参院本会議で5月29日、政府提出の「学校教育法等の一部を改正する法律案」に対し、立憲民主・無所属の会派を代表して古賀千景議員が質問しました。
古賀議員の質問原稿は以下のとおりです。
「学校教育法等の一部を改正する法律案」に対する代表質問
立憲民主・無所属の古賀千景です。私は、会派を代表し、学校教育法等の一部を改正する法律案について質問いたします。本法律案は、これまで紙のみであった教科書について、デジタルな形態も認めるという、我が国の教育に大きな変革をもたらすものです。この大きな変革が、単なるデジタル化を目的としたものではなく、真に子どもたちの学びの充実につながるものとなるよう、以下、質問いたします。
今まで、学校現場は紙の教科書に線を引いたり、書き込んだりしながら学習を進めてきました。今、GIGA スクール構想により公立小中学校等における1人1台端末の整備が完了し、子どもたちは端末を持ち、学習するという時代となりました。もうすでに、デジタル教科書を使用している学校も多くあります。これからの時代、ICT を使いこなさなければ、なかなか社会についていけない、そんな時代になるでしょう。しかし、紙の教科書もよさもあります。
(1)現在どれくらいの学校で、デジタル教科書が導入されているのか、また、紙の教科書とデジタル教科書のメリットやデメリット、それを踏まえた上での法改正の必要性を端的にお示しください。文部科学大臣の認識と今後の対応について伺います。 本法律案が改正された後には「教科書」の形態は、(1)紙のみ、(2)紙とデジタルのハイブリッド、(3)完全デジタル、となります
(2)紙とデジタルのハイブリットを選んだ場合は、全ての単元を網羅した紙の教科書が来るのか、単元ごとに紙とハイブリットに分かれるのか、文科大臣、お示しください。 国が定める学習指導要領の範囲内で、各学校が教育目標を達成するために、どのような授業科目を開設し、どのような内容・順序で教育を行うかを計画・決定する権限「カリキュラムの編成権」が各学校の校長にあります。
(3)教科書会社の選択は各自治体で行う事となると思いますが、教科書の形態選択、例えば学年や教科等も自治体がするのですか。また、教科の中でもすべての単元を使用するのかどうかは「カリキュラム編成権」もあり、学校や担任の裁量で行われるべきだと考えますがいかがですか。文部科学大臣に伺います。 衆議院での審議で、松本文部科学大臣は「全てがデジタルの教科書について、小学校4年生以下では認めるべきではなく、教科についても当面は国語や社会、道徳などは認めるべきではないと考えている」旨を述べられています。学校現場からの声を聞くと「国語の物語や詩の朗読は、声優等のプロの範読を聞かせると子どもたちの作品への引き込まれ方が全然違う」との声がありました。 政府は教科書について、紙、またはデジタルの活用が期待される学習場面や教科・学年等について検討し、デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針を策定するとしており、現在検討会議が行われていると承知しています。
(4)この検討会議で議論が行われている中、デジタルな形態の教科書に関し、特定の学年や教科の扱いについて言及した理由を、文部科学大臣に伺います。また、全てがデジタルの教科書について、小学校4年生以下や国語・社会・道徳などで認めるべきではないと考える根拠もお示しください。
今回の法改正で、「教科用図書」に代えて「教科用図書代替教材」を使用する制度が廃止されます。学校には障害のある子どもたちや、日本語を母国語としな い子どもたちなど多様な子どもたちが学んでいます。その子どもたちの実態に応じて、他学年の教科書を使用しながら学習することも学校現場ではよくある事でした。
(5)このように他学年の教科書を使用しながら学習することは、法改正後も可能でしょうか。文部科学大臣に伺います。
