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対談 冤罪防止 元厚生労働事務次官・村木厚子さん×打越さく良議員

【冤罪防止へ】元厚生労働事務次官・村木厚子さん×打越さく良議員

 「私が体験するまで、裁判ってこんなにアンフェアだとは思っていませんでした」――。郵便不正事件で逮捕・起訴され、その後無罪が確定した元厚生労働事務次官の村木厚子さんと、弁護士でもある打越さく良参院議員が対談。取り調べや証拠開示の実態、そして今国会で審議されている再審法改正案の課題について語り合いました。司会進行は、山内佳菜子参院議員が務めました。(2026年6月3日オンラインで実施)

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村木厚子(むらき・あつこ)さん
元厚生労働省事務次官。現在は全国社会福祉協議会会長。
2009年の郵便不正事件では冤罪で164日間も拘置所に勾留された。2010年無罪判決確定後、2011年6月、法務大臣の諮問機関である法制審議会委員となり、17年、23年に閣議決定された「再犯防止推進計画」などに関わった。

市民感覚とかけ離れた刑事司法の実態

山内佳菜子参院議員(以下、山内) 本日は、今国会で審議中の再審法改正案(刑事訴訟法改正案)をはじめ、日本の刑事司法制度の課題について語り合っていただきたいと思います。まず、村木さんのご著書『おどろきの刑事司法』を読まれて、打越さんが特に印象に残った点はどこでしょうか。

打越さく良参院議員(以下、打越) 村木さんが同僚の供述調書を見て「どうしてみんな嘘をつくのでしょう」とショックを受けた場面です。それに対し弘中惇一郎弁護士から「誰も嘘なんかついてない。検察が勝手に作文をして、そこから作文を認めるかの交渉が始まるんだ」と諭され、個人を責めるのではなく、取り調べの構造そのものの問題として受け止めていく過程が印象的でした。

村木厚子さん(以下、村木) この本を書いたのは、私たちが普通の市民として思っている刑事司法のルールと実際のルールが全然違うことを知ってほしかったからです。検察は公益代表で中立だと思いたい。世の中の人もそうだし、裁判官もどこかでそう思っている。しかし実際には「有罪にしたい」という強いバイアスの中で手続きが進むことを当事者になって実感しました。
 まず驚いたのは供述調書です。私は自分の説明を正確に記録してくれるものだと思っていましたが、例えば無罪につながる話をいくら伝えても、一文字も記載されません。
 もう一つは証拠です。多くの人は裁判で原告と被告の双方が同じ証拠を見ながら議論していると思っていますが、実際には証拠は捜査機関が管理していて、検察が(有罪を)立証しようとする証拠だけがテーブルに出される。弁護側はどのような証拠が存在するのかさえ分からない状態から、残りの証拠を出してもらう方法を考えなければいけません。

打越 弁護人の立場からすると、供述調書は検察・警察の「作文」という感覚です。本人しか書けない確信性が重要であるにもかかわらず、「(本人は)こんな言い回し使わないでしょう」といった表現が書かれていることも少なくありません。本来は法廷で証拠を吟味する「公判中心主義」であるべきですが、現実には供述調書が大きな影響力を持っています。

なぜ日本の刑事司法は「自白」を重視するのか

山内 本来であれば客観的な証拠に基づいて事実認定が行われるべきだと思いますが、なぜこれほどまでに供述や自白が重視されるのでしょうか。

打越 村木さんの本にもありましたが、日本の刑事司法には長く「本人が認めていること」を重視する文化があります。客観証拠によって有罪か無罪かを判断すべきなのに、今もなお自白への執着が強いように感じます。

村木 裁判官も検察官も、本人が認めている方が有罪認定をしやすいのでしょう。象徴的だったのが、調書に書かれていた私と部下の会話です。裁判後にその部下の方と会った時に「私たち、職場で口をきいたこと一度もないですよね」と確かめ合いました。実際には存在しない会話が、まるでドラマのセリフのように調書には記載されていたのです。だからこそ、供述だけでなく客観的な証拠を重視する司法でなければならないと思います。

