石垣のりこ参議院議員は12月8日、参院本会議において、片山財務大臣の財政演説に対する代表質問を行いました。石垣議員は(1)外交姿勢、(2)責任ある積極財政、(3)補正予算における「緊要性」、(4)物価高対応ーー等について政府の見解を質しました。
予定原稿は以下のとおりです。
令和7年12月8日令和7年度補正予算代表質問
会派/立憲民主・社民・無所属石垣のりこ
立憲民主・社民・無所属会派の石垣のりこです。会派を代表し、令和7年度補正予算案について、高市総理ならびに関係大臣に質問します。
本日は、12月8日です。わが国がかつて、国家の存立を危うくする戦争へと踏み出した、その歴史を想起せざるを得ない日であります。そして、今年は戦後80年です。事実から目を背け国際秩序を見誤ったとき、国民生活はもちろん、国家の経済基盤がいかに脆く崩れ去るか。その教訓を、私たちは決して忘れてはなりません。
今国会、高市総理大臣の所信表明演説においても、また先ほどの片山財務大臣の財政演説においても、「強い」あるいは「力強い」経済、「強い」日本と、繰り返し「強さ」が強調されています。
では、「強さ」とは何か。「強い国」とは、どのような国であるのか。
私は、法の下の平等が徹底され、互いの多様性を認め合いながら、誰もが自らの夢に向かって努力できる公平な機会を持てることこそが「強い国」であり、そしてそうした社会を下支えする政治の意思決定が企業・団体献金などに左右されないことこそが、真に「強い国」の姿ではないかと考えます。
◼1◼外交姿勢
この見地に基づいて、まずは、高市内閣の外交姿勢について伺います。高市総理は、『世界の真ん中で咲き誇る外交』を掲げておられます。いまだ終結の見えないロシアによるウクライナ侵略、そして、停戦決議を顧みることなく人道危機が深刻化するイスラエル・パレスチナ情勢を前に、日本は国際社会の一員として、いかなる立場と責任をもって臨むのでしょうか。
特に、パレスチナ・ガザ地区の食料難は極めて深刻です。国連機関や人道支援団体などによる「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」の検討委員会は、今年8月、食料不足の深刻度を測る国際的な基準である「総合的食料安全保障レベル分類」のもっとも危機的な、レベル5「壊滅的飢餓」に当たるとし、このままでは特に子どもたちに多くの餓死者が出ることを警告しています。
停戦合意後も民間人への攻撃を続けているイスラエルに対しては、経済制裁も含めて検討すべきとの意見もあります。総理の見解を伺います。(総理大臣)
また,今後,国際秩序の維持と人権の擁護において、我が国が『名誉ある地意』を占めるために、どのような外交努力を積み重ねていかれるのか、総理としての真摯な答弁を求めます。(総理大臣)
◼2◼「責任ある積極財政」
次に、本補正予算の基本的な考え方についてお伺いします。本補正予算案の歳出は約18兆3034億円です。成立すれば、6年連続で10兆円を超える規模となります。今年度の本予算が約115兆1978億円ですので、本予算の約16%に相当する額が補正予算で組まれています。また、不足する歳入分として、約11兆7000億円の国債が充てられる予定です。
高市内閣は「責任ある積極財政」を掲げていますが、「責任ある状態」と「無責任な状態」の具体的境界線は何か、総理、明確にお答えください。(総理大臣)
2022年、英国のリズ・トラス首相が「ミニ・バジェット」と呼ばれる財政政策を発表しました。過去50年で最大規模の減税を国債発行で賄ったため財政健全化に対する懸念が生じ、国債の金利は4、5%に上昇、ポンドはドルに対して過去最低まで下落するなど、通貨、株、債券の「トリプル安」は「トラスショック」と呼ばれ、結果として早期退陣に追い込まれました。高市内閣の「責任ある積極財政」が財源の裏打ちがないまま進めば、日本でも「トラスショック」が起こりうるとの懸念がありますが、総理の認識を伺います。(総理大臣)
◼3◼補正予算における「緊要性」とは
次に、補正予算における緊要性についてお尋ねします。
