熊谷裕人参院議員は、1月29日、参院本会議において、政府四演説に対して(1)災害対策・震災対策(2)外交(3)財務金融(4)社会保障(5)法務――等について質問しました。

 予定原稿は以下の通りです。


政府四演説に対する代表質問

立憲民主・社民・無所属 熊谷裕人

 立憲民主党の熊谷裕人です。

 立憲民主・社民・無所属の会派を代表して石破総理に質問いたします。

1 災害対策・震災対策
<防災庁と緊急災害支援隊の創設、災害ボランテイアの活用>
日本は災害大国で、近年大規模災害が相次ぎ、被害が激甚化しております。私は、災害に備えるには、災害対策だけではなく、防災も含めて、常時、災害被害を少なくするにはどうするのか、災害が起きたらどうするのか、その時の即応体制をどうするのか、そしてその後の迅速な復旧と復興をどのようにつなげていくのかという、常に災害に特化して準備、そして即応できる体制を整えておく必要があるとずっと思っておりました。

 総理は、2026年度中に「防災庁」設置を目指す方針を出されましたが、まだ具体的な制度設計は示されていません。災害への備えは災害大国であるわが国全ての国民に密接に関係する重大事項です。一刻も早く防災庁構想を真摯に議論するべきであると思いますが、総理の見解はいかがですか。

 東日本大震災の時、私は地方議員でした。直ぐに被災地にボランティアに駆け付けて瓦礫の撤去や土砂の除去などの手伝いをさせていただきました。その経験の中で人力の非力さを覚え、小型建機の操縦資格を取り、防災士の資格も取りました。
 今、全国各地の災害現場で、重建機の操縦スキルなど様々な専門スキルを生かし、災害ボランティアとして貢献をいただいている皆さんが大勢いらっしゃいます。そしてこのようなスキルを生かした皆さんの活躍範囲は年々広がっています。
 私は、全国各地の専門スキルを持った災害ボランティア団体や国土交通省のテックフォースなどを常設化して、官民の力を結集した緊急災害支援隊を創設するべきだと国会質問でも度々訴えてきました。
 災害が頻発化、激甚化している今こそ災害ボランティア団体や個人への支援を災害時だけではなく平時から国としてしっかり支援をしていく組織と予算が必要であると考えますが、総理いかがでしょうか。

 加えてその支援組織は、災害派遣等での経験が生かせる若くして定年退職を迎える自衛官の退職後の活躍の場となると思いますが、総理の見解を聞かせてください。

<避難所での環境改善と弱者対策>
 1月23日現在、能登半島地震で亡くなった方は516人。その内災害関連死は288人にのぼり、直接死を上回っています。
 災害関連死は、避難生活での心労や持病の悪化などで命を落としてしまう2次被害で、避難先の生活環境の改善によって防止できるもので、災害関連死が直接死を上回る深刻な事態を受け、その対策の強化が急がれます。
 今後、避難先である施設の温熱環境の改善やとりわけトイレ環境の改善、スフィアスタンダードによるプライベート空間の確保など、避難生活の環境改善を自治体任せにすることなく、国が積極的に関与する考えはありますか。

 加えて、2021年に始まった道の駅に広域的な防災拠点機能を担わせる防災道の駅は2024年8月現在全国で39か所のみですが、今後、防災道の駅整備の加速化や、それ以外の道の駅の地域の防災拠点としての整備などを図るべきと考えますが、総理の認識を伺います。

 また併せて、災害避難所では、高齢者や小さな子ども、障がいを持つ方など災害時用配慮者の方々への様々な配慮が必要なのは言うまでもありませんが、妊産婦や乳児と母親、乳幼児を抱えた家族などへの配慮も忘れてはなりません。さらに、日本に暮らしている外国人は、言葉や文化の違いでさまざまなリスクに直面することから、多言語や多文化に対応した支援も必要です。
 災害対策基本法等の改正で医療関係者に加えて福祉関係者も支援に従事させることができるように検討していると承知していますが、妊産婦等への支援として看護師や
助産師を積極的に活用し、不安を募らせている方々へ心身両面の支援をするべきと考えますが、総理の見解を伺います。

 併せて災害避難所での性被害やセクハラ被害も深刻な状況と言われています。その様な被害をなくすために、どの様な対策を講ずるべきと考えているか総理の所見を聞かせてください。

2 外交

<日米関係>
 米国では、1月20日にトランプ氏が大統領に就任し、第2次トランプ政権が発足しました。米国第一主義を掲げる大統領の再登板は、わが国との関係では、安全保障面で、防衛費の増額や在日米軍駐留経費の負担増が求められる可能性や日米豪印QUADや日米韓等のインド太平洋地域における多国間協力からの後退などが懸念されています。
 さらに経済面でも輸入品への関税引き上げやこれを材料にした強圧的な貿易交渉がわが国にも迫られる可能性、そして米国が対中国規制を強化した場合のわが国への協調圧力、インド太平洋経済枠組みIPEFからの離脱などの可能性も懸念されています。

