立憲民主党は、12月10日午後、畜産・酪農政策WT(座長・渡辺創衆院議員)・農林水産部門(部門長・神谷裕ネクスト農林水産大臣・衆院議員)合同会議を国会内で開催、畜産・酪農をめぐる情勢について、農林水産省よりヒアリングを行い、畜産物価格等に関する決議案の検討に着手しました。(司会:西川将人畜産・酪農政策WT事務局長・衆院議員)
冒頭、渡辺創座長より「今日は、農林水産省から畜産・酪農をめぐる情勢について説明を受け、畜産物価格の決議等も含めた議論を行いたい」との挨拶がありました。
■農林水産省の説明
農林水産省より、概略、以下の説明がありました。
<酪農>
・国内の生乳生産量(令和6年度)737万トン(北海道426万トン、都府県311万トン)飲用向けは都府県が多く、北海道は加工に回し、需給調整の役割。
・令和7年度(4~9月)の生産量は、北海道の牽引により前年同期より増加。仕向け先では牛乳向けが減少、乳製品向けが増加。
・総合乳価は、近年の生産資材価格等の上昇を受け、累次引上げ。
・酪農の経営安定対策として、加工原料乳生産者補給金を交付。加えて、あまねく地域から集送乳を行うことを確保するため、指定事業者の加工原料乳に対して集送乳調整金を交付。
<肉用牛>
・牛肉の国内生産量は、和牛、交雑種とも増加傾向。
・牛枝肉卸売価格は、令和3年度以降、コロナの関係で低調に推移していたが、令和6年度後半から回復、7年度は物価高の影響を受けているが、前年を上回る水準。
・肉になる前の肉用子牛の価格は、令和4年5月以降下落していたが、直近の令和7年第2四半期は補償基準価格を上回って推移。
・肉用子牛対策は、補償基準価格を下回った場合にその差額の10/10を支払う肉用子牛生産者補給金に加え、昨年別途の発動基準で臨時対策と緊急特別対策を措置。
<豚肉>
・豚肉需要は高まり、消費量、生産量とも増加傾向。
・豚枝肉卸売価格は、令和4年度から節約志向の高まりから、豚肉の引き合いが高く、堅調に推移。3年連続過去最高の平均価格を更新。
・豚飼養戸数は減っているが、1戸当たりの飼養頭数は増加し、大規模化が進展。
・養豚経営の安定対策として肉豚経営安定交付金(豚マルキン)が措置。国3:生産者1で積み立て、標準的販売価格が標準的生産費を下回った場合、差額の9割を交付するものであるが、最近は発動がない状況。
<鶏肉>
・消費生産とも堅調に増加傾向。鶏肉卸売価格も堅調に推移。
・鶏(ブロイラー)の飼養戸数は減少しているが、大規模層が増加。
<鶏卵>
・コロナの影響で一旦価格が下がり、鳥インフルエンザの記録的な発生により相当数の殺処分があり、生産量は減少傾向。
・鶏卵卸売価格は、量が減っていることから若干高い水準が続いている。年末は卵の需要が増えるため、高水準が継続するものと見込まれる。
・鶏卵の」標準取引価格が補償基準価格を下回った場合、価格差補填を行う鶏卵価格差補填事業を実施。さらに低落した場合は、これに加え、鶏舎を長期的に開ける場合に奨励金を交付。
<飼料>
・配合飼料については、原料のトウモロコシが令和4年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降急激に上昇。近年需給ひっ迫の懸念が後退し、アメリカ、南米等主産地の動向を受け、とうもろこしの国際価格は下がってきている。一方、為替相場が大きく変動し、現在円安のため、国内に入ってくるときに高い。
・国内で賄いきれない配合飼料について、激変緩和措置として配合飼料の」価格が上昇したときに経営に与える影響を緩和するため、配合飼料価格安定制度を措置。民間の配合飼料メーカーと畜産経営者が積み立てる通常補填に加え、高騰が激しい場合、国と配合飼料メーカーで異常補填基金を積み立て。
・国際情勢に左右されない持続的な畜産経営を重視。畜種にもよるが、生産費の4~7割が飼料費で、その多くを輸入に依存。そのため、国産飼料に立脚した畜産への転換を推進することが必要。そのため、(1)青刈りとうもろこし等の飼料増産、(2)コントラクター等による飼料生産の効率化、(3)地域計画の中で飼料をしっかり位置付け、(4)耕畜連携等の推進に取り組む。
■参加議員からの質問と農林水産省の回答等
<肉用子牛の生産コストと対策強化の必要性>
