(2022年12月15日取材)
【これからの日本外交】田中均 元外務審議官×岡田幹事長対談❶ のつづき
韓国は重要なパートナー
岡田)先般、日韓首脳会談が行われたことは本当に良かったと思います。ただ、何があったとしても毎年開くことが大切で、ここ数年首脳会談が開かれなかったことは非常に残念です。
経済的には韓国は世界10位の経済大国、安全保障面ではまさしく民主主義という価値観を共有する隣国です。日韓は安全保障面での協力をもっと深めるべきです。
旧徴用工の問題や慰安婦問題などの歴史問題がいまだに解決しないのは大変残念なことです。しかし、ユン大統領は解決の姿勢を示しています。日本も原則を失うことなく解決に向けた努力をすべきです。そして、安全保障や経済の問題をしっかり進めていくことが必要だと私は思っています。
田中)そこはまさに政治の意志としてやっていく必要があると思います。これまで日韓がある程度友好的な関係を作ってきた時期には、政治の強いイニシアチブがありました。昔も今も日韓関係は、日本側から見ても韓国側から見ても友好的な関係を作るには相当難しい。よほど政治の意志がないとできません。
岡田さんが言われるように、安全保障の面から見ても、政治の面から見ても日韓関係を重視するならば、政治がそのつもりで敢えてやらないと実現しないと思います。
岡田)日韓関係は前に進めていかないといけないです。おっしゃるように政治の意志は非常に大事で、野党としても、われわれとしてもしっかりそれを後押ししていきたいと思っています。
北朝鮮問題の解決に向けて
岡田)北朝鮮は、田中さんがまさしく深く関与された歴史的な日朝平壌宣言の後停滞期に入りました。拉致問題も進まない、北朝鮮のミサイル・核の開発が急速に進み現状に至っています。
田中)日本が動けない国際的な環境、日朝関係が非常に冷え込んでしまった理由として2つあります。
1つは日本の政治が右傾化したことです。間違いなく日本は自己主張が強く、よりナショナリズムを前面に出す政治になってきたと思います。これは悪いとか批判ではありません。ですから、韓国にしても北朝鮮にしても、日本の右に寄った体制に対しては、それなりに構えるということが1つ。
2つ目は、核問題の解決が進展していないことです。私たちが小泉総理大臣の訪朝を手掛けた時に、最大の課題は、拉致問題も、国交正常化も、日朝関係と核の進展をうまくシンクロナイズする、合わせることでした。そのためにはどうしても米国を引っ張り込まないといけない。しかし、それは非常に難しい。
特にあの時はネオコンと言われたブッシュ政権が北朝鮮を相手に交渉するのはなかなか難しいことでした。ですが、米国は動きました。結果的に6者協議で2005年9月の合意につながりました。
今の国際環境、特に東アジア情勢の中で最大の課題は米中対立です。だから、朝鮮半島の問題は、中国の目から見ても、米国の目から見ても二次的な問題になってしまう。つまり、米中対立をどうマネージメントしていくかというのが主要な課題で、朝鮮半島の問題は副次的な問題だという意識があるのではないかと思います。その結果、日朝間も停滞している。
米国と中国が米中対立という枠組みの中でしか動けない。日本は米国とも中国とも話せる。これが日本の非常に大きなアセット(強み)です。
北朝鮮は、米韓中それぞれとの関係で自国が核を持つことが最大の武器だと思っているので、果たしてそれを放棄するかというそもそもの問題があります。しかし、北朝鮮の核を認知したら、必ず韓国、台湾に、場合によっては日本にドミノが起こるかもしれない。この地域にとって一番不安定な要因になると思います。核廃絶を最終的な目的にしつつ、北朝鮮の行動を逐一チェックしていくことが現実的なシナリオだと思います。
岡田)核を放棄させるのは相当大変なことだと思いますが、北朝鮮が核を持ちミサイル能力も持っていても、国の先行きを考えると行き詰まっていくのは間違いないと思います。経済的にも、国民は飢えている。まともな生活ができないという状況があるわけです。大きな画を描いて、北朝鮮に日本との関係を築くことのメリットを理解させなければいけないと思います。
これからの外交
田中)米国の抑止力が落ちて、米中の力関係が大きく変わってきています。ロシアのウクライナ侵攻があり、東アジアにどういう影響を与えるのか。そして、世界で3番目の経済大国日本が、世界3番目の軍事大国になろうとしています。