デジタルな形態の教科書を授業で活用するのは教職員です。今後もずっと使 われていく事を想定すれば、教職員のスキルを高めていく事は必須です。しかし、教職課程を置く国公私立大学を対象とした調査によれば、実機を用いてデジタル教科書の使い方を教えている大学は3割に満たず、1人1台端末を想定した タブレット端末を学生へ配付し、利用させている大学は1割半程度とのことで す。また、そもそも大学教員や学生がデジタル教科書を活用することについては、利用条件や費用など多くの課題があることが指摘されています。 学校現場でのデジタル化が進む一方で、教員養成課程において学生がデジタル教科書や端末の使い方、活用の仕方を十分に学ぶことができず、教育実習や卒業後に就職した学校現場で初めてデジタル教科書や端末に触れるといった事態は、新任の教職員の不安や負担につながるだけでなく、教職員の育成を現場に頼るという意味で学校現場の負担にもなり得ます。
(6)教員養成課程において、学生がしっかりとデジタル教科書や端末に触れ、これらを活用した指導方法を学ぶことが必要です。教員養成課程におけるデジタル教科書や端末の使用・活用について、その現状と課題、課題解決に向けた方策を文部科学大臣に伺います。
デジタルな形態の教科書を先進的に使っていた欧米諸国で、紙の教科書に戻す動きがあると聞いています。視力や姿勢など子どもたちの健康に影響があるのではないか、また、子どもたちの集中力や学力の低下等、知識の定着等への課題が大きいのではないか等の懸念によるものと伺っています。
(7)子どもの健康面への課題、また知識の定着等への課題について、今後も調査・分析を行い、医学的知見に基づくフィードバックを行う必要があると思いますが、文部科学大臣の見解を伺います。 子どもたちが使っている端末は全国一様ではなく、OS、メモリ、ハードディスクの容量等スペックが違います。
(8)デジタルな形態の教科書選択の際、端末のスペックにより、順応したものを選ばざるを得ない等の課題は生じませんか。その事で教科書選択の多様性が損なわれることはありませんか、文部科学大臣に伺います。
紙の教科書では何年分も形として残っています。自分が学んでいて、わからない内容が出てきた時は、前の学年の学習内容を教科書で学び直しができました。私も英語が苦手だったので、中3の受験時、中1の時の教科書を開き、必死に復習したことを覚えています。復習する時に、その当時の自分の思考等も思い出し、学びにつながっていきました。 子どもたちが学習でつまずいた時、自分でその解決方法を考えだす事はとても大切で、それが紙の教科書では安易にできます。
(9)今回のデジタルな形態の教科書は、このように前の学年にさかのぼって学習内容を振り返ることができるのか、文部科学大臣、お答えください。
子どもたちは一人一台端末で、日々学習を行っていますが、まだまだ Wi-Fi 環境は十分とは言えません。4月に中3と小6で行われた全国学力学習状況調査の際も Wi-Fi 環境を心配し、多くの学校で「他学年は端末での学習をしないように」という規制をかけています。
教職員は子どもたちに「豊かな学びを」と日々、精一杯教材研究をしていますが、端末が動かなくなる等のアクシデントが起きると、たちまち子どもたちの集中力は切れ、学習に身が入らなくなります。再び集中させるのは大変です。 また、今回は教科書となるので、家庭に持ち帰ることも考えられます。子どもたちの家庭での Wi-Fi 環境は学校以上に様々です。一人一台端末が導入された際、家庭用に Wi-Fi ルーターを貸し出すなど自治体での支援がなされました。学校そして家庭のICTインフラの格差是正に向けて条件整備が必要だと考えます。
(10)学校や家庭でのICTインフラの格差是正に向けて、文科省は今後どのようにとりくんでいこうと考えているのかを文部科学大臣、お示しください。
学校には ICT 支援員が 4 校に一人配置されることとなっています。現場からは「4 校に一人じゃ到底足りない」という声が聞かれます。財政状況が厳しい自治体もあり、支援員を増やしたくても増員できないのが実態です。デジタル的な形態の教科書導入となると自治体でも様々な経費が必要となります。
