国会で聞かれたことに答えない、事実を隠蔽する、十分な議論を尽くさない。菅政権のもとでの初の通常国会では、安倍前政権から続く、政府の透明性の欠如と国会軽視の姿勢があらためて浮き彫りになりました。国会の要として議事進行、運営を調整する議院運営委員会(略称:議運)の衆参両院筆頭理事を務める小川淳也衆院議員と吉川沙織参院議員に、今国会を振り返りながら、立法府のあり方、野党第1党として立憲民主党の役割などについて話を聞きました。(取材日:7月15日)
【議院運営委員会とは】
◆国会法に規定された常任委員会の1つ(委員数25人)
◆衆参議院議長・副議長が出席
◆議院の全般的な組織や運営に関する協議の場憲法第41条に国権の最高機関は立法府だと定められ、法律を作ることができるのは立法府のみとなっている。帝国議会では本会議中心主義だったが、現行憲法下での国会運営は委員会中心主義と言って委員会で詳しく審査をして委員会の審査が終了した後、本会議で審査をする。
国会法により設けられた委員会(常任委員会と特別委員会の2種類がある)は、所属議員が各委員会、各理事会の持ち方を決めていくが、議運では議長と副議長出席のもとで本会議の日程や議事について協議する。また、院の組織や提出された法案の取り扱い(どの議案を扱い、どういうタイミングで採決をしていくか)など、組織や運営に関する案件も扱う。
議運は縁の下の力持ち
小川)通常国会では、物議を醸す法案が比較的少ない中、立憲民主党として政府との考え方の違いを明確に打ち出すことができました。また世間的にも高い関心を集めた、入管法の改正案の成立を断念に追い込みました。議運の場で与党が「取り下げたい。これ以上の審議を断念したい」と発言したことは、数の力による強行を阻止したという意味で1つの大きな成果だったと思っています。
議運の立場から見た象徴的な出来事の1つは、政府が国会に提出した60本あまりのうち24本の条文や関連資料に181件[案文:14件、参考資料(要綱、新旧対照表、参照条文):167件]ものミスがあったことです。今の政権、霞が関の劣化を表すもので、そういう意味では政治行政全体への信頼が揺らぐ、非常に不安、心配になる国会でした。
吉川)私は今回、(民主、民進党時代の)2016年、2017年に続き、議運の理事として臨んだ3回目の通常国会でした。いろいろありましたが、これまで経験したことのないという意味では、コロナ禍における国会運営、立法府のあり方が問われた国会でした。
議運は国会の要となる大事な委員会であるものの、普段は目立たない、縁の下の力持ちのような委員会です。しかし、新型コロナウイルス感染拡大を受けての緊急事態宣言(発出、延長、解除など)に際しては、議運が国会報告の場となり、テレビ中継もありました(まん延防止等重点措置の解除1回のみ理事会で報告)。過去に、議運委員会がこれほどまで開かれる例はありませんでした(本来であれば、新型インフルエンザ等対策特別措置法の所管は内閣委員会になる)。
小川)コロナ禍での今国会では、議員歳費を削減や新型コロナワクチンの職域接種についての議論、国立国会図書館あるいは憲政記念館の建て替えに当たってその周辺整備の担当など、諸々国会運営全般を預かりました。
参院がすごいなと思ったのは、バリアフリー化が進んだことです。衆院ではまだ追いついておらず、今後の課題です。
最後にお詫びを1つ。衆院では(※1)盗撮と警察の介入という異例の事態が起こりました。これも議運の場で扱ったのですが、衆院全体の風紀を含めて、あるいは防犯カメラの設置など今後セキュリティ対策をどうしていくか。こうした問題も孕んだ国会でした。
吉川)参院のバリアフリー化は、2019年の第25回参院通常選挙で(障がいのある)わが党の横沢高徳さん(当時は国民民主党)や、れいわ新選組の舩後さんや木村さんをお迎えしたことで一気に進んだという側面もあります。私が理事に就く前の体制で与野党が協力して進めていたものが、今成果になって表れた形です。
※1 4月23日、国会議事堂内トイレの盗撮事件が発生。6月25日、衆院事務局は「政府職員が(盗撮の)犯行を認めた」と発表した。
有事における政治の不備と、長期権力特有の腐敗があらわに
小川)1月18日に開会した今年の通常国会は、本予算の審議に先立つ形で(※2)特措法の改正に協力したところから始まりました。加えて、当時は2度目の緊急事態宣言を発令するかどうかという議論もありました。われわれ野党は昨年12月の時点で特措法の改正、緊急事態宣言の発出を政府に求めていましたので、(政府の対応は)遅きに失したとはいえ、冒頭から非常時、有事においてあるべき協力体制は取ってきました。
一方で、緊急事態宣言に係る審議で議運は15回(7月30日に16回目が開かれた)開かれましたが、菅総理が出席したのはわずか2回です。毎回出席を求めていますが、記者会見は開くけれど国会には来ない。たとえ記者会見で都合のいいこと、自分にとって有利なことを発言しても、国会での答弁を避け続けた総理の姿勢、態度は国民に伝わりますから、菅総理の言葉が国民に十分に訴求する力はない。立法府の立場として、政権にはそのことをしっかり認識してほしいと感じました。
