塩村あやか参議院議員は11月6日、参院本会議で立憲民主党・社民・無所属を代表して質問に立ち、高市総理の所信表明演説について、⑴総理の政治姿勢⑵働き方改革/ワーク・ライフ・バランス⑶ジェンダー・女性政策⑷生活安全・観光政策⑸若者政策(若者・氷河期)⑹高齢おひとり様問題(孤独・孤立)⑺SNS 誹謗中傷・対策⑻国連改革(外交)⑼災害対策(防災庁)――等について質問しました。

 参考原稿は以下の通りです。なお、一語一句参考原稿どおりに発言していないことをご承知おきください。

総理所信表明演説に対する代表質問原稿

令和7年 11 月 6 日

立憲民主・社民・無所属

塩村あやか

 立憲民主・社民・無所属の塩村あやかです。会派を代表して所信表明演説に対する質疑を行います。まず、総理大臣のご就任を心よりお祝い申し上げます。憲政史上初の女性総理の誕生に、多くの若者や女性たちがこの先の変化に期待を寄せています。

 総理の所信表明演説では、外国人政策における厳格な姿勢や憲法改正への強い意欲など、報道のとおり「タカ派」と評される政治姿勢が示されました。私とは政治的スタンスが異なります。しかし、同じ女性だからこそ共有できる感覚があると信じています。総理は自身の HP のコラムで「不妊の女性にも温かい社会であって欲しい」、「不妊に悩む方や子を持たない人を傷つけるような社会の空気を作ってはならない」と述べられています。私自身も大切にしてきた思いであり、政治的立場を超えて共感できるものです。だからこそ、これまで置き去りにされてきた女性政策を、ともに前へ進めていきましょう。


【総理の政治姿勢】

ジェンダーギャップ指数

 女性やマイノリティーであることが理由でキャリアアップが制限される「ガラスの天井」を総理は破ったと評されています。所信表明では伺えなかった、そのことへの率直な受け止めを総理に伺います。

 日本のジェンダーギャップ指数は148 カ国中118 位。先進国の中でも最下層にあります。 政治分野は前年よりも後退し、125 位。この状況をどう受け止め、また、憲政史上初の女性総理として、総理の在任中にジェンダーギャップ指数をどこまで改善するのか。女性たちは注目しています。数値目標と期限、その挑戦への具体策を総理に伺います。

 組閣の段階で高市内閣は女性大臣が 6 人と報道され、期待が高まりましたが、2人にとどまりました。歴代最多は小泉・安倍・岸田、各内閣の各5人です。初の女性総理の内閣で、 なぜ、2人にとどまったのか。総理にお伺いします。


【働き方改革/ワーク・ライフ・バランス】

仕事と家庭の両立

 仕事と家庭の両立、いわゆるワーク・ライフ・バランスについて伺います。女性が安心して働き続けられる環境づくりは、少子化対策にも経済成長にも欠かせません。総理ご自身も、働く女性としてキャリアを築いてこられました。その経験を踏まえ、働く女性が家庭や介護 と両立しながらキャリアを継続できる社会の実現に向け、どのような取組が必要と考えているのか。総理に伺います。

 両立を支える新しい仕組みとして、近年、多くの職場で注目されているのが「同僚手当」です。三井住友海上などが導入し、育児や介護で職場を離れた社員の業務を担った同僚に、手当やボーナスを支給する制度です。支える人が正当に評価されることで、休む人も気兼ねなく働き続けられる——そんな“お互いさま”の職場づくりとして、現役世代を中心に広がりを見せています。

 現在、政府は「育休中等業務代替支援」として中小企業に補助を行っていますが、執行率 はわずか 0.6 パーセントにとどまっています。この仕組みを広げるため、加算や引き上げの検討、そして大企業への補助対象拡大を行う考えがあるか。総理に伺います。

働き方改革

 総理は、厚生労働大臣に対して「労働時間の上限規制の緩和の検討を行う」よう指示されました。確かに、一部の産業では繁忙期や突発的対応に一定の柔軟性が必要だという意見があることは承知しています。しかし、労働基準法に基づく残業時間の上限は、命を守るための規制です。