これまでは日本という国は、米国と同盟関係があるということを前提に、軍事大国にならないと周りの国を安心させてきた面もあります。今の状況の中で、防衛費が増大するのはやむを得ないと思いますが、さまざまな新しい地政学的要因が出てきています。
2国間の枠組みだと地域が分断されていきます。可能な枠組みとしては「ハードな安全保障体制」ではなく、「信頼醸成の枠組み」。お互いの防衛計画や有事の連絡体制等を明確にしつつ、協力して行動する。そのモデルは6者協議ではないかと思います。
岡田)バイデン政権は、「権威主義・民主主義」ということを非常に強調しています。あまり強調しすぎると、例えばASEANの中で民主主義国家、つまり選挙で代表を選んでいる国がどれだけあるのかと考えると、おそらく半分ぐらいしかない。日本が非常に重視しているベトナムなども、民主主義国の定義に当てはまらない国です。ですから「権威主義・民主主義」の踏み絵を踏ませると、仲間が広がりません。もちろん人権問題は大事な問題ですが、かつては韓国、インドネシアも権威主義国家だったのが民主主義になってきました。そこは現実的に見て、もう少し長い目で懐深い外交をやっていくべきではないかと思います。
田中)米国は「民主主義・権威主義」を何のために言うのか。本当に民主主義諸国の数を増やす具体的な手立てをもって言っているのか、それともプロパガンダなのか。
今の米国の国内状況は、どちらかというと、反民主主義的な動きが非常に大きな政治問題になっているので、米国自身にとっても得策ではないと私は思います。
韓国においても、軍事独裁政権が1987年に民主化をして、今やそれなりの民主主義国だと私は思います。インドネシアも軍事独裁政権でしたが、今は民主主義政権の体裁を整えています。そういう国々をどう評価するのか。外から圧力をかけて、彼らが民主化をしたわけではありません。まさに国内のニーズによって民主化されました。
岡田さんが言うように、もう少し長い目で見て、プロパガンダを打つのではなく、民主主義諸国を増やしていくためにどうするのかを考えるべきです。
そして、権威主義、権威主義と言って特定の国を断罪すると、ますます権威主義になるとも言えます。中国をロシアと一緒に権威主義と断罪してしまうのは、得策ではないと思います。
岡田)「インド太平洋構想」は、イデオロギー的な観点ではなく、経済を中心に、例えば市場経済、自由貿易、法の支配といった範囲にとどめるべきです。権威主義を持ち込んだら、成り立たなくなってしまいます。
田中)日本の社会・政治が右傾化している事実はあるので、「インド太平洋構想」も、中国を阻害する仕組み、相手を断罪する仕組みに見えてしまいます。中国も含めた協力的な枠組みを作っていく必要があると思います。安全保障面で抑止力を強化していく必要性はありますが、これだけ大きな貿易関係がある中国との間では、中国も含めた協力を作るべきで、TPPへの中国加盟も一つの面白い試みだと思います。
岡田)アジアにおいて米国の存在感が低下する中で、日本の安全をどう確保するか。長期的に見てかなり悩ましい問題です。
田中)米国を失ってはいけないと思います。米国をいかに巻き込んでいくか、米国の衰えてきた抑止力をどう補てんしていくか。これは現実性のある正当性のある問題提起だと思います。英国のような国をできるだけ関与させるのも一つの方策です。安全保障関係はハードな意味だけでないので、ある意味ソフトな連携をヨーロッパととっていくのも必要だと思います。
私は、もちろん外交を支える官僚の役割は大事だと思いますが、やはり政治家です。政治家の明確な意志が何より必要です。
岡田)「継戦能力」が議論され、防衛費が5年間で43兆円も必要な理由の一つとされています。しかし、いざというときにどうやって戦費を調達するのか。広い意味での国力がないと、いくら防衛費だけを増やしても、それだけで解決できる問題ではないと思います。最近の政府・与党の安全保障論議はバランスがとれていません。日本を取り巻く安全保障環境が大きく変化する中で、日本は最悪の事態に備えつつ、そこに至らないための外交に力を入れる必要があります。より大きな構想力と深い洞察力が求められていると思います。
※「これからの日本外交」田中均さん×岡田幹事長対談<広報紙版>は、「立憲民主」28号で読むことができます。⇒広報紙の申込み