もう1つ強く感じたのは、危機的状況にある官僚機構の意欲や能力の低下です。通常国会で明らかになった総務省の接待問題は、菅総理の息子さんが絡んでいるのではないかとの疑惑がありました。森友学園問題では総理夫人、加計学園問題では総理の友人と、すべて権力が長くなるなかで権力者の近親者がそこに介入してきているものです。官僚組織が、その介入してくる近親者を含めて丸ごと選択せざるを得ない。そういう点で今回の接待問題は森友・加計問題と同一線上にあります。したがって、官僚の意欲や能力の低下もそうですし、モラルの退廃もそう。現政権に代わりうる選択肢があればこうした閉塞状況は打破できるはずです。そういった有事における政治の不備と、長期権力特有の腐敗が同時にあらわになった国会だったと思います。
※2 新型コロナウイルス対策の実効性を高めるための、新型インフルエンザ等対策特別措置法案の改正。休業要請に応じない事業者に罰則を科すもの。立憲民主党など野党は昨年の臨時国会会期中の12月2日に議員立法を国会に提出し、議論を求めていた。
ルールを軽んじた国会運営が横行
吉川)国会運営というのは、憲法と国会法と、あとはこうした法規には定められていない、議会の先人の知恵の積み重ねでやってきた先例に基づきおこなっていくものです。実は衆議院と参議院ではいろいろ違いがあって、衆議院の先例は先例「集」に、参院の場合は先例「録」に書いてあり、衆参ともに本会議先例と委員会先例があります。私はおかげさまで何回か議運を経験していますので、勉強をしてそれなりに知識を持っていますが、最大会派の方が分かっていながらこれらを(※3)軽んじる運営を次々に提案することが繰り返されました。これは今小川さんがおっしゃったように、長期政権、一強状況の弊害だと思っています。現政権も、前政権も国会を軽視していて、法案の条文と参考資料の説明資料に誤りが頻発したことも、官僚機構の疲弊に加え、国会軽視の姿勢の表れだと思っています。
議運の理事の立場として、これまでの経験(2016、2017年の通常国会)と明らかに違うのは、私たち野党に数がないことです。衆院は100人を超えて一定のボリュームを持った会派ですが、参院の会派は45人です。本会議では、世論を二分する法案や解任決議案等の採決時に、各議員の責任を明示するため、記名投票を要求する場面もあります。民主、民進の時は野党第1会派であるわれわれだけで(※4)要求に必要な5分の1の数がありましたが、今はわれわれ単独ではできません。本来であれば、議論の過程でお互いが納得した上で最終的には多数決という結論になるべきところ、今は法規・先例はもとより議論を軽視、立法府を軽視で最初から結論ありきです。そうではない民主主義の形を実現するには数が必要です。もう少し大きな力になっていかないと野党第1党の役割を十分果たすことができません。
※3 参院では「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(閣法第62号)の審議をめぐり、本会議先例206号、「委員会の審査を終わった案件は議院の議決により議事日程に追加する場合を除き、次回の議事日程に追加する」を尊重することなく、本会議に緊急上程をおこなった。また、法的拘束力を有し、すべてに優先するとされる解釈と慣例が定着している内閣不信任決議案が提出されたとしても、本会議を定刻通り開会したいとの提案がなされた(理事会を重ね最終的に最大会派が提案取り下げ)。内閣不信任決議案は可決されれば、憲法第69条の規定により内閣は解散か総辞職を選択せざるを得ないものであり、その議案が提出されれば、その処理がおこなわれるまで衆参ともに本会議、委員会を開催すること自体、おこなわれていないのは内閣が議会の信任に基づく以上、当然のことである。
※4 参議院規則第138条 議長は、必要と認めたときは、記名投票によつて、表決を採ることができる。出席議員の5分の1以上の要求があるときは、議長は、記名投票により、表決を採らなければならない。
現政権に代わる受け皿になる
小川)政治の腐敗や不備、闇などを正す意味でも、結局われわれ野党側の責任が大きいとあらためて突き付けられた国会でした。われわれの務めは現政権に代わる受け皿、現政権と並ぶ、きちんとしたオプションになることしかありません。
コロナ対策でも、政府はこの間オリンピック開催を軸に動いてきたのは間違いありません。われわれは「国民の命と暮らしを守る」ことを第一に、さまざまな具体的な提案をおこなってきました。われわれが主張してきたように、当初から検査体制の拡充、徹底した水際対策をおこなっていれば状況は大きく変わっていた可能性はあります。国民から見れば、この政治、政権は一体何を優先しているのかと、大きな疑念を抱かせるものでした。有事の対策の不備は、優先順位を取り違えたことによるものです。われわれはここを正していきます。
