』を前提にした緩和指示」をどう受け止めるかを確認。高橋さんは「現実には“選択”は成り立たない。上司の評価や責任感から無理をしがちで、国の規制が必要だ」と回答しました。また、川内博史衆院議員は「過労死防止法に反する検討を審議会で進めないよう、政務に進言するのが役所の責務だ」と求めました。

 締めくくりに寺西代表は「真面目で責任感の強い人ほど犠牲になりやすい。守るのは国であり法律。緩和ではなく、流れを止めてほしい」と重ねて要望。小西ネクスト厚労大臣は、「当事者の声を政策に反映させ、働き方改革の趣旨を後退させない」と述べ、引き続き政府に実態データの開示、影響評価、監督体制の強化などを求めていく考えを示しました。