参議院は「良識の府」であり、「決算の参議院」とも言われます。予算は“計画”、決算は“結果”であり、結果を見ずに次の予算を作成すれば、非効率や無駄が温存されてしまいます。
また、補正予算の度に、財政法29条における「予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費の支出」等のために作成できるという規定、いわゆる「緊要性」が問題になります。補正予算として組まれている施策を見ると、「中小企業・小規模事業者をはじめとする賃上げ環境の整備」や「経済安全保障の確保に資するサプライチェーンの強靱化事業」、また、大規模災害対応以外の「国土強靭化の推進」、「食料安全保障の確立」など、本来、本予算で組むべき施策のオンパレードです。
令和6年4月15日の参議院決算委員会で、私は当時の高市国務大臣に「緊要性が要件である補正予算において、当初予算より多く予算を計上することが常態化している施策の妥当性」について問いました。具体的には、何例かの宇宙開発関連予算の事業を挙げ、「計画的に推進することが必要な予算であれば、本予算でしっかり確保すべきではないか」と質しました。当時の高市国務大臣は、「当初の段階でしっかりと財務省がご理解いただくことが大事だと思います」と、にっこり微笑みながらご答弁されました。高市大臣は今や総理となられたわけですから、政府が積み上げてきた補正予算案の中から、本予算で計上すべき緊要性の乏しい施策は切り分けて、来年度の予算案に組み込んでいただけるものと期待しておりましたが、残念ながら精査して減らすどころか、2兆円を超える上乗せを指示したと報道されております。
まずは、財務大臣に伺います。財政法で補正予算には緊要性が求められてる理由はなんでしょうか。(財務大臣)
今年度の補正予算案の中で「緊要性が要件である補正予算において、当初予算より多く予算を計上することが常態化している施策」や、また、複数年にわたって「補正予算でしか組まれていない施策」にどのような予算がありますか。それらは、内容を精査した上で継続して取り組む必要があるものは、本予算で組むべきではありませんか。(財務大臣)
また、今年度補正予算と来年度予算を一体で考える15ヶ月、あるいは、16ヶ月予算の考え方は、今も継続されているのでしょうか。(財務大臣)
予算執行が年度を跨ぐ事業について、政府は「本予算が年度内に成立しなかったり、年度内で成立してもすぐに施行できない場合を考えて柔軟に使えるように対応する」ために必要であると説明します。しかし、そうだとすると常に補正予算ありきの、財政法に違反する補正予算の組み方が常態化することになり問題だと考えますが、財務大臣に率直な答弁を求めます。(財務大臣)
本補正予算案では、今後の自然災害対応や物価高などの追加的対策への備えとして、一般会計予備費として7098億円もが計上されています。予備費の使用については、国会の事後承諾を得ることとなっており、予算の事前議決の原則の「例外的制度」とされています。予備費は不測の事態に備えるという点で必要ではありますが、あくまで「例外」です。今年度も残り4ヶ月を切った段階で、今年度当初予算で2900億円余りの残額があるにもかかわらずさらに積み増しする合理的理由があるのか財務大臣、お答えください。(財務大臣)
◼4◼補正予算における防衛費の緊要性
続いて、防衛費に関してです。
外交・安全保障環境の変化への対応として、1兆2536億円が計上されています。高市内閣では、今回の補正予算で岸田内閣で決定した防衛費・対GDP比2%水準を前倒しで達成するとしています。
例えば高額療養費制度に関する今年の通常国会での審議でも明らかになったように、政府は、少子高齢社会によって社会保障費がどんどん膨らみ財政が厳しいことを理由に、当事者の意見も聞かないまま予算を削ろうとしたり、必要な支援策を「後ろ倒し」し続けています。にもかかわらず、防衛費GDP比2%をわざわざ補正予算で、しかも、ほぼ国債発行で「前倒し」して優先しなければならない理由はあるのですか。総理、明確にお答えください。(総理大臣)
