立憲民主党は、「いわゆる性交同意年齢の在り方」に関して以下の通りとりまとめました。
1.統一的に保護を強化するため、児童福祉法や都道府県淫行条例による保護を刑法に集約する。
子どもに対する性犯罪に関して、現行法体系では主に刑法、児童福祉法、都道府県淫行条例で罰則をもって保護が図られている。
刑法では13歳未満に対しては手段・態様に関わらず保護し、児童福祉法では18歳未満に対する「事実上の影響力」を行使した行為から保護し、都道府県淫行条例では18歳未満に対する一部の性行為である「淫行」から恋愛関係に基づくもの等を除いて保護している。
しかし、子どもを性犯罪から保護するには実態に基づく対応が必要であるにも関わらず、法律や条例に規定が分かれていることで、法務省・厚生労働省・地方自治体・警察と所管が分かれ、子どもに対する性犯罪の総合的な実態把握が困難になっている。
そもそも、刑法による保護がされない13歳以上の子どもに対し、当事者の関係性で限定的に保護を図る児童福祉法や、全ての都道府県で定められているものの要件や運用にばらつきのある条例に委ねるのでは、被害の実態を捕捉しきれない。
よって、行為者に対し罰則をもって子どもの保護を図る観点からは、点在する性犯罪規定を刑法に統一的に規定をすることで引き続き18歳未満の子どもを保護するべきである。ただし、10代は成長が著しく、中学生と高校生では発達心理学上の発達の程度も性的知識も大きく異なるとの見解もあり、異なる配慮が必要である。そこで、同年代同士の場合に配慮しつつ、少なくとも義務教育段階である16歳未満まではいわゆる性交同意年齢で保護した上で、18歳未満までは中間年齢層としての要件を定めて保護するべきである。
2.中学生以下を性被害から保護するために、成人は、いかなる理由をもっても中学生以下を性行為の対象にしてはならない。
党WTの議論において、子ども、特に女子中学生の性被害の発生に関する議論に多くの時間が費やされた。こうした性被害が現行法では捕捉しきれていないこと、従って、何らかの対策が必要であることは、共通の理解となった。加えて、子ども同士の性行為に関しては、処罰すべきではないことも、共通の理解となった。その中で、議論を要した論点は、成人と子どもの間の性行為を一律に禁ずるべきかどうか、という点であった。
そして、成人と中学生との間において発生している性被害を防ぐ方策を、成人との性交同意年齢の下限を現行の13歳から、中学校卒業後の16歳まで引き上げ、例外なく性行為を罰するべきか、「真摯な恋愛」に基づく成人と中学生の性行為は、現行通りの扱いとしつつ、それ以外の方法で被害を防ぐべきか、であった。
現行刑法では絶対的保護年齢としての性交同意年齢は13歳。いわば小学生であれば、いかなる理由があったとしても、小学生を性行為の対象とすることを禁じ徹底的に保護をしている。
しかし、13歳以上の中学生となった途端、成人と同じ扱いとなり、両者に同意があれば成人が中学生を性行為の対象とすることが許されることとなり、保護の度合いが格段に低減する。
もちろん、児童福祉法や都道府県淫行条例によって、保護年齢は18歳まで引き上げられている、との意見もある。ただし、児童福祉法では18歳未満に対する「事実上の影響力」を行使した行為から保護することを主眼とし、また都道府県淫行条例では18歳未満に対する一部の性行為である「淫行」から恋愛関係に基づくもの等を除いていることから、保護の程度は低減する。
そもそも、中学生は小学生より発育しているとはいえ、保護の程度を低減させ、成人と中学生の性行為を認めてもいいのだろうか。
中学生の脆弱性
中学生は、いまだ義務教育の過程にあり、意思決定や判断の能力はなお脆弱と言える。妊娠リスクや性感染症リスクなど性行為についての知識も十分ではなく、性行為の対象となった中学生は無防備なまま妊娠リスクや性感染症リスクに晒されることになる。妊娠すれば医療的にハイリスク妊婦となり、社会的にも学業の継続は困難となり経済的困難に陥りやすい。このような状況で、中学生が妊娠する可能性のある行為を国として容認するのかが問われている。
