世界のGDPに占める日本の割合は、この四半世紀で15%から5%に、日米あわせて40%を占めていた圧倒的な存在から29%まで低下。一方、中国は3%から18%へと拡大。安全保障の面でも中国の存在が大きくなり、日本をとりまく環境が大きく変化する中、これからの日本外交はどうあるべきか。田中均さんと岡田克也幹事長が対談しました。(2022年12月15日取材)

立憲民主党「外交・安全保障戦略の方向性」
【代表声明】政府が示した「安保三文書」の問題点について

日米同盟の深化と日本の独自外交のバランス

岡田)田中さんが外務官僚として深くかかわった1996年の日米安保共同宣言防衛省・自衛隊:日米安全保障共同宣言 (mod.go.jp)で、日米同盟は極東だけでなくアジア太平洋の基礎と位置付けたのは非常に印象的でした。四半世紀を経て、日米はアジアにおいて圧倒的な存在ではなくなり、中国が急速に台頭してきました。この経済、安全保障両面における環境の大きな変化を踏まえて、今一度、日米同盟の役割、アジア太平洋、インド太平洋でどう役割を果たすか。そして、日本の外交はどうあるべきか、もう一度議論しなければならないという問題意識を持っています。

田中)日米安保共同宣言を作った時、カウンターパートナーだったのは、カート・キャンベル氏です。今はバイデン政権のアジア調整官という仕事に就いていますが、一番激しい議論したのは中国についての表現です。
 当時、台湾海峡の危機があり、米国の中国認識がかなり厳しくなってきて、日米で中国に強くプレッシャーかけることを強く主張してきました。96年の時点で、日米の共同宣言で中国に頭ごなしにプレッシャーかけることが本当に賢明なことなのかという議論をして、結果的には未来志向的にこの地域で「中国が肯定的かつ建設的な」存在になるように日米で協議するとしました。
 現状認識としては、岡田さんと同じです。相対的な力関係が変わりました。日本の国力は相対的に落ちた。米国の国力は落ちていないが、抑止力の面では2つの戦争の結果、外の紛争に兵力を投入することに、著しく慎重になっています。ウクライナに侵攻したロシアに対しても同じです。これからもそうだと思います。
 台湾は米国の同盟国ではありませんが、米国の対外安全保障戦略、すなわち前方展開戦略で日本に第7艦隊の基地があり沖縄に海兵隊の基地がある。もし台湾を中国にとられると、前方展開戦略がワークしなくなるという意味でも、基本的な利益だと思います。これからの最大の問題は米国の抑止力が落ちていく中で、どのように日米が協力し、台湾有事にしないか、させないかが最大の問題です。

田中均さん (株)日本総合研究所国際戦略研究所 特別顧問、元外務審議官

岡田)日米同盟をいかに深めるか。米国の抑止力が弱まっていく可能性が高い。米国は内向きになりつつあるし、国内の分断も進んでいる。次の大統領が誰になるかで今と全然違う局面にもなる。日本の外交力の強化、独自の外交が非常に大切になる。日米同盟の深化と日本外交の進化、双方のバランスをとってやっていくことが大事だと思います。

中国とどう向き合うのか

岡田)中国は、経済的には伸びてきましたが、将来をどう考えるか。中国にはいろいろなリスクがあります。そもそも少子高齢化が日本以上に進んでいる。経済成長も頭打ちになっている。今、国有企業を中心に国が関与を深めている中で市場経済がどこまで機能するのか。民主主義でない独自の統治方式がいつまで通用するのか。私は、人々の思いは人類共通だと思っています。ある程度豊かになってきた中で、自由をあるいは民主主義を求める気持ちが当然強くなるはずだと思います。こういった問題を抱える中国に日本はどう向き合っていくかは、日本にとって最大の課題の1つです。

田中)鍵は中国の経済。中国の経済はこれから停滞していく可能性がある。共産党政権は、コロナ政策を見ても分かるように、決して安泰ではないと思います。ですから日本の役割は経済、安全保障において非常に大きい。中国との関係では、できることがあると思います。中国は世界ののけ者になってはいけないという意識が強くなっているように見えます。