参加議員から「2週間前に壱岐の島に行き、牛飼いの皆さんからお話を伺った。特に、繁殖農家の皆さんが、今の子牛補給金ではとてもやっていけない。飼料、燃油が高騰している。農水省として子牛を出荷するまでのコストはどのくらいと捉えているのか」(山田勝彦衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「生産コストには様々あり、出荷コスト、物財費で57、8万くらい。子牛の補給金の上に、臨時対策を措置し、61万円を下回った場合に補償。仮に、子牛が60万で売れた場合、取組を2つ行えば、奨励金が1万円出る。さらに、緊急特別対策で離島以外であれば+1万円、離島であれば+5万円とかなり手厚く支援している。これは今年度措置している予算。これをどうするかは検討」との回答がありました。
参加議員から「緊急特別対策の+5万円は大変助かるという話があったが、現場で+5万円がなくなったという声がある」(山田勝彦衆院議員)との指摘に対して、農林水産省より「+5万円はなくなっていない。子牛価格は極めて好調で70万を超える水準となっており、それで発動しない。制度は措置している」との回答がありました。
これに対し、参加議員から「緊急の+5万円対策ではなく、恒常的に65万円、70万など再生産可能な発動ラインにすることで意欲が沸き、離農が止められると思う。検討いただきたい」(山田勝彦衆院議員)との指摘があり、農林水産省より「ご意見として受け止める。物価の動向、生産費の動向を踏まえ、適切に算定してまいる。臨時対策、緊急特別対策について、子牛補給金とあわせて検討してまいる」との発言がありました。
<飼料輸入が途絶した場合の対応>
参加議員から「飼料が輸入できなくなったときに、飼育を継続できる状況にあるのか」(神津たけし衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「そうした事態に備え、常日頃、民間業者の方々に備蓄をしていただいている。数量は約100万トン、1か月分に相当する量。これに対し、国が金利や倉敷料を支援している。直近で一番大きかったのが東日本大震災のとき、東北エリアで配合飼料工場が被災した。国に入ってくることが止まったものではないが、特定のエリアで供給が途絶えたとき、他のエリアの備蓄を活用した実績がある。途絶えないように対応してまいりたい」との回答がありました。
<飼料自給率向上の計画>
参加議員から「国産飼料基盤に立脚した畜産、飼料の自給率向上が掲げられているが、何年度までに自給率を向上させていく計画となっているのか」(神津たけし衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「食料・農業・農村基本基本計画において定めている。令和12年度までに28%まで引き上げる目標を立てている」との回答がありました。
<中国からの飼料輸入の状況>
参加議員から「中国からの飼料輸入はどのような状況か」(神津たけし衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「中国からは大豆油カスが輸入されている。アメリカやブラジルから中国が大豆を輸入し、搾油したカスをたんぱく源として供給している」「粗飼料の稲わらは中国からほぼ全部輸入されている」との回答がありました。
<飼料用米から主食用米への作付け転換が畜産に与える影響>
参加議員から、「令和7年度に限った話になるかもしれないが、飼料用米の作付けが主食用米に回されたため、国産の飼料用米を給餌している養鶏、養豚等の経営が、価格が高く手が届かなくなり、せっかくのブランド化の取組を躊躇するという問題が起きたと聞いているが、現状はどうか」(石垣のりこ参院議員)との質問がありました。
農林水産省より「主食用米の需要が増えているため、飼料用米の生産が減少している。その中で、飼料用米が入手しづらいという話も聞いている。基本的には、特色ある畜産物、地元に根差した飼料用米生産について、支援していく。国産ではないが、MA米について、国産飼料用米を使っていただいた方に優先的に融通する仕組みがあると聞いている」との説明がありました。
関連して、「主食用米が高止まりすると飼料用米を作らなくなる。何のために飼料用米を増産していこうとしたのか、分からなくなる。この辺について、どういう見通しをもっているのか」(石垣のりこ参院議員)との質問があり、農林水産省からは「水田活用の直接支払交付金で飼料用米を支援しているが、令和9年度に抜本的に見直すこととなっており、現在、検討をしており、これと併せて検討中」との回答がありました。
<WCSの作付け減少に対する畜産サイドとしての認識>
