人材不足に処遇改善……。待機児童対策が一段落したと言われるなか、なぜ保育の現場はこれほどまでに疲弊しているのか。これからの保育園が担うべき役割や、採用紹介料による資金流出、医療的ケア児支援の継続性など構造的な課題について、全国小規模保育協議会理事長の中陳亮太(なかぜ・りょうた)さん(おれんじハウス理事長)と、党こども家庭部会部会長の高木真理参院議員が語り合いました。
中陳亮太(なかぜ・りょうた)さん
全国小規模保育協議会理事長。認定NPO法人おれんじハウス理事長。銀行勤務を経て、保育・福祉の世界へ。横浜市や東京都で医療的ケア児の受け入れを中心とした小規模保育園、児童発達支援、診療所などを運営する。「採用に150万円」処遇改善を阻む財源流出
高木 今年3月の予算委員会で保育士の処遇改善や配置基準などについて取り上げた際、その質疑動画がSNSで大きな反響を呼びました。特に印象的だったのは、現職の方々からの具体的な書き込みです。「手取り14万円では生活が成り立たない」「好きな仕事だが、将来を考えて辞めざるを得ない」といった悲痛な声が数多く寄せられ、現場の厳しさをあらためて突き付けられました。
中陳 保育士の有効求人倍率は依然として高く、現場は慢性的な人手不足です。処遇が上がらない背景には、単なる予算不足にとどまらず、構造的な「財源の外部流出」という問題があります。特に小規模保育園では自前での採用活動には限界があり、人材紹介会社に頼らざるを得ない。結果として、1人の採用に150万円もの仲介手数料が発生するケースも珍しくありません。
本来、この資金は給与引き上げや配置改善、保育の質の向上に充てられるべき公費です。例えば定員12人の園で職員7人の体制を想定した場合、150万円は職員1人あたり年間約20万円強の処遇改善原資に相当します。その公費が採用段階で外部に流出している現状は、極めて不健全な構造です。
高木 紹介手数料の問題は党としても制限を求めてきましたが、一律の上限設定には法的な難しさもあります。だからこそ、直接採用を後押しするインセンティブや、公的なマッチング機能の抜本的強化が不可欠です。
「支援が途切れる」医療的ケア児に立ちはだかる継続性の壁
高木 「おれんじハウス」では、重度の障害や医療的ケアが必要な子どもたちの受け入れを積極的に行っていますね。現場での手応えはいかがですか。
中陳 制度は少しずつ整ってきましたが、依然として「継続性」の壁があります。私たちは保育園に加え、この春からは診療所も開設しました。制度の隙間に落ちてしまう子どもたちが多すぎるからです。
高木 制度の隙間が支援の断絶を生んでいるのですね。
中陳 例えば、保育園で看護師を配置していても、卒園して小学校に上がると、保育園で実現できていた支援や生活参加の水準が維持されにくい。また、園に医療的ケア児がいる間は看護師の配置補助が出ますが、卒園して対象児がいない期間は補助が止まる。これでは看護師を継続雇用できず、ノウハウも蓄積されません。医療的ケアがなくても見守りが必要な子どもは多く、制度の谷間にこぼれやすい。切れ目のない制度設計が求められます。
小規模保育園が担う地域拠点の役割
中陳 小規模保育園はこれまで待機児童対策の文脈で語られることが多かったですが、令和8年度の制度改正では、満3歳以上の受け入れや過疎地向け加算など、位置づけを見直す動きがあります。地域ニーズに応じた柔軟な「保育機能の拠点」として捉え直す方向性だと期待しています。
ただ、その方向性が自治体まで十分に共有、実装されているとは言い切れません。現場ではすでに、丁寧な保育に加え、要支援家庭との細やかな関係づくりや発達支援が必要な子どもへの柔軟な対応など、地域に近い単位だからこそ果たせる役割を担っています。国にはその役割を明確に示していただきたいです。
高木 国の方向性と、自治体の判断にギャップがある。
中陳 保育の仕組みを、在籍児にとどまらず、地域に必要な支援機能と子どもの生活参加を支え続ける制度へと進化させていく必要があります。小規模保育を「地域のセーフティネット」として安定的に運営できる制度への転換を求めたいです。
高木 「数」から「質」へと段階が移るなかで、小規模の強みが正当に評価される環境を整えていきたいです。
中陳 私自身の実感として、今の取り組みを半歩進めることで改善できることは多い。保育に加え、学童や診療所へと広げているのもその一環です。国では「医療的ケア児支援法」の改正に向けた議論が進んでいますが、「18歳の壁(※)」も見据えた支援が必要です。
高木 自治体の実情に合わせつつ、国が選択肢と財源を示す。そして処遇改善を確実に保育士の手に届ける。特に給与については、国が踏み込んで引き上げるべきだと考えます。
中陳 給料が上がれば現場に戻ってくる人は確実にいます。さまざまな支援が必要ですが、やはり給与として反映されることは大切です。
高木 この国の未来を背負っていく子どもたちを支える保育士の処遇改善と給与水準の引き上げを実現したい。一人ひとりが安心して働ける環境づくりに、現場の声を踏まえて取り組んでいきます。本日はありがとうございました。
※児童福祉から成人福祉に切り替わるタイミングで、それまで受けていたサービスが使えなくなること。