また、成人から性行為の対象とされた中学生が受ける精神的悪影響は計り知れない。自尊心の低下や摂食障害、自殺など将来に深刻な影響を与える。中学生で性的行為の対象とされ、大人になってからも苦しんでいる被害者がいることは報道等でも明らかである。
失われた対等性
成人と中学生との間には、同年代同士や、成人同士とは比べものにならないほどの、大きな力の差が存在する。成人は、そもそもとして人生経験を長く積み、働くことが許され、経済的な自由や移動の自由も十分に確保されている。一方、中学生は、いまだ義務教育の過程にあり、親の監護下で働く自由もなければ、経済的な自由もない。性行為においては、避妊具の入手も困難であり、特に女子中学生は、妊娠による身体的精神的負担を一身に背負うことにもなる。置かれている立場と環境に、圧倒的な差がある非対等の関係においては、たとえ本人たちが「恋愛関係だ」「同意がある」と思っていたとしても、(相手に対する気持ちまでは内心の問題ゆえに是非はないが)客観的に見れば、いざ性行為に及べば、それは力関係の差を利用した性虐待、性的搾取と捉えられうることは否めない。
恋愛関係の中に潜む性搾取
「お金が欲しかったのではない。大事にされたかっただけ」。そのような言葉を漏らした女子中学生がいるように、中学生の段階で成人と恋愛関係となり、性搾取の標的となる被害者は少なくない。しかし、その「恋愛関係」という特殊な関係ゆえに、家庭環境などに付け込まれ自らが被害にあっていることを自覚しない中学生も多く、後になって深い傷を負うケースが後を絶たない。まさに、被害の最中には被害の自覚が伴いにくいことが、根本的に性被害を減少させることができない大きな要因である。
これらのことを踏まえた上で、今まさに発生している中学生の性被害に関し、中学生本人の自己責任とするか、保護対象として社会が守るか、を問われれば、ネット社会の進展により中学生が性に関する誤った情報に接しやすくなった一方、現在の学校現場での性教育が質量ともに乏しいことを考慮しただけでも、自己責任を問える環境にないことは明らかである。中学生を性被害から保護し、守ることを何よりも優先すべきと考える。
したがって、中学生以下を性被害から保護し守るために、成人はいかなる理由であっても中学生以下を性行為の対象としてはならないという価値観を基軸とした法改正を行うべきである。なお、民法の成年年齢は18歳とされる一方、改正少年法では18歳及び19歳の者は引き続き少年法の適用対象とされるとともに、「成人」の定義は削除されることとなった。このように「成人」は多義的な語であることから、例えば、ここにいう成人とは20歳以上の者とすることにより、年齢の近接した場合の問題(17歳の者が15歳の中学生と交際する中で性交渉に及び、その関係が継続中に17歳の者だけが一足先に民法上の成年年齢に達した場合に突然処罰対象になるのか、など)に対応することも考えられる。
このように、同年代同士の行為は処罰しない規定を設ける前提で、同意の有無に関わらず、男女を問わず中学生以下を性行為の対象とした場合には処罰すべきである。
3.その他
刑法改正にとどまらず、適切な証拠保全のための取組みの推進、レイプシールドその他の被害者の尊厳を損なう二次被害・三次被害の防止策や実効的な救済策、性的マイノリティや男性被害者の救済策、回復までの息の長いケアの保障を含む総合的な支援の拡充、ワンストップ支援センターの整備推進、性的自己決定権・性的自由を損なうことのない性教育の実施、アドボケイトの配置を自治体に義務づける等子どものSOSを受け止めてエンパワーメントする仕組みの拡充なども検討を進めていく。
いずれにせよ、性暴力被害があるにもかかわらず、性犯罪として捕捉されていない現状を是正するための刑法改正が必要であり、刑法に規定することで規範としての一般予防効果から性暴力自体の減少にも繋がるとの党の考えは変わらない。
今回見解をまとめたいわゆる性交同意年齢の引上げだけにとどまらず、他の論点についても引き続き議論をし、国民的議論に付していく。
【党内の検討状況】
・【ジェンダー平等推進本部】性暴力被害者らから性暴力の実態調査や刑法改正案についてヒアリング
・「性的同意」のあり方について勉強会を開催
・性被害・性犯罪を自分ごととして考える 刑法改正に向けて 寺田学WT座長