野田佳彦代表は11月26日、国家基本政策委員会合同審査会において、高市早苗総理大臣と党首討論を行いました。討論では、日中関係、経済政策、政治改革の3つのテーマを中心に活発な議論が交わされました。
■日中関係の悪化を懸念
野田代表は冒頭、日中関係について「日米同盟は外交安全保障の基軸だが、日中関係も重要な2国間関係」と述べ、10月末の日中首脳会談で戦略的互恵関係などが確認されたことを「一定の評価」としました。
しかし、その1週間後の11月7日に、高市総理が衆院予算委員会で台湾有事を巡り、存立危機事態に関わる具体的な事例を挙げて答弁したことにより、日中関係が「極めて冷えた関係」になったと指摘。「中国の外交当局の威圧的な言動はわが国の国民感情を害する」としつつも、「お互いにヒートアップしている。冷静な関係に持っていくことが極めて大事」と述べました。
野田代表は、高市総理の発言が「事前に政府内や自民党内で調整をした上での発言ではなかったのではないか」と疑問を呈し、「同盟国であるアメリカが台湾についてあいまい戦略をとっているのに、日本だけが具体的に姿勢を明らかにすることは国益を損なう」と批判。「独断先行だったのではないか」として、総理の責任を追及しました。
さらに野田代表は自身の経験として、2012年9月の尖閣諸島国有化に言及。「戦略的に取り組んだ」として、今回の高市総理の発言とは性質が異なると指摘した上で、「尖閣の場合はわが国の固有の領土で国内問題。一方、中国は台湾を国内問題と考えており、確信的利益の核心と言っている。尖閣の国有化によって生まれた摩擦よりも影響は深刻ではないか」と述べました。
これに対し高市総理は、「存立危機事態の認定については、実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して政府がすべての情報を総合して判断する」という従来の政府見解を繰り返した上で、「予算委員会で具体的な事例を挙げて聞かれたので、言える範囲で誠実に答弁した」と説明。「政府の統一見解は昨日閣議決定した通りで、それ以上でもそれ以下でもない」と強調しました。
野田代表は「閣議決定された文章を確認した」とした上で、「これからも繰り返し繰り返し総理自身に説明していただきたい。そこから一歩を越えることのないようにしていただきたい」と要請しました。
■経済対策の規模と財政懸念
討論は経済政策に移り、野田代表は先週金曜日に閣議決定された21.3兆円規模の経済対策について質問。「規模は極めて大きいが、大きければいいというものではない。マーケットが警鐘を鳴らしている」と指摘しました。
具体的には、近時の国債金利の上昇を挙げ、「今日は1.8パーセント台に乗っているが、先週末は1.8パーセント台の半ばまで行き、17年半ぶりの国債金利。特に超長期債は財政に一番敏感に反応するもので、これは史上最高」と述べました。「特に高市政権になってから上がり続けている。今回の経済対策を含めて放漫財政に対する警鐘ではないか」として、総理の見解を求めました。
高市総理は「放漫財政という指摘には決して当たらない経済対策を組んだ」と反論。物価高対策に加えて、「成長する経済を作らなければ財政は絶対に健全化しない」等と説明しました。
野田代表は「見解が異なる」として、物価高対策は緊要性があるとしつつも、「危機管理投資、成長力投資、外交力などの他の柱には緊要性がない」と批判。「補正予算は年度内に執行することに意味があり、緊急かつ必要性があるかどうかが問われる。緊要性のないものがいっぱい入っている」と指摘しました。
特に防衛費について、「1兆円増額しようという話だが、2023年度も2024年度も予算として使い切れず、1000億円以上余った」として、補正予算で計上することを疑問視。「今までも補正予算を大きく膨らませて、次の年度の当初予算に紛れ込んでいくということを繰り返してきた。効果の検証ができず、基金のようなものを積んでしまうということを繰り返してきた。今回もその恐れが十分ある」と述べました。
さらに野田代表は、もう1つのマーケットの警鐘として円安を挙げました。「総理就任以降、約7円安くなっている。総裁選以降では約10円、円安が進んでいる。今日も155円台、先週末が157円台で、明らかに高市円安的な流れ」と指摘。「円安は明らかに物価高を助長する。輸入物価が更に高くなれば、今も物価高なのにさらにインフレが助長される」として、円安も含めてマーケットの警鐘として受け止めるべきだと主張しました。
野田代表は「国債安に始まり、通貨安になり、株も安くなっていくというトリプル安は2022年のトラスショックと同じ。債権安から始まっている」として、「総理はマーガレット・サッチャーを目指しているとおっしゃっているが、リズ・トラスになることのないように十分にご注意いただきたい」と警告しました。
これに対し高市総理は、「為替の動向について私の立場で申し上げることはできない」としつつ、「ファンダメンタルズに基づいたものなのかどうか、投機的な動きもある。さまざまな状況を見ながら必要な手立てを講じていく」と述べました。
■政治改革
討論の最後に、野田代表は政治改革について質問。「19世紀の政治家で腐敗防止法を作ったヘンリー・ジェームズを尊敬している」として、「その原点に立ち帰ると、今回の臨時国会における政治改革は、政治とカネの問題に決着をつけることだ」と述べました。
野田代表は、石破前総理時代の8月4日の予算委員会で、公明党と国民民主党が提案していた企業・団体献金の受け取り先を絞っていく案について質問し、石破前総理が「その通り」と受け入れ、自民党の政党支部の企業・団体献金の実態を調査するよう指示したことに言及。「あれから4カ月ぐらい経つが、まだ調べているのか。いつまでに回答していただけるか」と質問しました。
高市総理は、自民党の政党支部が7757と非常に多く、「事務局でしっかりと慎重に調査している」と説明。党で決定した内容として、「政治資金収支報告書のオンライン提出をしない政党支部は企業・団体献金を受け取れないという案。これは3月に自民党、公明党、国民民主党で合意したもの」と述べました。「党本部が指定する支部はオンライン提出ができる支部かどうかで、きちっと指定する。それ以外の支部は企業・団体献金は受け取れない」と説明しました。
企業・団体献金のあり方については、「自民党はどちらかといえば草の根活動を支える事業者に支えられていることが多い。労働組合に支えられている政党もあれば、機関紙の発行収入などに支えられている政党もある。それぞれに政党のあり方、成り立ちが違う」と述べました。
野田代表は、実態把握の時期について明確な答えがなかったことを指摘し、「いつまでも実態を把握できないような政党支部が企業・団体献金を受け取るべきではない」とあらためて主張。
その上で、「公明党案、国民民主党案がまもなく法案として出てくる。政党支部は受け取れなくするということは前進だと思う」として、立憲民主党が提出していた企業・団体献金の全面的な禁止法案を「お互いの合意のもとで取り下げる」ことを今日の政治改革推進本部の役員会で決めたことを明らかにしました。「公明党、国民民主党案が出てきたならば、若干修正を要求するかもしれないが、基本的には賛成してこの国会で通したい」と述べ、総理の見解を求めました。
これに対し高市総理は、「支部の実情の調査を行っているが、それを公にお示しするという約束であるとは思っていない。党内の議論でしっかりと役に立てるということで、本日新たな決定をした」と述べました。
今日の討論を通して、日中関係の緊張状態、経済政策の方向性、政治改革の進め方について、両党首の考え方の違いが鮮明になりました。