2007年に30歳で初当選。以降、3期連続で当選し、現在、参院議院運営員会筆頭理事を務める吉川沙織(よしかわ・さおり)参院議員。吉川議員は、いわゆる「就職氷河期世代」にあたり、学校を卒業するにあたり、同世代の多くの人たちが望まない形で社会に出ていくことを余儀なくされる姿を目の当たりにしました。この世代の多くが、今なお非正規労働者として働いています。吉川参院議員は、国会での初質問以来、数多くの国会質問(計27回)で「就職氷河期世代」の問題を取り上げ続けてきました。

 吉川議員に、就職氷河期世代とのかかわりや思い、政治を志したきっかけや女性が政治に参加する意義などについて聞きました。

【政治に関心を持ったきっかけ】

——いつ政治を意識するようになりましたか?

 一つは、学生時代の体験です。荷物の仕分けと、積み込みの早朝アルバイトを週6日やっていたんです。繁忙期は、午前5時からでした。ところが当時は、労働基準法で女性の深夜労働を制限していました。それで男性はタイムカードを4時59分に押してもOKだったのに、女性は午前5時以降でないと打てなかった。その時は、「そうなんだ」と納得していたのですが、ふと考えてみたら、法律が女性の働き方に枠をはめていて。そういったことも「法律で決まってるんだ」と思わされた学生時代の出来事です。

 もう一つは、これも学生時代に経験したことなのですが、男女雇用機会均等法に関する経験です。私の学生時代の終わりの頃、ちょうどリクナビとかマイナビという就職案内サービスが出てきました。今でこそ、ネットで会社資料を請求するのが主流ですが、当時は、求人票を学校の就職課に見に行って、自分で葉書を書いて資料請求というのがありました。その時の直近の男女雇用機会均等法の改正で「性別などで区別してはいけない」と変えたものですから、会社側の資料には必ず「男女ともに」と書いてある。でも、実際はそうではなかったという経験もありました。

 法律用語では、いつもだいたい「改正」=「改めて正しくする」って書くんですけれど、「必ずしもそうでない側面があるんだ」と思わされました。学生時代のちょっとした出来事なのですが、両方とも「女性と政治」に関係するんですね。

 ただ、私は政治家一家に生まれた訳でもありません。学生時代は日本育英会の第一種奨学金と早朝アルバイトで、色々なことを感じましたが、「政治は自分にとって遠い問題」「一番遠いこと」だと思っていました。

 大学を卒業した後、会社に入りました。会社に入った後、実は社会人3年目にして大学院に行ったんです。日本育英会の奨学金を返還しながら、仕事をしながら、主に週末だけ。その時に法の制定過程などを勉強したら、やはり普通の人の声や想いを、法律の制定過程の中に届けていくことで、人々が少しでも暮らしやすく、働きやすい世の中になればいいな、と感じました。また誰もが望めば、誇りを持って働ける環境は、政治が作っていくべきなのではないのかと思いもしました。会社員として働きながら大学院に行った経験というのは「最後の一押し」となったように思います。

【「就職氷河期世代」問題への取り組み】

——ご自身と「就職氷河期世代」とのかかわりについて教えて下さい。

 国会質疑の場を含め、いつも申し上げていることですが、私は「運と縁と巡り合わせ」で、最初から会社員として仕事をすることができました。しかし同世代の多くが、望まない形で社会に出ていくことを余儀なくされた。なおかつ自己責任の名の下に、政治の光は一切当たらなかった。私はたまたま社会に出てすぐに正社員として仕事をし、30歳という参議院の被選挙権を満たす年齢になってすぐに、参議院に送っていただきました。そしてたまたま、その立場で仕事をさせていただくのであれば、この世代の代表として「声を届けていこう」と心に決めました。

 初当選したのは 2007年です。2007年11月20日に参院厚生労働委員会で初めて国会質問をさせていただきました。そこで就職氷河期世代の問題を取り上げたのです。その時、私はまだ31歳になったばかりでしたが、このまま、この就職氷河期世代の問題を放置していくと、今で言う『7040問題』とか『8050問題』みたいな問題が「起こる」と、その時に既に指摘しました。

 親子共々貧困の道を歩まざるを得ないような状況が想定される。だからこの問題に取り組んでいかなければならない。また現役世代が先輩方を支える仕組みである、社会保障制度の根幹を揺るがしかねない問題だからこそ、今のうちに取り組んでいかなければいけない。そういう想いで、ずっとこの問題を取り上げ続けました。2007年11月の初質問を皮切りに、これまで計27回、この問題を国会質問でずっと取り上げ続け、2019年3月末になって、やっと政府が重い腰を上げ始めたという感じです。この時期に急に政府として、就職氷河期世代のことが「大事だからやりましょう」と、言ってはくれるようになったのです。ただ少し遅すぎました。