打越 だからこそ、別件逮捕や長期間の勾留によって自白を得ようとする発想につながりやすい。そこに、戦前から続く刑事司法の体質を感じます。憲法や国際人権基準が求める方向と、必ずしも一致していません。

村木 自分が当事者になってみて分かったのは、人の記憶はそれほど確かなものではないし、供述調書も絶対ではないということです。

長期勾留が「認めた方が楽」だと思わせる

打越 長期間身柄を拘束され、「お前がやったんだろう」と朝から晩まで言われ続ければ、やっていなくても認めてしまう人がいても不思議ではありません。他の人は認めているのに自分だけ否認していると罪が重くなるかもしれない。そうした不安の中で虚偽の自白が生まれてしまうのは想像できます。裁判官や検察官は、研修で一度そういう体験をしたら、勾留されている人の立場を想像できるようになるのではないかと思ったりもします。

村木 私が最も辛かったのは、いつ終わるか分からないことでした。勾留がいつまで続くのか分からない。裁判が何年かかるか分からない。たとえ無罪になっても控訴されればさらに時間がかかる。将来を思い描くことができなくなります。
 私が戦えたのは、たまたま条件がそろっていたからです。健康で、家族の支えがあり、急いで社会に戻らなければならない事情もなかった。一つでも欠けていたら、保釈してほしい一心で調書にサインしていたかもしれません。表に出ていない冤罪はもっとたくさんあると思っています。

取り調べの録音録画と弁護人の立会いを

山内 取り調べの録音録画が導入されていたら状況は変わったと思われますか。

村木 私が最も不誠実だと感じたのは、存在する証拠について検事に「ない」と嘘をつかれたことです。私は取り調べの時に、自分の無実を示す手がかりになる資料が残っていないかと「証明書の日付が分かるものはないんですか」と尋ねましたが「家宅捜査したがハードディスクもフロッピーディスクも出なかった」と言われました。しかし後になって、検察が押収していたフロッピーディスクを保存していたことが分かった。さらに、そのプロパティを見ると、検察のストーリーと日付に矛盾があることが示されていたのです。ある事務官が丁寧にフロッピーディスクのプロパティのコピーを取っていて、その写真を捜査報告書に掲載したものを証拠としてうっかり弁護側に渡してくれたから発覚したことで、もし、この捜査報告書が隠されていたら、あるいはこれを見逃していたら、公判では裁判官が検察の主張を信じてしまっていたかもしれません。
 録音録画がなければ、密室で何が行われたのかを後から検証することはできません。不正を防ぎ、水掛け論を避けるためにも、全事件・全過程での録音録画が必要だと思います。

打越 私は録音録画に加えて、弁護人の立会いも必要だと考えています。取り調べで威圧的な言動が行われることもありますし、被疑者が自分の権利を十分理解できないまま手続きが進むこともあります。

村木 私もそう思います。特に弁護人に立ち会ってほしかったのが、2回あります。一つは、最初の取り調べ。ルールが分からないままいきなり始まるんです。検事から最初に「これは被疑者としての取り調べです」と言われたので、「それはどういう意味ですか」と聞いたら、「自分に不利になることは言わなくてもいいということだ」と。そんな大事なことをそんな言い方で済ませるのか、と本当に腹が立ちました。やはり敵から教えられるのではなく、自分の味方か中立的な人に説明してもらいたかった。もう一つは、調書にサインをする場面。証拠として使われるものだから、弁護人がいてくれたらと強く思いました。立会い権はぜひ認めてほしいです。