防衛費倍増を決めた令和5年、5年間で43兆円を捻出する財源として、当初、増税を防衛財源の柱とする案が示されていました。その案をうやむやにしたままで、結局は赤字国債の発行で賄うことをよしとするのであれば、最初からそのように説明して防衛費倍増の是非を問うべきだったのではないでしょうか。財源の確保を宙に浮かせたまま、例えば野党側が提案する消費税減税については「財源!財源!財源!」と指摘するのですから、その財源を握り、捻出の方法に長たけた政府が財源をどうするかの決定を先延ばしにして防衛費倍増を前倒しするのは「責任ある積極財政」など聞いて呆れる「無責任極まりない破綻財政」と言わざるを得ません。防衛費2%に充てる分の①法人税の上乗せ、②たばこ税の引き上げ、また、③東日本大震災復興特別所得税2.1%のうち、1%を当てるといった方針に変わりはないのですか。令和9年度から所得税を「増税」して財源に充てると報じられていますが、総理、真偽も含めてご答弁をお願いします。(総理大臣)防衛費の前倒しの中身について、自衛隊隊舎の建て替えなどが挙げられています。自衛隊の方々の処遇改善は待ったなしであることに異論はありませんが、もう何年も前から指摘され続けてきた項目であり、どうして今年の本予算としてきっちり計上しなかったのでしょうか。今年の本予算成立後に突然隊舎が古くなったり、来年の本予算での計上を待っていられないほど危機的で緊要な事情があったのか防衛大臣、答弁願います。(防衛大臣)
◼5◼物価高対応
次に物価高対応についてお伺いします。
政府は、重点支援地方交付金について、お米券の配布をメニューに組み込み、全国で自治体を対象とした説明会を急遽実施しています。通常のお米券は額面が500円であっても実際の価格分は440円であり、12%が手数料である上に、配布の経費が嵩むこと、年末でそれでなくとも忙しい時期、人手不足の上に事務手続きの煩雑さが日常業務に追い打ちをかける政策であることに、異を唱える自治体もあります。政府は自治体のこうした声をどのように受け止めているでしょうか。(農水大臣)
また、商品券の類による物価高対策は使用期限を設ける方針とのことですが、お米券の使用期限が過ぎた場合、お米券はただの紙切れになってしまうのではないですか。また、お米券販売元には交付金が残っても結果的に家計支援には回らないことになり、お米券は食料品の高騰対策としては推奨すべきメニューではないと考えますが、いかがですか。(農水大臣)
さらに、使用期限内に使ってしまおうと買い溜めに走り、家庭内備蓄が増え、結果として米の需給バランスに影響を及ぼす可能性も否定できないと考えますが、以上3点に関して農水大臣の見解を問います。(農水大臣)
◼6◼消費税減税について
次に消費税減税についてお尋ねします。
物価高の中でもお米をはじめ食料品の高騰が家計を直撃しています。2024年は2人以上の世帯でエンゲル係数が過去43年間で最高域となる28.3%まで上昇し、生活費に占める食費の負担が大きくなっていることが示されました。われわれ立憲民主党は、食料品の消費税ゼロを実現すべく、衆議院で法案を提出しています。高市総理は先週の令和6年度決算に関する本会議で、消費税に関して「消費税は消費に担税力を認めて課されるものであり、多額の消費を行う消費者ほど担税力があるものとして多くの消費税をご負担いただく仕組みとなっていますので、担税力に応じた税負担の配分を意味する税の応能負担の原則は損われていないと考えております。」と答弁されていますが、「担税力」があるから多額の消費をするとは限らないのではありませんか。(総理大臣)
「担税力」イコール「税を支払うことができる経済的な力や余裕」とすると、負担する額面が多いか少ないかだけでなく、生活費に占める消費税の負担「割合」を考慮しなければ「税の応能負担の原則」が損なわれていないとは断言できないと考えますが、総理のご認識を伺います。(総理大臣)
