「性暴力は、自死を覚悟するほど衝撃の大きい暴力。自死を選ぶ人が特に弱い訳ではない。生きることを選んだ人は瀕死の状態だ」(中学校教員による性暴力被害者、石田郁子さん)。
 「私たちは、性暴力の厳罰化ではなく、刑法の適正化を求めており、今の社会規範を変えることが重要だと考えている。加害者を罰するだけでなく『被害者を救うための刑法』を目指している」(一般社団法人 Spring 早乙女祥子幹事)。

 立憲民主党は14日、第3回目となるジェンダー平等推進本部の勉強会を国会内で開催。勉強会の前半では、中学生時代に教員から受けた性暴力被害を訴えてきたフォトグラファーの石田郁子さんによる講演「学校教員の性暴力から考える地位利用と未成年保護」を聞き、後半では、一般社団法人Spring(スプリング)から、性暴力の実態調査や性犯罪刑法改正に関するプレゼンテーションをヒアリングしました。

 会議の冒頭、枝野幸男代表(ジェンダー平等推進本部長)より次のようなあいさつがありました。
 「まず冒頭、石田さんやスプリングの皆さんをはじめとした性犯罪被害にあわれた方々、あるいはそういった方々を支援していただいている皆さんには、わが党に所属していた議員の言動によって皆さんを深く傷つけてしまい、大変申し訳ない事態が起きました。このことについて改めてお詫びを申し上げます。党内でも性犯罪被害に対する認識が十分に共有されていなかった、そういう反省を踏まえ、まずは幅広く党内で認識を共有しなければならないということで、今日の勉強会を開催させていただきました。今日は、しっかりとした認識共有に向けたキックオフの日だと思っております。それと特にご自身、あるいは関係者の経験などについてお話いただくこと自体が、つらく厳しいものであるのかもしれません。お許しいただける範囲で、率直な声を聞かせていただければと思っております」。

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■石田郁子さん(フォトグラファー)によるプレゼンテーション

 勉強会の前半、プレゼンテーションをした石田郁子さんは、中学3年生から5年間にわたり、教師による性暴力を受けました。ところが当時は「交際」だと思い込まされていたため、被害を認識するのに時間がかかりました。2016年2月にフラッシュバック症状が起きてPTSDを発症。2019年2月に相手の男性教員を提訴しましたが、被害から20年が経過していたため、賠償請求権が消滅する除斥期間が過ぎているとして1、2審ともに敗訴となりました。しかし昨年12月の高裁判決では、教員からの性暴力被害については、事実認定がなされました。(詳しくは、NHKクローズアップ現代(2020年12月15日放送)などでも取り上げられています)
 その後、男性教員は懲戒免職処分となり、今年2月には、札幌市教育委員会がこれまでの事件への対応について石田さんに対し、直接謝罪をしました。

 2017年には110年ぶりに刑法が改正され、性犯罪の成立要件が緩和されるとともに、犯罪者に対する罰則が強化されました。しかし依然として、中学高校教師などの「対等ではない」関係を利用した性行為の場合は、「暴行や脅迫」がなければ被害者が「同意した」とみなされ、罪に問うのが難しいのが現状です。

 性暴力の特徴について、石田さんは「自死を覚悟するほど衝撃の大きい暴力。自死を選ぶ人が特に弱い訳ではない。生き延びられた人は瀕死の状態だ。性暴力の内容や程度と、その人の受ける精神的なダメージの大きさは必ずしも一致しない。小学生などの子どもが先生に顔などを繰り返し触られて学校へ行けなくなったり、PTSDを発症する例などもある。加害行為には性的な手段は使われているが、被害者が味わっているのは、あくまで『人間の尊厳』を傷つけられたという恥辱感だ。日本の刑法では『わいせつ』という言葉が使われるが、この言葉は行為の矮小化につながるので、できるだけ使わないよう法務省に要望している」との説明がありました。

 学校教員による性暴力の実態について、石田さんらが行ったウェブアンケート調査の結果について説明がありました。この調査結果によると(1)教員による性暴力被害のうち、暴力・恫喝・成績や進路に関する脅迫などが絡むケースは全体の1割に満たず、ほとんどが教員に対する生徒側の信頼などを利用するケースである(2)中高生の場合、授業や指導の延長線上での被害が多く、恋愛を口実とした性暴力はこの年齢に集中している(3)授業中など学校内での性暴力が約8割に上り、水泳授業など大勢の生徒が同じ場所で同時に被害にあうこともある(4)他の教員が見て見ぬふりをした事例が約6割に上る(5)さまざまな理由から、生徒が性暴力の被害の認識に至るまで時間がかかり、被害の申告が困難である(全体の3割が被害を認識するまで平均11年以上かかっている)──ことが浮かびあがってきました。 

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 現行刑法の課題点として、石田さんは、(1)暴力・恫喝・脅迫などが絡むケースは全体の7.7%に過ぎないことから、現行法の犯罪構成要件である暴行・脅迫や抵抗の有無などは犯罪の実態にそぐわない(2)同意と混乱させられる恋愛を口実とした性暴力が中高生には多いので、性交同意年齢を16歳未満に引き上げるだけでは万全とは言えない(3)全体の約3割が自分の被害を認識するまでに11年以上かかっており、現在の公訴時効では多くのケースに対応できない(4)18歳になった途端に性加害に及ぶなど、個人情報を利用した明らかな職権乱用などがあり、刑法において地位関係性の利用は考慮されるべき――といった点を指摘しました。また教員と生徒との恋愛関係を禁止するなど、医療関係者にあるような倫理規定の必要性も訴えました。