岡田)習近平体制は今まで少しやりすぎた。その結果中国の孤立化を招いたとの反省もあるのではないかと思います。3期目に入り、どう変わっていくのか注目しています。

田中)コロナや、人口問題など短期的にはどうにもならない問題を抱え、その上世界で孤立してしまったら、中国の経済は崩れてしまうという恐怖心もあると思います。中国自身がバランスを考えないといけない。

岡田)昨年の第208回通常国会で成立した経済安全保障法では、機微な技術については中国に対して一定の規制をし、サプライチェーンでも中国に過度に依存することは避けるとしています。方向性は、それで良いと思います。
 ただ、一般の経済活動はどこで線を引くのかは難しい。日本にとって中国は大きなマーケットで、中国なしで日本の経済は成り立たない。中国から見ても同じことが言えます。その意味で、通常の経済活動については、相互依存、お互いを大事にしていくべきです。全部を規制していくことにはならないと思います。
 米国はいろいろ言ってくるので、非常にデリケートな対応が求められると思いますが、一般的なものは企業のリスクで判断してもらい、国がやみくもに規制を求めることはしない。そういう割り切りかなと思います。

田中)どこでバランスさせるのか非常に難しい問題です。米国であれだけハイテクの規制、デカップリング(分断)ということを言っていても、実は米中の貿易関係は伸び続けている。機微な技術は日本や米国だけでなく世界いろいろな国から行く。以前のCOCOM(ココム/対共産圏輸出統制委員会)のように多くの国が一つの規制の枠組みをつくっていくならよいが、そうでない場合は、いろいろな国がアンフェアに商売していくことになりかねない。日本だけが厳密に進めるのも問題があると思います。
 日米と中国が、どこにバランスを見出していくのかは、これからの大きな課題です。

岡田)米国の主張の背景には、当然米国の国益があります。中国を規制するとの名目で、米国企業に一方的に有利なルール作りにならないように、日本も知恵を絞ってやっていく必要があります。

岡田克也 立憲民主党幹事長、元外務大臣・副総理

日本と台湾有事

岡田)国会で、日本の安全を守る観点から台湾についての認識を総理に質問しました。中国の一方的な武力行使には反対する。同時に、台湾の独立は支持しないというのは、例えば町村元外相の発言です。このことの確認を求めたのですが、明確な答弁がありませんでした。

田中)中国共産党にとって、経済を維持していくことは至上命題です。中国は国際的なマーケットに依存している部分が非常に大きいです。
 ロシアに対して軍事的に支援することになれば中国が制裁を課せられ、コロナ対策次第では外資が逃げていく。今のデカップリング(分断)の中で米国、日本からのハイテク技術が来ないなど、すべて中国経済へのプレッシャーをかける材料です。

 もし台湾海峡で中国が軍事力を行使することになれば、中国の経済や、中国と国際社会との関係は相当壊れてしまう。それが好ましいとは共産党は思っていないと思います。だからといって、台湾統一を諦めることはない。ですから、より長期的な課題として共産党政権は乗り切りたいと思っているのではないでしょうか。
 もう1つは、このあいだの台湾の統一地方選挙でも野党・国民党が勝ちました。香港の状況を見て従来ほど中国に対して融和策を取ることはないが、今の民進党、与党に比べれば中国との関係を作っていこうという意識はあると思います。2024年の総統選挙を控え、より長期戦だという意識の方が強いのではないかと感じます。
 現状維持がこの地域にとってベストだということで、日本も現状維持を守れるような形で台湾ならびに中国と話をし、米国とも話をしていくべきだと思います。

岡田)もちろん最悪の事態に備えることは安全保障の要諦だと思いますので、それを前提に、しかしそうならないように外交的に最善を尽くすことだと思います。
 中国が台湾に一方的に武力侵攻することは、経済をはじめ失うことも多いので可能性が高いとは思えません。しかし、台湾が独立を目指すとなれば、中国としては手段を選ばず阻止しようとすると思います。台湾は大切な友人ですが、日本としては独立は支持できないことを明確にしておくことは必要だと思っています。

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