 全国過労死を考える家族の会の遺族の皆さんは、「もう二度と同じ悲しみを繰り返さない でほしい」「命より優先される仕事はない」と訴えています。この切実な声をどのように受け止めているのか。総理に伺います。

 そして――報道によれば、経団連は当初「働きたい改革」として規制緩和を前面に掲げましたが、強い批判を受け、撤回しました。総理も厚労大臣への指示を撤回されるのか、お伺いいたします。


【ジェンダー・女性政策】

 次に、具体的な「女性政策」について伺います。

 総理。以下、指摘する課題はすべて、女性の命と健康に直結する切実なものです。「出産や育児、病気との闘い」――これらは政治特有のボトルネックに阻まれ、男性ばかりの国会の中で後回しにされて、改善されないまま放置されてきました。しかし、女性初の総理のひとことがあれば、一気に前に進み始めます。

女性の健康総合センターについて

 まず、「女性の健康総合センター」について伺います。

 総理の所信表明演説で掲げられた「攻めの予防医療」、そして性差に応じた医療や支援の充実を加速するという方針は、同じ女性として大変心強く受け止めました。女性特有の疾患やライフステージごとの課題に正面から取り組む姿勢を示されたことは、長年置き去りにされてきたテーマに光を当てた、画期的な一歩です。

 その上で伺います。所信で述べられた「女性の生涯にわたる健康の課題に取り組んできた」とは、具体的にどのような分野・取組を指しておられるのか。今後の政策展開と併せて、総理、説明をお願いいたします。

 一方で、女性の健康課題は生理の健康、不妊治療、妊娠・出産期の母体ケア、更年期障害など、ライフステージごとに異なります。こうした多様な課題を踏まえ、昨年設立された「女 性の健康総合センター」を司令塔として、どの課題を優先し、どのように全国へ広げていくのか。具体的な方針を総理に伺います。

 加えて、医療制度の遅れについてお尋ねします。妊娠中の強い吐き気(つわり)に使われる薬のオンダンセトロン等は、海外では妊娠悪阻に対して公的保険で広くカバーされていますが、日本ではいまだ適用外で妊婦さんが自費負担を強いられています。また、乳がんについては治療薬のおよそ 4 分の 1 が未導入のまま、深刻なドラッグロスが続いています。総理の掲げる「攻めの予防医療」等には、こうした是正も含まれているのか。総理お答えください。

立憲民主党の女性政策(無痛分娩・痛くない乳がん検診)

 私たち立憲民主党は様々な「痛みを取り除く」女性政策を掲げています。例えばそのひとつが、無痛分娩です。出産に伴う大きな不安の一つが「産みの痛み」です。無痛分娩はその痛みや不安を和らげる手段ですが、日本は先進国の中で大きく遅れています。無痛分娩率9割のフィンランドでは、女性議員が国会で声を上げ、わずか数年で調査予算がつき、普及が進みました。1977 年。実に 48 年前のことです。日本ではいまだに女性の声が十分に届かず、他の先進国より大きく立ち遅れて、1割台となっています。このままでいいのでしょうか。初の女性総理である高市総理にこそ、この分野を大きく前に進めていただきたいと考えます。

 2つ目は、乳がん検診です。「検査が痛いから行かない」という声は根強く、日本の受診率は 47%にとどまる一方、欧米では 70〜80%に達しています。日本女性は乳腺が高濃度、いわゆるデンスブレストが多く、圧迫による痛みが強いだけでなく、マンモグラフィでは初期病変が見えにくい課題もあります。MRI を活用した日本発祥の「DWIBS 検査法」は、痛みも被ばくもなく、服を着たまま検診でき、妊娠中や豊胸手術後でも受診可能で、初期病変の発見にも有効とされており、自治体では「補助」や「ふるさと納税の返礼品」として人気を集めています。欧米ではMRI検査が高リスク群に標準的に導入されているにもかかわらず、日本ではいまだ“補完的”扱いにとどまっています。

 男性中心の国会では、長い間、女性の痛みが置き去りにされてきました。無痛分娩の推進 や、痛みの少ない乳がん検診の普及はいずれも、女性たちの切実な声に応える取組みです。こうした課題について、数値目標や実施時期を設定し、早期の実現に向けてどのように進めていくのか。総理にご答弁を求めます。


