参院本会議で6月19日、「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」に対する代表質問が行われ、立憲民主・無所属の会派から打越さく良議員が登壇しました。予定原稿は以下のとおりです。

「 刑事訴訟法の一部を改正する法律案 」 に対する質問

立憲民主・無所属 打越さく良

 立憲民主・無所属の打越さく良です。

 会派を代表して、刑事訴訟法の一部を改正する法律案、いわゆる再審法改正案について、高市総理並びに法務大臣に質問いたします。

 まず、昨年の自民党総裁選や本年2月の衆院選で、高市総理の公設第一秘書が他候補に対する中傷動画の作成・大量拡散に関わっていた疑惑について質問します。
 先般、今月5日の参議院予算委員会での高市総理の答弁内容に「誤り」があったとして、自民党側から「答弁訂正」の申し出がありました。
 しかし、問題の答弁は、高市総理の公設第一秘書が、中傷動画を作成して大量拡散したことを自ら告白している起業家男性との間でオンライン会議を行っていた事実について、そのことを認めていた高市事務所からの文書回答の内容を高市総理が答弁で明確に否定したことに関わるもので、部分的な訂正や取り消しで済まされる問題ではありません。
 高市総理、まず、この時の答弁が「虚偽」答弁であったことをお認めになり、この場で国民に対して謝罪すべきではないでしょうか。

 高市総理は、これまで「秘書も確信はもてないと言っている」などと曖昧な答弁を繰り返してきましたが、週刊文春の続報で声紋鑑定の結果、「同一人物の音声と推定してよい」との鑑定結果が出たと報じられました。さらに公設第一秘書と起業家男性との間で行われていたとされる中傷動画作成についてのやり取りや秘書が具体的に中傷動画の作成を指示していたと思われるメッセージの内容も公表されています。
 高市総理、総理の公設第一秘書がこの起業家男性と一切「面識がない」という答弁は「虚偽」であったことをお認めになりますか。そして、公設第一秘書と起業家男性との関係や、公設第一秘書と中傷動画の作成・拡散との関わり、この起業家男性が販売した「サナエトークン」にどこまで関与していたのかなど、全て再調査して明らかにするよう求めます。

 本件は、単なるスキャンダルなどではありません。中傷動画の大量拡散によって民意が歪められていた可能性と、そして一国の総理大臣が、国会で虚偽答弁を繰り返していた可能性が問われている問題です。与党の皆さんにも、真相究明のため、予算委員会で理事会要求事項となっている高市総理の公設第一秘書の参考人招致に応じるよう強く要求して、刑事訴訟法改正案の質疑に入ります。

 さて、現行憲法が適正手続(31条)をはじめ刑事手続の条文を手厚く置いているのは、国家権力が治安維持の名の下に個人の自由を厳しく制限し、捜査機関による恣意的な拘束や過酷な取扱いが深刻な人権侵害を招いた反省があってのことです。

 しかし、再審請求手続について法律上の規律が十分ではないため、証拠開示の在り方も、審理の進め方も、裁判所や検察官の運用に委ねられてきました。その結果、事件ごと、裁判体ごとに扱いが異なるいわゆる「再審格差」が生じました。
 さらに、検察官による再審開始決定への不服申立てが繰り返されました。
 多くのえん罪被害者が長年にわたり救済を待たされ、あるいは無念のうちに生涯をとじました。

 袴田巖さんは、1966年の事件で死刑判決を受け、1980年に死刑が確定し、再審無罪が確定したのは2024年でした。58年もの歳月を経たのです。衆議院法務委員会で姉の袴田ひで子さんは、長年死刑執行の恐怖にさらされ続けた巖さんが、今も十分な会話ができず、夜中に電気をつけて歩き回る生活を送っていると語られました。
 えん罪は国家権力による最大級の人権侵害です。だからこそ私たち立法府は、再審制度を無辜の救済という本来の目的に沿って改正しなければなりません。 総理は衆議院本会議で「再審制度の見直し」を総裁選公約として掲げていたこと、さらに、本法案が「誤判からの確実な救済と手続の円滑・迅速化を図るもの」であることを答弁されました。
 ところが閣法は、検察官抗告、証拠一覧表、証拠開示、目的外使用禁止など、肝心な部分になお多くの抜け道が残されています。
 総理、この法案で本当に「えん罪からの確実な救済」が実現できるとお考えですか。

 「強い思い」をお持ちならば、ひで子さんら、えん罪被害者、ご家族から出されている深刻な危惧に真摯に向き合い、更なる修正を行うべきではありませんか。総理の見解を伺います。

 次に、再審開始決定に対する検察官抗告について伺います。
 閣法(450条の2)では、「十分な根拠」がある場合には、検察官が即時抗告することができるとしています。
 元裁判官の村山浩昭参考人は、衆議院にて、再審開始決定は中間的判断にすぎず、検察官に当然の不服申立権があるという考え方は成り立たないと指摘されました。本件答申案が諮られた法制審議会第204回会議でも、検察官抗告を禁止すべきとの意見が複数出されました。

 そもそも、検察官は再審請求審では訴追当事者ではなく、検察官に当然に不服申立権があるという理屈は成り立ちません。また福井女子中学生殺人事件で証拠隠しをしていたように「公益の代表者」とは言い難いのです。
 法務大臣、無辜の救済という制度目的に照らし、再審開始決定に対する検察官抗告は禁止すべきではありませんか。

 閣法の「十分な根拠」につき、検察官が自ら判断すれば足りる行為規範にすぎないならば、歯止めにはなりません。「十分な根拠」は裁判所が厳格に審査すべき裁判規範として解釈されなければなりません。
 法務大臣、「十分な根拠」は裁判所が抗告の適法性として審査する裁判規範ですか。それとも、検察官の内部的な行為規範にすぎないのですか。
 仮に裁判規範でないならば、「原則禁止」は骨抜きです。たとえ理由を公表したところで、えん罪被害者の救済にならないのではないでしょうか。

