衆院本会議で3月25日、内閣提出「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律案」並びに立憲民主党及び日本共産党共同提出の「消費者被害の発生及び拡大の防止並びに消費者の利益の一層の擁護及び増進を図るための消費者契約法等の一部を改正する法律案」(消費者の権利実現法案)の趣旨説明と質疑が行われました。吉田統彦議員が、(1)検討会報告書の内容が盛り込まれなかった理由(2)社会的な弱者ともいえる消費者に関する規定を設ける必要性(3)国会の附帯決議と改正案のかい離(4)消費者行政の立ち位置の変化 (5)食品添加物の「無添加・不使用表示」のガイドライン(6)包括的つけ込み勧誘取消権の創設及びクーリング・オフの期間延長の意義・効果――等について、政府の見解や党が法案を提出した理由をただしました。

政府案

(1)なぜ検討会報告書の内容が盛り込まれなかったのか
 吉田議員は、消費者契約に関する検討会の報告書では、困惑類型の脱法防止規定、消費者の心理状態に着目した規定、消費者の判断力に着目した規定と3つに分けて、ある程度包括的な取消権の規定が考えられる対応として示されていたと説明。ところが、政府案にはその内容が盛り込まれていないため、その理由を求めました。若宮担当大臣は「検討会報告書では意見の隔たりがあり、ある程度幅がある形で取りまとめた」等と答えました。

(2)社会的な弱者ともいえる消費者に関する規定を設ける必要
 一般的な消費者を基準とする規定だけでなく、高齢者、障がい者又は若年者等の社会的な弱者ともいえる消費者に関する規定を設ける必要があると、吉田議員は提案しました。若宮大臣は「消費者法令全体の役割を踏まえて必要に応じて検討したい」と述べるにとどめました。

(3)国会の附帯決議と政府案のかい離
 吉田議員は、附帯決議の求める改正内容と実際の改正法案の内容が大きく異なっていると指摘。附帯決議軽視ではないか政府をただしました。若宮大臣は、平成30年改正の際の附帯決議を踏まえ消費者庁で検討を重ね、消費者取消権を追加拡充や事業者の努力義務などの新設拡充をし「国会の付帯決議を軽視するものではない」と答えました。

(4)消費者行政の立ち位置の変化
 昨年出された特定商取引法改正案において、「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」の報告書にはない「契約書面等の電磁的方法による提供」に関する改正内容が突然盛り込まれたことを吉田議員は取り上げました。また「検討会報告書で方向性が示されたものの、法改正に盛り込まれなかった内容は、消費者保護にプラスになる内容か、事業者に不利な内容がほとんどだ」「消費者行政が事業者側に立ち位置を変えた」と指摘しました。若宮大臣は、「いずれも消費者の利益の擁護、および増進等に資するもの」と答えました。

(5)食品添加物の「無添加・不使用表示」についてのガイドライン
 政府が公表を予定している食品添加物の「無添加・不使用表示」のガイドラインについて、「無添加・不使用表示」の定義や基準のないままに消費者を誤認させる状況を打開する一助となる一方、地道な努力で生産されてきた添加物を使用していない食品等を「無添加食品」等と表示することが難しくなると指摘。ガイドラインの公表を一旦凍結し、見直すべきではないか質疑しました。若宮大臣は、「本ガイドライン案はさまざまな意見を踏まえて取りまとめられた。策定後は趣旨について消費者、表示を作成する食品関連事業者等に対し十分な普及啓発を行う」と答弁しました。

立憲民主党提出法案
 立憲・共産提出の消費者の権利実現法案の趣旨を説明した柚木議員は、「4年前の消費者契約法改正で追加された取消権行使のための要件は厳格すぎて実効性に欠ける」と強く指摘。「近年の多様化する消費者被害対策のための細かな契約取消類型の追加は実際には被害の後追いになってしまっており、肝心の消費者被害の防止や救済が困難となっている現状がある」と述べました。さらに成年年齢引き下げについては、「今後4月1日以降の18歳、19歳の若年者は、これまでは消費者被害から逃れる無条件の守りの盾として有していた未成年者の契約取消権を失う事態が民法制定以降初めて発生する。そのため、あらゆる種類の契約における若年被害者拡大の懸念が法律関係団体、消費者関係団体はじめ数多く寄せられている」と問題視し法案提出の経緯を述べました。

 大西健介議員が、 成年年齢引き下げを踏まえた対策の必要性と、包括的つけ込み型勧誘取消権創設、クーリングオフ規定の効果に関する吉田議員の質問に答弁しました。
 成年年齢の引き下げは、4月1日から施行されるが、民法の未成年者取消の対応や若年者の自立を促すための消費者契約の実施状況が必ずしも十分ではないなど、消費者分野は成年年齢引き下げに対応する環境が整っていないと指摘。20歳未満の若年成人を対象に特定商取引に関する法律を含め、14の法律中のクーリングオフに係る熟慮規定を一律に7日間延長し、成年年齢引き下げに伴い生じうる消費者被害の発生を最小限に抑えようとしていることを説明しました。

 湯原俊二議員は、電子化の規定を削除した理由についての質問に答弁しました。消費者契約の場面において書面交付を電子化した場合には紙に比べて契約内容が確認しにくく、契約締結について、本人以外が気づくきっかけが失われるなど、結果として消費者被害が拡大しかねないと懸念を示しました。昨年、書面交付の電子化規定の施行までの期間を2年に延長したが、情報の質と量に格差のある消費者と事業者との間での条件の整理が困難であるため、「やはり2年間では、まったく時間が足りません」と指摘。電子化の流れを否定はしないが、問題を防ぐ仕組みがないままに書面交付を電子化するべきではないと、契約書面等の電子化に関する規定を削除すると述べました。