【生活安全・観光政策】

生活安全の確保と買春観光防止、トクリュウ対策

 日本の治安と国際的信用に関わる重大問題について伺います。

 歌舞伎町などでは外国人観光客による買春 ――かいしゅんとは男性が女性を「買う」側の行為のこと――買春 が横行し、海外メディアからは「日本は新しいセックスツーリズム国」と報じられています。この実態は SNS でも拡散されており、日本は女性の尊厳を守らない国だというイメージが国際的に広がりつつあります。これは問題ではないでしょうか。総理の考えを伺います。

 現在、日本には買春を罰する規定がなく、外国人男性にとっては「安心して買春できる国」と認識される一方で、性を売らざるを得ない’女性だけ’が検挙されるという歪んだ構造があります。女性と日本の尊厳を守るためにも、国際基準に沿った規制導入を急ぐべきではないでしょうか。総理、お答えください。

 さらに深刻なのは、買春資金が匿名流動型犯罪グループ(いわゆる「トクリュウ」)を通じて国際犯罪組織に流れる懸念です。日本が女性の人権侵害に加え、犯罪資金の拠点と見な されれば、国際的信用を損ないます。こうした事態を防ぐため、政府として規制・取締りの強化や、この度新設された「日本版 FBI」の位置づけ・機能強化を含め、日本の国際的信用を守るためにどのような対策を講じていくのか、総理に伺います。


【若者政策(若者・氷河期)】

奨学金の税控除

 ところで皆さん。日本の未来を担う若者を応援することは、政治の最も大切な役割の一つではないでしょうか。そこで、奨学金返済の負担軽減策について伺います。

 令和7年度のデータでは、奨学金の返済を行っている人は約497万人に上っています。平均の借入総額はおよそ330万円、返済期間の平均は約15年。奨学金の返済は、社会に出てまだ収入が低い時期、そして結婚や子育てなど家庭を築く時期に重くのしかかります。教育を受けたことが、むしろ人生の選択を狭める要因となっているのです。少子化が進み、物価高のいま、若い世代の手取りを少しでも増やすために、返済額を所得税の控除対象とすることは、合理的かつ効果的な負担軽減策ではないでしょうか。

 しかし財務省はこれまで、「奨学金を借りていない人との公平性が確保できない」「税制上の収入減という財源面の課題がある」として、税控除の導入に慎重な姿勢をとってきました。私自身もかつて奨学金の返済に苦しんだ経験があり、この政府答弁に、強い疑問を抱いています。

 若い世代の未来を支えるため、奨学金返済の税控除を導入すべきです。総理の決意にかかっています。総理、お答えください。


【高齢おひとり様問題(孤独・孤立)】

高齢社会と看取り業者問題

 次に、高齢おひとり様問題について伺います。我が国では 65 歳以上の一人暮らしが急増しており、2040 年には 1041 万人に達すると推計されています。65 歳以上の世帯では、単身世帯が全体の半数を超える状況です。こうした中で「最期を誰が見守るのか」「死後の手続きを誰が担うのか」という安心の担保が、避けられない社会課題になっています。

 都市部では、孤独死が数日間発見されない事例も増え、警察庁のまとめでは高齢者の自宅での孤独死が年間で数万人規模に上ると報告されています。こうした不安を背景に、生前の遺言や財産管理などに関わる民間事業者、いわゆる「看取り業者」が登場しています。しかし所管省庁は不明確で、強いて言えば経産省とされますが、人の最期を産業政策の文脈で扱 うのは不適切ではないでしょうか。実際に、高額な費用を請求したり、認知症高齢者に遺産を遺贈させるといった、‘詐欺まがい’の深刻なトラブルが多発しています。今後さらに単身高齢者は増加します。看取り業者の所管省庁を明確にするのかを含め、高齢おひとり様問題に対する高市政権の方針を、総理に伺います。


【SNS 誹謗中傷・対策】

 次に、SNS での誹謗中傷と選挙について伺います。いまや SNS は、選挙で有権者の判断を左右するほどの影響力を持つ存在です。ところが近年、根拠のない中傷や歪められた情報が拡散し、選挙結果を揺るがす事態が相次いでいます。宮城県知事選では、候補者の政策を歪めた虚偽情報が選挙戦で広まり、政策論争がかき消されました。兵庫県知事選では、SNS上の誹謗中傷が深刻化し、県議が辞職に追い込まれた末に命を絶つという痛ましい事態にも至っています。民主主義を守る選挙が、政治家までもが加担をして、人の命を奪う場に変質しているのです。

