前編では、主権者教育に取り組む原点や政治的中立性を支える仕組み、若者と政治をつなぐための政治参加のあり方について議論しました。後編では、政治を「自分ごと」とするために必要な機会や、世代を超えた主権者教育、学校内民主主義などを通じ、主権者教育を社会全体の取り組みに広げる方策について、広報委員会 委員長補佐の山内佳菜子参院議員が聞きました。(2026年6月26日取材)
原田謙介(はらだ・けんすけ)さん
元・主権者教育アドバイザー
高校生向け主権者教育副教材「私たちが拓く日本の未来」(総務省・文部科学省)執筆者
宇惠野珠美(うえの・たまみ)さん
日本若者協議会・民主主義教育プロジェクト
白梅学園大学のこども学研究所で嘱託研究員として主権者教育などをテーマに研究、来年から大学院に進学
山内佳菜子(やまうち・かなこ)参院議員
宮崎選挙区/1期
政治を自分ごとにする機会を
山内 どうすれば政治を自分ごととして捉えられるようになるのか、お聞きしたいと思います。また、政治に触れる機会を確保しながら、政治的中立性をどのように守っていけばよいとお考えですか。
宇惠野 一つ目は政治家に声を聞いてもらう機会を増やすことです。スウェーデンでは投票率が8割を超えていて、選挙の際に政治家と気軽に話せる「選挙小屋」という場所ができたり、学校に当たり前のように政治家が来ます。若いうちから政治家や政党青年部と関わる機会があることが政治参加に貢献しています。
二つ目は、意見を持つことです。政治家に伝えたいという思いがなければ、政治に参加したいとも思わないのではないでしょうか。実際に「たま時事」に取り組む中で、みんなが意見を言うようになりました。先生には、新聞記事の要約をする時点で私の主観が入り、政治的中立性に反するため駄目だと言われましたが、意見を持つための教育や機会をつくることは大事だと思います。
また、日本の政治的中立性は「縛る」ようなイメージがありますが、例えば、ドイツには「ボイテルスバッハ・コンセンサス」という、政治教育を行うときに政治的中立性を保つための基本原則があります。(1)先生が生徒を圧倒してはいけない(2)さまざまな意見を提示する(3)生徒の興味や関心に沿った時事問題を扱う――この3つが守られていれば、政治的中立性が保たれることになります。日本でもポジティブな意味で政治的中立性を守るための原則が、もっと分かりやすくなればと思います。
山内 政治家と市民が身近に接する機会を増やすこと、政治家に聞いてもらいたい意見が生まれるような環境をつくること、そして、そのための政治的中立性の原則を明確にすることが重要だというご提言ですね。ありがとうございます。原田さんはいかがでしょうか。
原田 一つは、学校現場に限らない、世代を超えた主権者教育が進めばいいと思っています。18歳選挙権が導入された際も、高校3年生にどう教育をするかが大きな話題だったと思います。小学校からという意見もありましたが、例えば、子どもを持つようになると地域への関心が高まりますが、気軽に相談できる相手がいない悩ましさもあると思います。また、子育て世代向けの主権者教育では何ができるか、乳幼児健診の際などに冊子を渡す、政治の問題を改めて伝えるなど、政治に関わらざるを得ないタイミングで、政治への関わり方や、政治の読み解き方を伝えていくことができればいいと思います。
NPO時代も「子育てと政治をつないだら」という17、18ページほどの冊子を作り、1000部ほど売れたことがあります。各地の子育てサークルが購入してくれました。
もう一つは、学校内の主権者教育として、学校内のルール作りや、校則を変えようという動きがもっとあっていいのではないかと考えます。
私自身、中学・高校時代に寮生活をしていて、テレビを観てはいけない時間に、ワールドカップの試合を見られるように交渉し、実現させたことがありました。働きかければ社会が変わるという原体験になるのではないかと思っています。学生にとって身近な社会である学校を動かす、このような経験が広がることが重要だと思っています。
まさに18歳選挙権が導入されるときに、私も有識者の委員としてさまざまな議論をしていました。ドイツでは、押し付けでなければ自分の意見を自由に言ってよい。一方、日本では、学校の先生は押し付けでなくても、基本的に自分の意見は言えません。そこが大きな違いです。これをどう乗り越えるかだと思います。高校であれば、民間のNPOなどがドイツの政治教育センターが作っているような中立的な授業プログラムを日本で展開する。同時に、文部科学省などが、そのプログラムの政治的中立性を認め、後押しする仕組みがあってもいいと思います。現場でも、行政機関がこのプログラムは中立だと後押しすれば、取り組みもより広がると思います。
山内 若者の声を政治につなげる話ですが、立憲民主党主催の「若者政策実現会議」をスタートしました。小中高校時代から「社会を変えられる」という原体験が必要というご意見を受け、学校内民主主義を充実させないといけないと感じました。しっかり取り組んでいきたいと思います。
原田さんが紹介されていた新聞記事を拝見しましたが、子育て世代向けの主権者教育について触れられていました。若者だけではなく、子育て世代になると、保育園に入る際の苦労や、無償化の対象になるかどうか、子育てに関する手当などの社会課題に直面するタイミングで、情報や政治に関わる機会があるといいと感じました。今度は政治の立場から、そうした機会をつくっていかないといけないと思いました。
原田 ぜひ、子育て中の議員をはじめとする超党派の議員の皆さんで「子育てと政治をつないだら」というハンドブックをつくるなどしていただければ面白いと思っています。
山内 原田さんの今日のキーワードは超党派ですね。
原田 そうですね。党に所属したことで思ったのですが、党によって政策も違いますが、民主主義をなんとかしなければいけないという共通の思いはあると思っています。一つの党で対応することもあれば、政治家全体で団結することも、社会に向けた必要なメッセージだと感じています。
主権者教育を社会全体の取り組みに
山内 今日はたくさんの宿題をお二人からいただけたと思っております。ありがとうございます。目指す社会、実現したいことを聞かせてください。
原田 日本もまだまだ変われる余地はあります。若い人の投票率は、上の世代より低い状況ですが、この10年間を見ると若者の投票率は確実に上がってきています。10年前は、若者の投票率は70代の半分ぐらいでしたが、今は3分の2ぐらいになっています。
若い人たちも、さまざまな理由で政治に関わろうとしており、実際に関わってきています。自分たちの社会、地域をなんとかしようとしている人が増えているということは、ポジティブに捉えたいと思っています。周りの方とも、あまり熱くなり過ぎずに政治の話をし、少しずつ広げていくことができると、いい社会になるのではないかと思っています。
宇惠野 若者の投票率も上がり、政治的有効性感覚も上がっていると言われています。ポジティブな面としては主権者教育に取り組む団体や一部の若者の盛り上がり、探究学習の広がりがあります。一方で、10年前と比べても依然として、一部の若者や先生方の自助努力に頼っている現状はまだ変わっていない感覚があります。ドイツの政治教育センターは教材の販売だけではなく、資金の配分も行っています。また、資金の配分を通じて、政治家と話せる機会も増やしています。
日本でも、学校で安心して使える、政治的中立性が保たれた教材を超党派で連携しながらつくるなど、このような取り組みを行っていくべきだと思います。
山内 政治に対して厳しい視線をいただくことが非常に多くなっていますが、その政治がこの社会をつくり出しています。今日はお二人の言葉から、超党派で社会をつくり、政治全体も変えていかなければいけない時期に来ているのではないかと感じました。政治を取り巻く状況は厳しいですが、根底には民主主義を守らなければいけない、社会をよりよくしたいという共通の思いがあります。超党派でできることを模索していきたいと思います。