 刑法以外の防止策については、特に刑事事件の証拠確保などのための「学校での防犯カメラの設置」を挙げ、「心理的な抵抗は理解できるが、教育委員会などには事件を調査する権限もない。被害者に立証や自助努力を求める傾向はもう終わりにしてもらいたい」と訴えました。(参考:千葉市教育委員会「子どもの性暴力防止対策について―提言―」)。
 その他、「子どもの権利に関する基本法」の制定や英国で教員などに求める「無犯罪証明書」等を導入すること、また文科省や教育委員会は授業のカリキュラムなどの教育内容に特化する一方で、生徒の「安全管理」を担当する英国の教育水準監査局(Ofsted, Office for Standards in Education)のような政府機関を導入することなども訴えました。

2021年9月14日立憲民主党性暴力勉強会.pdf
1_学校教師性被害アンケート表紙.pdf
学校教師性被害アンケート分析.pdf
訂正2回目アンケート結果法務省提出_a.pdf

■一般社団法人Spring (スプリング)によるプレゼンテーション

 会議の後半では、一般社団法人Spring (スプリング)から、性犯罪刑法改正に関するプレゼンテーションがおこなわれました。Springは、性犯罪被害の当事者が中心となって活動するアドボカシー・グループで、性犯罪被害当事者の団体としては日本で初めて法人化されました。2016年には、翌年の刑法改正を後押ししたビリーブ・キャンペーン運動をおこなっています。

 自身が性暴力被害者でもあり、同グループで幹事を務める早乙女祥子さんからは、同グループが性暴力の厳罰化ではなく、刑法の適正化を求めており「今の社会規範を変えることが重要だ。加害者を罰するだけでなく『被害者を救うための刑法』を目指している」との説明がありました。早乙女さんは、刑法が改正を必要とすると思われる点について、以下の4つを挙げました。

  1. 公訴時効の撤廃、又は一定期間の停止

    強制性交等罪=10年、強制わいせつ罪=7年 を過ぎたら刑法では罪にならない
    →撤廃又は成人まで一旦停止させ、その後30年間告訴可能とする

  2. 不同意性交を犯罪とすること

    暴行脅迫があったことを被害者側が裁判で立証する必要がある
    →不同意を推定できる状況の行為類型を刑法で具体的に条文化する

  3. 地位関係性を利用した性犯罪の創設

    「上司と部下」「先生と生徒」「先輩と後輩」等は考慮されない
    →現行の性犯罪規定に優越的な地位・関係性を利用したことに乗じた犯罪規定を創設する

  4. 性交同意年齢の引き上げ

    最低でも、義務教育を受けている子供を法律で保護し、子どもの人権を守ることを求める
    →性交同意年齢を16歳未満に引き上げる

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 続けて佐藤由紀子副代表が、同グループが昨年夏に行った性暴力被害にあわれた方を対象とするウェブアンケート調査について、プレゼンテーションをおこないました。調査データから佐藤副代表は(1)未就学から義務教育年齢における被害が圧倒的に多いこと(2)約2割弱が、被害経験にあった経験の一部、あるいはすべてについて記憶をなくしていたと回答しており、被害を受けた時から記憶がよみがえるまで平均、約9年から14年もかかっていること(3)明確な脅迫つまり現行法の強制性交等罪の構成要件としている暴行脅迫よりも被害者と加害者との関係性や、被害者の心理状態を巧みに利用し加害行為をおこなっている──などの点を指摘した上で次のように訴えました。
 「被害者の年齢グラフからわかることは、7歳から12歳、そして20代の被害が非常に多いこと。特に未就学から義務教育年齢の子どもの挿入を伴う被害が多いことは深刻な事態であり、早急な法的対策が対策が必要だ」「挿入を伴う被害では、記憶を取り戻すのに平均約11年もの歳月を要している。現在の強制性交罪の時効が10年だが、このデータを見る限り10年では全く足りないことが分かる。特に子どもへの被害だと、性暴力被害を受けている認識が乏しいのでさらに時間を要する」「加害者は何の理由もなく無作為にターゲットを選んでいるのではなくて、抵抗される可能性が少ない、加害者にとってのリスクが少ないなどの理由から被害者を選んでいる」。

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Spring アンケート分析報告書1.pdf
Spring アンケート分析報告書2.pdf

 この後、性被害の2次被害について同グループの金子深雪幹事から報告があった後、最後に枝野代表が発言し「あまり思い出したくもないかもしれない経験も含めてお話していただいたことで、ますます切実に状況を受け止めさせていただいた。刑法改正など一応政府も動き出したようにも見えますが、まだまだどういう中身になっていくのか、われわれもしっかり注視していかなければなりません。さまざまな具体的なところで何が実効性があるのか、あるいはそれこそ2次被害が広がらないようなやり方で進めていくにはどうしたらよいのか、今後も仲間を通じて皆さんにいろいろと教えていただくことがあるのではないかと思います。ぜひ今後ともよろしくお願いします」とあいさつし、この日の会議を締めくくりました。

Spring 刑法性犯罪改正を解説した冊子_見直そう刑法性犯罪.pdf
SpringA4版_パンフレット.pdf

 この日の会議には、直接会場で参加した枝野代表、福山哲郎幹事長、徳永エリ本部長代行、打越さく良同本部事務局長の他、多数の国会議員、地方議員がオンラインで参加しました。

▼一般社団法人Springさんのウエブサイトに掲載していただきました。
【ご報告】立憲民主党ジェンダー平等推進本部主催の勉強会に参加しました (spring-voice.org)

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