 政府は日米同盟を外交安全保障の基軸としています。石破総理には、第2次トランプ政権との間で日米の良好な関係を維持しつつ、伝えるべき懸念は伝え、日米双方の利益になるようなwin winの関係を築かれることを期待しますが、最初の日米首脳会談はいつ頃までに、また、どういった話ができればわが国にとって意義のある会談だったといえるのか、総理の考えを聞かせください。

<日中関係>
 第2次トランプ政権の発足や中国経済の低迷を受けて、中国が対日姿勢をやや軟化させたとも言われていますが、日中間には懸案がまだまだ山積しております。
 尖閣諸島周辺海域における中国公船の活動や東シナ海のわが国EEZ内へのブイ設置、中国国内での邦人拘束や日本人学校児童殺害事件などの在留邦人の安全確保の課題、日本産海産物の輸入規制など、課題や懸案を棚上げせず、しっかりと懸念を伝え、対応を求めて行く必要があります。
 総理は、米中の経済や安全保障の競争的な関係が激化する中で、わが国は、どういった立ち位置と役割を果たしていくべきと考えていますか。

 そして、日米、日中それぞれの距離感は、総理としてはどうあるべきと考えているかお訊ねします。

<日韓関係>
 本年は、日韓国交正常化60周年にあたり、シャトル外交の再開や日米韓首脳会談の定期開催など、近年では最も良好な日韓関係の状態と言えます。
 しかし、ユン・ソンニョル大統領の非常戒厳宣布をめぐり、韓国政治の状況は今や完全に不透明であり、こうした状況は日韓関係において好ましくありません。

 核ミサイル開発を続ける北朝鮮に対し、日韓・日米韓で緊密に連携することが今、必要であると考えますが、総理は、この60周年の節目に日韓関係をより良好なものとするために、どのような関係構築を目指すのか決意を聞かせてください。

<北朝鮮への対応と拉致問題>
 トランプ大統領は、1期目の政権において北朝鮮の非核化に向けて米朝首脳会談で交渉を重ねていましたが、その交渉は決裂でした。新政権でも北朝鮮との対話を重視する姿勢と言われており、首脳会談再開が実現すれば大きな転機になると考えられます。

 この機をとらえて、先の米朝首脳会談で拉致問題を提起したトランプ大統領が再選し、日中関係に改善の兆しが見えてきている今こそ、北朝鮮に対して強く影響力を発揮できる米中の協力も得て、拉致問題の解決を大きく前進させるべきと考えますが、総理の拉致問題解決の決意を聞かせてください。

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3 財務金融

<円安は日本経済にとってプラスか?>
 「円安は日本経済にとってプラスである」というのが、長らく政府や日本銀行の公式見解でした。しかしこの間、生産拠点の海外移転などが進んだ結果、輸出の拡大という円安のメリットが減少する一方で、近年、国民の多くが身を以て体感しているように、円安による輸入物価の上昇を通じた家計の実質所得の押し下げというデメリットの方が目立ってきているように思います。
 日銀の分析によれば、特に最近、国内総供給に占める輸入品の比率の高まりや企業の価格設定行動の積極化などにより、円安が消費者物価に与える影響はより大きくなってきています。
 アベノミクスが戦後2番目の長さとなる景気拡張を記録しながら、「実感なき景気回復」と評されたのは、GDPの5割強を占める個人消費が低迷していたためで、現在も、行き過ぎた円安由来のコストプッシュ型インフレが、個人消費の足枷となり、日本経済の成長を阻んでいます。

 その上で総理に伺います。現在も円安は日本経済にとってプラスであるとお考えでしょうか。

 また日銀が利上げの金融政策変更を決定しましたが、為替相場の反応はほとんどありませんでした。政府は、かねてから為替水準は経済のファンダメンタルズを反映するものと言っていますが、私は今の円水準は行き過ぎた円安であると考えています。国民がコストプッシュ型インフレにあえぐ中、石破政権が円安を志向する政権なのか、あるいは円高を志向する政権なのか、併せてお答えください。

<いつまで「デフレ」なのか?――「脱却」の条件を明確にすべき>
 自民党政権は、今も「デフレ脱却」を掲げ、経済政策を打ち出しています。しかし、日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」では、1年前に比べて物価が「上がった」と回答した人が95%に上り、そのうち86.7%の人が「どちらかと言えば、困ったことだ」と回答しています。つまり、今、国民にとっての懸念は、明らかに「デフレ」ではなく「インフレ」なのです。
 実際に2022年4月以降、消費者物価の前年比上昇率は2%を超え続けています。内閣府は、2001年3月の「月例経済報告」の中で、「デフレ」を「持続的な物価下落」と定義しましたが、現在起こっているのはそれとは真逆の「持続的な物価“上昇”」です。
 さらに内閣府は、2006年に「デフレ脱却」を「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」と定義していますが、経済の性質上、デフレに後戻りする可能性を完全に否定することはできないのではありませんか。
 つまり、政府の説明によれば、何時まで経ってもデフレを脱却できないということになりませんか。大規模財政出動を正当化するために、実体経済を無視して「デフレ」に固執しているのではありませんか。