【「就職氷河期世代」問題で政府の対応を引き出す】

 議員が国会でできることの一つとして「事実関係の調査を政府に要求すること」があります。例えば、就職氷河期世代が正社員になれないことで将来生じることになる、所得税や個人住民税収入のマイナス影響の試算、私はこの調査を強く要求してきました。これを出してもらうまでにすごく時間はかかりましたが、次第に出てくるようになりました。さらに民主党政権の時には、就職氷河期世代が年金受給世代になったときの生活保護の試算も要求しました。民主党政権時代は出してくれたのですけれど、その後は、当時の安倍晋三総理に聞いてみても、「なかなかそれは難しい」と言って出してくれませんでした。ただ所得税や個人住民税に与える影響というのは非常に大きいですし、やはりこの世代のことをちゃんと手当てしていかないと、「一億総活躍」でもなんでもないですし、「女性活躍」でもなんでもない。調査の実施は、ずっと主張し続けています。

 また40歳以上の「『引きこもり』の実態調査」も政府に新たに実施してもらいました。2010年と2015年に計2回やってはいますが、調査対象を39歳までで区切ってあったんです。就職氷河期世代は、少しずつ歳を重ねています。40歳以上の実態調査をしないと、実態を把握することにはならないのではないかという問題意識を持ちつつ、何回も国会質問で取り上げました。最終的には2019年3月29日に40歳から64歳を対象とする調査結果を出してもらえた結果、「本当に早くどうにかしなければいけない」、こういう声がようやく世間から出てきました。だから12年もかかりましたが、問題をずっと国会で取り上げ続けることの大事さを実感しました。ただ同時にどんどんみんな年を重ねているので「本当は、もっと早く調査をしていてくれれば、違う結果も出ていた」、そういうことも感じます。この世代が思うように働けていないまま年を重ね、年金受給世代になった時に、「ものすごい額の生活保護費、あるいは財政負担が生ずる」とのシンクタンクの試算が2008年に出ています。やはり今、現実にあった形で、きちんと試算する必要があります。「だから早く、皆が働ける社会を作って行かなければいけないんだ」というふうに議論を持っていきたい。

 40歳から64歳までの「ひきこもり中高年者」の実態調査の結果は、2019年3月29日に出ました。これが推計で61万3千人というすごい数字だったんですね(※)。それが出た後、政府は氷河期世代支援のプランを出したんです。2019年6月21日に閣議決定した「骨太の方針」の中に「就職氷河期世代支援プログラム」というものを初めて入れたのです(※)。そこまでやっていなかったのが急に、という印象でした。参議院選挙の年だったというのもあるのでしょう。私は12年間ずっと取り上げ続けました。本会議でも取り上げましたし、予算委員会でも取り上げました。「一億総活躍」というのであれば、能力があるのに、燻(くすぶ)り続けているこの世代のことを「何とかしませんか」と。「生活保護の試算もやりましょう」と言っているのですけれど、そこはなかなか渋い対応です。生活保護の試算は、民主党政権に一回出たきり。その後、出さないんですよ。政府もどんどん増えるのが分かっているので。所得税と個人住民税の影響額は、一回どうにか出してもらった後、ずっと答弁があります。就職氷河期世代って、人口のボリュームが大きいのです。団塊世代ジュニアに次ぐボリュームを実は持っています。だから、この世代できちんと働きたい人が安定して働けて、厚生年金等、きちんと入れるようにすることが必要だと思います。

(※)内閣府 令和元年版「子供・若者白書」特集2  長期化するひきこもりの実態
(※)就職氷河期世代支援プログラム(令和元年6月21日)

【就職氷河期世代問題やジェンダー平等問題の取り上げ方】

 ジェンダー平等も、一歩間違えれば「女性の権利」だけを主張しているように聞こえることがあります。ですがジェンダー平等も、単に女性だけにとどまる問題ではありません。やはり生産年齢人口が減っていく中で、女性でも男性でも「働きたい」と思う人が活躍できる社会にしていかないと、税収の面とか社会の維持の面とか、いろいろなことに影響が出てきます。就職氷河期世代の問題も、単にこの世代の権利の問題だけではなくて、「社会全体に関わる問題だ」と認識してもらえるように取り上げてきたつもりです。そうしていかないと、幅広い支持には結びつかない気がしています。