吉川)今、立法府と行政府のあり方が問われています。立法府は、充実した議論をおこなうことで、法律案の審議を尽くし、財政を統制し、行政を監視する役割を担っています。しかしながら、現政権、前政権は国会軽視が甚だしく、誠実に悖(もと)り、国会は十分に機能し得ていません。正当性の疑わしいことをおこなうことも目立ち、振り返れば、小川さんが先頭に立って追及された(※5)厚生労働省の統計不正問題もそうですが、国会で聞かれたことに真正面から答えない、事実を隠蔽する、説明を尽くさない、公文書の改ざんまでおこなう。そして政治家は誰も責任を取らない。こういった姿をこれまで数多くの場面で見かけてきましたし、多くの国民の皆さまも同様に感じられているのではないかと思っています。近年の政府のあり方はいずれも信義誠実とは言えません。
コロナ禍においては、直近の例で言えば酒類販売の件がそうであったように、法規・先例を蔑ろにした、適正な手続きを踏まない振る舞いが後を絶ちません。こういった前政権や現政権に私たち立法府側は対峙し、国会における審議を通じて行政の不誠実な活動を正していく。そのためには、もっと数を持った確固たる野党第1党、もしくは政権を取れる勢力になってこれまでの前政権、現政権がやってきたことを改めていくことが求められていると思います。
※5 厚労省が作成する、賃金や労働時間に関する「毎月勤労統計調査」をめぐり、野党の追及によりルール上、全数調査すべき調査をサンプル調査に勝手に切り替えるなど不正があったことが判明した。
政治文化を変えていく勢力になる
小川)日本では、残念ながら国民は政治家を信用していない。政治家も国民を本気で信用してないように思うことがあります。この相互不信をなんとか作り変えていきたいと思っています。オーストラリアやシンガポールのように投票を義務化している国もありますが、そうでなくても投票率90%を達成しているのが北欧諸国です。あれだけの高福祉高負担を支えるのは高い投票率、つまり政治参加率で、その根底には幼い頃からの教育がある。学校では徹底的に「あなたの人生と社会、政治がどう関わっているか」を教えられ、家庭では幼い頃から「支持政党を持ちなさい。そして、それが何故なのかを人に説明できるようになりなさい」と言われて育ちます。その結果、18歳になったら投票に行くわけです。
一方日本では、学校では「衆議院の定数は何人」といった知識は教えられますが、自分のこれからの人生と、社会や政治がどう関わっているかという当事者教育はほとんど受けていません。それどころか政治の話をすること自体をタブー視する風潮が、学校にも家庭にもあります。いきなり「18歳になったら投票に行きましょう」と言われてもピンとくるはずがありません。これを変えていくことはなかなか一朝一夕ではできませんが、そのくらい本質的なところから手当てしていかないと、政治、政治文化を刷新していくことは難しいと思っています。
ですから、われわれの務めは、現政権に変わるオプションになることは当然ですが、それ以上に今までの政治文化を変えていく新たな勢力にならなければない。「政治を身近に感じる」にとどまらない、「自分たちが当事者だ」という意識を持ってもらえる政治をつくっていく必要があります。その時に本当に政治が変わり、社会も変わることにつながるのではないかと思っています。
当事者の声が届く多様性のある国会に
吉川)参院の被選挙権は30歳からですが、私は2006年7月に勤めていた会社を退職して当時30歳で07年の参議院選挙に出ました。すべての政党、会派を合わせて最年少当選者で議席を預けていただき、今15年目です。私自身、今こうして仕事をしていても「国民から遠いな」と思うこともありますが、政治を「自分ごと」として捉えてもらう方策の1つとして、議員に多様性を持たせることがあると思います。例えばもっと女性議員が多くなるとか、冒頭のバリアフリーの話にもつながりますが、参議院も障がいを持った、横沢さんや船後さん、木村さんが仲間に入っていろいろ変わったことがあります。当事者の声が届くことによって皆の意識が変わるし、それが立法措置につながることもあります。
やはり、いろいろな人が政治に参画していることで自分たちにも関係あることだなと思ってもらえるようになる。それは私たちがやっていくべきことだと感じています。
私は就職氷河期真っ只中、運と縁とめぐりあわせで学校を卒業してすぐに会社員として社会に出ることができましたが、そうならなかった可能性も十分ありました。そうした思いもあって初当選時の07年から12年間、就職氷河期世代の課題を取り上げ続けてきた結果、ようやく(※6)政府が重い腰を上げました。そうすると、「就職氷河期世代のことも国会でやっていたんだ」と反応してくれる人も大勢いらっしゃいました。私たちはそれぞれが、できることをやっていくなかで、「政治は自分ごとなんです」と伝えていきます。
今度の総選挙で多くの志を同じくする仲間が勝ち抜けるようにバックアップしていくことが、まっとうな国会運営につながり、ひいては政治への信頼向上につながっていくと信じてやっていきます。
小川)私の務めとして、まずは香川1区で相手候補を倒すこと。野党第1党として政府・与党の足らざる点、おかしなこと、問題を批判することと同時に、それにとどまらない政権の受け皿としての存在感を示していきたいと思っています。
※6 政府は2019年、就職氷河期世代の支援に向け、3年間の集中支援計画を策定。正規雇用を30万人増やす方針等を打ち出した。