 いったいどのような状況になればデフレを脱却したと言えるのか、「デフレ脱却の4条件」は今も有効なのか、それ以外の条件も存在するのか、総理の明快な答弁を求めます。

 また、日銀は、昨年3月の金融政策決定会合において、「2%の『物価安定の目標』が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断」し、マイナス金利政策の解除や長短金利操作の撤廃など、「異次元の金融緩和」の転換を図ったわけです。そしてこの度の金融政策決定会合で17年ぶりの水準である0.5%に政策金利を引き上げました。

 政府と日銀の間で経済認識に相違はありませんか。そして政府は、どのような状況なら「デフレ脱却」を宣言するのか、総理の認識をお伺いします。

4 社会保障

<年金制度改革・厚生年金の適用拡大>
 この度の政府の年金部会の「議論の整理」では、厚生年金の短時間労働者の加入要件のうち企業規模要件と賃金要件を撤廃するといった適用拡大案を取りまとめました。この取りまとめ案が実現すると、約200万人の労働者が厚生年金・健康保険の適用となり、労働者と事業主双方に保険料の負担が新たに発生することになります。
 労働者には、厚生年金に加入することによって将来受け取る年金給付の水準が上がることや健康保険に加入することにより傷病手当金や出産手当金を受給できるようになるというメリットがありますが、事業主には人材確保に繋がるのであれば良いですが、負担増となりメリットはありません。

 中小企業にとって、厚生年金の保険料の事業主負担は重く、経済的支援なしでは経営が立ち行かなくなる恐れがあります。そのような懸念があるにもかかわらず現時点で政府は、厚生年金の適用拡大にあたって企業への経済的支援を講じるのかどうか明らかにしていません。取りまとめ案の企業規模要件の撤廃に踏み切るのであれば、新たに適用される事業所に対して必要な支援策を講じるべきであると考えますが、総理の現時点での見解を伺います。

 また政府の年金部会では、「106万円」の壁への対応として労使折半である社会保険料の負担割合を労使合意で変更し、事業主の負担割合を増やすことができるという特例を導入することも検討していましたが、賛否両論あり、まとまりませんでした。

 その後、政府の検討状況について、50人以下の企業と5人以上の個人事業所に限定して、この特例を導入する方針であるとの報道がありました。果たして保険料の事業主負担を支払うことですら困難状況にある中小零細企業が、労働者の保険料まで肩代わりすることが本当にできるのでしょうか? 政府としてこの特例を導入するのかどうかと合わせて総理、お答えください。

5 法務

<えん罪被害者を無くすために再審法の見直しを>
 2024年9月26日、逮捕から58年の歳月を経て、袴田巌さんの再審無罪判決が下されました。この判決から、通常審には整備されている証拠開示制度が再審法にはないことによって再審請求に必要な新証拠の入手が難しく再審請求の高いハードルになっていることや期日指定などの手続規定が刑事訴訟法では整備されていないことで裁判所ごとに審理の格差が生じる「再審格差」の課題、検察官の不服申立て、抗告による審理の長期化といった再審制度の問題点が明らかになりました。

 これらの課題解決に法制審議会で年単位の期間をかけるのではなく、えん罪被害者が高齢化したり亡くなったりする前に、問題点を改善すべく早急な再審法の見直しが必要であると考えますが、総理の見解を求めます。

6 農林水産政策

<農業者の所得向上>

 農産品生産費の価格転嫁による食料品価格の上昇は、表面上、生産者の収益増につながるものの国内農畜産物の需要を減少させるおそれがあります。価格転嫁が必要な生産者が思う適正価格と、家計が厳しくなる中で安価な食料品を求める消費者が思う適正価格を、市場原理により同時に実現することは現実的に困難です。だからこそ、価格は市場で、所得は政策でと、切り分けて考えるべきです。

 農業従事者の高齢化と就農人口の減少が進行している中、持続可能な農業経営の確立に向け、価格形成の新たな仕組みの他に、食料安全保障の確保と多面的機能の発揮に貢献する農業者の所得向上等に資するよう、農地に着目した直接支払などの抜本的な農業者支援策を併せて講ずるべきと考えます。総理の見解を求めます。

 最後に、参議院では、自民党安倍派の政治資金パーティー、裏金問題に関する政治倫理審査会での審査が続いています。これまでの出席議員の弁明を聴いている限り真相解明にはほど遠いものと感じており、真相解明に近づくためにも指示をした者として言及されている元派閥の事務局長の国会への参考人招致は必要不可欠であると考えます。政治改革を国民から信頼されるものとするためにも総理として自民党の総裁として強力なリーダーシップを発揮して頂くようお願いさせていただきまして、会派を代表しての質問を終わらせていただきます。

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