 宮城・兵庫を含む最近の事態をどのように受け止めておられるのか、総理にお伺いいたします。

 民主主義を守るための選挙が、誹謗中傷やデマによって壊されれば、その結果はもはや正 当性を持ち得ません。事実に基づかぬ選挙は、民主主義の基盤そのものを揺るがすものです。専門家からも、選挙期間中に限ってでも SNS での虚偽情報や中傷に一定の規制を設ける必要があると警鐘が鳴らされています。選挙運動に関する各党協議会でも議論が続いていますが、どのような方針で対策を進めるのか、総理にお伺いいたします。

 子どもと SNS について

 次に、子どもたちのSNS利用について伺います。世界では、オーストラリアが 16 歳未満の利用を禁止する法律を可決。フランスでは 15 歳未満に親の同意を義務付ける制度が既に施行され、規制の動きが国際的に広がりつつあります。

 こうした海外の動きに対する受け止めを含め、我が国として子どもたちをオンラインの有害情報や依存からどのように守っていくのか。総理に伺います。


【国連改革(外交)】

 総理は所信表明演説のなかで「『世界の真ん中で咲き誇る日本外交』を、未来に確かな形で咲かせる」と述べられました。国連改革について伺います。

 国連は創設 80 周年を迎えます。戦後、日本は国連加盟国最多となる 12 回、非常任理事国として国際社会の信任を受け、短い間隔で選出され続けてきました。これは、平和国家として歩んできた日本への信頼の証です。しかし今、その流れは途絶えようとしています。日本は次の非常任理事国入りを目指すのは 2032 年、その次は 2043 年と表明しました。それまでの間、国連安全保障理事会に直接関与することができなくなり、日本外交の存在感の低下、国益そのものに影響しかねません。一方で、権威主義的な大国はグローバルサウスを取り込み、影響力を広げています。これに対抗できるのは、戦後 80 年、平和外交を貫き、世界から揺るぎない信頼を得てきた日本です。この信頼は未来世代に引き継ぐべき外交資産であり、決して絶やしてはいけないと考えます。

 日本は現在もドイツ・インド・ブラジルと共に「G4」の一員として常任理事国入りを目指していますが、同時に常任・非常任の双方を拡大する包括的改革を支持しています。併せて、拒否権の制限を含む改革案も議論されています。膠着が続いて 20 年近く大きな進展が見られない中で、日本がどのように存在感を発揮し、安保理改革を具体的に動かしていくのかが問われています。

 国連改革の実現が総理の掲げる「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」に含まれるのか、含 まれるなら、当面はG4を主軸とするのかそれとも包括改革案へ軸足を移すのか、従来政権からのスピード感や優先順位の違いも併せて高市新政権の方針を、総理に伺います。


【災害対策(防災庁)】

 防災庁創設について伺います。

 総理は所信表明演説で、「令和の国土強靱化対策」を進め、国民の命と暮らしを守る決意を示されました。地震や台風など自然災害が相次ぐ日本において、防災・減災は国の基盤そのものです。

 台風 22 号・23 号の連続襲来では、八丈島で断水や土砂崩れの危険が続き、漁業や観光業が大きな打撃を受けました。私の知人も住まいを失い、やむなく島を離れる決断をしました。こうした課題は八丈島に限らず、島嶼地域や中山間地など全国各地で繰り返されています。激甚災害の指定には時間がかかり、その可否が決まるまで生活や事業の見通しが立たないという現実もあります。防災庁の創設は、こうした構造的課題を見直す機会です。防災庁を設置することにより、これらの課題を含め、何がどう変わるのか総理に伺います。


【さいごに】

総理の覚悟

 女性の痛みをなくし、努力が正当に報われる社会を実現できるか——それこそが、初の女性総理として真価を問われる試金石です。

 いまを生きる女性たちの現実を動かせるのは、総理の決断と行動です。女性が生きやすい社会の実現に向け、どのような信念で臨まれるのか。その覚悟を総理に伺い、質問を締めくくります。