参加議員から「WCSは南九州に偏りがあるかもしれないが、宮崎の水田に作っている稲の4割強がWCS。今年は明らかに主食用米に回って、WCSを作っているところは減っている。粗飼料の自給は濃厚飼料よりもずっと高めていけるので、農水省もそうした政策を講じている。これとの関連性はどう整理しているのか。畜産サイドから、どう見て、どう整理しているのか」(渡辺創座長・衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「畜産の事情でいうと、飼料用米とは異なる粗飼料の方で非常に密接に連携している地域が九州を含めたくさんある。生産については、主食用米との兼ね合いも確かにあるが、飼料用米と比べると、全国押しなべて、それほどではない。結びつきがより強いのかなとみている。必要量という意味では、来年度までは水田活用の直接支払交付金があるが、畜産局としては、耕畜連携、飼料生産組織への支援、地域でのマッチング、地域計画への位置付けなど、長きにわたって作っていただける関係の構築をすすめてまいりたい」との回答がありました。
<新たな食料・農業・農村基本計画における飼料自給率目標設定の考え方>
参加議員から「国産飼料の自給率は現在27%で、令和12年度までに28%にしていくと。食料・農業・農村基本計画の見直しによってこうなった。それまでの飼料自給率目標は30%を超えていた。粗飼料目標も配合飼料目標もあったが、今回はトータルの目標となり、細かい目標がなくなった。その背景はなにか。」(徳永エリ参院議員)との質問がありました。
農林水産省より「これまでの飼料自給率の目標は34%で、粗飼料自給率を100%にするというかなり過大な目標を掲げていたが、今後、農業従事者のかなりの減少が見込まれる中、この目標は実現可能性に乏しいという結論になった。そのため、実現可能な28%とした。飼料作物作付面積は101万haとかなりの面積を見込んでおり、目標が低いとは考えていない。また、これまでは、粗飼料自給率と濃厚飼料自給率の目標をそれぞれ立てていたが、今回は分けていない理由について、基本的には、牛は粗飼料と濃厚飼料の給与割合は変更可能であり、どういった作物をどういった地域で作っていくかは地域が考えていくことから、別々の目標を立てていない」との回答がありました。関連し、「なぜ、かなり高い目標を立てていたのか」(徳永エリ参院議員)との質問がありましたが、分かり次第回答することとされました。
<酪農家の飼養頭数の減少が肉用子牛価格に与える影響>
参加議員から「肉用子牛価格の推移について、『平成24年以降、繁殖雌牛の減少による子牛の生産頭数減少及び枝肉価格の上昇に伴い上昇』と説明されているが、酪農家の飼養頭数が減っていくので、副産物の数も減っていく。これからますます厳しい状況になってくるのではないか」「素牛価格が高いと肥育農家は大変。足りないという状況の中で、肉用子牛価格はどんどん高くなっていくのか、それとも、落ち着くのか。今後の見通しはどうか。仮に、素牛価格が上がっていくのだとしたら、何らかの支援がないと肥育農家はもたない。併せて伺いたい」(徳永エリ参院議員)との質問がありました。
農林水産省より「酪農家の飼養頭数は減っているが、非常に効率的な生産をしており、性選別精液が普及している。令和5,6年の子牛価格の下落で、黒毛和種の繁殖雌牛の頭数は減っているが、受精卵移植により酪農家の借り腹を活用した黒毛和種がかなり多くなった。これをどう見極めるか。雌牛が減るから黒毛が減るという単純なものではない。価格が高くなると、酪農家が黒毛を作る動きが出てくる。ずっと高い価格が続くことはないとみている」との回答がありました。
<平成28年頃に肉用子牛価格が高かった事情>
参加議員から「平成28年頃に肉用子牛価格が高かった事情は何か」(徳永エリ参院議員)との質問がありました。 農林水産省より「供給の面で、平成27年頃まで繁殖雌牛が減っていたので子牛の数が絞られていた。平成27、28年頃の枝肉価格は高かったため、肥育農家の購買力があったことだと考えている」との回答がありました。
<若い繁殖雌牛への更新に対する支援が子牛価格に与える影響>
参加議員から「子牛価格について、増頭奨励から母牛の質向上に切り替えたことが価格面に反映されているのか」(渡辺創座長・衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「更新事業は去年、今年と実施している。更新事業で生まれてくる子牛はこれからであり、更新事業が価格に直接影響する段階ではないと思っている」との回答がありました。
■報告・協議事項
<衆参農林水産委員会報告>