(11)自治体財政により、教科書採択や教職員用の教科書や教材の整備、スタッフ職の配置拡充など格差が生じることも予想されます。ICT 支援員をもっと増員すべきだと考えますが、文部科学大臣いかがですか。
教科書は使用義務があるものの、あくまで指導の材料であり、学習指導要領に基づく具体的な指導の在り方は、学校や教師の裁量による多様な創意工夫が前提とされています。いわゆる教科書「で」教える教科書観です。
例えば、掛け算の学習の際、多くの教科書は2や5段の学習から入ります。しかし、私は先輩の教員から7の段からの学習を勧められました。掛け算は九九を覚えればいい訳ではありません。掛け算の意味を理解せねばなりません。おはじきを並べながら、7個ずつ丸で囲みながら、色を塗りながら、7ずつ足し算をしながら掛け算の便利さも学習していきます。一番苦労する 7 の段を乗り越えると他の段はスムーズに理解することができます。
しかし現場では、教科書の内容を網羅的に教えなくてはならないという、教科 書「を」教える教科書観が依然として根強いことが指摘されています。教科書の内容や分量があまりにも多く学校現場で負担感が生じています。また、高校入試を背景とする保護者の懸念や要望等が、教科書の内容を網羅的に教えなくてはならないという認識を強めているとの指摘もあります。教科書「で」教える環境が整っていないのです。
(12)教科書の分量や教材との役割分担の検討、関係者の意識改革など、教職員が教科書「で」教える環境の整備が急務です。現在の教科書の分量や教科書観に対する文部科学大臣の見解と今後の取組について伺います。
より良い教育の実現に向け、授業の質が教職員の指導力にかかっていること は、言うまでもありません。本法律案により導入されるデジタルな形態の教科書を上手く活用できるかどうかは、教職員の指導力向上が鍵となるでしょう。しかし、今、教職員が高い指導力を発揮できる環境が整っていると言えるでしょうか。文部科学省が本年3月に公表した実態調査では、令和7年5月現在、全国の公立学校で合計 3,827 人の教職員不足が発生していることが明らかとなりました。4年前の前回の調査から状況が悪化しているほか、現場の様々な声を踏まえれば、実態はより深刻であると考えます。
教職員が不足すれば、不足した教職員の分の授業を掛け持ちするなど、ただでさえ多忙な教職員がますます疲弊します。こうした状況の中で、果たして新たな形態の教科書の研究や授業準備を十分にすることができるでしょうか。教職員の疲弊は子どもたちへの教育の質の低下に直結します。 文部科学省は新たな形態の教科書に関し、研修の充実などを進めると説明していますが、そもそも教職員に研修を受ける時間がないのが現実です。導入することによって、設定作業や管理業務など学校現場の業務負担が増えることは容易に想像できます。
ただでさえ、業務過多となり、疲弊している教職員です。このような業務が勤務時間内で終わるとは到底思いません。設定作業や管理業務、導入に伴う研修を勤務時間内に終わらせるには、業務を削減する必要があります。
(13)導入に関して業務負担が増えることについての認識を、そしてどのようにして教職員の業務を削減しようと考えているのかを文部科学大臣にお聞きします。
1人1人の教職員が新たな形態の教科書を十分に活用し、子どもたちや地域の実情に応じた質の高い教育を行うためにも、教職員不足の解消に真っ先に取り組むべきです。
子どものいじめ、不登校、自死は過去最高レベルに達しています。このことは子どもからの SOS です。「先生助けて・・」しかし、その声を聞く余裕が教職員にはない。聞かないのではなく、聞く余裕がないのです。このような状態では、デジタル教科書を導入して教育の質の向上をめざしても、子どもにしっかりと寄り添うことができません。子どもの心にふれることはできません。
(14)最後に、教職員不足が子どもたちへの教育に及ぼす影響と、教職員不足の要因・解消に向けたとりくみについて、文部科学大臣に伺い、私の質問を終わります。