 実際、この「就職氷河期世代」の問題を取り上げ始めた当初は、「その世代の問題だろう」って言われました。なので「そうじゃないですよ」と。それこそ2008年や2009年に私が質問をしていた頃というのは、やはり当時の若者の側に「問題があるんだろう」という見方で施策が立てられていました。「若者自立挑戦プラン」とか「若者自立塾」とか、「自立なんとか」というネーミングの政策が沢山ありました。社会の構造に問題があるのではなくて、その世代が「努力しなかったんでしょ」という見方をされていた。だから「助け舟を出してやるよ」みたいな、そういう感じの政策ばかりでした。ですが、それは「そうではないでしょう」という気持ちがありました。

 先ほど申し上げた通り、所得税・個人住民税への影響もありますし、年金の問題もあります。就職氷河期世代が十分に年金保険料を納められないまま65歳になったら、「生活保護」の受給者になってしまうおそれがあるんです。だから、この世代のことに光を当てて、働き手を増やさないと、税収の面でも社会保障の面でも「大変なことになりますよ」、だから「目を向けてください」と主張しています。

【女性の政治参加】 

——女性の政治参加によって、どういった変化が社会にもたらされると思いますか?

 小川淳也さんと対談した時(※)も申し上げたのですが、参議院は、わが党の横沢高徳さんとれいわ新選組の舩後靖彦さん、木村英子さんをお迎えして、バリアフリー化が一気に進みました。やっぱり当事者の声というのは大事です。「有権者の声を伺って、それを私たちが国に伝える」。それはそれで大事ですし、出来ることもたくさんあります。でも実際に女性が増えることによって、今まで議論にならなかったことが国会の中で実際に議論になりますし、景色も変わると思うんです。やはりわが党でも、何かの機会に気が付いたら、「男性のスーツばかり並んでいた」みたいな光景が、残念ながら結構あるんです。それはそれで仕方がないのかもしれません。でもそこに当たり前のように、女性が半分ぐらい入るなどしたら、それだけで会議の景色も雰囲気も、議論される内容も変わります。やはり有権者、国民の半分は、女性なんです。

(※)【通常国会振り返り】行政の不誠実な活動を正すため、政権取れる勢力に 小川淳也衆院議員×吉川沙織参院議員(2021年8月3日)

 今、「多様性」が言われていて、それにもちろん LGBTQ もあります。男性中心主義の社会をどうやって変えていくかといえば、やはり女性の議員が増えることが第一。ただ「誰でもいい」という訳ではないです。私、そこも強く言いたいと思います。

——女性の政治参加を増やすにはどうしたらよいと思いますか?

 なかなか「なり手」がいないというのは、やはり人生のライフステージに「政治」のハードルが高いからだと思います。私も勤めていた会社を退職して選挙に出ていますから。もし養う家族などがいれば、二の足を踏んだかもしれません。だから「世襲の人」が多いんだろうな、という気もします。

 女性で選挙の候補者になるということは、周りからもいろいろ言われることも人によってはあるでしょうし、家族の理解が得られないということもあるでしょう。

 でも、もしそれで妨げられているのであれば、会社員の人であれば、立候補(休暇)制度がある会社もあります。そういった制度で少しでもハードルを低くしていくことが、間口を広げることにつながります。あと政党がクオータ制を導入することも有効かもしれません。一方で、確かに法律で決めることも大事ではありますが、現職で埋まっているような政党であれば、そこに女性が入り込む隙はありません。そこは難しいのだろうなあ、ということは想像できます。でも手を挙げて下さった女性がいるのであれば、それを皆で応援して大切にしていくという努力は、少なくともやるべきです。

 実際、あの写真を見てもそう思います。あれ、あれです(壁に飾ってある写真を指さしながら)。私の初当選(2007年)時の写真なのですが、あの写真に写っている30人以上の新人議員の中で、3回連続参院議員に当選して、議席を預けていただいたのは2人だけなんです。それくらい男性、女性を問わず、浮き沈みが激しい政界です。それもあるので、ことさらに女性を増やすというのは、かなり難しいかもしれません。そんな中で、着実に年月を積み重ねていくっていうのは、もっと難しいような気がします。

 結局、どこの政党もそうですけれど、男性中心の社会なので、女性にはなかなか大変です。だから…難しいですね。それを変えていくには、やはり女性がある程度長いこと、80才、90才までやる必要はないですが、ここの場所で仕事をしていくというのも「案外、必要なのかな」と、3期目に入って思うようになりました。国会内の人脈とか、役所の人とのつながりとか。やはり長いこと居るからこそ分かることも多いように思います。おかしな常識もあるので、そのおかしなことに染まっていかないようにしていかなければいけないのは難しいですが。衆議院一期で去っていったら、それはとても悲しいことです。総選挙、特に現職で次、出る決意を固めている仲間の皆さんには、何としても戻ってきて欲しい。その思いで今、私も応援で各地を駆け巡っています。