20260603党法務部会長の打越さく良議員

再審法改正案の焦点——証拠開示と検察の不服申立て

山内 現在国会で審議されている再審法改正案について、お2人が特に重視している点を教えてください。

打越 大きな論点は、検察官による不服申立て(抗告)と証拠開示です。袴田事件では再審開始決定が出ても検察の抗告によって長い時間が費やされました。その反省から不服申立てを禁止すべきだという議論が進んできました。ところが政府案では「原則禁止」としながら例外を認めています。例外が残れば従来と実態が変わらないのではないかという懸念があります。
 「十分な根拠がある場合」という例外要件が「公益違反」を理由とするものなのか、「裁判違反」を理由とするものなのかも不明確です。例外規定の解釈が広がることがないよう、裁判のプロセスや事実認定に法的な誤りがない限りは棄却するという手続きが必要だと思います。
 証拠開示についても、弁護側が何の証拠が存在するのか分からない構造そのものが十分に改められているとは言えません。今回の改正案では証拠提出命令の仕組みが入りましたが、その範囲が狭められてしまうのではないか。付則に「不当に狭くならないように留意されなければならない」とありますが、「今までも不当に狭めていませんでした」と言うでしょう。
 また、開示された証拠の目的外使用を禁止する規定についても懸念があります。袴田事件で社会的な関心が高まった背景には、証拠がメディアを通じて広く共有され、支援者らの協力もあって検証されたことがありました。その検証が難しくなると、今より後退することになります。

山内 私も新聞記者として刑事裁判や、警察・検察の方を取材してきました。証拠の目的外使用禁止については、新聞協会も反対の声明を出しています。いろいろな視点が入ることで新たな証拠の価値が見いだされることは多い。とても重要だと思います。

村木 抗告も証拠開示も、結局は運用次第でリスクが高いと思っています。再審制度に問題があるから改正するわけです。であれば、「何が改善されるのか」。抽象的な表現のまま検察の手にすべて運用が委ねられてしまうのでは、改正の意味がありません。

 証拠開示について、これまで証拠が十分に開示されてこなかった反省が制度に反映されているのか疑問です。
 目的外使用禁止についても、私は改正の必要性そのものがよく分かりません。今まで具体的な弊害があったのか。プライバシー保護が目的なら、プライバシーに関する部分だけ黒塗りにするなどの方法もあるはずで、なぜこういう規定を入れるのかという趣旨が非常に不明確です。報道や再審支援活動への影響が懸念されます。
 実態が改善される担保を法案の修正も含め、国会の審議でしっかり取ってほしいと思います。

誰のための司法か

村木 今回、実際に制度を使う国民の立場から議論されていることはありがたいと思っています。国会での議論のなかで、制度がどう改善されるのか、多くの人に分かる改正になるよう期待しています。

打越 そもそも、刑事司法を社会の治安維持の方向から考えるのか、一人ひとりの個人の側から考えるのかで全く違います。日本国憲法は戦前の反省を踏まえて、刑事手続きの適正な手続きに非常に多くの条文を割いています。なのに、まだマインドは戦前の治安維持の発想で、多少個人の尊厳が損なわれても運が悪かった、というような感覚でいる。政治から巻き返さなければならないと思います。
 冤罪被害者の皆さんの声が、ここまで社会を動かしてくれた。村木さんや、袴田ひで子さんたちの発信があったから連日メディアで大きく取り上げられるほどの課題になり、ここまで議論が進みました。本当に感謝しています。冤罪被害者が再び苦しみを受けないように、国会審議を通じて懸念点を修正できるよう取り組んでいきます。

村木 普通の暮らしをしていると、自分が捕まったり裁判を受けることは想像しにくいですが、痴漢冤罪など通勤途中のサラリーマンが巻き込まれることも、私のように役所の仕事で事件に巻き込まれることも、かなりの確率で起こり得る。そのとき制度がアンフェアであれば、本当に大きな苦しみを負うことになります。今、ようやく制度を見直すチャンスが来ていると思います。再審制度だけでなく、通常の裁判(通常審)も含めた刑事司法改革を進めてほしいと思います。

打越 通常審もまだまだ改革が必要です。刑事司法改革を進めるには、国会の外の皆さんの関心が大きな力になります。さまざまな形で連携しながら、より公正な司法制度の実現に向けて取り組んでいきたいと思います。

山内 本日はありがとうございました。

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打越さく良(うちこし・さくら)写真右
党法務部会長 参院議員(新潟選挙区)/2期 

山内佳菜子(やまうち・かなこ)写真左
党広報委員会副委員長 参院議員(宮崎選挙区)/1期