消費税の負担割合を見たときに、所得が低い人ほど消費税の負担割合が重くなる、いわゆる「逆進性」解消のためにも、消費税減税、少なくとも食料品の消費税減税が有効と考えますが、高市総理大臣のご見解を伺います。(総理大臣)
◼7◼医療機関、介護・福祉施設への支援
次に、医療機関、介護・福祉施設への支援について伺います。
昨年度、経営赤字に陥った公立病院は、83.3%にものぼり過去最高を更新しました。政府は、医療機関や介護施設等における経営改善や従業員の処遇改善に向け、令和8年度報酬改定の効果を前倒しするため、「医療・介護等支援パッケージ」を措置しました。確かに、医療機関や薬局における賃上げ、物価上昇に対する支援に5341億円が措置されるなど緊急対策の側面はあります。しかし、よく考えていただきたいのです。地域医療が崩壊の危機に直面するほど公的病院が経営の危機に陥っているのはなぜなのか。「予算作成後に生じた事由に基づいた」わけでも「予期できなかった経費」でもないはずです。政府が、長引く物価高、長年にわたる看護師不足、医師不足といった医療現場の叫びを放置し、必要な診療報酬を確保してこなかったツケが積もり積もって決定的になってしまった、医療政策の失敗そのものなのではありませんか。まず、その反省はあるのか、総理にお尋ねします。(総理大臣)
公的病院は地域医療の要です。補正予算で赤字を補填するような事態を招かないよう、来年度の診療報酬改定においては物価上昇率を上回る改定を行うことが重要だと考えますが、総理大臣の答弁を求めます。(総理大臣)
◼8◼クマ対策
最後にクマ対策についてお伺いします。
今年は東北地方を中心にクマ被害が相次いでいます。宮城県では、11月末までの予定だった「クマ出没警報」を今月12月末まで継続、延長しています。本来であればそろそろ冬眠の時期にもかかわらず、クマ出没の報道が続いていることに、さらなる危機感を覚えます。まさかこんなところに!と驚くような都市部にまでクマの目撃情報が寄せられ過去最悪の被害を更新している現在、クマ対策は喫緊の課題であります。おちおち散歩もできないとの声や、子どもたちの登下校の送り迎えが必要になったり、クマが目撃された近くの学校では先生方が見回りを行ったり、予定されていた野外イベントが中止になったりと、日常生活に大きな影響を及ぼしています。クマを捕獲できるハンターの育成は急務でありますが、ハンターの資格があれば誰でもクマの捕獲ができるわけではなく、クマの習性や生息している地域の地理や環境にも精通している必要があります。政府は今年のように里山だけではなく市街地までクマが出没するようになった理由について分析し、抜本的対策を取ることが必要です。今回、政府はクマ対策に約34億円の予算を計上していますが、すでに自治体が実施しているクマ対策にかかる経費についても、遡って支援対象にする必要があると考えますがいかがですか。(総理大臣)
そもそも、来年度予算の概算要求はクマの出没が深刻になる以前の8月末に行われていて、クマ予算は少なく見積もられています。概算要求内にとどめてしまうと足りなくなるのは明らかでありますので、要求額以上の予算をつけるべきだと考えます。毎年補正予算が必要となる前提の予算編成は止めるべきではないでしょうか。以上2点に関して、総理大臣の答弁を求めます。(総理大臣)
(最後に)
以上、本補正予算案は、ガソリン暫定税率廃止に伴う減税額分の補填や喫緊の課題としてのクマ対策など緊要性を満たす本来の補正予算として妥当な施策がありますが、全体としては本来「本予算」に組み込むべき施策が大半を占めているのは、明らかです。これでは、財政規律を形骸化させ、国家財政を歪めます。高市総理は「経済あっての財政」を主張されておられます。その言葉が財政民主主義の意義を失わず、財源を最大限に生かし、経世済民の力を持つためには、予算・決算の透明性をさらに高め、政策の検証が適切になされなければなりません。
われわれ立憲民主党は、立憲主義に則った手続きを重んじながら本補正予算案の妥当性を審議し、しなやかで胆力のある日本経済の再生と国民生活の質の向上に資する予算編成を追求することをお誓い申し上げ、質問を終わります。