金子恵美衆院農林水産委員会筆頭理事より「会期が延長にならなければ、閉会中審査で18日に畜産について議論されるのではないか。今日、決議案についてご議論いただくこととなるので、しっかりと準備をしていかなければならないと思う」との発言がありました。
石垣のりこ参院農林水産委員会筆頭理事からも、衆院と同様である旨の発言がありました。
<令和8年度畜産物価格等に関する件>
委員会決議の素案である「令和8年度畜産物価格等に関する件(素案)」が配布され、渡辺創座長より「お手元に、神谷NCのところでいろいろとご議論いただいている決議に向けた素案が提示されている。これを見ていただき、ご意見を賜りたい。神谷NCのところで、与党側と日程協議をしているが、国の審議会のスケジュール、与党内の会議体のスケジュールなどなかなかタイトかつ複雑な状況。ご意見をいただいた上で、神谷NCに一任をいただき、衆参筆頭とも協議いただきながら進めるという段取りを考えている」との発言がありました。
金子恵美衆院農林水産委員会筆頭理事より「明日、次の内閣があるので、そこで一任をとり、18日に委員会があれば、これに間に合うようにしていかなければならない。内々、他の野党とやり取りをしつつある」との発言がありました。
渡辺創座長より「この決議素案の文面については、畜産物、酪農をめぐる状況について、少しずつ、環境変化はあるが、大転換という状況ではないので、これまで積み上げてきた決議を前提にしながら、微に入り細に入り、修正を図って進めている」との報告がありました。
参加議員から「酪農の関係で、アウトサイダーと生産調整に取り組む生産者の間で不公平感が生じていることから、省令改正で、今年からクロスコンプライアンスを導入した。これがしっかりと公平性を担保するために機能しないと畜安法に見直しというところまでいかなければならないと思っている。その辺のニュアンスを書き込んでもらえればありがたい。対象になっていない事業もある」(徳永エリ参院議員)との発言がありました。
神谷部門長より「十分承知している。集送乳調整制度を含めた上で、いろいろと考えていかなければならない。法改正まで含めて考えてなければならない場合もあることは、そのとおりと思う。受け止めさせていただいた上で、各党との調整をすすめさせていただきたい。これは、委員会決議であり、附帯決議とは重さが違う。明日予定されているNCでしっかり議論しなければならない。18日に委員会審議が十分想定される中であり、今後、各党とのやり取りの中で、最終的な文案を詰めていく必要性があるので、具体的には金子筆頭を含め、理事の皆さんにお願いすることになると思うが、一任させていただきたい」との発言がありました。
参加議員から「決議素案の項番11、東日本大震災からの復興支援について、農水省から説明はなかったが、どういう現状認識でもって、どういうことをしようとしているのか。素案には『原発事故に係る風評被害対策に徹底して取り組むこと』とあるが、現在も風評被害が発生しているという認識か。教えていただきたい」(平岡秀夫衆院議員)との発言がありました。
これに対し、金子恵美衆院農林水産委員会筆頭理事より「東日本大震災、原発事故が発災してから、ずっと、毎回、この項目を入れ込んでいる。来年、3.11から15年となる。ぜひ、盛り込んでいただきたいという強い思い。実際に、処理されない牧草、堆肥が残っている。風評被害についても、全体の平均価格から1割減で変動していない。他の農産物についてもずっと風評被害対策をやり続けている。予算は復興と農水の特別枠でいただいている。今日は、めぐる情勢の説明の中に、東日本大震災について入っていないが、全体の農水予算、復興予算で説明いただくときには入っている。できれば残していただきたい。どこかでは終了すると思うが、今回はまだかなと思う」との説明がありました。
参加議員から「農水省の説明がなかったので、単に聞きたかっただけ。異論はない」(平岡秀夫衆院議員)との発言がありました。
以上の議論を踏まえ、委員会決議については、神谷NCに一任することとなりました。
渡辺創座長より「18日の審議自体が決まっていない状態で、かつ、審議会の日程のからみもある。踏み込んだ話が聞けるかどうか、日程の設定がファジーな状態。閉会後に、役員会か、WTを開くことになる可能性がある。こういう答申になりそうだという話を含め、ご説明できる場を模索したい」との報告がありました。
■連絡事項
神谷裕部門長より「養殖カキのへい死の問題があり、現在、水産WTで、被害状況の視察等を含めた調査を模索している。その際は、奮ってご参加を」との連絡がありました。