 次に、証拠一覧表について伺います。
 再審請求人が最も困るのは、そもそもどのような証拠が存在しているのか分からないことです。証拠の存在が分からなければ、開示を求めることもできません。
 袴田事件の第二次再審請求即時抗告審では、弁護団が検察官手持ち証拠のリストの開示を求め、裁判所も開示を勧告しました。しかし、検察官はリストの開示を拒否しました。最高検の袴田事件検証報告書では、第一次再審請求で証拠開示が進まなかった理由として、弁護人の開示請求が曖昧であったことが指摘されています。請求人に、証拠一覧表もなく、無罪につながる証拠にたどり着けというのでしょうか。それは不可能を強いるものではないですか。可能だとしても膨大な時間をかけよということですか。開示漏れの有無を確認する手立てもありません。検察官が何を持っているか分からないのに、どうやって特定しろというのでしょうか。
 法務大臣、証拠一覧表を交付しないまま、請求人が証拠の全体像を把握できると本当にお考えですか。

 一方で、通常審では2016年刑訴法改正で証拠一覧表交付制度が設けられました。その趣旨は、円滑・迅速な証拠開示請求に資することとなるためです。この趣旨は再審請求段階でも重要であるのに、なぜ再審請求段階では導入しないのかを法務大臣に伺います。

 証拠隠しや証拠漏れを防止するためにも、証拠一覧表又は送致書類等目録の交付を法律上明記すべきではありませんか。被害者や関係者の名誉、プライバシーへの配慮が必要な場合は、マスキング、閲覧制限、個別の条件付け等で対応すれば足ります。一覧表そのものを請求人から隠す理由にはならないのではありませんか。法務大臣に伺います。

 次に証拠開示について伺います。
 閣法の証拠提出命令制度は、裁判所が証拠を取り調べるための制度であり、請求人が確定審に提出されなかった証拠にアクセスできる制度ではありません。裁判所が必要ないと判断すれば、請求人はその証拠を見ることすらできません。しかし、無罪方向の証拠の価値を最も理解しているのは請求人です。
 法務大臣、裁判所への証拠提出命令だけでは、えん罪被害者は引き続き救済されないのではないですか。
 再審を請求する段階で、再審請求人が確定審に提出されなかった証拠にアクセスし、無罪方向の証拠があれば、これを新証拠として再審請求を行うことを可能とすべきではないですか。

 再審請求権を実質的に保障するためには、裁判所による証拠開示命令制度を創設すべきではありませんか。こちらも法務大臣に伺います。

 次にいわゆる目的外使用禁止について伺います。
 閣法は、開示証拠の複製等を刑事手続以外の目的で利用することを広く禁止し(445条の5)、一定の場合には罰則まで設けています(445条の6)。
 しかし現在の再審手続には、そのような規定は存在しません。被害者保護の必要性から目的外使用の禁止を支持する見解もあります。
 しかし、法務大臣、現行制度の下で、再審事件において開示証拠の利用によって被害者や関係者の名誉・プライバシーが侵害された重大事例は存在するのですか。立法事実をお示しください。

 袴田事件では、五点の衣類の写真が支援者や専門家と共有され、みそ漬け実験が行われました。実験結果だけでなく、元の証拠との比較検証が行われたことで証拠の問題点が明らかになり、社会的関心が高まりました。袴田ひで子さんは、「目的外使用禁止があれば助ける人も助けられなかった」と述べています。
 被害者保護は重要です。しかし、それはマスキングや閲覧制限など個別具体的な措置によっても実現できます。
 法務大臣、立法事実も乏しく、他の保護手段も存在するにもかかわらず、支援活動や検証活動、国民の知る権利を萎縮させる危険のある目的外使用禁止規定は削除すべきではありませんか。

 また、抗告理由を公表しても証拠の目的外使用禁止規定により、国民は十分な根拠があるか判断できないのではないでしょうか。やはりこの規定は削除すべきではないでしょうか。法務大臣に伺います。

 最後に申し上げます。
 再審無罪事件の多くは、密室での苛酷な取調べと虚偽「自白」がありました。郵便不正事件でえん罪被害を受けた村木厚子さんは、検察官から「私の仕事はあなたの供述を変えさせることです」と言われたと証言しています。大川原化工機事件では、逮捕・勾留された3名の方々は否認し勾留が続き、相嶋静夫さんは衰弱し無実を確認する前に亡くなられました。
 再審制度を改革にとどまらず、えん罪を生み出す刑事司法そのものを改革しなければなりません。無実を主張すれば長期勾留が続き、絶望して虚偽自白へ追い込まれる人質司法は、国内外から厳しく批判されています。

 総理、適正手続を保障する憲法31条、黙秘権を保障する憲法38条、自由権規約の要請に沿った刑事司法へ改革すべきではありませんか。
 取調べの録音・録画制度の全事件・全過程への拡大、弁護人立会権の保障など、人質司法を終わらせるための制度改革に取り組む決意を伺います。

 同僚議員の皆様。
 立法するのは私たち国会議員です。
 これまで無辜の救済を妨げてきた制度や運用を直視し、検察や法務省の従来の発想にとらわれることなく、憲法の要請に沿った再審制度を実現しようではありませんか。
 かけがえのない個人を尊重する日本国憲法(13条)のもと、無辜の救済は政治に身を置く私たち国会議員の使命です。えん罪の発生を防止し、無辜の救済に真に資する再審法の改正にしようではありませんか。
 そのことを強く訴え、私の質問を終わります。

20260619刑事訴訟法 打越さく良議員.pdf